人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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何処かの病院


チューブをくまなく繋がれ、甲斐ない治療を受けただ生かされている二人の人間

身体は凄まじいまでの火傷を負い、火傷を負う前の見た目は、判別が難しいほどに損傷している

最早一人では何もできず、ただ生かされているのみの存在と成り果てた者達

死ぬことも出来ず、苦痛と激痛を刻まれながら、生き続ける事しか出来ぬ者達

・・・何もかもを喪い、ただ、応報のみが残された者達

二人がこれから先、何も成すことはない。彼等の物語が紡がれることは、もう無い

それらは、因果応報。意識も定かでない状態で、ただ生き続ける

【・・・・・・・・・】

「「──・・・!!」」

・・・かつて己が玩んだ存在。その姿を幻視しながら。生命が尽き果てるその日まで

彼等は、報いを受け続けるのだ。復讐者の、当事者の呪詛返しの下に

──因果応報、人を呪わば穴二つ・・・何者も、報復より逃れることは叶わないのだから


何かの間違い

【愛しの愛しのじゃんぬちゃん!私の帰省兼社会見学に付き合うつもりはな~い?絶対後悔しかさせねぇよ~?】

 

 

カルデア、深夜の三時。スイーツの仕込みを行い、一息ついて眠りにつこうとあくびを噛み殺していたじゃんぬに軽快かつ聞き慣れた声で話し掛けてきたのは、自らの半身とすら言えるマスターと全く同じ顔と姿を取っている【何者】か。褐色の肌に全身にびっしりとおぞましい漆黒の紋様を刻まれ、紅い布で最低限の場所を隠すのみの異様な風体。気楽な様子で他者を喰らうような立ち振舞いを見せる【悪魔】の名を冠するサーヴァントにして藤丸龍華の力の中核・・・

 

「・・・とりあえずその姿を取るのを止めなさい。引き裂いて燃やすわよ」

 

アンリマユ。この世総ての悪。アヴェンジャーにしてリッカのアルターエゴとも言える存在。彼女の中に潜む力が、殻を得て大手を振って歩いているような必要悪。総ての生け贄。快活とはかけ離れた嘲笑と道化のような物言いをリッカの姿で執り行う様に、誰よりも彼女を見ているじゃんぬは言い様のない不快感を覚え剣を抜き放たんとするが、それをアンリマユはオーバーリアクションにて静止する。まぁ話だけでも聞いてくれ、と。口先三寸の詐欺師のように

 

【こいつは力を使うリッカの料金みたいなもんだ。殻がなくちゃまともに話もできないんでね。それが可愛い女の子なら役得で離したくはないもんさ。トラセクは男の夢だろ?】

 

「燃やされたいの?リッカで遊ぶなってんのよ」

 

【うへぇ怖い怖い。じゃあちっと真面目な話だ。──これから行く場所は、【私】が始まった場所だぜ】

 

「・・・!」

 

彼女が始まった場所。彼女が彼女になった場所。それは、つまり・・・

 

【この姿じゃねぇと逆に無礼かなってわけ。大層気にかけていらっしゃっているようなので元気な姿を見せ付けてやろうかと思いまして?ほら、私って大人気だったし?そんな扱いにしてくれた場所に行くならスーツは着ていくのが礼儀だと思わねぇ?】

 

「──リッカの家、ってこと?」

 

【正解。あそこにあるもんで、私みたいなクソザコ英霊でも強くなれる素敵なパワーアイテムがあるので取りに行こうかと?思いまして?でも一人で行くの寂しいじゃん?だから後輩に声かけて回ってるわけ。犬にはめっちゃ噛まれましたがね。後輩の一人は確保したぜ、後はアンタだ。どうする?来る?】

 

じゃんぬの思案はリッカの生活、その始まりへと飛躍する。高校生以前の彼女。正真正銘の地獄にいた直中、そしてその土台を作り上げた場所。其処は、総ての悪を容認した場所

 

そこに彼女は行くという。正月の帰省と嘯いてはいるけれど。それはきっと新年を過ごすのに必要なものなのだろう。リッカがいつか経験しなければいけないことなのだろう。・・・それを、彼女の中で受け止め育てられてきた【彼女】がしたいというならば、それはきっと──

