人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ロマン「そんな訳で黒幕が分かったぞぅ!さぁとっちめるんだリッカ君!皆のバレンタインを平穏なものにしよう!」

『了解!!』

「ふぅ、全くチョコを巡ってもこの大騒動だ。退屈なんてしてないけど身が持たないよ。リッカちゃん、無理が祟らなければいいけど・・・」

ダ・ヴィンチ「若いうちは沢山動き回るのが一番さ。それはまさに若さの特権!私達大人は、それを見守ることが特権だろう?」

「・・・ん、そうだね。・・・そうだよね、マシュやオルガマリー、リッカちゃんはまだこれからなんだ。沢山、素敵な人生を生きてほしいよね・・・」

「何を言ってるのさ、実年齢十歳ちょいのくせに。老け込むのは早いんじゃないかい?」

「君言ってること全然違うじゃないか!?・・・そっかぁ・・・僕より年上なのかあ、皆・・・」


それも私です──甘い誘い──

「あぁ、なんという事でしょう・・・悲しいですが、すべて私の企みなのです──」

 

物憂げに目を伏せ、そして静かに告白せし美青年。女子と見紛うばかりの美貌を湛えし、魔術師のサーヴァント・・・ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。黒幕同盟にも時折顔を出す中々に腹の読めない純然なる魔術師思考を持つ彼こそが、此度のチョコレート脱走事件を企てたのだという。ロマン・・・グランドキャスターの一角たる彼の割とふわっとした断定により出所を突き止められ、そしてそれを知らされたリッカの反応は・・・

 

「うん、まぁパラはそういうことするよね。魔術師だし」

 

「犯人が見えたなら後は検挙だね」

 

二人とも、あっさりとその事実を受け入れた。オルガマリーやロマン、孔明先生より教わっていた事・・・魔術師は目的のためなら理論や道徳を容易く切り捨てられる、といった教訓に準えたならば、彼の行動は予測の範囲であり衝撃とはなり得なかったのである

 

「流石はリッカ殿。御賢察です」

 

「ロンドンからの付き合いじゃない。──じゃあ、お縄に付く覚悟はよろしいかな?」

 

犯人を追い詰めたならば即座に検挙、かつ確保。追い詰められた人間は何をするか予測は不可能だ。破れかぶれの自爆か特攻か・・・それをサーヴァントにやられたらたまったものではない。即座に動かんとするリッカにエルキドゥを、一先ずやんわりとパラケルススは制止する

 

「──まぁ、御待ちを。まずは私の話をお聞きください。弁明と弁解は許されて然るべきかと思われます」

 

「む・・・対話が望みなら、勿論それに越したことはないよね。どうぞ?」

 

武装し始めるエルキドゥをステイさせ、パラケルススの言葉に耳を傾ける。彼は目的の為ならいくらでも外道になるが、その目的を知らずに取り抑えるも座りが悪い。真相はつまびらかにされて然るべきである。望むままに語ることを促されたパラケルススは、一礼して口を開く

 

「マスター、チョコレイトとはそもそもなんでしょうか?──そう。カカオより作られた菓子です。砂糖をふんだんに使用したために甘く、カロリーも脂質も強烈きわまりない」

 

「動物には毒でしかないからあげちゃダメだよ、リッカ。エルキドゥとの御約束だ」

 

「はいっ」

 

「・・・現在、この楽園には無数の女性サーヴァントがいらっしゃいます。彼女達がチョコレイトを配り、リッカ殿が全て食べるとなれば・・・それは決して健康の為になりません。例えあなたが規格外の人間であろうとも、です」

 

チョコレートは女性の体重を増やしスタイルを崩す劇薬であり劇物。それらを大量に摂取する。サーヴァント達や女性達が友チョコとして作り上げたそれ、楽園の中心人物たるリッカに余さず用意されるは明白だ。故にこそ、彼は手を打ったという

 

「ですが、ただチョコを破壊しただけでは・・・彼女たちならば、たちどころに再生してしまうでしょう。そもそも私が死にます。物理で」

 

「そだねー・・・ネフェルタリさんのチョコを壊すとか・・・口にして鳥肌立ってきた・・・」

 

「うんうん。エアのチョコを壊されたとあったら、ギルの怒りはどれ程になるのやら。君、塵が残ったら幸せな方だよ」

 

チョコを破壊された場合、それは最終戦争の引き金となる福音となる。かの二大古代王に捧げられる至高の銘菓を粉砕したなどという不敬すら生温い愚行の果てに待つものなど分かりきっている。正しくそれは、黄金の王らの怒りの日に他ならないのである

