人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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──俺は儲けたい!お前らも儲けさせてやる!どうして金を出さねぇんだ!


──誰にも出来るからって、それを実行できるのかは別の話さ

──お前らァ!!──やるなら最も効率良く、だろぉ?

──コイツは俺達が初めて見つけた土地だ!あぁ、新天地だ!!


あぁ・・・僕の在り方は、どちらが正しいんだろう・・・?



死にたくない。死にたくない。死にたくない。

死にたくはない。なのに召喚に応じてしまう自分が解らない

何故?どうして?死ぬことは、わかりきっているのに。もう、あんな思いはしたくないのに

・・・私は、何かを、求めている?

死に続けるサーヴァントの果て、千夜の果て

──夜明けに。もう、怯える必要の無くなるような。せめて、思い出すだけで笑顔になれるような

そんな、奇跡のような・・・素晴らしき結末の成就を──


嵐の中で、輝いて。その夢を諦めることなきように

『──────~~~』

 

天の宮殿。その荘厳にして壮麗なる天上の空間に、聖母の声が響き渡る。雲より高く、その慈愛と慈悲を表す笑みを称え、左手に奴隷の生首、右手に隷属と屈服の鞭を称えた、恐ろしくおぞましき血の涙を流し、全ての存在を支配し足元へひざまずかせんとする信仰と夢の象徴。そして敵対者には絶対なる死と苦痛を賜せし、無慈悲と苦痛の聖母。とある征服者の船と聖杯を核としたこの特異点を成立させる要石にして、コロンブス絶対の自信たる切り札。天の宮殿へたどり着いた者達をも屈服させんとする美麗にして醜悪極まる理想の具現が、サーヴァント達に襲い掛かる。巨体を活かし、鞭を振るい絶叫する生首を振り回す姿は、まさに血にまみれた殺戮の聖母そのものだ。攻撃を行えば行うほど、その顔は醜悪な笑みに浮かんでいくのも相俟って、コンキスタドールの精神が形になったようである

 

「ヒポグリフ!頑張って避けて避けて!当たったらただじゃ済まないよ!」

 

「キュアァアァ!!」

 

それらに立ち向かうは、特異点を攻略せんと集いしサーヴァント達。幻の獣ヒポグリフに乗り込み、巨体と質量に任せた攻撃を間一髪にてかわしぬいていき、掻い潜り、蒼空を疾走し狂わされた聖母を討ち果たさんと猛烈な攻撃と反撃を行う

 

「よりにもよって聖母サマを歪めるとはな!そういう信仰を台無しにするような真似を赦す訳にはいかねぇぜ!じゃなきゃ──神サマを信じて踏ん張ったカール大帝(アイツ)も浮かばれねぇからな!」

 

「コンラ、卑怯ものは大嫌いです!皆の頑張った成果や報酬を奪おうだなんて絶対に許せません!」

 

「あぁ。騎士道に反する真似は見過ごせないな。我々の名誉にかけて立ち向かおう!──ダ・ヴィンチちゃん。内部に秘められた聖杯の反応を探知してくれ!」

 

一同の決意は固く、突破口を目指し抗い続ける。近付く度に苛烈なる迎撃が降りかかる。聖母の攻撃をスレスレにてかわし、きりもみし、そして急旋回を駆使し、そしてカルデアのサポートを受け反撃に転じる

 

『一際強い反応は頭部と胸部だ!それぞれ聖杯と船の形をした核の反応がある!其処がそのコンキスタドール像の弱点な筈さ!』

 

「コンキスタドール像!?」

 

『あぁ!個人的に、それを聖母マリアとはどうしても認めたくないからね!遠慮はいらない、やってしまいたまえ!』

 

「よーし!お言葉に甘えて!」

 

