勝負 五番目
仕合舞台
新皇座臨総鎮守 神田明神
屍山血河の死合舞台
立会人
御尊神 平将門
ルチフェロなりしサタン
⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛
宿業 一切嘲弄 キャスター・リンボ 芦屋道満
VS
藤丸龍華 アジ=ダハーカ
禁手・オーダーチェンジ
いざ、尋常に--!!
【おぉおぉおぉおぉおぉお――!!!!】
英霊剣豪、七番勝負。その五番目。屍山と神田明神の時空が交ざり合い重なりあい拮抗するその空間にて、二人はにらみ合い火花を散らし互いを求め激突を繰り返す。
藤丸リッカが望むものは母の鎮魂。求めしものは母を狂わせし者の断罪。己の全てを振るい、雄叫びと咆哮を上げ、遥か彼方にて佇むリンボを抹殺せんとまとわりつく屍、妖怪、怪物などを無造作に無尽蔵に乱雑に蹴散らし吹き飛ばしていく。それらはリンボが差し向けしもの、リンボが作りだせし式神にして使い魔。それらを総て差し向けているのだ。――自らは遠くで眺めしままに
【その怒り、その怨み。実に素晴らしいものですぞ藤丸リッカ・・・嗚呼、私は貴女に何処までも惹かれておりまする。さぁ、もっともっと見せていただきたい!拙僧を、昂らせ!導いてくださるのが貴女であることを!】
【必ず仕留める!其処に辿り着いてやる!滅ぼし尽く!滅して相当の報いを貴方に受けさせてやる!!】
その言葉に実に愉しげに。実に愉快げに地平を埋め尽くす屍と式神を生み出し差し向ける。今のリッカにはもはや雑兵以下の存在ではあったが・・・その有象無象は、リッカを苛立たせるには充分すぎる程に乱雑だったのだ。自らの行く末を阻む者総てに、今のリッカの憎悪は余すことなく向けられる
【退けぇ!!】
短く叫び、人類悪の泥の力を引き出す。翼が空を覆う鎌となり目の前の空を覆うにある屍を一掃する。ガントレットが輝き、地割れを叩き起こし地に満ちる魑魅魍魎を呑み込ませ皆殺しにする。アンリマユを振るい、目の前に湧き出す鬱陶しい雑兵や矮小な雑多を十把一絡げに蹴散らし抹殺し、猛然と進んでいく
槍に宿りし武術、武具を含めた奥義や技は全て封印し、自らの泥のみを使いし人類悪戦法。おおよそ人とは言えぬ龍、怪物のそれであったが。リッカはそれを良しとした。母親の無念を晴らす、自らの大切な存在の尊厳を悼み戦う。気高き決意、そして目の前の存在が憎い、怨めしくてたまらないという憎悪が今までに無いほどに人類悪の力を引き出していた。
湧き出す魔力は無限にして無尽蔵かの如くリッカを強化し強靭に駆動させていく。金色の瞳は真紅に染まり血涙を流し続けそれを顕すように身体には真紅にラインが走っている。憎悪により補強された鎧は艶やかに煌めき、その遠影を正しきヒトガタの龍へと変化させている。
【ぉおぁあぁあぁぁ!!!】
背中より、六枚三対の翼が生え出ずる。それらは魔力泥にて編み込まれた、一枚一枚が鋭利な刃。同時に翼がごとき柔軟さを持ち、リッカの意志に連動し辺り一帯を無尽蔵に切り裂き捩じ伏せていく。それらの躍動に巻き込まれしものは余すことなく切り刻まれ打ち捨てられる。行軍は止まらない。リッカの形をした人龍は自らの逆鱗に触れし者を赦さずと。憎悪と憤怒を以てリンボへ挑む
【母上の仇!この手で討ち果たす!地獄を!貴方に――!!】
その言葉を咆哮とし、誰も止められんとばかりに激走し駆け抜けていく。それはリッカの情の輝き。大切なものを何者よりも重んじるが故に何者よりも憎悪は強い。故に人類悪の力を持とうとも狂わない。善性に隠れた悪を否定しない。悪を拒まず善を厭わない。その相反しながら許容する在り方こそがリッカの原点だ。『誰よりも愛し』【誰よりも憎む】。それはまさしく――
【人の情!まさにまさに素晴らしい!それが私の望んだものだ!それが私の垣間見たいものだ!何よりも情深き貴女だ!貴女だ藤丸リッカあなたこそが好ましい!】