 

「──はい。しかし、かといってチョコを巡る争い・・・聖菓戦争を起こすわけにはいきません。楽園には笑顔が満ち、騒動もまた笑顔が待っている結末でなければ・・・。そこで、私は思い至ったのです」

 

「ふむふむ・・・」

 

そんな懸命な彼が、何を思い至ったのか・・・真剣に耳を傾けているリッカ、ぼんやり、ぽけーっと鳥を数えているエルキドゥ。そしてその結論は・・・

 

「そうだ、食材としてのチョコレイトを根絶やしにすれば良いのだと」

 

「──ファッ!?」

 

「あ、合理的だね。エルキドゥ的にポイント高いなその結論」

 

これマジ?崇高な理念に反して手段がテロリズム過ぎるでしょ・・・そんなリッカの戦慄を重く受け止めつつ、パラケルススは自分が悪いムーブを続け言葉を紡ぎ続ける

 

「自分のような魔術師が、童話の魔法使いめいた術を行使すべきではないとも煩悶しましたが。・・・まぁ、ついでに少女の願いを叶えてみるのも良いかと思いまして」

 

「──少女・・・童話。・・・あー、なるほどなるほど・・・そゆこと」

 

会話、対話にて導き出されたワードが少しでもあるのなら、リッカは必ず真相にたどり着く。それこそがリッカの力であり美徳である事を何より知っている彼女の友人は、一瞬だけ笑みを浮かべ言葉を更に告げる

 

「──失礼。言葉が過ぎたようです。従いまして私は反省しておりません。幾度でも同じことをやるでしょう。──これで、お互いに理解できましたね。私と貴女の意見は平行線。ならば、やるべきことは一つ」

 

「──戦いかい?解るとも。実力行使は僕らも望むところさ」

 

起動状態を再開するエルキドゥ。もしや、あの魔剣を抜くというのか。反省しておりませんと示すために。再びパラケルススを手にかけなくてはならない覚悟を、リッカが決めんとした時──

 

「──賄賂(せいい)によって、貴女を説得(かいじゅう)します。リッカ殿。こちらの薬を御覧ください」

 

まさかの真正面からの買収行為。大胆かつ予想外な手段に盛大にずっこけるリッカに、パラケルススは彼女の為に手掛けた薬をそっと見せる

 

「こちらの薬は、性転換薬に若返りの秘薬・・・これらを使えば、リッカ殿は性別と年齢を自在にコントロールすることが叶いましょう」

 

「なぬっ!?前々から言われていたリッカ性別間違え問題についに決着が!?」

 

「はい。これで貴女の故郷の結婚制度に抵触する事もなく、カルデアの数多無数の女性が即座に貴女の伴侶となり、あなたもまた、かっこいい女子というある意味歪な属性から脱却が叶うでしょう」

 

そんな便利なものが存在していたのか・・・!驚愕するリッカも詮なき事。これは、パラケルススがバレンタインの御返しにて作った彼女の為の秘薬なのだから。──ただし、それを手にするのは条件がある、と彼は付け加える

 

「私の事をお見逃しいただく。この薬をお渡しする条件はそれのみです、リッカ殿」

 

「・・・へぇ。買収って言うのはそういう事か」

 

「はい。私は見逃され罰を受けることもなく幸福に、リッカ殿は念願の真っ当なる男性に生まれ変わり、最早ただのヘラクレスに」

 

「パラPィ!」

 

「そしてカルデアは幸福に満たされる・・・あなたの雄々しき魂に、色んな意味で女性らは屈伏し幸福を感じるでしょう。──どうでしょうか。私を見逃していただけますでしょうか、リッカ殿」

 

その申し出は、非公式の取引だ。この騒動の元凶を見逃せば、自らの新たな世界の扉を開くという。ただし見逃せば、薬もろとも自分は連行され接収されてしまうというもの

 

「──どうするのかな、リッカ。サーヴァントとして、僕は君に従うよ」

 

リッカの次なる指示を待つエルキドゥ。ある意味でチョコより甘く、そして毒を伴った申し出を受けた、リッカの答えは──

 

「うん!それはそれ、これはこれ!悪いことをしたなら、言い逃れしようとしないで素直にごめんなさいすること!これが円満に終わらせる為の一番の解決策!──その誘いには乗るわけにはいかないよ、パラケルスス」

 

「──リッカ殿」

 