猛烈に転身したヒポグリフ。ライダーたるアストルフォの騎乗スキルにて駆られたヒポグリフが白き壁がごとき聖母像の間近を飛翔し上昇していく。虹が近くに雲が下に。そして最も近場に到達した瞬間に、一同が渾身の力を以て攻撃を叩き込む。ルーンの射撃、疑似勇士達の一斉砲撃。そしてヒポグリフの突撃。飛来する魔力弾はデオンが叩き落とし、攻撃と離脱を同時に行いダメージをおぞましき聖母・・・否、征服者像に叩き込んでいく。爆風と轟音が響き、よろけるマリア像。胸は穿たれ、顔面には皹が入りダメージが伝わりし事を顕す

 

「やったっ!効いてる効いてる!」

 

アストルフォが無邪気に喜び猛烈に旋回する。剥き出しになりし内部骨格は悪趣味な金色であり、その持ち主の趣味嗜好を反映した部分が露呈し損壊し──そして、目を見開く事象が一同の苦難の報奨を無に帰した

 

『いや──なんてことだ!再生していくぞ!恐らくこれは聖杯の・・・!』

 

瞬く間に傷が修復、そして見る間に快復していく。サーヴァント達が叩き込んだ攻撃を受ける前より更に輝き、壮麗に、醜悪に笑みを浮かべ征服者像が後光を放ち復活していくのだ。即座に聖杯、そして核となる船は覆い隠されてしまう

 

「回復などという生易しいものではないぞ・・・!まるで時間が逆行したかはじめから攻撃など無かったかのような修復ぶりだ!」

 

デオンの言葉通り、それらは生半可な魔術やスキルでは到底再現が叶わぬものであるほどの超絶的な回復速度・・・いや、逆行、あるいはキャンセルクラスの離れ業である。聖杯の奇跡だけでは説明がつかないほどの凄まじさ。そのカラクリは、誰でもない黒幕の口から放たれる

 

『ファッハッハー!当然だろ?言ったじゃねぇか!俺の一人勝ちだってよォ!何をしようが『勝者』である俺には傷をつけられやしねぇ!当然、ケツのでけぇ俺の女神様にもなァ!』

 

巨大な聖母から醜悪にして爽やかな声が響く。紛れもなき征服者、クリストファー・コロンブス。その老齢のサーヴァントが告げるのだ。最早勝負は決しているのだと

 

『この特異点はな、あのアバズレの物語を作る宝具をベースにしてるって寸法さ。物語は紡がれ、誰が勝ちになるかを競争しながら書き上げられた。そんで其処の勝者は全ての覇者になる!ンー、こいつがどういうことか解るかァ?』

 

勝者は全てを得る。そして、その全ては勝者のモノとなる。結果も因果も、思うがままに。それはつまり、聖杯の所持者であるコロンブスを護る絶対の理となるのだ。端的に言えば、勝者たるコロンブスを害することは出来ない。彼は勝者であり、物語の主役となっている。『主役は勝利するもの』という法則が、コロンブスを強固に護っているのだ

 

『チンケな技もお偉い英雄サマの宝具も無駄なこった!俺の、俺による、俺の為の世界で!俺に勝てるヤツはいねぇのよ!ファッハッハ!ハッハッハッハァ!さぁ──反撃開始と行くぜぇ!』

 

征服者像の口から、あらゆる箇所から発射口らしき穴が展開される。それら全てをヒポグリフに向け、そして口を開き醜悪に征服者は微笑むのだ

 

「ハッハー、今度は何が掴めるのかねぇ!いつだって俺は錨を下ろす! こいつはそうするたびに宝を得た、俺の夢の象徴よ!」

 

其処から放たれるは無数の鎖。新天地に辿り着く度に行われた、略奪と虐殺の開始を意味する究極の船長命令にして征服者の号令

 

「この島で下ろせば健康な原住民の奴隷が待っている! この島で下ろせばガラス玉と金の交換が待っている!──さぁて、そしてこの島では!? ワクワクが止まらねぇ!考えるだけでワクワクが止まらねぇ!!」

 