 

「・・・解ったわ。私も行きます。きっとろくでもなくて、それでいて必ずリッカが体験しなくてはならないことなのでしょう?なら・・・私が拒む理由はないわ」

 

【忠犬大変結構。明るい私はかけがえのないサーヴァントがいるようで何よりだ】

 

本心か、虚為か。舌なめずりをしながら獰猛に笑うアヴェンジャー。・・・顔付きも顔立ちも一緒なのに、リッカとは笑顔の印象がまるで違う。薄暗い部屋に浮かび上がる金色の瞳に獣印の瞳孔。蠱惑的であり堂々とした振る舞いは・・・超然とした生物を想像せずにはいられない。引き抜かれ自律するリッカの力の核。その意味を痛感しながら、歩き出すアンリマユの後ろに追従し歩き出すじゃんぬ。深夜も深夜。首切りバニー・アサシンの他に出歩くものは一人もいない

 

【んじゃあ、行きますか。ったくちょっと見ない間にアヴェンジャーも様変わりしちゃってまぁ。常にマッパな先輩に申し訳無いとか思わねぇ?まぁこのカラダ、健康的とかスポーティーやフレッシュさで右に出るものないエロさしてますけど?でも露出してもエロく見られないのが難点なんだよなぁ・・・】

 

「八つ裂きにされたくないならリッカの声と姿で囀ずるのを止めなさい。今もアンタを殺したくなるのを抑えるので大変なんだから」

 

【おぉ怖い怖い。私は殺さないでほしいねぇ。しょうがないでしょ獣の人格は殺されたんだから。私が代弁してやるしかねぇって話なんですよー。大体これくらい役得がないと人生やってられないんですよ~】

 

そんな軽口で導かれたのは管制室。其処にはやはり先客が待っていた。濃緑のマントと帽子を纏う、憤怒と復讐を体現する人類史最高の復讐者──巌窟王。二人の姿を認め、コンソールを叩き、レイシフト機能を起動させる

 

「ちょ、いきなり!?」

 

「レイシフト機能も進化している。自らが赴きたい座標に、現代のワープシステムとして使用することも可能だ。だからこそ、これよりの出張を可能とする」

 

打ち込まれるのは現代の座標、導きだされるは日本の一区画。詳しき場所を打ち込み、颯爽とコフィンに入るアヴェンジャー二人。その手際の良さに圧倒されながら、説明不足に困惑しながらも慌ててじゃんぬも後に続く事となる

 

【ありがとうございます復讐者の皆さま方。旅は道連れ世は情け容赦無し。胸糞悪い帰省凱旋にパワーアップイベント、無事にこなしに参りましょうか!】

 

「アンタ、なんで・・・」

 

「見届けるに俺が最適だからだ。いや、お前も来るとは予想外であったが。・・・お前は見るだろう。かのマスターを規格外足らしめている、その源泉を」

 

その目と、不気味に静まり返った声音を以て、じゃんぬはそれ以上言葉を紡ぐことは出来なかった。──現代の移動機と化したレイシフトが、三人の身柄を始まりの地へと誘う

 

──かつて。あらゆる悪意が産み出された源泉。一人の少女が逃れられなかった地獄の跡地にして成の果てへと・・・──三人の理不尽の弾劾者を見初める・・・

 

ひとはよく なにかをまちがう けものかな

 

 

【おー懐かしき我が家、この世の地獄!つうか私の地獄!帰ってきたぜ、吠え面かけよぉご両親!ヒャハハハハハ!】

 

1月4日、南極との時差は三時間。午前0時の日本の某所にて、褐色のリッカの移し身が楽しげに声を上げる空は月の光が全く射さぬ曇天、漆黒の夜闇。家が立ち並ぶ住宅街である筈なのだが・・・人の気配が全くない。どの家からも、営みの気配が何一つせず、時間を差し引いても物音一つせず不気味な・・・異界のような禍々しき静寂に包まれている

 

「この場に人は存在しない。此処は実験跡地だ。人類悪を産み出さんとし廃棄された場所・・・真っ当な人間が半日といられる場所ではない」

 

