エルメロイ「さてと、これでようやく落ち着いて話ができる。さっきはどこまで説明していたかな」
リッカ「アンリマユが顕現する勝者なき戦い!」
「そこだったな。冬木の大聖杯は戦闘で脱落したサーヴァントを生け贄として取り込み、完成する。だが、そこから出てくるのはアンリマユに他ならない。この戦いに、勝者など存在しないのだ」
オルガマリー『手にするのは勝者の栄光ではなく押された世界滅亡のスイッチ・・・酷い話があったものね』
ロマン『それが他の魔術師を殺した果ての報酬だなんて・・・』
「まったくだ。もし私が第五次の勝者だったら絶望で悪逆に堕ちていた筈さ。──私の経験上、大聖杯が限定的ながらも稼働を始めるのは七騎のうち五騎目のサーヴァントが敗退した後だ。つまり、裏を返せば・・・」
リッカ「三騎を残しておけば儀式はうやむや、アンリマユは出てこない!器だけゲット!だね?あ、牛丼特盛おかわりー!」
オルガマリー『五杯目よ、それ・・・』
マシュ「穏便に事が済むなら、それが一番です!」
「あぁ。だが総てが穏便と言うわけではない。最終的に和解で決着をつけるため、和解に応じる余地なきものは力尽くで排除しよう」
リッカ「消極的かと思いきやアグレッシブだった!あ、鉄火丼もいいなぁ」
「乱世の策士がもっと私に計略しろと囁いているのでね。ともかく、今回排除すべき相手はある程度決まっている。キャスター、そしてアーチャーだ。こいつらははっきり言ってまともに意思疏通できる相手ですらない。アーチャーは英雄王に任せ、さっさとお引き取り願いたい相手だ。それとアサシン。こいつらはマスターがアーチャーを擁する陣営と結託している。どのみち排除と敵対は避けられまい」
リッカ「バーサーカーは?」
「・・・狂化している以上、これはマスター次第という他ない。令呪を温存し、サーヴァントを十全に制御できる状態のうちにマスターを懐柔できるかが鍵だ」
「では、バーサーカーは保留でしょうか?」
「安全牌ではない、と結論せざるを得ない。──最終的に、セイバー、ランサー、ライダーを保護する事となる」
リッカ「ライダーと上手くお話しできればいいけどね!話が通じるならワンチャン確定あるよ先生!」
「・・・」
「?どったの?」
「・・・ああ。連中と上手く話をつけられるかが、鍵だ。──さて、そろそろ時間だ。ケイネス陣営の下へ向かうとしよう。あぁ、それと一つ」
「?」
「今回の交渉は魔術師の体面を重視した交渉となる。いつも君がやっている会話体系とはやや異なるものだ。ここは私に任せてもらいたい」
リッカ「口を挟まず見てなさい、ってことだね!」
「そうなるな。念話は開いておくから、会話は可能だ。私に任せておけ。必ずいい結果を引き出して見せよう」
「お手並み拝見!よーし、じゃあ行こっか!」
マシュ「太りませんよね先輩!大丈夫ですよね!」
「栄養取らないと体が上手く動かせないからね!消化されるから大丈夫!」
埠頭の交戦、この世界のマスターとの戦いを切り抜けたリッカ一行は、翌日の22時・・・約束と盟約を交わした土地へと足を踏み入れる。そこは冬木においても高層かつ下界を見下ろせるビルの頂上付近、ホテルのスイートルームである。市街地の中心たるビルの頂上・・・魔術工房を設置するには些か以上に目立つ間取りが、そのまま主たる魔術師の自信の大きさを言葉なく如実に語り示している。
『来たはいいのだけれど、当然というかなんというか・・・』
「・・・・・・・・・」
敵のサーヴァント、ランサー・・・ディルムッド・オディナは何時でも槍を振るえる──つまり臨戦態勢へと入っており、油断なくリッカ達を睨み付けている。話し合いのみで終わらない、あるいは──信用するには怪しすぎるなどといった警戒の様相を真っ直ぐに叩き付け視線を叩き付けて来ているのだ。
『空気が重いわね・・・一触即発、一戦交えるも厭わないといった感じ。穏やかじゃないわ、どうするのかしら・・・』
『ロード・エルメロイを信じるしか無いよね・・・頼むよ、本当に。こんな場所で戦ったら危ないじゃないか』
(そうだよねー。マシュや私がやられちゃうかもだもんねー)
『保護対象のケイネスさんがリッカ君の手にかかって無惨に脱落なんて目も当てられない・・・!』
(そっち!?)
