人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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英霊剣豪 七番勝負 御前試合

勝負 六番目

仕合舞台 

新皇座臨総鎮守 神田明神 


立会人

御尊神 平将門

藤丸龍華


宿業 一切両断 セイバー・エンピレオ 柳生但馬守宗矩

VS

宮本武蔵 明神切村正 禁手・オーダーチェンジ


いざ、尋常に--!!



『空』

「おぉおぉおぉっっっっ!!!」

 

遂に幕を上げる英霊剣豪七番勝負の大一番。空を求め、自らの到達点を目指す武蔵が挑みし剣の極致。その位階に辿り着かんとする一人の少女が気炎を上げ、全身全霊にて目の前の存在に挑む。その総てを懸け、そのあらゆるものを懸け・・・自らの生すらも刃に乗せ乗り越えんと気迫と意地を絞りだし突撃する

 

【――・・・】

 

それをまさに泰然、不動にて迎え撃つはセイバー・エンピレオ・・・柳生宗矩。その生涯を懸けて剣を磨きあげ、そしてその身を血腥き外道へと落とした最強の剣客にして剣の聖。武蔵の鬼神がごとき気迫を受けてもなお、その心に波風は起こらない。ただ静かに、その境地を楽しんでいる

 

互いの生命を奪い合い、睨み合うその境地。自らの意志のみで振る舞いを残すその有り様を。ただの一人の存在にて他者と向き合うその感覚を、逸る宿業の薪としてただ其処に佇んでいたのだ。此れより起こるは誰も見たことのなき無双の戦い。自らの果てを見出だし、屍一つ打ち捨てられる極限の境地──

 

【・・・!!】

 

リッカも固唾を飲んで見守り、拳を握る。──予感があるのだ。この戦いを潜り抜けたものは確かに【極】に至ると。その身に宿りし位が告げている。この戦いは──一つの【剣神】を産み出す戦いなのだと。だからこそ、目を逸らすわけにはいかない

 

その目に移しこむは剣の高み。兵法者が目指し往く剣の極み。その頂に踏み込むのはどちらか──今、リッカの瞳が総てを映す・・・!

 

──先の先──

 

 

武蔵はその兵法の総てを懸けて速攻を選択した。矢継ぎ早に剣を振るい、忙しない足捌きを以て立ち振舞い、そして相手を圧倒する無数の斬撃、そして必殺の一撃を間断なく振るい上げ柳生を圧倒する心積もりであった

 

二天一流の戦法は手数の多さ、『なんでもやる』といった理念の下に振るわれる。手にした両刀にて、隙間や遊びがないような連続の行動を振るい赴くままに相手を制圧する事を主眼とした攻めの観念と観点を旨とする。故にこそ、今此処で柳生を圧倒せしめんとするは自然なりし試合運びであろう

 

忙しないこと忍が如く、力強きこと武者が如く。振るい上げられるその一撃一撃が、かの柳生を追い込み、圧倒し押し切る──そうなる筈であった。普通の武者、普通の兵法者であれば武蔵の手数と忙しなさにペース、機運を崩され然るのちに両断を果たされるであろう。だが──

 

【如何な剣閃機運に晒されど、──我が心は不動】

 

その心に微塵の波風も立たず、ただあるがままの事象、自らに振り掛かる刃を容易く見据え、泰然自若とした振る舞いのままに返す刀を振るう。武蔵の荒々しき十の剣をくぐり抜け振るわれる一刀は【後の先】となり、過たずその生命を、体を分断分解する殺人の刃にて武蔵を襲う

 

「くっ、う──!!」

 

針の穴を通すような武蔵の隙を狙い打つ淀みなき剣の運び、防御をすり抜けるような美しく流麗、堅実な刃運び。その一撃を全霊で警戒し飛び退き体勢を崩してでも武蔵は避けねばならない。当たってはならない。【当たった一撃は総て必殺】になると、直感にて把握しているからである。彼の刃に捨てはない。全てが敵対の相手を切り捨てる為に振るわれる至高の一刀なのだ

 

【貴様は私に抜かせた。ならば斬る。斬らねばならぬ】

 

