人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ティアマト「・・・・・・」


エレシュキガル「あら、どうしたのだわ御母様。悩み事?」

「・・・はい。子供たち、うまくやってくれれば良いのだけど・・・」

「?どう言うことなのだわ?」

「・・・子供を引き取りたいと申し出た人がいて、身請けを・・・熱意に押され、子供たちの一部を・・・」

「・・・身請け?そう言えば・・・」

「なんでも・・・『私に任せてくださればもっともっと楽園にお役立てができます!絶対損はさせなません!』と言うので・・・それならまぁ・・・と」

「・・・なんとなく・・・詐欺案件の臭いがするのだわ・・・!シドゥリ、記録は!」

「取っています。・・・一人、姿を消しているサーヴァントが・・・」

「・・・嫌な予感が、するのだわ・・・!」


真偽の線引き、虚偽の在処

「──精神、電脳出力完了。自己存在認識、問題なし。活動は滞りなく始められそう。・・・ミッションスタートね」

 

 

自らが組み上げた電脳ダイブプログラムの完遂と成功を確信しながら、オルガマリーは身体を起こし状況を確認する。空にはサイバネティックな網模様が犇めき、壁や空間には0と1が示す無数の電脳情報が飛来し上下している。微塵の揺らぎもなく敷き詰められたタイルが踏みしめる大地の代わりとなり、何処までも彼方へと続いている。情報電脳体である自らを内包したサイバー・ミニチュアワールドとでも形容すべき世界が、抽出された精神と存在を圧倒し迎え入れる

 

「んんー滞りなく成功したようだネ、電脳世界へのダイブなど生前ですら考えもしなかった試みだ。いやまったくこの術式を僅か三十分で組み上げてしまうとは私の可愛い生徒が有能すぎて怖い!はははは!リアクション芸担当のワトソン君とは一味も二味も違うと言うことが骨身に染みて理解出来ただろう、ホームズ!」

 

「ふむ、実に興味深い。このように電脳プログラムに自らの存在を送り込める方法が確立されるとは。警察のサーバーや犯罪者のプロトコルをスマートに乗り越えられるやもしれない。・・・だが、ファイアーウォールに精神や魂を焼かれる諸刃の剣でもある、か」

 

「華麗に無視か我が終生のライバル!だがモリアーティ悲しくない、だってそういうヤツだって解ってるもん!でも独り身で寂しいこのダンディを慰めてくれる最愛の生徒は私には──」

 

『何が待っているのかしら?さぁ行きましょうオルガマリー。慎重に、大胆に。オペラも戦いも同じことよ。私達ならきっと大丈夫ね』

 

「御機嫌なようで何よりよ、アイリーン。ほら、コントをしていないで行きますよ教授、ホームズさん」

 

モリアーティの憤慨と嘆願を特に気にする事なくスルーし、スタスタと気品を醸し出し歩むオルガマリー。アイリーンを宿したオルガマリーは常に落ち着きと、物怖じしない豪胆さを発揮している。それはつまり──気持ちが昂っているという事でもある。未知の世界に興奮したアイリーンに、手を引かれているような感覚のオルガマリー。その心に、モリアーティの存在はちょっぴりしか残っていないのであった。頼みの綱の自らの生き写しにすらスルーされ、ガックリと肩を落とし腰を鳴らす悲しきアラフィフ。感じる筈もない寒風が、彼の心に絶えず吹き荒ぶ

 

「・・・お茶目フランクおじさんは今の若い子には受けないのかネ・・・どう思う?ホームズ」

 

「すまない。生憎と老齢の霊基には縁がなくてね。少なくとも君は全身から漂う胡散臭さとどうしようもない物理的な臭いをなんとかしなければ先はないな」

 

「──超絶イケメンだと思って優位に立っていると確信しているな!腹立つ!物凄く腹が立つ!もういい!おーい!置いていかないでくれたまえ~!」

 