その一帯は最早誰も近寄らぬ忌まわしき地となっている事を、巌窟王は静かに説明する。立派な一軒家が立ち並ぶというのに、それらはまるで廃墟や墓標のようだ。余程恐ろしい目に遭い、逃げ出したかったのだろうか。新居状態な家が、打ち捨てられがらんどうの箱と成り果てている。──そんな中、自分達の目の前にある家屋の異常さに、じゃんぬは静かに息を飲む

 

その屋敷は漆黒であった。火焔と業火で焼かれたような一方的な焼却。燃え落ちて、外装がどのようなものかまるで把握できないほどの凄惨な有り様。──その中で最も異質なものは『くまなく焼かれていながら、家屋そのものはしっかりと建っている』事である。焼け落ちず、内部と外装だけを焼き払ったかのような特異な跡。それは──人為的なものであるのだろうか。アンリマユは歓喜とも郷愁とも付かぬ泣き笑いのような顔で、その家屋を見つめ・・・やがて、懐から鍵を取り出す

 

【さて、久々の帰宅だ。迎えてくれる方はいないが上がっていきなよ。漏れ無く怨嗟に慟哭、逆恨みが待ってるぜ?ウェルカム現代の拝火教の聖地!san値を決めるサイコロは持ったかな?】

 

その軽口に応えるように・・・何処からか現れたカラスが無数に屋根に止まり此方を見つめている。黒き猫が走り抜け、息苦しくなるような呪詛の気配が復讐者たちを包む。歓待か、拒絶か。その言葉に頷き、二人はアンリマユに続く

 

【はいよ、じゃあいらっしゃい!私の故郷、もう【二人しか】残っちゃいない我が家へ!なんも出せねぇけどな!】

 

鍵を捻り、燃え落ちた漆黒の家に足を踏み入れた三人を迎えたのは──どろりとした澱み。底無し沼に脚を取られたような、深淵より覗き込まれたような悪寒、戦慄と息苦しさが精神に直接訴えかけてくる

 

「・・・ここが、リッカの育った場所・・・」

 

じゃんぬは呻くように洩らす。家屋や生活の後は外観とは比べ物にならないほどに徹底的に焼け落ちていて、其処に何があり、何処に何があったのかすらも解らないほどに漆黒の煤と惨劇の跡が垣間見える。──大火事クラスの大火災を経たと容易に予測できるその有り様に、少なからずの衝撃を受けるじゃんぬ

 

「!」

 

誰かが見ているような視線を感じる。ベランダから無数のカラスが見つめている。ずるり、と何かが引きずられるような音がする。誰もいない筈の部屋の向こうから、何かを踏み締めているような音がする。何処から入ってきたのか、黒い猫が三人をじっとみながら歩んでいる。何かがずっと、へばりついているような重圧を感じる

 

「何よ・・・ここ・・・」

 

【あー。夏の特番とかであるだろ。呪われた家。そんなんだと思いなさんな。ただし──ガチもガチ、一度足踏み入れたら消息不明で仲間入り待った無しだろうがね】

 

ヒヒヒ、と呑気に笑いながら、煤まみれのソファにねっころがり深呼吸を行うアンリマユ。こんなものは、ただのおまけだというように

 

【幽霊亡霊なんて可愛いもんだ。なぁ、なんで最近、夏の特番で心霊番組が少なくなったと思う?】

 

「・・・怖いからでしょ」

 

【気づいたのさ。【一番怖いのは生きた人間】だってな。──お、エドさんは気付いたようですねぇ、察しがいいこって】

 

巌窟王はそのような有象無象を気にも留めず、床の煤を払い、其処に隠されていたものを発見する。重々しく在りながら、鍵の一つもつけられていない扉。それはさながら、見つけてもらうのが目的が如くに

 

「行くぞ」

 

素早く開き、巌窟王はその中へと飛び込む。──その開かれた扉からは、辺りの不気味さなどを総て塗り潰すようなおぞましい障気が解き放たれる。家が、空間が軋むような感覚さえ覚える程だ。同時に、復讐者としての霊基に、比類なき力がみなぎっていくのが実感できる

 

【そうそう、じゃあ行くとしますか。待ってるんだ、リクエストにはお応えしなくちゃな】

 