至極単純にて当然の回答。自らのマスターの出した答えに、彼は安堵の笑みを浮かべる。彼女は、物欲や誘惑には揺らがず善を為す悪であると、再びその目にて確かめられた事を安堵するように

 

「私はまだ、女子としても成長途中な半端者。そんな状態で男になっちゃったら、今まで素敵な女子になることを応援してくれた皆への侮辱に他ならないでしょ?──今さら子供に戻りたいとも思わないし。その薬にはまぁ、ちょっぴり興味はあるけど・・・だからといって、楽園のマスターとしての私を、曲げるほどじゃない」

 

「~ふふっ・・・」

 

「私は、私であることから逃げない。今も変わらない座右の銘。知ってるでしょ?パラケルススも、私の友達なんだから!」

 

その在り方に影はなく、その在り方に揺らぎはない。ただ、自分は自分であると信じ、ただ前に進み続ける。甘い誘惑やまやかしの奇跡に揺らぐことはない、魂の輝きと強靭さを垣間見せる。──そしてそれこそが、パラケルススがこの騒動にて最も見たかったもの

 

「──はい。その通りです、我が友よ。この様な誘いの結末は分かりきっていた。・・・私の敗北です。どうぞ、身柄を拘束なさってください・・・」

 

そっと手を差し出すパラケルスス、エルキドゥはそれを受け手錠をかける。──元凶は降伏し、投降を果たした。最早、自らの抵抗を示す様子はない

 

「でも・・・ありがとね。パラケルスス。私に、『もしも』を考えてくれた事。私に新しい可能性を示してくれたこと。ホントに・・・ありがと!」

 

「──えぇ。私も、あなたのファンであり友であるのです。どうか、マスター。如何なる状況にも、その輝きを喪うことなきように・・・」

 

此処に悪をはね除ける輝きは立証された。ただ自らは悪逆の徒として舞台を降りるのみ。──そんな悲観をも、リッカは見逃さない

 

「はい!ハッピー・バレンタイン!パラケルスス!」

 

「──あぁ、なんという。・・・本当に、あなたは輝かしく眩しいほどだ・・・」

 

彼に渡される、彼が持つ魔剣に五つの元素の宝石を象ったチョコレート。こんな自分にも分け隔てなく手を差し伸べる誇り高き彼女の姿に、かつての罪に苛まれる魔術師は心からの敗北を認めるのであった──

 




パラケルスス「それはそれとして・・・私は悲しい・・・マスターが、ただただ地獄の修羅道を歩くかと思いますと・・・」

リッカ「地獄?そんなのしょっちゅう乗り越えてきたから大丈夫!皆と一緒にね!」

「・・・そして、あのアイドルや、バグが発生した聖女のチョコレイトを食されるのかと思うと・・・胸が痛みます・・・」

「──あっ・・・」

エルキドゥ「大丈夫さ、リッカ。金星の文化に触れるチャンスだし、ニトロだと思えば力が湧いてくる筈さ、多分」

リッカ「人間はねぇ!ニトロを口にしたら死ぬんだってばぁ!!」

エルキドゥ「そもそもの話、料理をはじめてやるサーヴァントなんて沢山いるだろうし、いろはのいすら知らない連中だらけだろう。そんなチョコを食べるとなると・・・」

リッカ「──いや!!私は諦めない!諦めなければチョコは食べられると信じているから・・・ッ!!」

「うん、エアやギルに頼んで胃薬貰っておくね」

「・・・もしもの時は、これをお飲みに・・・古くから伝わる霊草で、胃は守られます・・・」

リッカ「あ!はくのんが勧めてくるヤツだ!エリザのおともにって!・・・胃は?」

「舌は、守れません──(スゥ)」

「味覚死ぬって事!?それ劇物じゃん!!おーい!パラケルススー!!戻ってこーい!!」

「あはははははは!ギルも飲んでるよそれ。味覚を潰さなきゃやってられないって。痛覚だから辛さは防げないけどね!あはははははは!」

「何がツボなのか分からない!コワイ!」

エルキドゥ「さて、いよいよ大本かな。──夢とは悉く、醒めて消えるのが道理。だからこそ、僕らは行こう。そして──始めよう」

「・・・エルキドゥ?」

「僕は、僕の計画をね。フフフフ・・・。あ、今の悪役みたいだったかな?」

リッカ「・・・ギルよりエルの方がよっぽど怖がられてたりしてないよね、ウルク・・・大丈夫だよね?」

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