人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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「面接に来ました、浅上藤乃です。なんでも曲げられます。凶れ、と書きます」

「ほう、なんでも・・・と来たか。それは大言壮語ではなく真の言葉だな?」

「はい。橋とか物凄く曲げられます。ぐにゃぐにゃです」

「──ほう。例えば、サーヴァントの全力の激突に耐えうる橋であろうともか?」

「ぐりゅっといけます」

「採用だな」

「ありがとうございます。頑張りますね」

「制服か私服かは好きにせよ。我は委細は問わぬ。陳列接待その他諸々、こなしてみせろよ」

「はい。あ、それと・・・」

「ん・・・?」

「・・・ジョギングやランニングをしてきていいですか?」

「好きにするがいい」

廊下


「しかし、訳のわからないマンションではあったけど、これはちょっと異常だぞ。この寒気、この息苦しさ。本当に怨霊スポットじゃないか。おまけに近隣住民は皆死体。ばか騒ぎも際限無い。海の渦巻きだ。悪くないもの悪いもの、無理矢理集めて肥大化して深くなってく。・・・さっさと処理しないと本当にまずいな」

【本当はこんなに巻き込んでなかった、ってこと?】

「どっちかって言うと、封じ込めてたかな・・・!」

「いやぁお二方強い強い!群がるゾンビや死霊がゴミのよう!リッカさん、そちら生身の人間ですよネェ?何故そんなサーチ&デストロイがお得意なので?」

【朝毎日山盛りのコーンフレーク食べてれば皆これくらいなれるなれる!】

「ヒューッ!たっくましーぃ!そしてミス両儀?私あなた様のソレ、気になりますよぅ?」

「なんだよ、手短に話せ」

「直死の魔眼でしたっけ?対象物の強度に関係なくズンバラリンしていますけどぉ。生命活動そのものを絶つ。即死とは言うものの、脳死とも心停止とも違う何か。それは分かります。あ、ゾンビを切り裂くお手々は止めずにお願いいたします!」

「お前も少しは働け!」

「イヒッ、でもそれって生きていてのものですよね?既に死んでいる──命のないゾンビの皆さんまでザクザク斬り殺しているのは何故なのです?というかですねぇ!死人を殺すとか文章的におかしいですよねぇ!」

【あ、それは確かに気になる!教えて式!】

「ん・・・そうだな・・・人間には同じように見えるだけで、生命活動の停止と死は別のモノだ。怨霊であれ死人であれ、怨念であれ。活動しているものならそれは生きたものだ。生きているならどんなものでも死は訪れる。忘却、崩壊、鎮魂・・・なんであれな。オレの眼は、そういうのをいっしょくたに見てるんだよ」

【へぇ・・・ラスト!!】


「それはまぁ──随分と生き辛い方なのですねぇ!ミス両儀は!」

「別に。悪魔にならなきゃ活きていけないお前に、龍になるしかなかったリッカにくらべたらマシなもんだろ」

「──ほ、それはそれは」

『ストップだリッカ君!前、廊下の行き止まりに注目してくれ!誰かいる!』

【──!】

【・・・】

【・・・あの子・・・?】

『ぽあっとしてはダメよ、リッカ!間違いない・・・サーヴァントだわ!』

【あ、うん!──解った!】






【104号室】

「やぁ、こんばんはメフィストフェレス。そちらは新しい入居者かい?」

 

混沌と汚泥に満ち充ちた塔。そのマンションの一階、廊下の行き止まり。その突き当たりにて一行に声をかけるモノがある。それはブロンドの髪に、眼鏡をかけ上着を羽織る柔和な雰囲気の青年。──リッカは知っている。その見た目、その声音、その物腰に覚えがある。彼は、ロンドンにて廻り合い、共に戦い、そして別れたきりの・・・

 

「ジキル、さん・・・だよね?」

 

「おや、僕を知っているのかな?歓迎するよ、見覚えのある君。ご察しの通り、僕は四号室のジキル。この廊下の管理人でもある。君達はまだここに来たばかりで変質していないね?なら上の階はまだ早いよ。しばらく一階でゆっくりしているといい。なに、ちょっと寒いけどすぐ慣れるさ。それとも僕の部屋で休んでいくかい?今、ちょっと散らかっているけどね」

 

柔和な、優しげな声音で案内と導きを申し出るジキル。本来ならば、正しい友好ならば其処は警戒を解き、笑いあい、仲間ができたと喜ぶべきな場面ではあるのだが・・・

 