怒ったり泣いたり笑ったり忙しく顔を変える恐ろしき終生のライバルの姿を、ホームズはパイプをふかせ愉快げに眺め、ステッキをハンドテクにて弄ぶ。興味深い事例に向き合ったホームズの気分を表す何気ない動作を、皆は見てはいなかった

 

(悪辣非道の君がそうまで己をアピールするとは。世界中のシャーロキアンが目の当たりにしたら何を思うのやら)

 

そんな事実も、また面白い。コインの裏表たる二人もまた、敬愛する女性の依代にして、多忙な所長のフォローに向かう──

 

 

~見ることと、観察する事は全く別のものである~

 

「ふむ──成る程。コナン・ドイルは重厚なSFを書きたかったという話だが、時代の英雄と共に電脳世界へダイブする、というアイディアは果たして思い付いたのかどうか。もし私が口にし、それをワトソンが聞いたら言うだろう。『服薬は一日に一回にしてください』とね」

 

注意深く軽やかに、堂々としかし慎重に。辺りを丹念に眺め、観察を行いながらホームズは言葉を紡ぐ。名探偵はオーディエンス無くしては輝かない。なればこそ、よき客がいればその舌はよく回るのは当然の帰結であるのだと、言動が雄弁に語っている

 

『あなた、まだ服薬しているの?コナン・ドイルがイメージを気にして編纂し、ワトソンが頑張って止めさせた事になっているのだから、努力を無に還すのは可哀想よ』

 

「申し訳無い。だがねアイリーン。──私はあの宇宙と同一となるようなトランス&トリップがどうにも止められないのさ。シャーロキアンにはオフレコで頼みたい」

 

「君は探偵という概念に感謝した方がいいよ本当に。だって真っ当な社会なら君は俗に言うヤク中だもん」

 

いけしゃあしゃあとアウトな事を宣う名探偵に呆れ果てるヴィランの親玉という珍妙な光景を目の当たりにしながら、オルガマリーは歩を進める。シミュレーションソフトなだけあって、其処には数多無数の風景やステージが乱立し、歩みを進めるごとに辺りを包むステージが姿を変える。街中、草原、火山口、海辺・・・そのような様々な景色の変換を味わいながら、矢印にて導かれるシステムの中枢へと脚を運んでいく

 

「しかし愉快なものだネ。探偵推理小説で小競り合いを繰り返した私達、クラスは皆キャスターが妥当だと考えていたが・・・それがまさかアーチャー、ルーラー、そしてまさかの疑似サーヴァントとは!いやはや事実は小説より奇なりとはよく言ったものだとつくづく思う!ジパングワードは含蓄が深いな、本当に!」

 

『私は幻霊だけれどね。パートナーに恵まれたのよ。どこかのヴィランと違ってね』

 

「うむ、全くその通り。アイリーン、ミス・オルガマリー、いざとなればこの老人を盾にしたまえ。身を護れ巨悪も同時に滅びロンドンが歓声に包まれるだろう。一度きりの使いきりなのが難点だがね」

 

「君達なんか私に当たり強くない!?」

 

「まぁまぁ、それはまぁ置いといて。・・・モリアーティは魔弾の射手によるアーチャー、アイリーンは幻霊・・・それは解るのですが、今のあなたのクラスは・・・」

 

そう、ホームズはルーラーである。ルーラーとは裁定、調停者のクラス。どの陣営にも属さず、公平に物事を決めるもの。──新宿ではキャスターであったホームズは、カルデアに来たことによりクラスが変質しているのだ。ルーラー・・・その言葉からイメージされるそれに、ホームズが合致しているとは思い難いのだが・・・

 

「君はアレかネ。その歳で一人でできるモン!なんてハッスルを露にしたのかネ。陪審も判事も行う探偵なんて聞いたことが無いナー。自作自演自由自在で楽しそうだナー」

 

「其処のテムズ川の溝のような発想しか出来ない男は放っておいて、だ。・・・私はこれを、世界からの足枷と見ている」

 

「足枷・・・?」

 

その言葉と意味合いが示すもの。それは解き明かすものであるシャーロック・ホームズへと結びつけられ、あてはめられたといっていいであろう世界からの警告。この世の神秘の暴露を恐れたリミッターだと彼は仮説を立て、推論を行っていた