ポーカーフェイスで通信のやり取りをするなか、ケイネスが口火を切り糾弾を露にする。その憤激は真っ直ぐエルメロイ・・・二世に向けられており穏やかさとは無縁の語り口だ
「昨夜のうちにアーチゾルテに問い合わせた。ライネスの名代などと・・・よくも根も葉もない法螺を吹いてくれたものだ」
「怪しく、虚威であると知り。それでも尚我々との会談に応じてくださったと言うことは・・・」
そう。本来なら有無を言わさず誅罰とするケイネスではあったが、その他にも問い質すべき事が捻出されたのだ。──遡ること正午、魔術の秘匿と戦争の意味を弁えず数多の幼児を浚い拐かしたキャスター陣営の討伐指令──令呪一画の報奨を条件にして発令された事象についてだ。それを一日前に『キャスター陣営の居場所を教えられる』などと、先読み処か未来予知めいた感覚を発揮した目の前の魔術師に、糾弾をしなくてはならぬとケイネス結論を出し招き入れたのである
「なぜ聖堂教会の動向を事前に探ることができた?」
聖堂教会は魔術協会と対立も可能なほどの機関であり、組織であり、勢力だ。その動向を先読み、情報漏洩など生半可な事では不可能であろう。その異常さを突き止めねば、あまりにも不明瞭なこの陣営への疑問は晴れないのだ。もしや、この者達が蟻の一穴となり勝敗に関わるやもしれぬ。ケイネスはそう考え、あえて対話のテーブルについたのである。そう考えると踏んでいたエルメロイ二世は──荒唐無稽ながらも真に迫った情報を開示する
「それは、それが私にとっての事後。遠い昔の記憶だからです」
「・・・何?」
「埠頭でサーヴァント戦が行われた翌朝、監督役が各陣営に招集をかけキャスターの優先的抹殺とその褒賞を提示する。・・・私の知識はそれだけではありません。あなたが当初、この戦いにおいて召喚する予定だったのが征服王イスカンダルだったこと。そのための聖遺物を、時計塔の聴講生ウェイバー・ベルベットに盗まれ、やむなく代わりにディルムッド・オディナを使役していること」
「どうしてそれを・・・」
それはケイネスにとって失態も失態。秘するべき、そして恥ずべき恥辱だ。誰に伝える筈もなく伝わるはずもない秘匿にして醜態。明らかにケイネスの顔色が変わる。それに畳み掛けるように、エルメロイ二世は更に言葉を紡いでいく
「そのサーヴァントに魔力を供給しているのは貴方ではなく婚約者のソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ嬢でしたね。別室待機は極めて真っ当な判断です。あぁソラウ嬢と言えば貴方の書斎に恋文の下書きが残されていましたよ。えぇと、確か書き出しは『麗しき我が想いの君よ、その瞳には朝露の輝きを宿し・・・』」
「えぇい、やめんか!もういい!」
それ以上は我慢がならず制止する。我慢ならぬということそれは即ち事実であること、ケイネスのみが知る真実に他ならないのだ
(ラブレターなんてこの人意外と純情なんだねマシュ)
(魔術師の中では人間性は破綻していない部類なのでしょうか?)
