人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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深夜三時

──すぅ・・・くぅ・・・

(むにゅむにゅ・・・やわらか・・・えびふさん・・・)

《フッ、心地好さげに眠りおって。──さて》

王は起き上がり、右手を鳴らしスキルを発動させとある場所へ飛ぶ。エアが持つ『単独顕現』。★ランクで共有する王に、この宇宙で赴けぬ場所は存在しない。

二人を起こさぬように瞑想し、気配遮断をEXにしながら。王は単身独りで向かう。エアの魂をカルデアに残す、ただの野暮用

──そこは、病院であった。何処か、上流家庭が受けられるような病院

「フッ、随分と徹底的にやったものよ。それはどちらにも言えることだがな。その身に刻まれた苦痛を呪詛の焔として吐き出す・・・まこと、らしい宝具よな」

感嘆を露に皮肉げに笑い、歩み寄る。其処にあるは、焼け爛れ人相すら解らぬ二人の人間。冷厳に、無感情に見下ろす。その顔に──いつもの愉快げな面影は微塵もない

「──エアに存分に引かれているようだな。酒の肴にはなるかと思ったが、むしろ損なう気概を味わうことになろうとはな」

言葉はそれのみ。財より治癒宝具を取り出し、とある部分だけを治癒し、切り取り、蔵へと納める

「貴様らの唯一つの功績のみは評価してやろう。汚泥から産み出されし龍、よくぞ世に産み落とした」

それは二人の『遺伝子情報』。男子からは『遺伝子』を司る器官、女性からは子を育み、育てる『胎盤』を、保存処理、保管処理を行いながら財へと納める

「我が望む財はそれのみよ。後の貴様らに残るは贖罪のみだが・・・──」

【・・・・・・】

・・・王を見つめる、小さな傷だらけの少女。黙して語らない。ただ、二人を護るように寄り添い、王を見つめている

「・・・獣の残滓か。侍るものをこやつらと定めたか。殊勝な事よ」

【・・・】

「案ずるな、手は下さぬ。下す価値も無い。至宝を汚物に近づける趣味も無い。思うままに朽ち果てよ、と言いたい所だが・・・」

そう言って、王は蔵より取り出す

「挽回の機会は等しく与えられるモノだ。復讐は終わったようだが、未だ溜飲が下されぬ者共がいるのでな。そやつらの願いを聞き届けるのも王の役目よ」

【・・・?】

「──最早指一つ動かすことは出来ずとも、呪詛を産み出す魂は持っていよう。──存分に、汲み取ってやろうではないか。怨嗟に憎悪は我が受け持とう。一念は鬼神に通ずと言うではないか。──断末魔にて、我を愉しませてみせろよ?」

その生きた屍に添えるは、黄金の杯──



みなぎる人徳、もて余すガッツ、滲み出る人柄

「まずはご挨拶を。あけましておめでとうございます。これより先の一年も、御互いよりよきお付き合いを切にお願い致します」

 

一年の年始。一通りの挨拶を終わらせたならもう外界には挨拶を贈る相手などいないだろうと考えていたカルデアス現所長、オルガマリー・アニムスフィア。一族相手にも例外無く自らのカルデアスへの認識魔術をかけているため、自らの身柄の安否を疑うものなどいない。アニムスフィア家の魔術の研鑽はカルデアスにて滞りなく行われているといった共通の認識が崩されることはない。カルデアスという単語、カルデアという組織の名を聞いた時点で、こちらに対する査問や介入が関わることは永遠にない。

 

・・・勿論、人格には手を加えてはいない。認識を調整するものであって人格を改竄するものではないからだ。だからこそ、話そうと思えば話せるし、会話にもなんの支障がない。・・・其処が自分の手緩い、甘い人間である所以だ。その気になれば時計塔を裏から操ることも決して不可能ではない。人道の一切を無視して時計塔の重鎮達を殺し、生きた屍にする事も。賜った魔術ならば充分に可能だというのに。そういった致命的な『線』は踏み越えられずにいる。・・・認識や精神に手を加えている以上、外道である謗りは免れないだろう。何を今更、と批判される事も承知している。・・・だが

 

『あなたはそれでいいのよ。モリアーティのような、テムズの底のような心になる必要はないのよ。正しい価値観、非道に走る心の引き金。その二つを意識した上で、自分が成し遂げたいと思う道を選びなさい』

 

アイリーンにはそう告げられる。悩むことこそが大事だと。考えることが出来ているなら大丈夫だと。その思い悩む人格こそが、貴女の美徳であると聡明な美女たる彼女はオルガマリーに告げた