そして、これは皮肉か、偶然か。彼のその夢の象徴はスラングとしての意味を持ち、こういった侮辱と侮蔑、そして神をも恐れぬ、信仰をも足蹴にする意味合いを持つ言葉がある。・・・新天地に辿り着いた彼が頼みとした宝具の名、それは──

 

 

「──『聖母マリアよ、クソを垂れろ(サンタマリア・ドロップアンカー)』!!」

 

放たれるその無数の鎖。そして征服者の象徴。無慈悲に無節操に。聖母の形をした像のあらゆる場所から縦横無尽に放たれていく略奪の鎖。聖杯にて強化された凶悪な鎖が、一直線にヒポグリフに襲い掛かる──

 

「わわわわわ!!全力全力だよヒポグリフ!!」

 

「キュアァアァ──ッ!!」

 

津波のような鎖の怒濤に、防戦一方と成り果てるカルデアのサーヴァント一行。コンラとデオンが懸命に防衛を繰り返し、なんとか直撃を回避し生存を行うが、防戦すらも略奪に呑み込まんとする征服者の夢と支配に、抗い、そしてなんとか生命を繋がり天の宮殿を羽ばたいていく。そして響き渡る。勝利を確信せしコロンブスの哄笑。天の宮殿が、激震し凄まじいまでの欲望に飲み込まれていく

 

「ハッハッハッハァ!ファッハッハァ!!どうしたどうした!楽園って噂のカルデアはそんなにチンケなもんかァ?ガッカリさせねぇでくれよなぁ!」

 

「くっ──!」

 

戦意を喪失したコロンブス、呆然自失となりしシェヘラザード。そしてその傍に黙して侍るリッカを護る為にマシュがサーベルと鞭を懸命に防ぎ押し返している戦いの様相が繰り広げられているのだ

 

「しっかし、お前らもツイてねぇよなぁ。よりにもよって一番信頼しちゃあいけねぇ奴等を信じちまったんだからよ」

 

「何を・・・!」

 

「自分が死なないためならなんでもする娼婦崩れに、現実とテメェの本性を図れねぇガキ。船乗りの俺から言わせてもらえば非常食のネズミ以下の価値だぜェ?いや──売り飛ばすか船員の慰安にゃ使えるかもなぁ?ハッハァ!だが梅毒は勘弁だぜぇ?」

 

聴くに堪えない罵詈雑言を与えられても、三人は黙して動かない。リッカは静かに二人を見詰め、そして──

 

「残念だったなぁカルデアのマスターさんよ!お前さんらの完全無欠のハッピーエンド!最後に笑うのは俺!お前らの旅路は俺が最後にかっさらう自伝と武勇伝だったのさ!俺を引き立ててくれてありがとよぉ!ファッハッハァ!!」

 

「──!!あなたという人は──!!」

 

それはマシュの逆鱗に触れる言葉でもあった。誰もが笑い、誰もが最善を目指し夢見たあの旅路を侮辱されること。それは何をおいても許せない、許さない。情緒が成長したマシュが噛み砕けんばかりに歯を食い縛り、床が砕けんばかりに踏み込みコロンブスに突っ掛かり盾を叩き付ける

 

「私達の旅路を侮辱することは絶対に許さないッ!クリストファー・コロンブス!あなただけは断じて認める訳にはいきません!」

 

「オイオイ、きちんと俺を尊重してくれよなぁ!だって俺にも価値と意味があるんだろォ?俺の在り方!誰かを食い物に足蹴にする生き方にもよぉ!」

 

その在り方を、楽園にて辿り着いた答えを逆手にとり挑発する。人間が持つ野蛮さと獣性。それすらにも価値を見出だした存在の慈悲と尊重すらも食い物に、盾にする在り方に。マシュは、自分の中の何かが切れる音を確かに聞いた

 

「──!!!『来たれ、聖なる杯』!オルテナウス──」

 

その言葉に、更に怒りにて理性を弾き飛ばしたマシュが、最大の奥の手を開帳せんとする。全ての力を注ぎ込み、激情を力に変えんとして──

 