漸く彼等の言葉が法螺ではない事を痛感し、その身柄と所在を問うケイネス。リッカとマシュの態度は目に入っていないようである
「貴様は一体何者だ!?」
「レディ・ライネスの名代であることは事実です。・・・ただし、その肩書きを賜るのは今から四年ほど後になりますが。故に今申し上げた諸々は、総て私の『過去の記憶』に属する事柄です」
「・・・ほほう」
その言葉に、嘲笑でもなく侮蔑でもなく一定の理解と余地を残して見せる。その柔軟性と理解の早さはまさしく一族の長に相応しき聡明さだ。エルメロイ二世もまた──その才能と思慮深さに称賛を示す
「そこで一笑に伏さないところは、さすがアーチボルトの長と言ったところですな」
「時間渡航者か。そういう研究に血道を上げている輩もいるとは聞いている。・・・実在の目処などない馬鹿げた探求だと思っていたが・・・それにしても、もう少し納得の行く説明が欲しいところだ」
理解を示したからこそ解る、その原理の途方もなさ。魔術の領分を逸脱した、魔法に手が届く術。その希望と同じほどの困難さ、その倫理の説明をケイネスは要求する
「魔法に手が届く術理。当然生半可なものではあるまい」
無論、説明を行うことに異論はない。そして──
(オルガマリー君。くれぐれも、くれぐれも口と態度には出さないように。君の理性と知性が成り立ち初めて為し遂げられる計略なのだからね)
『わ、分かりました。な、何かしら・・・逆に怖いわね、念押しされると・・・』
「言質は取った──それでは、しばし御傾聴を」
そしてエルメロイ二世は語り出す。カルデア、レイシフト、そしてグランドオーダー。それを成し遂げしシステムの構築倫理をケイネスへと開帳し知らしめる
「なるほど、地球環境モデルを投影し過去を観測、英霊召喚システムを応用したレイシフト・・・それら総てを霊子演算機の導入によって可能にしたわけか」
『ふふっ、そうね。私はもうアニムスフィアとしては死んでしまった身だけれど、それはもう沢山の人達の希望と願いを背負って立ち上げられた凄いプロジェクトなのよ。それなりに凄いんだから』
それらはマリスビリー・アニムスフィア、そしてソロモン・・・ロマンが聖杯にて願った莫大な富、そして人間となりしソロモン、レフ、アトラス院の尽力にて形となした一大プロジェクト。その概要を聞き及び、改めてオルガマリーはちょっと得意気となり砂糖をコーヒーに混ぜる。上機嫌の証である
「霊子演算機・・・アトラス院ではそのような試みが成されている、と風の便りで聞いてはいたが・・・」
「はい。それら総ての魔術的偉業が・・・」
『ロマンやお父さんの尽力と、皆の人類存続の願いを形にして、ギルの財と認められる楽園にまでなってくれた。英雄王の財を産み出せた事実。アニムスフィア家の誇りとすべき大偉ぎょ』
『アーチボルト門閥によって達成されることになります』
『ブーーーーーーーーッ!!!!!』
盛大にコーヒーをぶちまけるオルガマリー。当然のように嘘八百を歌い上げるエルメロイ。リッカは顔に出してしまう。嘘やん・・・と
(そこ!顔に出すな!そして所長!静かにしたまえ!)
『けほっ!うぇっ、けっほ!なずぇゆえ・・・!うぇっほ!えっほっ!!』
『オルガマリー!しっかり!気を確かに!しっかり持つんだ!』
(先輩!ポーカーフェイス!ポーカーフェイスです!)
英雄王に託したアニムスフィアの集大成、レフやロマンの頑張り、アトラス院の協力、数多のスタッフ達の努力と奮闘。それら総てがアーチボルトのものと改竄された事実に、オルガマリーはコーヒーを気管支にダイレクトに招き噎せまくる。音声を咄嗟にレイラインに変え、音を断ち切り会話を続ける
「未来のアーチボルトがそのような大それた成果をあげたと?」
「勿論ケイネス卿の卓越した采配と統括あっての成果です。今後の時計塔におけるあなたの躍進が、様々な学派の成果を吸収し、この一大プロジェクト『カルデア』の実現に至ったのです」
『違う!違うわよ!そんなんじゃないわ、どうしてそんな事言うの!?皆頑張ったから出来たのよ!嘘よ、そんなの嘘よ!ギルの財になるまで、どれだけ皆が頑張ったと思ってるのよ!?』
『所長がパニックを起こした──!?落ち着いてマリー!方便だから!ハッタリだから!』
(オルガマリーはパニック起こすと癇癪もちが復活するんだぁ・・・良いこと知れたね!)
(所長・・・心中心からお察しします・・・)
もうやだ!なんてことなの!?と突っ伏すオルガマリー。自分だけはともかく、皆で積み重ねた成果全否定、実利没収は応えるようだ。精神安定剤をロマンがダッシュで取りに戻り一旦通信を切る
「ふん、私にアトラス院との繋がりはない。むしろあの偏屈達を毛嫌いしている。あの悲観主義者たちと手を取り合うことはない。ないと思っていたが・・・」
無いと思っていたが──次の反応は、未知のものであった
「そうかー、うん!まぁあり得ぬ話ではないな!」
喜色満面となり、未来の私天才過ぎない?といった様子で笑みを浮かべる青チョロことエルメロイ。ロードたる故に自らの成果を疑わない。未来の成果を当然としにっこりと小躍りを始める程に浮かれきる
(ちょっろ!青おじさんちょっろ!!)