 

「その通りだミス・オルガマリー。貴女の美徳は『善と悪を知り踏み切れる』事だと私は思う。上に立つものの非情さ、悪逆を行う決断。清濁を合わせ呑み──最後に善を選べる心を君は持っている。それは、私やモリアーティにはない素敵な輝きだよ」

 

安楽椅子に座り、所長室で寛ぎながら稀代の名探偵、シャーロック・ホームズは楽しげに椅子を揺らす。観察と評価。それをするに値すると彼女を認めるかのようにモリアーティとチェスを行っている。生徒を誉められて御満悦となっているモリアーティ。其処へ──

 

「チェック」

 

「あっ!?おのれ汚いぞホームズ!マイガールを褒めて有頂天になった隙を狙ったな!?無しだ無し!巻き戻してくれたまえ!今の無し!ノーカンだから!」

 

「ははは、寝言はキメてから言いたまえ。アイリーンとオルガマリー君のコンビは君より恐ろしいが、裏を返せば──今の君は割りと容易いと言うことだ」

 

「怒るべきか誇るべきか微妙な所を・・・!!フン!」

 

「おや、敗北を認めるのかな?」

 

「彼女らを引き合いに出され、難敵だと認めさせたならそれでいい、ということにしておこう!私はホームズに絶対に負けるが、アイリーンとオルガマリー君はお前に絶対に勝てるという方程式が出来ているならそれは回り回って私の勝ちということだからネ!」

 

その理屈になっているようないないような、勝利宣言なのか敗北宣言なのか解らない言葉にクスクスと笑いながら、アイリーンが珈琲のお代わりを二人に淹れる。優雅な所長室の一幕に──

 

『わはははは!全くだとも!良かった、やっと繋がった!割りと怖かったぞ、音信不通が長引くと捨てられたのかと不安で肉が喉を一枚しか通らなくなってしまうからな!』

 

響き渡る胴間声。その声の持ち主は、オルガマリー・アニムスフィアの展開しているモニターにででんと構え、愉快げに大声を上げながら笑っている。その珈琲の香りを肉汁で掻き消すような暑苦しさに、ホームズとアイリーンは顔を見合わせる

 

(誰だねあれは)

 

(ゴルドルフ・ムジーク・・・今年にこちらに来る補充要員・・・だったかしら?)

 

(相変わらず爽やかなピグレットめいた男だネー・・・え?二十後半か三十前半?マジで?)

 

ひそひそと会話を続ける稀代の物語の花形たち。静かにしていてくださいねと目線でサインを贈り、引き続き会話を続けていくオルガマリー。彼とは、果たすべき盟約があるのであるが故に、邪険にするわけにはいかないのだから

 

「カルデアス職員の家族の受け入れ、そして保護。誠にありがとうございました。こちらで身柄の確保は、恙無く」

 

『それは何よりだ。喧しい輩が一掃されて清々したと言うものだとも!・・・しかし、な。どいつもこいつも私に感謝のメッセージなど贈ってきおってからに・・・私は楽園に行くためにお前達の面倒を見ていただけだというのに、バカなやつらだ・・・まったく・・・』

 

その言葉、態度からは隠しきれぬ喜び・・・そして人柄の良さを感じさせる照れがひしひしと伝わってくる。見ると彼の書斎には大切に一纏めにされた文書の山が積まれており、その文書を受け取った際の反応を容易く想起させる判断材料となっているのだ。分かりやすい男だ、と言わんばかりの首を振るジェスチャーにてホームズは笑う。アイリーンも同じく、珈琲豆を補充している

 

「それでも、貴方が信頼に値する相手だという存在であることの証明になりましょう。組織間、そして個人との付き合いにて必要なものは信頼です。技術より、技能より。まず私は、それを重視します」

 

『・・・随分と妙な魔術師だな、フリージア。人道や信頼など真っ先に踏みにじるのが魔術師だろうに』

 

「どんな場所にも異端はいるものですよ。その点では、私は何よりも異端です。だからこそ──貴方を重視しているのですよ、ゴルドルフさん」

 

『む、むぅ・・・そ、それはいい、うれし・・・い、いや!社交辞令なんぞで私を釣れると思うか!交渉を緩めたりはせんぞ!私はそういうとこキチッとする!貴方は騙されやすいとメイドに徹底的に仕付けられているのだからな!』

 

(可愛くない?このおじさん?)