【マシュ、ストップ】

 

静かにマシュを制止する声。そして──底冷えするかのような、地獄の底から響くようなドスの効いた声音に、マシュは一瞬誰かすら分からなかった程だが即座に把握して停止する

 

【コイツは私に任せて。シャルル達の応援に行ってあげて】

 

「せ、先輩──」

 

【早く。悪いけど、おちゃらけてる余裕も今の私には無いみたいだから】

 

鎧から響く唸り声のような、落ち着き払いながらも戦慄と絶望を喚起させる指示に、マシュは即座に理性を取り戻し指示に従う。反転し、駆け抜けていく

 

「先輩、お気をつけて!──おふたがたも・・・」

 

【解ってる。ちょっと黙ってもらうだけだから】

 

それだけを告げ、真っ直ぐに向かい合い、コロンブスに向け歩み出す。リッカの表情は鎧にて見えぬが故に、コロンブスは気付かなかった

 

「ハッ!マスターがわざわざ前に出るとは正気かよ?船長ってのは美味しいとこだけを持っていくのが──」

 

【ガンド】

 

放たれる呪詛。真っ直ぐに着弾する必殺の静止。先程まで雄弁に語っていたコロンブスが、身動きすることなく停止する。スタン状態に陥ったのだ

 

「──!?」

 

【──地獄の九所封じ、その一】

 

頭蓋骨に指が食い込む程のアイアンクローをかまし、コロンブスの身体を浮かび上がらせ力の限り放り投げ、受け身も回避も許さぬままに自分の必殺技を叩き込む。その、始まりにしか過ぎない必殺技の一端を

 

【大雪山落とし】

 

「グァ、てめ──」

 

淡々と、的確に人体の急所を破壊する一撃。それをただ、コロンブスに向けて叩き込む

 

「グァハァッ──!!!」

 

背中から叩き付けられ、背骨と背筋に甚大な被害とダメージを叩き込まれ肺の空気を絞り出されるコロンブス。そしてそのまま流れるように、粛々と動けぬコロンブスの腹を蹴り飛ばし立たせ、次なる技をセットアップする

 

【その二と三。スピン、ダブルアームソルト】

 

「チクショウめ、それでも──」

 

技の精度は恐ろしいほど正確で的確に、コロンブスの五体を破壊していく。悶えることも回避することも出来ない。そして攻撃も反撃も叶わない。何かをする度に、ガンドにて封じられるからだ。──最早、尋常なる勝負すらも許さなかったのだ

 

「ぐはぁっ!!う、腕がッ!待て、テメェまだ──」

 

【その四と五。ダブルニークラッシャー】

 

「オ、オイ待てよ、無抵抗になったヤツ相手になんざ善人のやることじゃ──ぐぎゃあぁあぁっ!!」

 

哄笑は断末魔に変わる。それのみしか許さぬとばかりに、有無を言わせぬ連撃が叩き込まれていく。リッカは何も語らない。淡々と、自らの奥義を叩き込んでいくのみである

 

【その六。カブト割り】

 

「ぐげぁあぁあっ!!ち、チクショウめ、このバケモンがぁッ──!」

 

【その七。ストマッククラッシュ】

 

立て続けに頭と胃が、全身が破壊されていく。だがコロンブスは死なない。勝利者であるコロンブスは、聖杯により護られている。死なないのだ。死ねない、とも言えるが

 

【立ちなよ】

 

「こ、このクソッタレが・・・!テメェ、この──」

 

【その八。──みこっと☆去勢撃】

 

問答無用で髪の毛を掴み、引きずり上げ股間を鷲掴みとして──二つの急所を、力の限りに握り潰し、最後の締めに繋がるのみのコロンブスを放り投げる

 

「ぐぎゃあぁあぁあぁあぁ!!!こ、の、ぐぉあぁあぁあぁぁあ!!この、クソ野郎・・・クソがぁ・・・!!」

 