【笑顔を浮かべるときはまず目をにっこりさせるのが鉄則ですよ、【ジキル】さん】

 

リッカは即座に見抜く。ありとあらゆる笑顔を見てきたリッカには、浮かべる笑顔、物腰の真偽。秘めた真意がどの様なものかなど少し見ればたちどころに看破し理解できる。それに──

 

「シャツが血塗れのまま歓迎は無いよな、・・・ったく・・・はぁ・・・最悪だ・・・」

 

式も同じく指摘する。開かれた前の服装、その下腹部のシャツが血染めとなっている。・・・なにかを、殺めたかのように。その姿を見て、あからさまに落胆を示し肩を落とす式。そして、メフィストフェレスもまた、真顔になり口をとがらせながらもその言動を糾弾する

 

「えー、メッフィーイヤですー。散らかっている部屋とかオコトワですー。汚部屋!いけませんアレはいけませんよぉ!」

 

(私の部屋は汚れる余地なんて無いから大丈夫大丈夫・・・じゃんぬや母上にきつーく言われてるし・・・)

 

「私、人のフェチズム暴くのは大好きですけど見せつけられるのは興醒めなのでーす。なのでリッカさん、ジキル氏の誘いは断りなさいな。大体なんです?サーヴァントの風上にもおけない。散らかっているとわかっていながら放置とは!片付けなさい!」

 

悪魔が説教してる・・・と割と失礼な事を考えるリッカに構わず、メフィストフェレスは捲し立てる。目の前にいる人間が行っている違和感、その些細な違い。『微妙な嗜好の違い』を、たちどころに暴き立てる

 

「それともアレですかな?几帳面だったジキル氏はお眠りでぇ、アナタ片付けられない人だとかぁ?」

 

「え──まいったな。うん、実はそうなんだ。整理整頓は苦手だし、なにより、ほら──」

 

照れくさそうに頭をかき、頬をかき、悪戯っぽい微笑みを浮かべながら

 

「すぐ真っ赤に汚れるからさぁ!!いちいち片付けとかしてられませんよねぇ!?」

 

ナイフを振りかざしリッカの首もとに飛び掛かる、狂乱の青年。──ジキルの伝説にははずせない存在がもうひとつある。完全なる善を求め、悪心を切り離さんと自らが産み出した【悪】なる人格の表層顕在化。──ジキルの鏡合わせの悪心・・・

 

「──」

 

【ハイド】の本性を現した青年の荒々しき襲撃、向けられたナイフの刃を同じくナイフの腹で受け止めリッカ暗殺を阻む。舌打ちするハイドに構わず、猛然と式はハイドに斬りかかりナイフを閃かせる。奇襲から斬撃戦へ、会話から戦闘へ。廊下の端で、鈍い金属音が閃光を輝かせる

 

「ノリがいいじゃねぇか!でも今のオレ完っぺきな奇襲でしたよねぇ!なに防いでくれてんだっつーの!!」

 

ナイフを蹴り飛ばし殴りかかるハイド。仏頂面でそれを捌きわめきたてる狂乱の貴公子を、無言で捌いていく式。壁を走りながらナイフをぶつけ合い、柱を切り裂きながら飛び掛かり、背中越しにナイフを受けとめつばぜり合い

 

「さてはアレだ、オレ様ちゃんと同じだろご同輩!まともなフリしてぇ、首を斬りたくて斬りたくてたまらない殺人鬼って訳だ!!」

 

頭蓋骨を砕かんと、式を叩き伏せ拳を振りかぶる。即座に加勢しようと駆けるリッカ、笑いながら見守るメフィストフェレス。──が、その拳が式の頭を砕くことはなく、逆に──

 

「・・・ちぇ、なんだよそれ、失望したよ。カルデアにいないからもしかしたらって、本当・・・待望の出逢いだったのに」

 

猛然と反撃に転ずる式。防戦で消極的なナイフ捌きから一転、猛然にして怒濤の攻勢にてハイドを圧倒する。その荒々しさは凄まじく、壁や柱を無闇矢鱈に切り刻み痕を刻み、そしてマンションの闇を、そのイライラを叩き付けるように引き裂き、捩じ伏せ、瞳を虹色に煌めかせ首や心臓を徹底的に狙う彼女は、まるで望みのスターに出逢えずむくれる子供のようだ。式の変貌ぶりに困惑するモニター二人組。リッカとメフィストフェレスは、ただ見つめている

 