「いやぁ、そろそろ降霊科と鉱石科だけでは派閥争いの切り札には足りないかなとは思っていたのだよ。何か別口の研究にも手をつける頃合いとかとね。うむ、しかしまさかそんな方向にも才能あったとはなぁ私。そうかー、歳食ってからも大人げなく本気だしちゃうかー!」
『ふぅ、落ち着いたわ・・・ごめんなさい皆、今なんの話を・・・』
「無論技術的成果だけでなくソフィアリ家の経済的援助によるところも大です。カルデアの施設構築に至る莫大な経費が賄えたのも、貴方と未来の奥方様との睦まじい私生活あってのことで」
「いやぁフハハ!魔術の求道にばかり専念した私がはたして家庭人として成功できるかどうか──一抹の不安はあったのだがね。そっかぁー、フハハハハ!」
『
根も葉もない根拠もない絵に書いた餅プランをあっという間に鵜呑みにしマリスビリーとロマンの活躍すら略奪される未来予想に涙目になりながらコンソールをぶったたき突っ伏し断末魔を上げるオルガマリーをロマンがなだめ、ムニエル達が代わる代わる励ます異常事態。彼女は所長として誇りを持っているが故に──カルデアの皆の道筋を改竄されるのはちょっとジョーク案件では流せなかったようである
(マシュ、カルデア問題ではオルガマリー弄らないようにしようね)
(はい、先輩。拘りを持っているのがよくわかりました・・・)
「と言うわけで、我々はアーチボルトの栄光の階を確実に築いていただくべく馳せ参じた次第です。あまり大袈裟な援助までは叶いませんが、こと、情報においては・・・」
「うむ、君らの介入さえあれば戦況のあらゆる段階で敵に先手を打てるわけだな」
「ひとまずはキャスターの排除です。まだ他のマスターたちは標的の潜伏場所を知りません。先んじて襲撃をかければ、監督役が確約した追加令呪は御身のものに」
「素晴らしい!ククク・・・この戦い、最早勝ったも同然ではないか!」
そして、滞りなく同盟と共闘の盟約は結ばれ、ケイネス陣営との協力を申し付け共闘を実現する
「・・・もしかしてこれってさ、先にケイネスさんに声をかけた理由って・・・」
『一番騙しやすいから、なのかなぁ・・・』
『いい、マシュにリッカ!ここまで言わせたのだもの、失敗は許されないわよ!カルデアの全力で挑むわよ、ギルの財として!ギルの!財として!!』
「オッケー!じゃ、下水道いこっか!」
「帰ったらスイーツを奢りますね、所長・・・」
「ははは、いいストレステストになったようで何より。さぁ行くとしよう。青髭狩りの開始だ!」
吹っ切れて・・・というより開き直ったオルガマリーを迎え、一同は次なる戦場へと挑む──
言峰・自室
(何をやれど満たされず、我が身に宿りし令呪の意味もわからず、空しきままに我が師に加担する・・・このような戦争にて、我が身に真なる救いと答えがもたらされるのだろうか・・・)
『──外に答えを求める以上、貴様は永遠に迷い子のままだ。さぁ、覚悟するがよい言峰。今こそ己が本性より目を逸らすのを止め、己が悪性と向き合う時だ』
「・・・!誰だ!」
『誰であろう、貴様に告げる者に他ならぬ。今こそ、貴様の益体の無い自傷と自慰を終わらせてやろうという者に過ぎぬ』
「私の、自傷・・・自慰だと・・・」
『貴様を我は導かぬ。貴様を我は配慮せぬ。ただ、貴様の欲しい答えのみをくれてやるのみだ。さぁ、逃げるなら今の内だぞ?これまでのように総てに蓋をし、永遠に悩みながら自らを痛め付け満たされぬ生を送るというなら止めはせぬがな』
「・・・教えろ。何をしようとも満たされず、美しき者を美しいと思えず、何をするにも飽き果ててしまうこの身の正体を、教えられる者があるなら教えてみるが──」
『妻が死別した際、貴様はこう思った筈だ。『どうせ死ぬのなら、己が手で殺してやりたかった』とな』
「・・・!!!」