【──あなたくらいの障害、私達は何度だって越えてきたんだ。引っ込んでなよ、ド三流】

 

冷徹に冷淡に転げ回るコロンブスに視線を送り、もう自らの為すべき事は為し遂げたとばかりに背を向け、二人の仲間の下へと視線を合わせ、告げる。まずは、絶望の淵に沈む少年に向けて

 

「コロンブス。──自分を信じなよ」

 

「え・・・?」

 

「誰かが信じるあなたじゃない、誰もが信じるあなたじゃない。あなたが信じる、あなたを信じなよ。もしとか、たらとか、ればとか。そんな言葉に惑わされないで。此処にいるあなたが、私達が信じたあなたの真実なんだから。私達と一緒にいたあなたは、あんなとこに転がってるコロンブスとは違うんだから」

 

それは、リッカが知る中で天も次元も突破する真理の言葉。誰よりも前へ進んだ者の、熱い激励の言葉だった

 

「でも、でも・・・僕は。僕は・・・!」

 

コロンブスであり、征服者であり、皆を裏切った。新天地に到達する夢を自ら汚してしまった。夢は、ただの夢でしかなかったと涙を流し項垂れる。もう、前を向くことは、進むことは出来ないと。そんなコロンブスに、リッカは更に告げる

 

「──諦めず、前へ。それは、君が言ってきたこと。私達を、此処へ導いてくれた言葉だよ。コロンブス」

 

「──ぁ・・・」

 

「私達の旅の果てにはこんな結末が待ってた。あなたの夢は、他でもないあなたに踏みにじられた。──でも、だからこそ。あなたは、私達に。こう言うべきなんだよ」

 

そっと頷き、告げる。今までずっとやって来たこと、他ならない彼が、自分達に教えてくれた事を今こそ彼自身に返すのだ

 

「『それがどうした』ってね。私達はまだ生きてるよ。前へ進めるよ。自分の力で、進むべき道を切り開いていけるよ。──あなたが、クリストファー・コロンブスが教えてくれた信念と理念を、また何度だって伝えてみせる」

 

「──マスター・・・」

 

「私達はまだ終わってない。──終わってないなら、結末やゴールはなんだって変えられる。だから──自分の信念から逃げないで!顔を上げて、立ち上がって!」

 

力強く。前へ。──航路を、新天地を。誰もが出来ないことを為し遂げた偉大なる冒険家、コロンブスに。マスターたるリッカが、自分自身が信じる理念も共に告げる

 

「──自分であることから逃げるな!クリストファー・コロンブス!あなたは誰よりも夢から降りなかった!だからライダーなんでしょ!」

 

「──!」

 

「そして、シェヘラザード!私達の物語を決めるのは、あんなドリカムジジィなんかじゃない!」

 

同時に、シェヘラザードに激励を向ける。力の限り、彼女が信じてくれた善き王に恥じぬ力強さを込め、絶望の淵に沈む語り手に告げる

 

「『此処から先は、私達の物語だ』!私達は紡ぐ事しか出来ない。だから語って欲しいんだ!他ならない貴女に!誰よりも聡明で、勇気を以て王を止めた貴女に!」

 

「・・・我が王・・・」

 

「私を王と呼ぶなら、やってみせて!思い出して!命を懸けてまで、全てを擲ってまで!あなたは何を護り抜きたかったのか──!」

 

二人のサーヴァントに、二人の仲間に真摯に訴えかける中──

 

「ぐっ──!!」

 

リッカの右肩に、鎧を解除していた場所に銃弾が食い込む。振り向くと、ダメージを受けながら修復が終わりかけているコロンブスが、リッカに銃を向けていたのだ

 

「この糞ガキがァ・・・覚悟は出来てるんだろうなぁ!」

 

「この──」

 

まだ、と立ち上がろうとしたリッカの前に──立ち上がる、そして真っ直ぐに立つ者がある

 

「ううん、コイツは・・・僕がやらなきゃダメなんだ」

 

「あぁ・・・!?」

 