ソファから飛び降り、即座に床の隠し穴へと飛び込むアンリマユ。じゃんぬは最早続くより道はない。より障気が濃い、地獄の底のような場所だとしても。ここまで来たなら、引き返す訳にはいかない

 

「・・・リッカの家に、どんな化け物がいるって言うのよ・・・」

 

吐き気を堪えながらも、其処にじゃんぬもまた飛び込み──其処で、目の当たりにすることとなる

 

「・・・!」

 

あまりにも異質にして異常、王が愉しみ、ゲーティアが狂い、姫に叩き付けられたもの。あまりにもおぞましき・・・人の業の一端、リッカの力の源泉を・・・

 

 

その部屋は刑務所の取調室のような間取りで、けして広くはなく、質素な椅子に机、筆記用具。そして鍵の入っていない金庫が置かれているだけの簡素な部屋であった。──部屋を充たし尽くす、純化し顕在し、全く翳る事無く在る狂気を除いては

 

「な、によ・・・これ──」

 

じゃんぬは絶句する。そのあまりにも偏執的なおぞましさ。ただ一心に・・・呪詛と怨嗟を募らせた心の顕現せし部屋の有り様に

 

壁に、床に。ありとあらゆる場所に少女の写真や肖像画が貼られ尽くされている。部屋の装飾すら分からぬほどに、壁と床の境が分からぬほどに。──そしてその少女の全身が、余すことなくズタズタに引き裂かれている。入念に、ひたすら入念に。狂気を以て行われているのだ。それは中学二年から卒業までの、笑顔の写真ばかり。高校一年生、生活の登校風景など・・・彼女が彼女である写真ばかりが、残忍に引き裂かれている

 

大切に手入れをされていたであろう、少女にそっくりな人形。それを巌窟王が無言で拾い上げると・・・人形の首が落ちる。その中に詰められていたのは・・・髪の毛と、血がこびりついた生爪であった。みっちりと詰め込まれ、その込められた想いを如実にただ表している

 

【おぉ~。よっぽど自分等の手から離れたのが許せないと見えるねぇ。最後の最後まで改心の余地なしとは畏れ入った。はてさて、ゲーの字のせいなのか、元々素質と素養があったのかは分からないがね】

 

ズタズタにされ、最早役目を成さない『紙幣』が金庫より落ちてくる。切り刻まれた封筒には『育ててもらったお金』と書かれているのが読み取れる。そしてアンリマユが手を伸ばし手に取るもの。それは白き手紙と、真っ黒に血の斑点が染み付いている『櫛』であった。その徹底ぶりに苦笑するアンリマユ。じゃんぬは最早理解不能、そして本能的な嫌悪感を隠そうともしない。巌窟王がアンリマユから櫛を受け取り、呟く

 

「娘への贈り物にしては、悪意に満ち充ちているな」

 

【そりゃあそうだろ。それはそういうもんだ。はじめから手を離れた私に送るもんなんてそれしかないだろ】

 

「な、何よ。どういうことよ・・・!」

 

「日本の贈り物に、『櫛』は忌み嫌われている。【苦】と【死】が入っている故、縁起があまりにも悪いと言う理由でな。・・・この住人が送りつける理由など一つしかあるまい」

 

それを用意した意味。それを遺した意味。戦慄するじゃんぬに、アンリマユが突如笑い出す。心から愉快であるかのように。楽しんでいるかのように

 

【ははっ!愛されて嬉しいねぇ!よっぽど未練たらたらだったと見た!ヒャハハハハハ!!娘冥利に尽きるぜぇ、ご両親方ぁ!】

 

「何よ、これ以上何があるって言うのよ!」

 

【読んでみ?あぁ、リッカが強いのはこれなんだってのがよぉく解るぜ?】

 

差し出された手紙を見て、まず込み上げるのは吐き気だった。その字は、おぞましいほどに几帳面で、同時に殴り付けるような情念に満ち溢れていたからだ。そして、その文字を認識した途端、猛烈な頭痛と目眩に襲われる事となる

 

其処に描かれていたのは・・・無念と慟哭、そして──有らん限りの絶望と呪詛を含めた、おぞましき情念の塊であったのだから

 

