人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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英霊剣豪 七番勝負 御前試合

勝負 七番目

仕合舞台 

新皇座臨総鎮守 神田明神 


立会人

御尊神 平将門

藤丸龍華


セイバー 我流 佐々木小次郎

VS

宮本武蔵


最終仕合!いざ、いざ、いざ尋常に--!!


英霊剣豪七番勝負・御前試合--布都御魂--零・無限--

剣士が至る、極限の刻──

 

 

その生涯を、その研鑽を、その全霊を。それらのすべてを振るい、それら全ての技術を振るい、それら全ての力を振るい。それら全ての人生を束ね。運命にて出会いを宿命付けられたその二人の至高の一瞬。一合一合が極みの領域に至りしその境地。その一刀一刀が、相手の起源に届くか。その一刀一刀が、相手の魂に届くかを問われ続ける達人の、極みの、剣という太極に至りし領域に訪れし仕合にして究極。一刀一刀が戦いではなく人生の『位』を申し付け、叩き付ける戦い

 

「「────!!」」

 

二人はまるで番のように、陰陽のように、鏡写しのように。互いが導き出す最良の手を、最高の一手を繰り出し合う。手にした二刀、手にした一刀が、夢幻か無限か。覇道か顕現か。頼り無く、儚く、雄々しく、勇壮な調べを奏で上げ打ち込み合う

 

言葉など、この触れ合いの前には無用、読み合いなど、この立ち合いの前には無粋。互いを討ち果たすべきはどのような活動を行うべきか、互いを切り裂くべきかは身体が、剣が、『魂』が知っている

 

他者の動きなどを垣間見る必要は非ず。ただ、剣を振るう。ただ当然のようにかわされ、防がれ、返す刀が襲い来る。それもまた、歩くがごとく意識をせずともに当然のように打ち払う。目の前の相手がそれならば、こちらはそれ。自らがこれを選ぶならば、あちらはそのように。その、全く以て互角。実力が寸分の優劣なく並ぶがゆえのその境地。ただの一度も、互いに刃は届かず、百花繚乱、豪華絢爛にして質実剛健、武骨にして豪快な剣技をただ振るう

 

その歩法、その身体の起こりに雑念や煩悶が雑ざる余地は微塵もない。自らが透過し、透明化し、剣と共に合一し、世界そのものと一体化したような感覚を覚える。それは尋常ならざるその境地に至りし者のみが味わう、至高の心地か。永遠にして一瞬。永劫にして無繆がごとき果たし合い。その最中にて垣間見る光景とは、己一人の存在のみでは辿り着けない。垣間見ることはない遥かにして原初の真理

 

極みというものがあるとする。其処に、人生生涯を懸けて辿り着き、到達するものがあるとする。其処に至り、あらゆるものを為し遂げ、あらゆる事を想い、あらゆるすべてを捧げてたどり着いたものがあるとする

 

だが──その『極』に至りし者に、その『解』に至りし者に訪れるものが祝福と福音とは決して限らない。本来、その極みとは死の間際、人生における己のすべて。人生を生きた己の生そのものに与えられる解答。『己』の起源、根源に辿り着いた者のみに与えられる最後の答え。あらゆる煩悶を、悩みを、苦しみを得た末に至るもの。『駆け抜ける』性質でも有らぬ限りは、その答えを得た先にあるものは──孤高という名の君臨

 

自らのみが至る答、自らのみが至る解。自らのみが掴みとる・・・たった一つのもの。故にこそ。掴みとった・・・辿り着いた瞬間にその境地は、その答えは。会得せしものを導くのだ。──無繆の境地。己のみのただ一つの頂に。ならばその境地に至りし者に追従するものはおらず。その領域に並び立つものは生涯にて現れず。極みに至りし者──もはや『人』の領域に在るものでなくば。挑むものあれど、並ぶ者などいる筈も無しと。それらは当然の帰結。衆生が辿り着けぬ、衆生が見据えるものは遥か下。見えるのは無窮の空。輝き煌めく星の高き輝きのみ。その在り方こそが、その光こそが。英傑が紡ぎ上げてきた歴史の紋様。世界に召し上げられるべき、目映き輝きなるもの。それのみが──極みに至りし者に与えられし報酬であるのだ

 

だが──事は此処に例外を運ぶ。此処に現れし者、共に『空』。歴史の狭間のそのまた狭間にて。剣聖に至りし才能を全て剣を振るうことに特化させ、やがて空を飛ぶ燕を瞬きの内に、全く同時に切り裂く恐るべき魔剣を編み出せしもの。人の手には及びもつかぬ『魔剣』にて、その者のみの『秘剣』。人生の全てを、剣を握ることに費やした酔狂者にして究極の才覚が導き出した『亡霊』がごときもの。その剣に『空』を宿したもの。時代に伝わりし英傑の殻を被るに相応しき者

 

遥かな世界を、船の櫂が如くに流れ行くもの。新免無二斎が名乗りし『無二』を超越せんと決意したもの。自らの世界が消え去りし中、帰るべき世界すら喪った流れ者。そんな者が、自らが目指す道標として目指し、無数の立ち会いにして辿り着きし『空』

