リッカ「そうなの?ゾンビの皆さんが元気に徘徊するだけのマンションだったとか?そもそも、何ここ?」
式「マンションさ。堂々と、公に建設されたものさ。市にちゃんと届け出出して、真っ当な建築会社が働いて、普通に住人を募集して・・・こんな住人以外はよりつかない厄マンションになったわけさ」
オルガマリー『忌避本能、というやつね。魔術工房を隠すのは近代では常識。人よけの建築方法・・・というヤツかしら』
『よっぽど用心深いやつなんだね、そいつ。大儀式クラスの建物を造りながら魔術には頼らない。こつこつと一人で瓦礫を積み上げて塔を作ったようなものだ。ほら、賽の河原だよ。骨折り損のくたびれ儲けとか』
「・・・アイツらしいな。でもここはそんないいもんじゃない。此処は死を集めたものだ。寿命、病死、事故死暴力死。そういった死に方を集めて飾った展覧会。廊下に徘徊しているゾンビは以前からここの住人だ。一日生きて、一日で死ぬ。『もう何年も前に死んでるのにな』」
「・・・」
「当たり前の話だけど、人には持って生まれた運命がある。それに逆らって生きても・・・『死因』だけは変わらない。事故死の運命を持ってるやつは、どんなハッピーエンドを迎えようと、バッドエンドを迎えようと、最後は必ず事故死という結末で終わるんだとさ。・・・ここはそれの証明、『死因』の展覧会だ。夜が終われば死んで、朝に生き返る。ループならぬリトライだ。俺達が来る前から、ここの連中は死に続けてるんだよ」
「・・・あんまりいいものじゃないね」
「あぁ、全くだ。おまけに飛びっきりの悪いものがへばりついてる。辺りどころか日本を軽く飲み込むくらいのヤバいやつがな。・・・サーヴァントの仕業ならまだ気が楽なんだが・・・」
「?」
「・・・どうもキナ臭い。お前、誰かの恨みとか買ったか?」
「え?んー。中学校のほぼ全員から貰ってたから直ぐにはピンと来ないなぁ」
「・・・聞いた俺が悪かったよ。そら、行くぞ。長い廊下だ、飯はキチンと食っていけよな」
「はーい」
「・・・全く。呪怨や呪詛なんて背負うには早すぎる。誰だか知らないが、さっさと閻魔様に押し付けなきゃな・・・」
ストロベリーアイス、そして金箔味のカロリーメイトを口にしながら漆のごときマンション通路を歩く二人。遠いのか、近いのかすら曖昧な・・・血染めの灯りを頼りに二人は直歩き、その部屋の前に辿り着く。部屋間の距離すら曖昧で、案内通りに進めど進めど遠く離れていくような錯覚すら覚えながらも、その部屋の反応を確かめ、そして──サーヴァント反応を感知する
『間違いないわ、二人とも。其処にいる──部屋に囚われたサーヴァントよ』
「あぁ、見ろよリッカ。表札に名前が無い。ビンゴだぜ、ここ。犯人だったら楽でいいんだけどな?」
「うぅん、そんなにすんなりいったら逆に怖いような・・・」
一階に元凶が潜むなど奇をてらいすぎてどうにもしっくりくる結末とは言い難い。それに、今自分が感じているこの重圧や、辺りから漂ってくる障気、息苦しさ・・・それが部屋にいるサーヴァントから発せられているとはどうも考えづらい。何となくだが・・・これはサーヴァントや、死霊ではない何者か。根本的な所がもっともっと深く、それこそ落ちてしまいそうな奈落のごとき深淵にある気がするのだ。そう感じるのは、自分だけなのだろうか?身体中を射竦めるような悪寒と、言い様のない不快感を抑え、リッカは扉に手をかける
「そうだな、どっちにしろ入ってみれば分かることだ。此処にいる時点でろくでもない事になってるのは分かりきってる。そこんとこはシンプルでいい。──さぁ行こうぜ。鍵はこれだ」
式の変わらぬ言動、怖じ気つかぬ平然さに助けられながら、寂しげなデザインの一枚扉を押し開ける。式、そしてリッカが侵入せしその部屋に、待ち受けていたのは──
おもくるし いきぐるしかな けものかな
「ようこそッ!いらっしゃいっ!ましたァア!ようこそ最悪のマスター!そして危うきナイフの御嬢さん!怨念渦巻く怨嗟の地獄、転居したるはもちろんワタクシ!悪魔・メフィストフェレスでございますとも!!」