──何故、このような事になってしまったのでしょう。もっと上手くやれた筈でした。もっともっと私の人生は輝いている筈でした。私はもっと価値のある人間でした。何故、このようなつまらない男(女)と、このようなつまらない人生を慰め合わなくてはならないのでしょうか。呪います。恨みます。憎みます。呪います、恨みます。憎みます。呪います、恨みます、憎みます

 

私達より幸せな者達を呪います。私達より人生を謳歌している者達を憎みます。私達より上に在る者を憎みます。どうか、苦しんでください。私達より苦しんでください。辛い目にあってください、苦痛を感じながら、生命を終えてください。私達は、私達以外の総ての生を呪います。どうかこの世界が、無念と苦痛の最中で生き絶える事を願っています。それだけが、私達の最期の願いです。私達の生命を贄にしても構わないので、誰でもいいから願いを叶えてください

 

「・・・・・・何よ、これ・・・・・・」

 

【もう一枚あるぜ?個人的にこれが一番アンリマユポイント高いわー。ケッサクですわぁ。小説家やポエマーじゃ大成したんじゃねぇのかね?】

 

それを渡されたじゃんぬの血の気が、一瞬で引ききる。巌窟王が静かに、黒炎を燃やし──

 

恥知らずにして恩知らず 藤丸⬛⬛へ。貴女の不幸を願います

 

「・・・!」

 

貴女の挫折を祝います。貴女の絶望を願います。貴女の失敗を祈ります。ありとあらゆる苦痛が、貴女に降りかかる事を心から願っています

 

「何よ、何よこれ──なんなのよ・・・」

 

貴女の人生のすべてが、艱難辛苦に彩られることを願います。貴女の試みる総ての事が失敗し、貴女が孤独に生命を終えることを心から祈っています。それが、産んであげた私達を裏切った貴女への報いです

 

「何よ、なんだっていうのよ・・・!」

 

これを目にした人へ。──どうか、私達に告げてください。私達は間違っていなかったと。私達は素晴らしく、価値のある人間であったと告げてください。総ての過ちと失敗は、私達の代わりにならなかったあの子に在ると言ってください

 

それ以上の言葉は、紡ぐことは叶わなかった。巌窟王が黒炎を燃えたぎらせ、その呪詛と怨嗟の密室を、正当なる憤怒と復讐にて焼き尽くし──

 

藤丸立香に出会っていてください。立香は無様に滅びるのだと私達に教えてください。私達の手を離れたあの恩知らずは、産まれてきてはならない失敗作だったのです。

 

粉々に砕き尽くす。その馬鹿げた呪詛の温床を。もう二度とだれも、此処に来ることがないように。二度と、おぞましき呪詛が紡がれることがないように

 

「──なんだっていうのよ!!こんなのは──!!」

 

その言葉と・・・地下室が粉砕され尽くし、引きずられるように、瓦解し崩落する家屋から、三人が脱出するのは全く同時であった──

 

 

 

「げえっ・・・!うぇっ・・・!!げほっ、げほっ・・・!」

 

【そんなにキツかったぁ?まぁそりゃそうか。まだ新米だもんなぁ。ほれほれ、ゲロインとか止めろよ~】

 

近場の公園で三人は集まり、一息休息をいれている。巌窟王はベンチで目頭を抑え座り、じゃんぬは水道でえずき、アンリマユはけろりと見つめている

 

【なー?えげつないだろー?親が子に呪いかけるとかどんだけだよなー。怖いわ~。現代社会怖いわ~。まぁこんだけエグく呪ってくれたからリッカも私も人類悪になったわけですがねー】

 

「・・・こいつら・・・」

 

【あん?】

 

「こいつら──何処にいるのよ・・・!!殺す、殺してやる・・・!!よくも、よくもリッカに・・・こんな!こんな・・・!!」

 

こんなおぞましいものを背負わせた、親のような何者かに報いを受けさせてやると炎を燃やす。総てを焼き尽くさんとばかりに猛るじゃんぬを見つめながら、冷ややかに応える

 

【止めときなよ。殺す必要もない】

 

「は・・・!?」

 