 

本来ならば有り得ざる、同じ『極』の領域。本来ならば出逢うべくも無かった、交わることも無かったであろうその運命の悪戯にて廻り合いしその二人。永劫孤高であるはずだった者達の。剪定され、歴史に残さず消えて果てる筈であった者達の生命の総括にして総合。其処に示され、互いに示すことによって訪れる・・・有り得ざる果たし合い。それはまさに、共に至高の刹那と呼ぶに相応しいものである

 

生涯のすべてを捧げられる好敵手など、人生における出逢いにて滅多に訪れはすまい。全身全霊であるならば尚更の話だ。それが目の前にいる。互いの目の前に、自らの全てを叩き付け、示す事が出来るものがある。それだけで──あらゆる要素を脇にやり、この瞬間に没頭することになんの躊躇も煩悶も在りはしない

 

事此処に至り、響くのはただ剣閃の音。言葉なく、理解なく、拒絶なく。ただただ示される互いの『剣』。これに勝る瞬間なく。これに至る研鑽なく。これに勝る歓喜無し

 

それらは互いが、互いを高みに導き出す境地。互いを遥か上に引き上げる境地。腕も、技も、生死も。遥か彼方に疾走させる未知なる交錯。故にこそ、止まらず。故にこそ、緩まない。故にこそ、止められない

 

その果てに、その先に。もっと先へ、もっと駆け抜ける。今この瞬間を見据え、直ぐに来る瞬間を想い、剣を振るう無間の剣戟──

 

【・・・・・・・・・──】

 

──だが、それらは『ある』存在にて、終わりに導かれる事となる。互いが互いを終焉に導くものが、極り手が、互いに一手が無いのならば。それらの決着が付く事は、永遠に無いのであろう。無限に、永遠に、この互いの至高をぶつけ合い、永遠にその瞬間を味わい、永劫に究極の一閃を叩き付けあうのだろう

 

 

・・・だが。此処には。もう一人。このすべてを見届ける者がいる。この驚天動地の一戦を、余すことなく見届け、その輝かしき困窮に、稲妻が如き終演をもたらすものがいる

 

【・・・武蔵ちゃん・・・小次郎さん・・・!】

 

その言葉に、言霊に宿るは布都御魂が如く。この宿命と天命に導かれし二人の剣の鬼の終幕を厳かに導かんとする使命を負いしもの

 

【──!!】

 

果たして費やされた時間は一瞬か永遠か。刹那か、永劫か。気の遠くなるような一瞬か、夢に微睡むが如き遥かな那由多か

 

雷の位を宿せし、黒曜の邪龍。その眼が写すものは──果てと極みが、一瞬にて交錯せしめる刀の凱歌。その未来の終幕。鈴をならすが如く。涼やかにして響き渡る、魂の音。双雄が示す。生死大活の終焉。天命に見出だされし二人が、奏で上げる至高の領域の──結びの音

 

【来る・・・!】

 

藤丸龍華の金色の瞳が焼き付ける──決着の鈴鳴りが如く、刹那の邂逅にして、永遠の別離

 

 

 

──英霊剣豪七番勝負。終幕の刻──

 

 

 

ぶつかる刃と刃、力も技も、およそ互角

 

 

否、時間と空間と存在と概念(あらゆるすべて)を超越せしめる両者の剣は、まさに対極にあるものだった

 

 

「──武蔵ッ!」

 

かたや、無二を越えようとする零の剣。それはいわば『ただ一つの正解』を目指す道

 

幾万、幾奥とある『選択肢』。それらすべてを検証し、潰し、無意味と押し止め

 

ただ一つの正解に辿り着く、いわば『有限』の剣である

 

究極にまで、これ以上ないと言うほどにその存在を削り落とし、それでもなお残る『何か』

 

それが武蔵の『零』。例え神仏であろうとも避けられぬ『結末』を確定させる剣

 

「小次郎ォオ────!!!」

 

かたや多重に連なる分け目の剣。それは言わば『多くの可能性』を認める道

 

本来であれば有限の一手。時間のある空間では一つしか実行できない斬撃

 

それを同時に認め、多くの『正解』を作り出す。いわば『無限』の剣である

 

極限にまで、これ以上はないと言うほどに己が存在を透明化し、その上で掴める『何か』

 

それが小次郎の『燕返し』

 

たとえ神仏であろうともかわせぬ『未来』を編み出す剣──

 

そして、産み出されしは──無限の領域。あるいは、無の領域

 

時間もなく、空間もなく、因果もなく、善悪もなく

 

それは刃に魂を載せて疾駆する者だけが到達する、無念無想の境地か

 

或いは・・・死にいく狂人が目にする、夢想の果てか

 

「『剣轟抜刀・伊舎那』──!!」

 

「『秘剣・燕返し』──!!」

 

ただ一度の切り結び。同時にそれは、無限にも通ずる剣戟

 

ただ二人きりで、両者はいつまでも殺し合うのだろう

 