いくら刀を振るおうと、その流水がごとき『力の起こりなき太刀』にて最短、最速にて自らの生命を脅かされる。故にこそ、武蔵の先の先は潰え、攻撃しながら回避と防御に専念せざるを得なくなる

 

二天一流、二刀による先の先・・・ここに敗れる。いくら千や二千の刃を振るおうと、水を、流るる水を切り捨てる事は不可能であるのだと告げるかのごとく。柳生を討ち果たす事は叶わぬのである

 

──後の先──

 

ならばと武蔵は先刻とうってかわり、激しき身のこなしを静かな立ち回りへもって柳生と相対する。激しき動作、激しき剣技における優位が叶わないのならば、先に動かせその先を取る事に活路を見出ださんとする。攻勢一辺倒ではなく、読みと対処にてそれを成さんと思い立ち静かに刀を構え往く。その目論見を見抜き知ってから知らずか柳生もまた構えた刀を厳かに振るい抜く。その動作を見逃すまいと武蔵は全身全霊を懸けるのだが・・・

 

「くっ──!っ!!」

 

『速く』そして『迅い』。その身体捌き、歩法。抜刀から斬りかかり、残心に至る一連の動作があまりにも美麗かつ流麗、静謐における所作として『完成』している。柳生新陰流の教えを『体現』するその静にて厳かなる剣は、一縷の隙もない所作の剣戟となりて武蔵の目に移り、対処に全力を強いる

 

読み合いなど成立する余地はない。所作に力の起こりなく、心に雑念の余地がなく。導き出されるは最速最短にて必殺を成し遂げる会心と必殺の剣術。剣と禅の境地を合一させ振るわれし柳生の剣は、ただただひたすらに、武蔵の身の転身と防御を許さず、回避に専念を強いる。天下人にのみ指南され見せられるその無双の剣術。突き、払い、上段、中段、下段。その一撃一撃を行う人体の稼働効率が目にも止まらぬ一瞬のままに武蔵に振るわれ、応対を極限まで狭める──

 

【しかして、自由に在らねばならぬ。取り立てて感慨は湧かねど、如何様に斬る術は数多。──その身、いつまで保つのか】

 

その言葉通り。惑わず、迷わぬと言うにこの自在なる所作と動作。反撃反攻許さぬ静かなる怒濤を以て武蔵を打ちのめす。直撃を避けられたのは武蔵の経験が物を言ったからであり、何度も『位』の領域の剣を目の当たりに出来たからだ。あの雷がごとき太刀筋を見て、目にも止まらぬを体験、体感していなくば・・・静かに切り捨てられていたであろうと武蔵は冷静に思い至るのだ。故にこそ──

 

後の先、読み合いに至るこの戦いはまたしても武蔵の敗北。相手に剣を振るわせなすがまま。自らの剣では必殺の一撃を反撃に振るうことすら出来ない。何者が見ようとも明白。殺されないよう、自らが立ち回る他に成す術がないのだから。まさに完敗、打つ手なしと言えるだろう

 

──培った者の全てが通じぬ実感と事実が武蔵の胸中に去来する。その人生の総てを懸けて培ってきたものが目の前の剣神には通じない

 

なんたる純度、なんたる境地に彼はいるのか。圧倒されながらも武蔵は、彼に称賛と絶賛に至るより他なかった。外道に墜ちようともかの剣はまさに剣の聖に在り、人の身にて体得、会得した技術と研鑽は正しく通用しないと。武蔵の直感と所感に痛感せしめる。恐らくかの身を圧倒するには、あと五十年はいるだろう。だが、その事実を前にしても武蔵の闘志と気迫に些かの萎えは訪れなかった。寧ろ、武蔵はその先の事。その果ての事を目を開き見据えたのだ

 

・・・人の身に余るならば、この剣を『神域』へと至らせる他ない。今までの経験、今までの研鑽を束ねこの剣を『空』へと至らしめる時を此処に実感し決心を現す。その立ち振舞いが、逃げ、防御の先のない交錯より、何かを確信した『仕切り直し』へと移行する。その必殺の一撃を『受け』る。刀にて肩を鋭く切り裂かれながらも、その身を蹴り飛ばし距離を図り静かに刀を、村正と武蔵の刀を構え見据える