 

(少なくともモリアーティ、君よりは愛嬌に溢れているよ)

 

ぷんすこと怒るゴルドルフを、オルガマリーは微笑みながら見詰める。怒って、しっかりと意見を言える。それでいて自らをきちんと理解し、人道を忘れない。──かつての自分より何倍も親しみやすい。カルデアでも、彼は職員としてやっていけるだろう。では早速──

 

『ま、待て!そちらから要望や指令を告げるのは不公平だ、私もそちらの頼みを聞いてやったのだから、こちらの頼みも聞いてもらおう!』

 

カルデア行きの旅客機の手配を・・・そう告げようとしたオルガマリーをゴルドルフが遮る。・・・ある意味それは当然の申し出だ。こちらばかりが告げてばかりでは、それは確かに公平とは言えないだろう。ようやくまともな交渉らしくなってきた。オルガマリーは姿勢を正し、椅子に座り直す

 

「──要望を聞こうではありませんか、ゴルドルフ・ムジーク。貴方は、私達カルデアスに何を望むというのです?遠慮無く、仰有ってくださいな」

 

『う、ううっ・・・』

 

今までの穏和な声音から、冷厳にして淡々とした声音と変わるフリージアに、即座に顔を真っ青にするゴルドルフ。可憐に舞う蝶が、反転し猛禽類に変化したような感覚を味わい、身体すら震え出すその有り様であった。モリアーティが流石に見かね、二の句が告げられぬゴルドルフに助け船を出す

 

(オルガマリー君、それでは交渉が進まないヨ?小動物を怯えさせる事はない、じっくりと呑み込めばいいのサ。蛇のようにネ)

 

(あ、すみません・・・)

 

こほん、と咳払いを一つ行い、雰囲気を和らげ同じように告げる。すると深呼吸と屈伸を行っていたゴルドルフが調子を取り戻し、やかましく告げる。──自らの要望を

 

『よし、よく聞け!私の要望は──』

 

(((・・・・・・)))

 

私を所長に据えろ、などと言ったらライヘンバッハるとばかりに隣に棺桶を召喚するモリアーティ。どのような材料を提示するか興味深く見守るホームズ。ラテアートで遊ぶアイリーン。固唾を飲んで見守る中、ゴルドルフの出した条件とは・・・

 

『こちらが抱える使用人、ホムンクルス達もそちらで預かってもらう事だ!私だけではない、彼ら彼女らも残らず、楽園に迎えてもらう!無茶な要望ではあるが拒否は許さん!当然の権利として受け入れて貰おうではないか!これだけは絶対に譲らんぞ!』

 

ずっこけた拍子に頭を机に打ち付け悶絶するオルガマリー。思わず吹き出すホームズ、爆笑するモリアーティ、ラテアートが出来たことによりご満悦で写真を取るアイリーン。それぞれの反応を引き出した愉快なゴルドルフだけがキョトンとしている。慌てて取り繕い、オルガマリーが問い直す

 

「あの・・・真意を訪ねても?」

 

『え、だって楽園なのだろう?自分に尽くしたもの達も招いて慰安させてやるのは当然ではないのかね?え、何かおかしいこと言ってる?私・・・』

 

その真意を聞き、余りにも真っ直ぐな理念にもう一度笑ってしまう。なるほど、それは確かにそうだ。理にかなっている。拒否する理由、反論、異議を申し立てる理由は何処にも無い。それは──王の理念の一つを、的確に撃ち抜いたものでもあるからだ。異論など、あろうはずもない。何より──

 

『な、何を笑っている!叶えぬのか、叶えるのかどっちなんだ!言っておくが、受理しなければ私は行かんぞ!絶対に行かん!こればかりはけして譲らん、絶対に首を縦に振れ!いいな!』

 

──誰かの為に立ち向かうこと。それは紛れもなく・・・善き心に他ならない。ならば、この楽園に招く事に・・・何の憂いもありはしないのだから

 

「──合格です。必ずや貴方の要望、通しましょう。皆様の分の歓待を、慎んでお受けしますわ」

 

『ほ、本当か!よ、良かった!い、いや当然だ!早く返事を寄越さんか!心臓が縮み上がったわ!いいな、全員だぞ、全員!誰一人あぶれさせるな!出来るだろう、アニムスフィアが抱えた天文台なのだから!』

 

「勿論。彼に不可能は無いのですから」

 

『・・・彼?』

 