その閑散とした風景に似合わぬ底抜けな明るき声、静色の風景に浮き上がった目に毒とすら言える紫と水色の道化衣装。底抜けに明るく笑い、しかして心に不安と苛立ちを招き寄せる仕草を執り行い二人を出迎えるは・・・
『ロンドンで出逢ったキャスター、メフィストフェレス・・・!確かに、此処にいるサーヴァントとしては違和感は無いけれど・・・』
「はいはいははいその通り!ワタクシ此処のヘイトジェラシー溜まりに貯まった混沌のマンションにて住み着くいたいけなサーヴァントにてございマス!いやですねワタクシ以前は頑固でしみったれた老人の介護などもしていたこともありましたし?大変大変美味しい朝食をご用意する自信はありますが、残念この口を閉じることだけは難しい!口がなければ腹式発声でバッドニュースを語りましょう!」
捲し立てるメフィストフェレス。その不穏さと陽気が不気味に調和し空恐ろしく白々しげな印象を二人に与え、言い様のない不快感を与えてくる。葬式の場で腹の底から笑うような、戦場でショーをしているような強烈な違和感に、リッカは薄気味悪さを感じられずにはいられなかった。そして告げる。猟奇にて語られし、おぞましきマンションの様相、住人の委細をこの道化は口にする
「例えばお隣の三号室、渡邉さんでしたっけ?思わず首を絞めてしまった恋人の影に悩まされ、神経衰弱栄養失調視野狭窄哀しきかなシャレコウベ!凶行成した想い出の、深夜2時はさぁタイヘン!薬物首吊り手首出血ガス中毒。夢心地からの逃避行!その都度繰り返される弁明のなんと見苦しいことかぐわしいこと!いやぁ──朝から流れる他人の不幸ほど食事を美味しくするソースはありませんねぇ!」
その物言いは『正常』なものだった。全く変質の素養が見られず、流暢に陽気に、この空間の異常を捲し立てる。そして──
『リッカ君。あのサーヴァントは恐らく重要参考人だ。少なくとも・・・此処に迷い込んだわけでも被害者でもない。確実に、自分の意思にて動いている!何かを知っている筈だ!』
ロマンの声音に、高らかな哄笑で肯定を示すメフィストフェレス。その言葉と態度は全身全霊で楽しんでいる。その態度と振るまいが、狂気のマンションをおぞましく彩っている
「ウフフフその通り!今回の事件は私が犯人なのです!このアパルトメントに死霊を招いたのも!この混沌の坩堝に変容させたのも!全ては私の仕事にございます!ヤッフー!うまくいったぁー!!」
【・・・・・・──】
「んー、でも此処からは悲しいお話を。私はあなたというマスターをバラバラにしなくてはなりません。メッフィー、辛いです。この部屋の前住人は猟奇的な趣味のお方でして。毎夜、愛するものの四肢を切断するのがルールでした。あ、死体を隠すためなんですけどね?でもこれが傑作、風呂場の作業中にスッ転んで自分も事故死!プヒッ、あまりにも面白いのでその役目を変わって上げたのが、私にございます」
【前の住人は?】
「それはまぁ、はい。邪魔ですから?というか事故死しなかったあのお方は、退屈の極みですから面白おかしく演出させていただいてシステムから抜け出し死霊の仲間入りかと?」
その言葉を、今までの言動を聞き及び理解する。彼は間違いなく何かを知っている。何か・・・この致命的に狂い果てた空間のなんたるかを知っているのだ。ならば──
「では始めましょう始めましょう!説明とか面倒なので始めましょう!私は悪魔の爆弾魔メフィストフェレス!退屈な微睡みを吹き飛ばす悪魔の爆弾使い!ワォ悪魔の被ってますねぇ!ですが大事な事なのでぇ、マスター様にも覚えていって──ほしぃのでぇすウヒヒヒヒヒヒヒィ!!!」
話していた次の瞬間。かの悪魔を名乗りしサーヴァントは行動に映っていた。ハサミをリッカに投げつけ、手ぶらとなった両手から、おぞましく蠢く虫のような爆弾──宝具を、辺り一帯にばら蒔き投げる
「『
【!!】
リッカの反応は僅かに遅れた。投げつけられたハサミを咄嗟にキャッチしたため、対応の一手が割かれてしまったのだ。邪龍の鎧の強度は折り紙つきだが、サーヴァントの宝具の爆破直撃を受けて無傷でいられるは未知数である。──不味い、傷を負う。そう考え、両腕をクロスさせ爆風から身を護る構えをとる。堪えられるかは五分、次の瞬間に爆発する──!