【全身火傷に末端壊死、四肢や皮膚が残らず焼けただれて一生ベッドで激痛と流動食だ。今じゃ何処に搬送されたのやら。少なくとも、死んだ方がマシになっちまうから殺さない方がいいんじゃねぇの?つうかあの火事、私の宝具だしな。報いは受けてるんだよ】

 

もう、報いは受けさせた。二重処罰は復讐者ではなくなる。これ以上は、当人の問題だとアンリマユは告げる。櫛と手紙を持ち、笑顔で告げる

 

【この呪いが成就しないで返されたのは、私らがよぉく分かってるんじゃねぇの?】

 

「・・・・・・それ・・・どうするのよ・・・」

 

【?勿論後生大事に私が抱えますとも。一応こんなんでも親子の絆の品なんでね。無関心から憎悪に変わった。親元を離れてようやくこちらを意識してもらえたわけですし?泥と宝具強化に使わせていただきます。まぁリッカにはちぃと刺激が強いからいいませんけど?】

 

じゃんぬはそれ以上、言葉にする気にはなれなかった。顔を両手で覆い、ベンチにて息を吐く

 

「・・・こんなの、あんまりじゃない・・・こんなのって・・・」

 

【ん、まぁ・・・世界を救うくらいの力に匹敵する代償としては相応しいんじゃないですかね。神様からすげぇ力で無双とかなら、私達も楽だったのですが】

 

「・・・」

 

【だがまぁ、悲観しなさんな。【こういうこともある】ってだけだ。世界にはこんなもん、ありふれてるぜぇ?慣れときなよ。辛いぞ~?】

 

「・・・あんたは」

 

【?】

 

「あんたは嫌だとか思わなかったの・・・こんなの、こんな酷すぎる事を背負わされて!」

 

【?ん~・・・まぁ、『それだけじゃなかったしな』】

 

じゃんぬは顔をあげる。恨みや絶望で、自分達は終わらなかったと

 

【世界救ったし、仲間も家族も出来てる。それは生まれたから出来たことで、人生を否定するってことはそういうのも否定するって事だ。そいつは、違うだろ。普通に生まれるのを望むのも解るし、やり直したいと聞くのも解る。だが、私達は何度でもノーって答えるぜ。あいつも私もな】

 

「・・・あんた・・・」

 

【『悪いことの数だけ、良いことがあった』。こんな親から生まれた子供が、真っ直ぐ育った。こんな汚い部分を見ても、この世の総てを尊いと言う誰かが現れた。──生まれを否定して、そんな『何かの間違い』で生まれた奇跡を無かった事にするのは、違うだろ】

 

それが結論。もう、普通に用はないと。アンリマユは・・・半生を共にした彼女と同じ答えを示す

 

【基本人間は汚なくて醜い。今回もそうで、世界にはそんな人間が溢れてる。でもな、そんな人間が、ときたますげぇ良いことをして、奇跡みたいな輝く宝を産み出す。そんな間違いを、私は笑わない】

 

「・・・」

 

【こんな親二人から生まれたアイツが、世界を救った奇跡を踏みにじってでも。お前は、アイツが普通に生きていくべきだったと怒るのかい?後輩】

 

「・・・・・・言わないわよ。言えるわけないじゃない」

 

【それが正解だ。もう、アイツはアイツで立派に生きてるんだよ?だから──支えてやりなよ。アイツを心配するなら、アイツがアイツでいられるように、な】

 

その言葉に、じゃんぬはうつむき・・・そして即座に顔を上げる

 

「──言われなくても、そのつもりよ。私の総てを懸けて・・・リッカを幸せにしてみせるわ!!絶対にね!!」

 

【ん、頼むわ~。呪いに負けないように、な】

 

「わかってるわよ!もう、絶対!毎日幸せにしてやるんだから!!」

 

興奮し、腕を振り回しながら暴れるじゃんぬを、巌窟王とアンリマユは様々な想いで見守る

 

「我等は怒り、お前は笑う、か。・・・それを教えるために、我等を呼んだのか?」

 

【言ったろ、帰省だって。何となくですよー。ったく、容赦なくブッ壊してくれちまいやがって。あそこが私のスイートルームだったんですがねー】

 