 

『どんな素敵なマジックにもタネがあり、どんな不可解のトリックにも仕掛けがあるでしょう?それらは伏せられているからこそ効果をもたらし、隠されているからこそ意味を持つ。──そしてそれは世界も同じよ。お化け、UFO、UMA、オーパーツ・・・神秘と呼ばれるそれは秘匿され暴かれないからこそ確かな価値があるのだと私は思うわ』

 

「・・・世界が『余計な事をするな』とホームズさんへ枷をかけた。暴いてはいけない真実、見てはいけない神秘の公開を防ぐために・・・」

 

それが事実なのだとしたら、ホームズは野放しにしていたのならいずれ世界の真実を暴きたてる存在である、という事に他ならない。──世界が恐れ、また信仰を集める最高の名探偵、そして解き明かす者の体現。その推理に──世界が危惧したとするならば、人間の想像力と可能性はついに、世界の真理にたどり着ける境地へ脚をかけたと言うことなのではないのだろうか?

 

「映画鑑賞で一番隣にいてほしくないタイプだな君は。聞いてもいないのに蘊蓄やネタバレを語り知識をひけらかす評論家かぶれ程厄介なものはない。そんな悪事は私だってやらないとも!やるならそうだな、映画スタジオの方に細工して最終構想を横流しに・・・」

 

「そちらのアルツハイマー予備軍のプランニングは真似しないように。それはともかくとして、確かに私はルーラーに他ならない。アイリーンの言う通り、世界が言っているのかもしれないね。『口出し無用』と」

 

世界にリミッターをかけられる程の途方もない存在。そんな人物と行動を共にしている事に言葉では表せない感覚を胸に去来させながら、背筋を伸ばし歩むオルガマリー。くすくすと笑うアイリーンは、更なる戯れとして会話を運んでいく

 

『そう言えばホームズ。不思議に思ったのだけど・・・あなたはどちらなのかしら?』

 

どちら、と聞かれる言葉の意味。伝わったのか伝わらないのかはぐらかしたのか。唐突な言葉遊びにホームズは肩をすくめる

 

「おや、どちらとは?」

 

「クエスチョンマークとジェスチャーが世界一似合わない男よ、誤魔化しはやめたまえ。君の存在が実在したか否か、そういう問い掛けだろう今は」

 

その問いとは、英雄の在り方や証明にも踏み込む話題である。モリアーティ、アイリーンとは違う、主人公としてのホームズ。それはコナン・ドイルの創作か、はたまたモデルとなる存在がいたのか。実在か虚構か・・・そこに踏み込む話題と言える。世界に熱狂的なファンを持ち、コナン・ドイルの思惑すら越えて生還を果たした探偵の概念。そんな彼は、どのような成り立ち、ルーツを持って今ここに姿を見せているのだろうか?

 

「ふむ、そうだな・・・この話題を単なる世間話から核心にステージを移すなら、それは彼女の了承が必要になるな」

 

オルガマリー・・・マシュに連れられホームズの題材メディアに一通り目を通した彼女の興味と感心が鍵だと伝える。歓談から導き出された、名探偵が語るべき問いに、オルガマリーは──

 

「私は・・・──待って。この反応、敵性エネミー・・・!」

 

その会話を遮るも何者かの介入か。侵入者を排除せんと吠え猛る存在、生物の形をした防衛プログラムが割って入る。探求と議論は、一先ず終息を迎えざるを得ないようだ。一同は一様に戦闘体勢を取り、そのエネミーを迎え討つが──

 

「・・・なんだか物凄くファンシーじゃないかネ、彼等」

 

そのエネミーは見覚えがありながら・・・全く見慣れない姿へと改造、いや『着飾られていた』。フリフリの衣装に身を包み、可愛らしいリボンや尻尾などを付与され、キュートにコーディネートされている。見るものが見れば可愛いと言えるかもしれない

 

「「「ガアァアァアァアァアァ!!!!」」」

 