「それでは皆さんご一緒にィ!!さぁん、にぃい、イチィ!?」
スイッチを押す。部屋の丸々一つを吹き飛ばさんとする自滅覚悟の大爆発。その振る舞いと行いに、度肝を抜かれる一同。道化の目論み通り、全てを爆風が巻き込み──
「──いや、悪いな。爆弾魔の扱いには慣れてるんだ。三文芝居の出し物は受け付けてないんだよ」
流れるような演目拒否の言葉を告げ、走り出すは着物の麗人、式。その軽やかな跳躍を行った瞬間──全ては、定まるべき箇所へと定まった。
爆弾の投げ込まれた数、軌道、無差別なパターン。そして──爆破の要となる信管を『線』として見抜き、その右手のナイフを、一筆書のように滑らかに振るい抜く。それは一枚の絵巻に筆を走らせるように、恙無く振るわれる舞のように。流麗かつ鮮やかに、部屋を彩る。そして──
「!?」
メフィストフェレスも驚愕を現す。式は迷いなく『全ての爆弾を無力化する軌道』を見抜き、『全ての爆弾の信管』を起こす前に爆弾を『
「フ、ヒッ──」
胸の中心を貫き、横一文字に振り抜く。爆発することなく落ちる無数の爆弾、血を払うように軽く一振られる業物。リッカのハサミが消滅を始める。霊核を切り裂かれ、退去が始まるメフィストフェレス。爆弾の処理、サーヴァントの撃退。同時にやってのけ、軽く息をつく式。だが──
「おぉ、なんという・・・人の話を聞かないとはまさに悪手、敗着駄目の極み・・・!真相を知る唯一の犯人を殺してしまうとは!これで事件は迷宮入り、死人に口なし後の祭り!」
メフィストフェレスを消滅させる。それはつまり、鍵を握る人物の排除。このマンションの真相の霧散、確かにそれは彼の言う通り悪手だったのやも知れない。だが──
「リッカ、言ってやれよ。いつもみたいな歌舞伎の見栄をさ」
【ん】
軽く頷き、メフィストフェレスに相対したリッカははっきりと告げる。──命を差し出してまで、教えて貰いたいことは無いのだと
【自分達の力で真相にはたどり着くよ。だから、心配しないで。私達、不可能を可能にするのは大得意だから】
「・・・左様、左様でございますか・・・イヒヒッ・・・」
【じゃあね。私達は先に進むよ、メフィストフェレス。また会ったら今度は私がぶん殴るからね】
それだけを告げ、きっぱりと誘惑と不安に別れを告げる。その宣誓を受け、心から、心から楽しそうに・・・
「それはさぞや・・・憎たらしくありましょうなぁ・・・!イヒヒッ、イヒヒヒヒィ・・・!!」
意味の通らぬ不可解な言葉を呟きながら、完膚無きまでに霧散するメフィストフェレス。道化の哄笑は失せ、耳が痛くなるような静寂と閑散が再び戻る
【さ、次に行こう式。捜査は足から。解らないことは歩いて突き止めようよ!】
「──ん。割と勢いで正直やっちゃったと思ったが、お前が単純で助かった」
【え!?割と考えなしだったの!?リッカポイント案件!?】
「しょ、しょうがないだろ!爆弾とアイツを纏めてなんてやり方に手加減なんか挟めるか!俺なりに気を遣ったんだ、流せ!ほら、行くぞほら!」
【わ、ちょっ、待って押さないで──ん?】
ふと、リッカが部屋に置いてある、箱らしきものを拾い上げる。煤汚れたそれを払い、手に取ったものをみると──
【・・・・・・!】
それは──臍の緒だった。母子を繋いでいた証。その養われた証。それが、誰のものなのかは分からない、だが──