波がごとき屍の山、全てを食らい尽くす鼠、蝗。それらを怒濤、波動の如く叩き付けていく。それらはリッカの腕の払いで薙ぎ倒せる惰弱なもの。しかして念入りに潰さねばどうしても進めぬもの。それがリッカには厭わしく、目障りで。心を猛り狂わせる。虫に集られ呻き叫ぶリッカを、人の情を垣間見嘲笑う
【数多のあなたはただ小綺麗なばかりでまことつまらぬ!善が善を謳うからなんだと言うのか!些末些末無用不要!あなたです!あなたのようでなければ何の意味もない!】
【――!!】
【『善を誰よりも信じるがゆえに』!【悪に何よりも鮮烈に染まる!】その二面!その多様性こそ!人の心そのもの!そうです!恨みなさい!憎みなさい!悪を謳うのです!そう!私が憎いでしょう!怨めしいでしょう!あなたの母を!狂わせた事実がまたあなたをも狂わせる!!】
リンボは堪らぬとばかりに心からリッカを見やり、陶酔しきりし顔、身体をくねらせ声を送る
【それこそがッ――人の情念!素晴らしい!!ンンンンさぁ来てください!私の下へ!私の腕の中へ!その時私は!ルチフェロなりしサタンの身許へ召されるでありましょう!】
その全てを玩弄する宿業を、リッカは捉えた。当然のようにその瞳は、穿つべきものを切り裂くべきものを捉えている。――が。物理的にリンボが遠い。距離はそう遠くない筈なのに、何故かたどり着くべき場所にたどりつけないといった感覚がある
辿り着けぬのに、敵ばかりが増える。討ち果たすべき敵が目の前にいるのに届かない。その事実が、その焦燥がリッカの魂をたぎらせる。――そしてそれこそがリンボの悪辣なる秘術であった
リッカとの間の距離を、体感の相対距離を弄り近場にありながら距離を置く。自らを遥か遠くに配置しておきながらその道筋の道理を歪める。【リッカの憎悪】を組み込み、その道筋を伸ばすように取り込んでいるのだ
リッカの憎悪が高まれば高まるほどにリンボとの距離は離れていく。安全地帯にてリッカの逆鱗を逆撫でし続け憎悪を煽る。そして距離が離れていく。その地獄――【秘術・無間地獄・憎悪河川】を仕込んでいたのだ。リッカの情念を利用し組み込んだ、愛と情すら利用し使い潰すその手腕にてリンボはリッカを見つめていた。『叶わぬ目的に無為に挑むその儚さ』を。陶酔に満ちて眺めていた
(憎悪に堕ち果てた魂、それを私が抱擁いたしましょう。女神が如くに、優しく確かに繊細に、安らぎをあなたに・・・その為に)
【邪魔するなぁあぁあぁっ!!!】
【存分に、堕ち果てていただく!!ンンンンンンンンンンンン!さぁ!私は此処です!私は此処ですよ藤丸リッカ!さぁ!さぁ!!】
式神が最早刹那の瞬きに吹き飛ばされていく、人類史を滅ぼす大災害となりし人間を玩弄し嘲笑う。その理は磐石、その理は覆らぬ
彼女が彼女である限り、憎悪は尽きぬのだから・・・!その解りきった徒労を目の当たりにしながらなおリンボは笑い続ける
・・・が。リッカを求めておきながら、彼はリッカを知らな過ぎた。知ろうとしなさ過ぎた。機動戦士の圧倒的な性能に心奪われるばかりで、その実に秘められた願いと理念を把握し理解しないが如く、その情愛は即物的に過ぎた
彼女は、先の見えぬ憎悪に囚われる程脆弱惰弱ではない。それであるが故に――彼女に何かを教授すれば必ずや何かを掴み、誰かが彼女に何かを指し示す
それは彼女が人類悪ではなく・・・人間であるがゆえに・・・それらの輝きは、決して滅びず、かつてのあの時より救い上げられ色褪せぬが故に――
【はぁっ・・・、はぁっ・・・はぁっ・・・】
その終わらぬ波がごとき、徒労の激闘にリッカは小さく息を切らす。全身全霊の肉体駆動と魔力放出を行い一時も休まず行ったがゆえの虚脱感と喪失感を味わっている。リンボは未だ無傷だ。どうしてだろう、私の気持ちが足りないのだろうか
もっと、もっとだ。より強く、より激しく母を想え。汚され貶され侮蔑された事実を意識しろ。心から憎悪を捻り出せ。それを以て逆説的に証明しろ。母への愛を、私が私である証を。大事なものを踏みにじられ何もせぬような腑抜けには決してなるな。嘗められるな・・・!