「せっかくの有給に出動して、恨み辛みがすごいことになってるマンション周りに来て。そんな俺が期待してるものがあったとするなら、それは『本物』に会えるかもって予感があったからだ」

 

「っ、コイツッ、何言ってやがる・・・!」

 

そのナイフ捌きは圧倒的だった。触れた側から、触れた先から有象無象有形無形分け隔てなく、豆腐のようなあっけなさで寸断、両断されていく。徐々に押されていくハイド。苦し紛れの拳も蹴りもかわされ、逆に蹴り飛ばされる憂き目に逢う

 

「ねぇ、さっきの優男に戻ってよ先輩。さっきの方が強いだろうし好みだから」

 

「ガッ、ぐ──・・・オレよりあのボンクラの方がなんだって・・・?わかってんのか、オレの本性こっちよ?ナイフ遊びが得意なのはオレの方ですがぁっ!?」

 

「──はぁ。もういい。説明してやれハサミ男。お前なら解るだろ」

 

「あぁ──?」

 

「はいはい!僭越ながら私が!分かります、分かりますともお嬢さん!ハイド氏、彼女はそう言っているのです。切り札はすぐに出さない、底を見せたらはいそれまでよ、と!」

 

けらけらと笑いながら、メフィストフェレスは隣で腕を組むリッカを見詰めながら哄笑とともに悪魔の持論を捲し立てていく

 

「善良な人間が己が獣性を抑えながら戦う方が『まだ何が起こるか』わからなくて面白い!崩壊のカタルシス?と申しますか?始めから凶暴な生き物と遊びたかったらサバンナへ行けばよろしい!このお嬢さんが見たいのはアレですよ!殺人鬼のハイド氏が行う殺人ではなく、『善良なジキル博士が涙ながらに行う不道徳』にこそ!この上無い絶頂を──」

 

「全然違う。代弁させる相手を間違えた。引っ込んでろ」

 

「メッフィー、ショーック!!」

 

「テンメ、しゃべくりながら遊ぶとか舐めてんのか──グッ!?」

 

瞬間、式の激昂と落胆を乗せたナイフが静かに飛び掛かるハイドの胸を刺し貫く。狂乱に襲い掛かったハイドの軌道と体裁きを完全に見抜き、カウンター紛いに放った攻撃だった。だが──それで勝負は幕を閉じる

 

「じゃあ・・・リッカ。お前なら多分解るだろ。オレの気持ち」

 

【んー、何となく。つまり、こういうことでしょ?】

 

ポン、と手を叩き、我が意を得たりと指を立て、その式の心持ちを言葉にする。それは、心構えと魂の違い。似て非なる、確かな在り方──

 

【『どうせ戦うなら、ナイフのチャンバラより命を取るかとられるかの戦いの方がいい』。死にもの狂いの方が胸にグッとくる!・・・みたいな】

 

「正解。──ま、要するにお前じゃ萎えるってことだ」

 

ズボリ、とナイフを引き抜き、指でさらりと血糊を拭き取り背を向けリッカにバトンタッチを行い、最後の別れを告げ勝負の決着を示す

 

「逢魔が刻に出直してこい。次は殺人鬼のお遊びじゃなくて、優男の必死になった姿を見せてもらいたいもんだ」

 

「へ・・・そうかい、真剣じゃねぇと・・・燃えないって訳かい・・・」

 

崩れ落ちるハイド。その身体はエーテルが崩壊し、消失退去が始まっている。消えるのは時間の問題だろう。そんな彼を、リッカは優しく助け起こす

 

「う、く・・・あぁ、また、ハイドが出たんだね・・・ごめん、僕もハイドも、アイツに操られて・・・」

 

【うん、分かってる。大丈夫だよ、喋らなくて】

 

優しく、看取るように言葉を交わす。その姿はハイドではなく、善なるジキル。リッカの腕の中で、静かに言葉を紡ぐ

 

「あぁ・・・僕も終わりか。なら、リッカ君。手を出して──最期に、渡さなきゃいけないものが・・・」

 

弱々しく伸ばされた手に握られている、小さな鍵。通路に、上の階層に行くための鍵。それをリッカに、希望と共に──

 

「さあ、この鍵を──これで上の階に──」

 

【分かってる】

 

「行く前に死ねぇえぇっ──ガッ──!!!?」

 

襲い来た【ハイド】の飛び掛かりを零距離で無力化し、すかさず胴体の心臓、肋骨部分にパイルバンカー『モーセ』をリッカは叩き込む。鍵は受け取り、霊核に必殺の打撃を打ち込まれ──