永遠無限に続く一合を、繰り返す。終わりはない

 

此処は、世界でもなく。事象として編纂する事もなければ剪定される事もない。世界と夢の狭間

 

無限と零が交錯する、不可能地帯

 

──だが。此処には。もう一人。彼らを見詰める者がいる

 

 

【────ッッッッ!!】

 

 

【藤丸龍華】。この極限の空間に立ち入りし、【極】を宿すもの。故に・・・彼女のみが。立ち合いを見届け、その全てを見届け、永劫に続くかのような一度きり奇跡の戟、その結末を見るのだろう

 

つわものどもの、夢の果て 

 

勝者は一人

 

その瞳は、誰を見ていたのか。龍華は何を、誰を見つめ、その姿を観て、その瞳は--奇跡の交錯の果てにて、何を・・・見詰めていたのだろうか

 

 

【────武蔵ちゃんっ!!!】

 

──その言葉をもって。その絆を以て。無限の交錯。不可能地帯より『事象』が確定する

 

『相棒の勝利』──その心の所作が観測となり、親友の勝利を祈る願いの見護る中で、今──

 

 

「大!天!!象──!!!!」

 

 

無限の剣を──零の剣が撃ち破る──!

 

【──ッッ・・・!!】

 

・・・その、形なき無の観念。無念無想の空間の両断を以て。勝敗は厳かに、静かに。天命を定め決着と相成る

 

 

【──勝負・・・・・・あった!!】

 

藤丸龍華は、告げる。運命の如くして、遂に出逢った二人の・・・

 

 

【勝者!!──新免武蔵・・・玄信!!!】

 

別れの、刻を──

 

 




--無頼ではなく、紡いだ縁が根となり覇を掴む、か


嗚呼。実に、満足のいく一時であった。そちらもそうであると願いたい、新免武蔵玄信殿

この感慨。この確かな迄の手応えを以て、私は先に行くとしよう

あるいは、日の当たらぬ狭間へと消え去って、それまでかも解らんが・・・叶うなら、そうさな

編纂事象と言ったか?人理に寄り添う座に刻まれた者の中に、一人でもいい。私が如き男がいれば、この一時の味わいを伝えてやりたいものだ

嗚呼、実に。実に、華やか天元の花が如き女。そして・・・無二の朋友を得し、幸福なる女よ

武蔵--


・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・そして、総てが終わり。果たされて。武蔵は静かに、目を開ける

「あ、う・・・ん・・・」

【あ、起きた?】

その身を抱き、空を飛翔するは藤丸龍華。武蔵をお姫様抱っこにて抱え、青空を飛んでいる

「--あぁ、気を失っていたのね、私。・・・ってことはええと・・・あの剣士は・・・」

【武蔵ちゃんがやっつけたよ。大勝利】

「・・・そっか。佐々木小次郎。ああいう剣士かぁ・・・」

ぼんやりと。その身をリッカに預け、任せたままに。緩やかに。感慨を・・・噛みしめる

「・・・あの時。彼と戦ってるとき。私は・・・『このままでいい』と思った。こんな瞬間がずっと続くなら、未来永劫、こんな楽しい一瞬が続くなら、私はもう、何もいらないって」

【・・・・・・】

「でも・・・リッカさんの・・・声が聞こえて。力強くて、泣きそうで、私の事を想ってくれる声が響いて。それで、思ったの」

【・・・何を?】

「『負けてたまるか』って。こんなところで終われない、私は無頼じゃなく・・・『貴女の傍で戦う、武蔵ちゃん』なんだから、って」


--鷲が、何処かで鳴いている。突き抜ける、空が広がっている

「・・・私の全てを、見届けてくれちゃった?」

【・・・見届けて、あげちゃった】

「--そっか。良かった。リッカさんには・・・ずっと傍にいてくれたリッカさんには・・・観て、ほしかったから」

下に広がる世界に・・・皆が手を振っている。自分達が戻れる世界が、其処にある

「・・・零に至った。私、とうとう。目指すものを掴んだ。・・・掴んだ後は・・・」

【気儘に、気楽に生きようよ。なんなら、私と、ずっと一緒に。手合わせや、うどんを食べたり。また、旅をしたり】

「そう、そうだね。・・・リッカさんの時代の日本・・・楽しいんだろうなぁ・・・。将門公に、いっぱい助けてもらったから、御礼参りに・・・」

【奥義は、修得そのものがゴールじゃないよ。むしろ、其処から先に研鑽が待ってるんだよ。・・・私の一番好きな将軍様が、言ってた】

「・・・そっか。・・・それなら・・・まだ、死ねないね。生きなくちゃ。リッカさんが・・・幸せになるまで。リッカさんの全てを、見届けるまで・・・」

武蔵が、見上げる。遥かな、吸い込まれるような、涙が流れるようなその--

「--ああ、観て、龍華・・・」

リッカが、武蔵の目線と同じく見上げる光景は・・・

「--とびきりの・・・青い、空--」


・・・蒼窮の、天照す・・・青空が。何処までも広がっていたのだった----

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