ただし、それらは皆アンバランスな魔獣である。ウリディンム、ムシュフガル、ムシュフシュ。・・・生物学時点でコーディネートミスな生物たちが、口紅や化粧を施された様相で凶暴に咆哮し一同に襲い掛かる

 

「ティアマトさんの魔獣たち・・・!どう言うことかしら、ティアマトさんが反逆などするはずが・・・」

 

「あからさまに他意を感じるコーディネートだ、黒幕がいると考えるのが自然だろう!うぅむ、アラフィフに猛獣退治は荷が重いが、やるしかないようだネ!」

 

とにかく行く手を阻まれた以上、排除以外の道はない。棺桶を起動し、銃を抜き、そして──

 

「よし、では始めるとしよう」

 

ステッキを持ち、パイプを吹かし余裕を以て構えを取るホームズ。三人は戦闘を行う──前に

 

「・・・ホームズさん、戦うのですか!?」

 

オルガマリーの驚愕を受け、その反応を待っていたとばかりにホームズは笑う。そう、彼はルーラー、新宿ではほんの触りしか見せなかった武術の真髄を垣間見せる。──シャーロキアンが頭を悩ませ、論文すら書き上げられたという実態が全く読み取れぬ摩訶不思議にして極めて有名な神秘の術──

 

「あぁ、見せよう・・・バリツを!」

 

そう、ホームズが極めし全方位護身術・・・東洋武術、バリツがベールを脱ぐ・・・!

 




「母の顔を思えばやや胸が痛いが、マイガールの為に一肌脱ぐと言った事実を裏切れはしないとも。──獣の諸君。モリアーティと戦えるなど君達は幸運だよ?」

過剰武装多目的棺桶、ライヘンバッハが猛威を振るう。視界、射線、認識把握すら必要ない程の精密な射撃。銃弾、ミサイル、ガトリングの乱射がメルヘン魔獣を討伐退治していく

「⬛⬛」

一節にて振るわれる、本来の魔術師が数ヶ月がかりで起動する大魔術の嵐。同時に放たれた銃弾は魔力にてマグナムを上回る単発威力、同時にミニガンやガトリングを上回る連射を誇る凶悪な弾丸と化し死の弾幕を巻き起こす。ガンスリンガーもかくやのガンアクション、ガン=カタの真髄を披露し──時には自らの足技にて首を跳ね、強固な鱗と筋肉を貫通させる。リッカの破滅かつ爆発的な投げ技、力業とは対極的な技術と一点集中の足技、打撃。穿つ、貫く、切り裂くと形容されるに相応しき比類なき接近格闘を繰り広げる。全距離に隙のない万能さ、それが存分に振るわれる。そして──

「──バリツ!!」

腰の入らぬ蹴り、ステッキ殴打、ルーペビーム。形容しがたい数多無数の東洋の神秘が的確に魔獣を打ち倒していく。ボクシングのような、武術のような。棒術のような護身術のような実態の掴めぬ動き。確かな事は──比類なく、強力と言うことである

「相変わらず意味不明だなその技は!そんな腰の入らない蹴りが何故効くのか!」

『ルーペからビームって出るものなのね。すごいわ!』

「私の知っているルーペじゃないわ・・・」

「ははは、リッカ君に聞いてみるといい。日本では有名な武術だからね。きっと理解できるだろう」

危なげなく制圧を完了する四人。その魔獣は、ティアマトが管理し把握している筈の魔獣であったのだが・・・それが落とした首輪が、一同の表情を曇らせる

「・・・どうやら我々は、質の悪い悪魔に関わってしまったようだ」

其処に書かれていたのは──『BBファーム 出張豚さん395号♥』であり・・・


『ちょ、なんでいるんで──い、いえ!こーんなところまで来るなんて御苦労様です、ワーカホリックな所長さん?有給休暇、差し上げましょうか?勿論、ベッドの上でシミを数えるものさびしーいお休みですけれど?』

「・・・懲りないというかなんというか・・・」

響き渡る声音に・・・オルガマリーは頭痛を覚えるのであった──

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