 

・・・決着は劇的なものではない。この場においては一撃、届かせた者のみが勝者となる。故にその機会は次の一撃を交換し披露した刹那の後に。剣と剣が交錯するその瞬間に決着がつくであろう。その刃を、届かせた者が勝ちを掴みとり、その刃を届かせることができなかった者が地に伏せ屍となる

 

その【極限の刻】を──二人は同時に確信し、刃を鞘へと収める。試合放棄ではない。その総てを懸けた一撃へと繋げるための脱力、構えの姿勢であるのだ

 

【──終わりにするか、武蔵】

 

「・・・──応とも」

 

解っている、理解している。その刹那が訪れるならば、死して果てるは自らの方であると。絶望的な確信がある。千や、二千の読みあいが効かず、その研鑽の全てが破られたならば。それは最早敗北以外残されておらぬ証拠。ならば──ならばこそ。武蔵は原点、初心なる考案にして疑問に立ち返る

 

(私は、何を斬るのか)

 

その総てを破られながら、その総てを討ち果たされながら勝ちにすがる私は何を斬るのか、何を断つのか。その余分な考察と思考を、少しずつ削ぎ落としていく

 

千の読み合い、其処に答えがないのならその先へ。万の打ち合い、其処に勝機が無いのならその先へ。考えうる敗北の道筋、『無駄』となるその余分な思考を徹底的に潰し上げていく。

 

欲や名声、そのような我欲すらも勝機とならぬならば切り捨てる。何を求め、何を望み、何を以てこの刃を振るうのか。自らを極限まで絞り、研ぎ、極め、その果てに、事象を切り落とした果てに残る『何か』を・・・この剣は斬り落とすのだと。それこそが。自らの望んだ答えであると、武蔵は想い、考案し、試作し、目指す

 

だが、それは今までの無数の立ち合いの中には顕れなかったもの、見つからなかったもの。それを如何様にして掴むのか・・・それは、未だ見えない。解らない。叫喚地獄との果たし合いにて掴んだ『何か』の全容が、未だにこの身には宿らない

 

【我が剣、即ち、無念無想の境地也。──さらば、新免武蔵】

 

その究極。柳生が人生における究極の『一』にして『無二』。その生涯最高の一撃が武蔵へと奉じられる。その凄まじくも精緻な一撃が──

 

「・・・──無念、無想・・・──」

 

その言葉を耳にし、言葉を聞き、その抜刀を刹那にて目の当たりとせしとき・・・武蔵は、走馬灯が如くに思い至る。その答えに繋がる道筋を、天眼は見据える。図らずも、その瞬間は万策尽き果て、困窮を究めたその状況における思案と模索であった

 

心は不動にて自由。そして無念無想の境地。『一』にして『無二』。それらによって導き出されるは、それを受けて果てる自らの『無』。それを受け入れる事を良しとし、受け入れる事は──断じて出来ぬと言った自らの『答え』

 

千の読み合い、万の打ち合いの先に辿り着いた『此処』。柳生の渾身の『一』に相対したこの瞬間にこそ。──この刹那にこそ。自らが目指すべきもの、切り裂くべきもの、断ち切るべきもの──『空』という、至るべきものがある

 

間違いない。此処だ、この刹那だ。この剣神の奥義、この剣聖の無二の一撃にこそ──自らが望んだものがある

 

この剣の、この極限の境地を越えた先に──自らの望むものが、そして──

 

【──剣術無双】

 

その果てにこそ・・・自らが望んだもの、そして──

 

【剣禅・・・】

 

走り出す。防御も、回避も、無駄な行動・・・敗着に至るものは全て投げ出し駆け出す。その身に至りし天啓のままに、その身に宿りし剣者の閃きのままに疾走する。それは端から見ても自殺行為。それは誰から見ても無謀なりし特攻。それは誰から見ても愚者なる勇気にて行われる蛮行

 

【一如】

 