『美しく在るものを美しく思えぬ、醜さと破滅を美しく思う。親に送られた『キレイ』という名を、ただの一度も意味のままには受け止められてはおるまい?──答えは示されているのだ、言峰よ。貴様は天性の破綻者。破滅と嘆きを愛し、他者の苦しみに愉悦を見出だし、楽しみを感じる悪人にして外道。何の事はない、貴様はそういっただけの人間なのだ。言峰綺礼よ』
「・・・──馬鹿な、・・・馬鹿な、馬鹿な・・・!そんな、そんな筈は・・・!」
『何より貴様が理解しているだろうよ。妻を得、その死に様に立ち会い懐いた感情。目を背け蓋をし、見ないふりをし続けた事が何よりの答えだ。お前は既に答えを懐いていた。それから逃げているから惑うのだ。嘆きと痛みを悦とする畜生、それが貴様の有り様だ』
「それは許される事ではない!!言峰璃正の胤から生まれ、聖職の求道を生きてきた!そんな私が破滅と嘆きを、他者の苦しみを愉悦とする・・・!?あり得ぬ、在ってはならぬ事だ!わけてもこの私の、信仰の道においては──!」
──良いのです。その在り方は、けして間違いなどではありません
「・・・!?」
傲岸な声から、総てを認め、受け入れるような慈愛の声が新たに響き渡る。その優しく柔らかな響きに、言峰は自然と膝を下り、頭を垂れる
──あなたの懐いたもの、懐いた感情。持って生まれし天性の機微。それは貴方自身のものであり、いくら目を逸らそうと無くなりはしない。それこそが貴方の存在の根幹、正しく貴方という人格そのものなのです
「──だが、それではこの身が積み重ねてきたものは何だと言うのですか!聖職に傾倒し満たされぬ日々を送り、求めた答えが、貴女方が仰有られるようなものであるならば、私は犬畜生にすら劣る下劣に他ならない・・・!」
──いいえ。それは違います。貴方が積み重ねてきた信仰。貴方が懐く本性。どちらもけして否定されはしない大切なもの。かけがえのない、あなたという人間を形成する大切な一因なのです
「──馬鹿な、何を・・・」
──破滅を愛す、悪を愛でる。他者の困難を悦とする。それは確かにあなたには受け入れがたいかも知れません。ですが──それでも、あなたはけして妻を忘れはしなかった
「・・・!」
──あなたの本性はおぞましいもの、恐ろしいもの。ですがそんなものはあくまで『持って生まれただけのもの』に過ぎません。苛まれ、恐れ、遠ざけるものでは決してない。何故なら・・・『そんな性を懐いても、あなたは人並の平穏を望んでいるのだから』
「・・・・・・私は・・・妻の死に際に在り、破滅と苦しみを懐いた。そんな私が人を愛することを望んでいる・・・?」
──あなたが奥様と過ごした時間を『無価値』と断じようと、けして『無意味』としなかったことが何よりの答えです。破綻した嗜好も、敬虔な信仰も、何より──平穏と幸福を祝う心も。その総てが貴方なのです。コトミネキレイ
「・・・・・・・・・貴女は、私を・・・このような私を良しとなさってくださるのか。破滅と、破綻と、醜悪に満ちたこの私を罰することなく。本性がそれであると認めながらも・・・貴女は赦しを私に与えようと言うのか・・・」
──はい。他ならぬ貴方の総てに礼賛を。悩みを懐き、苦しみを懐き、それでもけして逃げることをしなかった、誇り高く気高い貴方に・・・心からの礼讚と敬愛を
「・・・・・・・・・──」
──だからこそ、もう良いのです。貴方を、貴方自身が受け入れてあげてください。迷いと葛藤を、ワタシ達が持っていきます。悪を美しいとし、破滅と嘆きを良しとするその在り方を、どうか・・・恐れないで
「──この身を苛む破綻、この身が積み重ねた信仰。それらを共に懐き、迷いと煩悶に決着と区切りをつけ生きよ。そう、仰有られるのですね」
──はい。それがきっと、貴方が貴方らしく生きられる答えです。ワタシは・・・そう信じています
「・・・──この胸を、爽やかな風が吹き抜けていくようだ。己の悪性、破綻、破滅の感情。そんな獣性を、まさか良しとされ、肯定され、そうせよと告げられる日が来ようとは」