『どうしたのリッカ?部屋には何もないでしょう?何かあるの?』
【えっ?あ、いや。何でもないよ、何でも・・・】
それを手放してはならないような気がして。・・・自分が、持っていなければならないような気がして。でも、相談するにはあまりにも生々しいもので。だからこそ──
【・・・誰のなんだろう】
リッカはそれを──疑問とともにそっと仕舞い込むのだった──
ギルガメッストア
「浮かぬ顔だな。重要参考人をうっかり斬り殺したようなばつの悪さに満ちている。貴様がいながら不手際とは敵が余程上手かったか、或いは事を上手く運びすぎたか?」
式「くっ、嫌味だな・・・そうだよ、ナイフが滑ったんだよ。リッカの手前カッコつけてたけど内心頭かかえてたよ・・・!」
リッカ「クール系ポンコツ女子とか何それ大好物!ね、マリー!」
オルガマリー『どういう意味よ、それ』
「ふむ、GM頭を抱えるというヤツか。ままならぬものだ。筋書き通りに行かぬと言うものは中々に波乱よな?其処の、何か話すがよい」
メフィストフェレス「いえ全くぅ!私も皆さんのお力になりたくてハサミをシャキシャキさせていたのですがまさに、空振りに終わった模様!!」
リッカ「スタイリッシュのへいが、い!?」
式「な!ハサミ男!?」
「案ずるな者共。こやつはギルガメッストアのアルバイト、メフィストフェレスの善の側面、貴様らが倒したのはメフィストフェレスの悪の側面よ」
ロマン『君ホント何やってるんだい!?』
「説明を果たせ。その為に貴様を拾い上げたのだ」
「かしこまりィ!!実はこの状況を嘆く私楽しむ私がおりまして!でも良心の呵責とか無駄なので!えいやと悪心善心綺麗に分けたらこのように!んん、アンビリーバ」
【せいっ!!】
「ボォ!?」
【約束は果たした・・・縁は結ばれた。たぶん】
「てwwきwびwwしwwいwわかりました!私これからはリッカさんの忠実、けひ(笑)忠実とか!」
【知ってること、二行以内】
「私、聖杯の導きでこの深淵の塔に召喚されました。何処かの誰かが渡した聖杯に喚ばれ、『集めろ』と呼ばれたので、はぁ、と。サーヴァントを召喚して死霊を騒がせこうしてこのように」
『聖杯だって!?こんな場所に、一体誰が・・・!?』
「さて、何処の酔狂者が怨嗟の淵にある者を焚き付けたのだろうよ。まこと難儀なものよな。丸々一帯を地獄へと変えてしまうとはな。うむ、本当に誰の仕業なのやら」
メフィストフェレス「ククッ、クヒヒヒッwともあれ私は信じてアルバイトしてました!必ずや、悪のわた、私を諌めてくださ、フヒヒッww」
【笑いすぎじゃないかなメッフィー】
「笑いましたともぉ!楽しいときには笑うのが人間ですからなぁ!フヒヒッw」
式「・・・ちっ。妹分二人旅の方が気楽でよかったけど背に腹は変えられないか。此処はもう、俺が知ってる場所とは変わりすぎてる」
【じゃいいや。よろしくねメッフィー。裏切ってもいいよ。二秒で鎮圧するから】
「おっそろしー!!いや、仲良くなさいましょう最悪なマスター!悪、ですから!!」
「フッ、アルバイト御苦労であった。──となると、補充人員が必要か・・・」
『履歴書 浅上藤乃』
「──・・・さて、面接を始めねばな」
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