「ふふっ、出逢ってからのお楽しみです。──それでは、そちらが抱えている方々の名簿のリスト、要望、部屋のリクエスト、調度品、趣味嗜好・・・教えていただけますか?」

 

『えっ、そんなに厚遇してくれるの?無茶ぶりだと思ったのに・・・?い、いや!待っていろ、纏めてやる!気が変わったとか絶対にいうなよ、絶対だぞ!』

 

バタバタと走り去っていき、モニターの向こうから全員を呼び掛け招集する声が聞こえる。──一旦、音量を下げ・・・

 

「──可愛くないですか、あの人」

 

其処にいる方々に感想を訊ねる。帰ってきた反応は肩を竦めるジェスチャー、腹を抱えて笑い、ラテアートをどや顔でみせつけるといったもの。皆、気持ちは同じようだ

 

正直、カルデアの家族を回収したあとはマークしていなかった彼だが・・・ムニエル辺りといいコンビになりそうな予感がしている。本当に、なんとなくだが。メイド達が歓声を上げていることからも彼は慕われているようだ。・・・ますますひょっとして、自分は魔術師において大当たりを引いたのではないだろうか?

 

「・・・アドバイザー、レーサー、ムードメーカー・・・何よ・・・結構有能じゃない・・・」

 

『待て待て、一人ずつだ!一人ずつ言わんか!何!?豪邸が欲しい!?来客なのだ自重せんか!え、夏休みと冬休みが欲しい!?』

 

「彼は物言い、言動で損をするタイプだろう。根は、極めて君達一般的な人道に近い。教育の賜物かな?」

 

「うんうん。小心者で善良な人間は付き合い甲斐があるよネ。凄く、ネ」

 

『あら、ホームズ。モリアーティの頬に虫が』

 

「バリツ!!」

 

「アウチッ!!?」

 

『あら、ごめんなさい。こわぁい蜘蛛がいたようだけど気のせいだったみたいね。ふふっ』

 

「・・・アイリーン」

 

『?なぁに?』

 

「今年も、どうやら退屈とは無縁なようです。──楽園に、新たな仲間が増えるのも確定したようですし」

 

『──ふふっ、そうね。その通りね。仲良くできたらいいわね?』

 

「大丈夫です、きっと・・・彼なら、ね」

 

『解った!並ぼう、一列にならぼう!私一人しかいないから!あ、通信は切るなよ!許さんぞ!あと良かったらリスト書き起こしてくれない!?』

 

「はいはい。ふふっ」

 

そんな新たな出逢いを感じながら、カルデアの頭脳たちは正午を穏やかに、平穏に過ごす。

 

──その楽園に来る、未来の同僚の歓待を祝して。騒がしいモニターの向こうの喧騒を聞きながら四人はラテアート、チェスに励むのでしたとさ──




アンリマユ【やっべー・・・マジやっべー・・・この櫛からバリバリ力がみなぎってきますわ・・・マジパネェっすわ・・・】

手紙は焼いて取り込み、櫛にて髪をとかす。それ自体が発する怨念が、憎悪が、怨嗟がアンリマユに流れ込み、身体中の紋様が明るい蒼に輝き出す

【きたぁ!!キタキタキタきましたぁ!私、超パワーアップ!めっちゃ来ましたー!!】

漆黒の呪いから、蒼と黒に輝く呪いと願いへ。どうであれ親と繋がったことにより・・・アンリマユは更に強化される事となる。そしてそれは、リッカにも──

【待っててくださいよ、リッカぁ!更に更にパワーアップした私達の力・・・】

さんぞー「ぎゃてぇ!?妙な凄い邪気がすると思ったら!何よこれ!?」

【!?】

「すっごい邪気・・・!酷いわ・・・!浄めなくちゃ!!みんなー!しゅうごーっ!!」

【や、ちょっと待っててください!仕様、仕様ですから!!待って!聖人の皆様!待っ──】

・・・そうして殺到した聖人たちの、全身全霊にて行われた部屋ごと浄化する儀式は半日に及ぶ大規模によって、アンリマユの所持していた手紙と櫛は浄められ・・・

【・・・皆様ありがとうございました・・・本当に余計なお世話です・・・はい・・・】

恨みと憎しみを力とする筈が、祝福と願いをたっぷりと詰められ──リッカの泥の鎧に、敢えなく白い紋様が刻まれることとなり

溜めに溜めた怨念を漂白されたアンリマユは、涙とちょっぴりの喜びで枕を濡らしたのであった──

・・・そして・・・

『近隣住民苦情届』

式「・・・んん?」

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