【ぉおぉぉおっ――!!】
再び憎悪を駆動させ、人類悪の力を限界を越えて駆動させようとしたとき・・・リッカの身に変化が起こった
【ぎゃんっ!!?】
突如、腰に差している母の護り刀、『童子切安綱』から、一瞬だけ全身が痺れるような電撃が流れ出たのだ。一瞬で痺れ、痛みは残らない。『母の平手打』が如くに走る痛みだ。そして・・・
【あ、ははっ!?ははっ、あははははっ!?ちょ、何これ!?あははははっ!ふふふひひひっ!何これあははははっひひひっ!!】
突如【左腕】がむず痒く、くすぐったく脈動し始める。左腕から全身に広がる疼痛のような、ただ【くすぐられているような】あまりにも無邪気な痛み。リッカを襲うその現象に、リンボとリッカ、共に困惑を隠せない
【ンンンン?どうしました?リッカ殿】
【私にもわからひひひっはははははは!あははははひひひっ!はははは!あははははははは!!】
真剣勝負にも関わらず笑い転げるリッカ。その痒みとくすぐりめいたものが終わるのは、彼女が痙攣を開始するギリギリといった所だった。あやうく【笑い殺される】ところであったのである
【ひっ、ひーっ・・・な、なにゆえ・・・なにゆえにくすぐりと電気ショック・・・ひーっ・・・ひーっ・・・】
おぞましく変化していた龍鎧も、大人しく形状が元に戻る。憎悪に満ち充ちていた血涙は止まり、金色の瞳に変化する。翼の刃も引っ込み、いつもの鎧に戻ったのだ。よろよろと起き上がり、毒気が抜けた頭で考える
(・・・憎しみに染まりきりました、なんてギルや姫様・・・喜ぶかな)
リンボの事は赦せない。赦してはいけない。倒すのに迷いはない・・・が、自分は【何を怨むのか?】それに、笑いに笑ったリラックス思考で考えてみる
母上を汚された事。英霊剣豪を産み出した事。それは許せない、嫌だと確かに想う。だがそれはあくまで事象だ。本質ではない。ではなぜ憎むのか?怨むのか?赦せないのか。赦せないことはなんなのか?
【・・・――】
空を見上げ、そして思い出す。かつて地獄にて、憤怒を知った時の事。赦せなかった、赦せなかった。皆の平穏と未来を奪ったゲーティアが許せないと怒りを抱いた
・・・――今回も、それと同じではないのだろうか。感情と動機を取り払ってしまえば、残るのはたった一つ簡単な事だ。あっけない、ただの答えだ
【――悲劇が、それを産み出すものが赦せない、怨めしい。だからこそ、私はそれを倒したいのだと思う】
母を狂わされたこと、母を弄ばれたこと、・・・その先にある事象にして真理。其処に思考が至る
【私と同じ目を痛感する人が生まれるのが嫌だ。母が愛した・・・母と子の愛に満ちた世界を崩されるのが我慢ならない】
口にして、すとんと腑に落ちたとはっきりと理解できた。リンボ、妖術師。それらはただの事象にして配役、恨みと憎みを振る舞うからこそ憎いのは当たり前だ。そうじゃない。私が憎むのはそうではない
【他者を自らの為に利用するもの、踏みにじるもの】をこそ憎むのだ。それらによって招かれる悲劇をこそ怨むのだ。そしてそれらから、美しいものを護るためにこそ。この心と力があるのだと。その先にある尊いものを護るために・・・自分は戦うのだと
思い出す。憎悪にて忘れていた、忘れ去ってばかりだった黒縄地獄が遺してくれたもの。それは敵討ちの願いではない。それは奥義だけではない
『頼』として・・・自分に親子の思い出をくれた事は・・・けして色褪せない、あの人と自分だけの・・・何者にも汚されない、大切な記憶ではないか。それを――何故思い返さなかったのか・・・
【――あぁ】
もう、誰かを怨み。憎むのは止めよう。怨みと憎みは、自らがスッキリするくらいしかない。私が怨み、憎むもの。それは考えるまでもない・・・
【ンンッ――!?】
カツ、と。リンボの結界に【槍】が刺さっていた。そして、するりと。リンボの胸に深々と突き刺さる。困惑と混乱に陥る。いつ投げたのか、いつ刺さったのか。知覚すら出来ない程の速業であった
【藤丸、リッカ――!】
有り得ない。憎悪あらばこちらにはけして届かず、遥か彼方に我が身は、宿業はあると言うのに・・・!