その、ただ必殺を成し遂げる無双の一太刀に、──否武蔵の太刀は『全ての始まり』を目掛けて・・・斬る。刀を抜き放つ。

 

「──ぉおぉおぉおぉおぉおっ!!!!」

 

気迫咆哮、獅子が如く。自らが望むもの、その果ての果て。遥か先にあるもの、その始まりの元。自らが切り裂くべきと、両断するものは『其処』にあった

 

・・・総てを取り払い切り捨て、削ぎ落とし、その物事を極限まで絞り、最後に残るもの。その全ての根幹にして、全ての物の起こり、無念無想の境地を『越えた』先にある──全ての始まり。名を──『天元』。例え神仏であろうとも逃れられぬ万象の始まりにして、全てにあるもの。始まりにして、終わり。──『零』。その領域に目指し、武蔵は刀を振るったのだ

 

そして──決着は厳かに静かに、確かに訪れる

 

柳生は目の前の『一』を切り裂かんとした。武蔵を、自らの手にて切り裂き断ち切らんとした。単純に、肉体と魂、其処に形あるものを斬ろうとした。極めて明快に『人』を斬らんとしたのである

 

武蔵は・・・『天元』を斬った。物事にある始まりの全てを。その無念無想の果てを、始まりを、零を目指して刃を振るった。柳生が至りし境地、生死の狭間を越えて──『その先』に踏み込み断ち切った

 

「────嗚呼、そうか」

 

其処にて、武蔵は・・・実感し、痛感する。求めていたものの本質を、目指していたものの真実を。今この手応えを感じるままに、天啓が如く、悟りが如くに思い至る

 

「・・・──忝ない。柳生殿」

 

今まで目指していたもの。今まで掴みとろうとしていたもの。その『位』は、けして掴むものではなかった。そうではなかったのだ。それを、柳生の立ち会いで至り、痛感し、開眼せしめた

 

目指していては辿り着けぬ。目指そうとしなくては辿り着けぬ。その果ては・・・その起こりは、其処に至ることは、極めて単純にして簡単だった

 

「天元──無念無想すら断ち切る零の観念。その果てを、その始まりをたたっ斬る境地・・・名付けて」

 

そう、生死の境地、相手と自らの意志が重なる境地にて辿り着きし場所。此処より果てはない、確かなる位の領域。辿り着くと言う意気込みでは辿り着けぬ。ただの研鑽では辿り着けぬ

 

「『剣轟抜刀・伊舎那大天象』・・・此処に、奥義を開眼致した」

 

・・・そう、空位とは。自らが望むべき場所は『辿り着く』場所ではない。『空』の観念とは──

 

【──フ。塩を贈る、か】

 

──自らの総てを懸けて、『断ち斬る』べきもので、あったのだ。その究極の一刀を以て、柳生の身体、そして──【宿業】を断ち切り。今この瞬間を以て・・・

 

 

「──この身、確かに。『空』を会得と相成った」

 

新免武蔵守藤原玄信。──『空位』を開眼し、その刀に宿らしせしめるのである──




「我が剣、届かなんだ。・・・ふふ、くく・・・だが」


「・・・」

「良い・・・実に良い心地よ。・・・三厳め、まさかこのような境地で剣を振るっていたとは。かの上達ぶりも頷ける。まこと、腹立たしい・・・」

【・・・--】

「・・・見事なり、名も知らぬ兵法者よ。そなたの繋いだ二人は--共に、極みへと至ったわ。・・・そなたらには胸糞悪い言葉であろうが。済まぬ、あえて言おう」

刀を納め、その言葉を聞き届け・・・この戦いは幕を下ろす

「・・・この上なく。愉しい・・・仕合であった--」

倒れ伏す柳生。高々と右手を上げるリッカ。--剣聖を見送り、やがて告げる

【勝負あり。勝者、宮本武蔵】

「・・・セイバー・エンピレオ、成敗。・・・見ていてくれた?助六くん・・・」

その身に『空』と『雷』を宿せし少女たちは、自らを繋いだ大恩ある者に、黙祷を捧げるのであった--

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