「その二つ、力とするのか」

 

【ん、まぁね。リッカの泥の精度が上がるし、念を辿れば居場所もわかりますし?良いことづくめですよ】

 

「フン・・・罷り間違っても晒すなよ」

 

【晒しませんよ~。こんな面白いポエム誰が晒しますか。さて、帰りますか!パワーアップ、これにて完了ってね!】

 

「・・・・・・」

 

そして、復讐者三人は地獄から楽園へと帰参する

 

・・・過去の呪詛を抱き、未来へと進む力とし、如何なる障害をもはね除けるため

 

──呪詛返しに、人を呪わば穴二つ。リッカを呪うその怨念はこの世総ての悪に取り込まれ・・・届くことはけしてない・・・ 

 

 




カルデア SweetSじゃんぬ

じゃんぬ「・・・・・・」

リッカ「浮かない顔じゃーん。どったの?」

「!リッカ・・・」

「店長のスマイルはプライスレスじゃなきゃ客足が遠退いちゃうよ~?」

「・・・そう、ですね・・・」



【だが、それだけじゃなかったしな】



「・・・リッカ」

「?」

「今は・・・楽しいですか?毎日が、楽しいですか?」

「ん、そりゃあ勿論!毎日薔薇色ゴージャス色だよ!やりたいことができるって、良いよね!」

「・・・良かった。良かった・・・」

「?なんか怖いのでも見た?」

「・・・いえ。何でもないの。何でも・・・」

「ほんとぉ?もしかして新メニューに難航してたりぃ?」

「本当よ、本当に・・・」

その時、リッカの端末が鳴り響く。その音に驚きながらリッカが応対すると・・・

「はい、リッカだけど!」

クラスメイト『おー!繋がった繋がった!おいおいリッカ、たまには連絡寄越せよな~!』

じゃんぬ「!」

先輩『元気でやってる~?こっちはなんか去年半年の記憶がなくてさー?時差ボケとか笑えないよねーっていうか?』

野球部部長『上手い空気吸ってるかぁマネージャー!』

ラグビー部部長『焼き肉食えてるか!上手いもん食ってっかぁ!?』

「皆・・・!あ、高校生の皆ね!」

「・・・連絡をしてくれたのね・・・」

それは、リッカの高校生の仲間達。リッカの生き方が掴んだ、大切な一般生活の友人達・・・

『あんたは成績トップだから要らない心配だろうけど、こっちは大学受験で毎日ピリピリしててさぁ、息が詰まるっての』

「先輩なら大丈夫大丈夫!」

『彼女ができねぇ!どうすりゃいいかなリッカ!!』

「私も彼氏いないから頑張れ!!」

『其処にいたら性別リッカって言っても怖くないな!ハハハハ!』

『鈍ってないよなマネージャー!』

「ほう、死にたいと見える・・・!」

担任『リッカ』

「あ、先生!」

『──うん。いい顔になった。立派な・・・一人前の顔だよ』

「──はい!!」

じゃんぬ「・・・それだけじゃない、か・・・」

『えぇ?リッカは確かに可愛いけど雰囲気は可愛くなってないっすよ先生!』

『そう?アイメイクとか化粧とかちゃんとやってるし。気付けないあんたが馬鹿なのよ』

『いよいよ性別が女になるのか!?』

『俺らも御祝いするぞ!!』

「跡継ぎが余程いらないと見える・・・!!まぁそれはともかく。帰ったら、またよろしくね!」

『帰ってきたら顔出せよな!』

『心配してないよ。あんたならどこでも上手くやるでしょ?』

『焼き肉食いにいこうな!』

『最新弁当に旨いの出たんだぞ!部でいこう!』

『・・・リッカ。そのまま、元気でね』

「うん!皆、ありがとう!」

じゃんぬ「・・・~」

・・・呪いなど、とっくに乗り越えてる。彼女は、もう大丈夫

少なくとも、今のリッカには・・・沢山の希望がある。それを理解したじゃんぬは、厨房へと歩み出す

「あ、じゃんぬ!どったの?」

「決まってるでしょう、リッカ」

其処にあるのは・・・

「新作スイーツ製作よ!」

いつもの、相棒の笑顔──

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