 

「ごくろうさん。鍵は有り難く使わせてもらうぜ、先輩」

 

式にリッカが鍵を投げ渡す。渾身の二度の襲撃を無為にされたハイドが、抗議めいた絶叫を上げる。完璧に騙した筈だった、と

 

「瀕死の美少年の頼みも聞かねぇとか悪逆非道かよてめぇら!?」

 

「お前は其処にいる女を舐めすぎだ。そこのリッカはな、コミュニケーションを武器に世界を救った人間潤滑油だぞ」

 

【その人が本当に助けを求めてるか、その人が心に何を思ってるか。それくらい、こんなに近くにいたら解るよ。だって、あなた『ハイド』しかいないじゃん】

 

「──げ」

 

図星を突かれ──硬直するジキル。いや『ハイド』。モロバレでした?と式に視線を送り、肩を竦める式。それが総てを物語る。お前は、最初から一人だったのだと

 

「有名なジキル博士に会いたかったのに、はじめからいないんだもんな。二重人格じゃなくて、一人が二重人格の演技してるだけ。ファンとして俺が失望するのも無理からぬ事だろう?」

 

最初から見抜かれていた。自慰のような一人芝居が、拙い演技がモロバレしていた。ナイフ捌きで負けたことより、そちらが何倍も恥ずかしい。ハイドは顔を覆い、リッカの腕の中で散っていく

 

「穴があったら入りたいぜ、ちくしょう。──ま、その必要は無さそうですけど。物騒な殺人鬼にバケモンみてーな鎧女。せいぜい此処のオモチャにならないよう気を張りやがれ」

 

それだけを告げ、完全に消失するハイド。無言で立ち上がる二人にモニター組がついていけていないとばかりにポカンとしているので、メフィストフェレスが場を繋ぐ

 

「あのジキル博士はこのマンションに来てすっかり変質、心身ともに腐れ落ち、御臨終なされていたのです!」

 

『・・・ジキル博士は二重人格のサーヴァント。善が変質してしまうと言う自己矛盾が髄著に現れ、真っ先に消えてしまったのね』

 

『そして、残ったハイド氏だけがジキル博士のフリをしていた訳か・・・物語通りの結末とは悲しいな・・・』

 

そのしんみりとした雰囲気の中、鍵を振り回す式が歩き出す

 

「さ、いよいよ本番だぜリッカ。上に行けば行くほど空気が淀むのは御約束だ。気張って行けよ。憑り殺されないようにな」

 

【うん、分かってるよ。全員、こんな場所から叩き出してあげなきゃ!】

 

立ち上がる二人の女性、起き上がるメフィストフェレス。三人は改めて、上層へと向かう。その先にある、異変の根源を目指して

 

──怪異と深淵のマンション攻略は、まだ始まったばかり。よりおぞましく、深淵へ、虚ろなる縁へと、登りながら堕ちていく──

 




ギルガメッストア

リッカ「そういえばメッフィー、変質ってなに?」

「あぁそれはですねぇ。言い忘れてましたがこのマンションの特色でして。ある特徴、経歴・・・前科?んー、まぁその辺りはアバウトに?とにかく此処にいると特定のサーヴァントは属性が変化し、恨みがましくなるのでぇす!かくいう私も!脛に傷を受けてしまいまして!」

ギルガメッシュ「英雄の末路は大抵が非業か悲嘆に充ちているものよ。怨嗟と憎悪を抱いて果てた輩など掃いて捨てる程であろう。聖杯はそやつらを招いたのであろうな」

「そのとーり!人を恨むあまり悪霊になる英霊とかなかなかアイロニーに満ちた顛末ですしぃ?悪い私が使った聖杯もその手のサーヴァントは方たちを召喚していたわけで、はい。皆様ドロッて凶暴化してましたハイ」

「うむ、会心にして悪辣な敏腕ぶりよな道化。捻りをやろう。マスター、何か言ってやれ」

【状況をめんどくさくしたな!法廷で会おう!】

「なんとぉ!?ホムンクルス陪審員を要求しマッス!!人間よりの裁判はずるいでーす!」


藤乃「まがっしゃいませー」

式「・・・何してるんだお前」

「日給10000円のコンビニアルバイトです。ストロベリーですね、曲げますか?」

「曲げるな」

「凶ますか?」

「曲げるな!」

「残念・・・ではどうぞ。お気をつけて~」

「・・・・・・まさか、楽園に来るんじゃないだろうな・・・」

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