──この世界に無意味なもの、無価値なものはありません。総ての在り方、総ての生には確かな意味と価値があり、一つ一つの生命が、かけがえのない世界を織り上げ未来を作る。貴方も、そんな一人なのです。──自分の総てを受け入れ、先に進むこと。それが、きっと貴方の大切な生き方の指針にして第一歩なのだと。ワタシは信じています
「・・・」
──父と、御父さんと話をしてみてください。貴方の悩み、貴方の思い。それら総てを他ならぬ肉親へ伝えてみてください。決定的な関係の変化が訪れようとも、貴方の想いと願いを受け止められる方である筈だと、ワタシは思います
「・・・懺悔、告解。紛れもなく父に行うべき事柄だ。・・・私はこの齢に至るまで、何れ程の親孝行を父にしてやれただろうか・・・」
──まだ遅くはありません。新たな生、新たな自分を知ってもらうべきです。恐れず、対話し、理解し合う。それは人間が持ち得る最高の美徳なのですから
「──外道であろうと、悪人であろうと・・・胸に愛を懐き、そして幸福を望み生きることが出来る。其を知らしめ、示すことこそが。私に与えられた信仰の道なのか。そう、告げられたのか・・・」
──迷いなく、憂いなく。自らを受け入れ、心から余裕と悟りを懐き貴方に生きてもらいたい。ワタシは、そう貴方に伝えたかったのです。
『信仰心を失わぬ事だ。外道と非道の境を分かつ術、努損なうなよ』
「──福音とはこの様なものか。救済とはこの様なものか。・・・この身、確かに究めるべき道と標をいただいた」
『フッ、問題は消え去ったか。ならばこれを食らうがいい。他者の破滅を願い、信仰にて味を増す貴様のための食料よ。日々の主食にするのだな──』
──貴方の魂が、二度と迷いに囚われる事のないよう、心から祈らせていただきます。──どうかその生が、彩りに満ち溢れておりますように──
「・・・純粋なる祈り、人生の答え。この齢にして、聖母と主がごとき声音を耳にしようとはな・・・父よ。心より感謝を。貴方から受け取った信仰は確かに、この外道の身を救ってくださいました。・・・む?」
『麻婆』
「・・・これは・・・」
『貴様がこれに信仰を込め美味とし振る舞えば振る舞うほど、他者は苦悶にのたうち回る。信仰と苦悶の両立。貴様に応える唯一無二の料理であろう?』
「・・・!」
──大切な人に振る舞ってあげてください。想いを込めて、作ってみてください。他者への想い、自らの愉悦。その総てを懸けて。きっと、答えが在る筈です
「・・・更に具体的に導いてくださるのか・・・良かろう、我が信仰に懸けて、この麻婆を極め──」
そう信じた言峰は、一口聖女麻婆を口に運び・・・
「──────」
数時間ほど、気を失ったのであった──
ヴィマーナ
「ふははははははは!!本性を暴きエアの言葉にて自らの納得する答えを自ら掴ませる!ゴージャス飴と鞭救済は完璧よな!」
──良かった。自分なりの答え。悪辣と悪徳を愛する者も、正しき信仰と愛を懐ける。──彼なりの答えを見つけられて、良かった・・・
「これで下らぬ煩悶に嘆くこともなく、他者に美味なる麻婆を振る舞いニヤニヤする店主神父となるだろうよ。ふはは、愉快な顛末ではないか!聖女の麻婆も使い途よな!」
──聖女が悩める神父を導いたのですね!良かった・・・!
(振る舞われる相手はご愁傷さまだけどね!)
「さて、次は如何なる救済をくれてやるか・・・心が踊るではないかエアよ!さぁ、我等に停滞はない、思うままに悲劇を蹂躙するぞ!」
──はいっ!!
どのキャラのイラストを見たい?
-
コンラ
-
桃太郎(髀)
-
温羅(異聞帯)
-
坂上田村麻呂
-
オーディン
-
アマノザコ
-
ビリィ・ヘリント
-
ルゥ・アンセス
-
アイリーン・アドラー
-
崇徳上皇(和御魂)
-
平将門公
-
シモ・ヘイヘ
-
ロジェロ
-
パパポポ
-
リリス(汎人類史)