「──思い出した。あぁ、思い出したんだよ。・・・航海の調子がいい時に限って現れる、意地が悪い嵐。吐きそうなくらいに揉まれて弄ばれて、そして翻弄された大嵐」

 

ゆっくりと歩みより、前を向く。──冒険家と、征服者が向かい合う

 

「思い出したんだ──『僕』は、そんな嵐を何度も何度も乗り越えてきたってことを!そして、それがどんなものでも、例え自分自身でも!嵐なら!それは何度だって乗り越えられるものに過ぎないんだから!」

 

もう、迷いはない。自分は征服者であり、そして──誰にも出来ない事を為し遂げた・・・

 

「邪魔するな、クリストファー・コロンブス!僕たちの目指す新天地は、すぐ其処に見えているんだ!!お前が僕だろうと、僕はお前を越えていく!!」

 

錨を、鎖を取り出す。それは細くとも強い、夢と希望の象徴。コロンブスを、コロンブスたらしめる宝具──

 

「マスター、ありがとう!僕は、僕は夢を諦めない!辿り着くんだ!夢へ!ずっとずっと夢見た新天地へ!このクソッタレな嵐を越えて!──皆!力を貸して!今度こそ、辿り着く為に!!」

 

【──勿論!!】

 

「生意気言ってんじゃねぇ、俺の絞りカスがよぉ!!」

 

「お前の存在なんてどうでもいい!僕の行く道を邪魔するな!征服者!!」

 

交わるサーベル、そして銃声。新天地を求める冒険家、そして征服者。──最後の航海が、始まろうとしていた。御互いの覚悟と夢を懸けて──

 

そして、それは。語り部も同じく──




「・・・完全無欠の物語。それはずっと、何処かにあるものと信じていました。いつか、自分もそれを読むのだ、いつかそれを目にするのだと。それは逆に言うならば、自分には縁遠きものと諦めていた。辿り着けないと溜め息をついていた。──それは、間違いだった」

語り手は立ち上がる。その原典。暴虐なる征服者に、一矢を報いた理由。王に刃を振り下ろしたたった一度の勇気

「──私は、既にそれを知っていた。完全無欠の物語。尊き生命を謳う旅。豪奢なる王と、その財達の物語。それらを、ただ見るだけではなく。私はこう想ったのです」

巻物を開き、語り始める。勝利が結実してしまった物語の先。『真なる結末』。紡がれている。未だにまだ途切れぬ希望の物語を

コロンブス「ッ!シェヘラザード!テメェ!!」

リリィ「うん!聞かせてよ!シェヘラザード!君の、君が望んだ物語を!!」

シェヘラザード「──はい。それが・・・私が此処に来た意味であると信じて。皆様と歩んだ・・・死に怯えた千夜の夜明けと信じて・・・!」

リッカ【──!!】

同時に、リッカはソレを開帳する。かの竜宮城にて貰った、莫大な魔力リソースにして疑似なる願望機に匹敵する宝具──『玉手箱』を、シェヘラザードに使用したのだ

【こんなクソ脚本!塗り替えちゃえ!シェヘラザード!!】

「──はい!我が王!」

力強く頷き、シェヘラザードは語り出す

『──それは、豪奢なる御機嫌王と、尊き姫が織り成す完全無欠の物語。それらを取り巻く財達の、痛快無比なる叙事詩。誰もが笑顔となり、困難や苦難を蹴散らし、誰もが望んだ結末へと至る物語──』

「ぐ、ぬ、ァアァアァアァ!!?」

シャルル「!」

コンラ「これは・・・!?」

全快する魔力、剥がされる征服者像の無敵、コンラは大人となり、一同の傷は癒え、そして力がみなぎり、限界を突破する

『そう──この地底における最後を締め括る結末もまた、幸福なる結末に他ならないのです──』

物語の筋書きを、結末へと繋げる。最後の鍵、シェヘラザード。今こそ──その語りを、王とその仲間達へと捧げる──

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