【まさかッ『雷位』!有り得ぬ!憎悪にまみれた身で位を、果たすなどッ、そして我が多重結界による絶対防御を崩すなど有り得ん――】
全てを駆け抜け切り捨てる【雷位】。その前にはあらゆる距離、時間、因果、宿業の縛り、距離、制約など何の意味も成さない。阻む事叶わぬ『雷速』の剣。それを開帳したというのか・・・!心技体が乖離した今この場にて・・・!
静かにリッカは立ち上がり、息を吐く。恨みや憎悪は、それに呑まれてはいけないものだ。懐きはすれど呑まれぬようにするものだ
何のために力を振るう、何のために武を振るうのか。それは気に入らない誰かを殺すため、恨むためではない、断じてない。いや――
【邪悪にて起こされる悲劇】こそを憎むのだ。そうすれば憎悪は終わる、そうすれば怨嗟には果てがある。訪れた平穏に、手にした平和な世界で、きっと笑うことができる
(そうだよね、母さん。姫様、ギル・・・皆)
リンボを憎むのではなく。争乱と動乱、悪事と現状のみを憎む。訪れし憎悪を憎む。そして――憎悪と怨嗟の果てに、にっこりと笑う。『辿り着くべき場所』を見つけたリッカに、もう迷いはなかった
一先ず今は・・・ギルと姫様に、胸を張って出逢えるように。此処でけじめと一つの決着をつけよう。母の無念を乗せ――次なる親子の悲劇の全てを断ち切るために
『童子切』は、其処に宿る意志は、心を鬼にしてリッカを一瞬だけ害した。必ず、聞き分けてくれると信じた上での諌めであった
【龍哮】は単純に、好みの問題であった。喰らうべきは他者の憎悪、森羅万象の全てを切り裂き喰らう。認めし持ち主と共に。だからこそ、自らを振るう人間が修羅や畜生だなんて話にならない。立派に、雄々しく、華々しくなくては赦さない。狂い果てた持ち主なぞに握られたくない。だから、まぁ・・・相棒の脱力くらいなら手伝ってもいいと。お前の憎悪なんて美味しくないという、好みの問題なのだ。だからこそ、笑わせたのだ
その二つの刀の加護にて自らを取り戻しながら。雷を宿らせ、『童子切』に手を掛け、静かに思い返す
手を繋いで歩いた事
一緒にお団子を食べたこと
夕焼け、名残惜しく別れたこと
・・・――語り合い、そして、共に在った事を刀に乗せ。串刺したリンボ目掛けて、自らの身体を、自らの魂を【鞘】として、厳かに剣を抜き放ち――
【――棟梁抜刀術】
雷光反発の勢い、雷位の開帳による『斬られた事にすら気付かせぬ』迅雷なる居合い術を抜き放つ。それを振るいしは肉では無く、骨ではなく、憎悪ではなく、怨嗟ではなく――
【『頼』――】
母が焦がれ共に歩いた平和な世界を脅かす『宿業』を。ただ、切って捨てたのだ
「――藤丸、リッカ――」
先の憎悪に満ち溢れていた惨殺ではなく。此度は、静かに、厳かに
【――キャスター・リンボ。成敗】
その、宿業のみを断ち切ったのだ――
キャスター・リンボの消滅を、静かに見つめるリッカ。先ならば、ナインライブズを叩き込んで入念に砕いてやろうかと思ったのに。そんな気持ちは今、全く湧いてこない。穏やかな気持ちだった
「--憎悪すら、駆け抜けましたか。これだから・・・人は、面白い。サタンに、よい、土産話が出来ました」
【地獄に逝ったら、私の居場所を作るよう言っといて】
それだけを告げ。静かにリンボを抱き留める。せめて消え行く前に、その告白への感謝を
【地獄に逝ったら・・・また、続きをしよう。それまで、さようなら】
「--ンン・・・あなたを地獄になど招きませぬよ。母のため、世のため、人のために戦いし情溢れるあなたが、地獄、など」
そう告げ、リンボはリッカの頬を撫でる
「貴方の行くべき場所は・・・『楽園』に決まっているでしょう・・・?」
それを最期に・・・リンボは、芦屋道満は果てる。その顔は、穏やかさに満ち充ちていた
それを看取り、静かに鎧を解き、顔を上げる
「--女の子を見る目、もうちょっと何とかした方がいいよ。道満さん」
それだけを言い残し・・・リッカは仲間の下へと歩み出す・・・
--母の想い出と、憎悪の向ける先を見つけた自分を、王と姫に見せられる喜びを胸に懐いて
『--勝負あり。お見事でした。藤丸龍華』
境内に響いた、優しく柔らかな声を耳にしながら--
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