人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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カルデア

「ご主人様--♥」

「ますたぁ--♥」

「マスター・・・♥」

「え、ロマン・・・この三人はどうしたのかしら・・・」

「リッカ君の波動にやられたんだって。いやぁ、振る舞いだけで死亡ってどう言うことなんだろうね!」

「先輩!最終決戦にこそ頼れる後輩のガードが必要なのではないでしょうか!」

「あなたは懲りないわね・・・」

SweetSじゃんぬ

「あんたは動じねぇなぁ、じゃんぬぱいせん。マスターの事、心配じゃねぇのかよ?」

「心配?何がです?」

「や、そのだな。ちゃんと帰ってくるのか、とか・・・」

「リッカなら帰ってきますよ。私の下に。サーヴァントの信頼を裏切るマスターじゃないなんて、解りきった事を疑うことバカじゃありませんから」

「・・・そうか。信じきってる・・・ってわけか」

「そういう事です。余計な心配など、余計な気遣いなど無用なのですよ。真に心が繋がっている主従にはね」

(すげぇどや顔だ・・・)


「金時・・・リッカは大丈夫でしょうか?危なくなったなら強制的にも・・・いいえ、母は待つもの・・・ですが心配なのは母として・・・いいえ、やはり・・・いいえ・・・」

(大将、三時間前から同じこと言ってるじゃんよ・・・早いとこ元気に帰ってこいよな、リッカ・・・大将やらかさねぇうちによ・・・)


仕舞の序章

裏山に現れし大百足、そして二人の英霊剣豪。その二人と一匹を無事に撃破せしめたリッカ一行。皆が皆、役目と突破を果たし、無事に人質・・・ぬいと田助の両親を救いだし、庵へと帰還を果たした。衰弱はしていたものの、生命に別状はなく。庵で看病し、集落へと帰す為に匿った。ぬいと田助には、「山登りで疲れた」といった答えを告げ、リッカになんとか説明を果たしてもらい。二人には穏やかに治療に専念してもらっている

 

「やまのぼりで疲れていたなんて、ととさまもかかさまもやんちゃだね!」

「あぃー!」

 

・・・身柄を狙われ、殺されかけたなど。二人には無用な情報だろう。しかし不思議であったのは両親が存命であったことだ。二人が生きていたことだ。人質とはさっさと殺し、いるかいないかの状態にしていた方が一番だというのに彼女らはそれをしなかった。きちんと生命を残し、正しく回収することが出来たのである。・・・英霊剣豪の中でも輪をかけて無軌道であった二匹なので、真っ当な思考回路など望むべきではなかったのかもしれないが・・・だとしても、此方には幸運に働いた事に代わりは無い

 

「ワフッ!!」

 

庵裏の、穢れきった川はしらぬいが将門宝剣を触れさせることにより状態を清澄なものへと戻す事に成功した。しらぬいの不思議な神通力は一同においても不可解ではあるが周知の事実ではあるので、田助とぬい以外はそれほど驚きはしなかったが、感謝は一同全員共通の感情であった事に変わりはない

 

「ワフッ、ワッフ」

 

「どうだ、だと?はははは!今更そなたが摩訶不思議な事に驚きはせんよ!天下の百足殺しのしらぬい殿なのだ、大抵の事には感嘆せぬ!見事であった!」

 

「ワゥ・・・」

 

それはちょっと残念・・・とばかりにしゅんと鼻をならすしらぬいに、一同は顔を見合わせ楽しげに笑うのであったとさ。勿論──全員が顔を合わせた帰還である。だからこそ、全員が笑顔であるのだから

 

そして一同がひしひしと感じる・・・英霊剣豪の数少なくなりしことにより最終決戦の気運に。笑顔の中に独自の緊張と高揚を混じらせ、一同は庵にて、思い思いの刻を過ごすのであった

 

 

【申し訳ありません、リッカ・・・私としたことが、あろうことか娘を省みず・・・あろうことか気絶させてしまうなんて・・・私はなんという事をしてしまったのでしょう・・・!虫の駆除に気をとられ、一番大事なものを蔑ろに・・・!あぁ・・・!】

 

(きき、気にしないで母上!村正が母さんと彼女に強く働きすぎて反応が強すぎただけだから!母上なら絶対やるって解ってたから!)

 

【そ、そうですか?・・・まさか図らずとも、虫に最愛の娘を助けられるなんて・・・借りを作るとは不覚です。・・・私は、どうやって返すべきなのでしょうか・・・】

 

嘆く母を宥めるリッカ。無論彼女からしてみれば恨みや怒りなどはなく、母上の武練に助けて貰っているのだ。そもそもまともに武具を扱えるのは母上の下地あればこそであり、異様な成長は莫大な基礎と英雄の経験あればこそなのだ。これくらいの暴走や独断は許容してしかるべきものである。母がいなくば、サーヴァントとまともに打ち合う事など出来る筈がないのだから・・・いくら酷い目に逢おうとも、リッカの母への感謝は翳ることなど有り得ない

 

【それよりリッカ!とうとう槍にも位を乗せられるようになりましたね!お見事です、流石は私の愛娘!えぇ、えぇ!当然母は信じていましたよ!カルデアに帰ったなら御赤飯を炊きましょう?あぁそうだ。奥義を使うならば相応しい槍と投げ方を身に付けなくては!安心してよろしいのですよ、リッカ。私が付いております、万全にて完全な補佐と武器を取り揃えますからね!大丈夫、母に、総てをお任せなさいね?必ずやリッカを高みへと導き、しっかりと傍にて見守りますからね!えぇ!】

 

(よ、よ・・・よろしくお願いいたします・・・!)

 

「なんかリッカさん、凄く苦労しているように見えるのは気のせいかしら。なんだか顔色が目まぐるしく動いているように感じられあいたっ!?」

 

「余所見をするな宮本武蔵!垣間見た境地、掴みかけた位を手にするかのように、鍛練を積み上げ土台を固めろ!死にかけた事で見えた、といったな!では──遠慮は抜きでいくぞっ!」

 

「ま、ま、まってまって胤舜殿!あなたの本気なんて洒落にならないから!稽古中に命を落とすなんてありがちで話にならないからぁ!!」

 

母との対話で奔走するリッカ、気迫がありあまる胤舜に極限の稽古をつけられる武蔵ちゃん。二者異なりながらも・・・互いに生還と生存の願いを為し遂げ、束の間の平穏を享受出来ている喜びに勝る喜悦はなく。そして二人とも・・・

 

「それはともかく!楽しみね、リッカさん!」

 

「うん!」

 

「「姫様と!王様の御褒美査定!!大物と英霊剣豪討ち取った!褒美報償たんまりだ、わーい!!」」

 

都にて待つ、ゴージャス査定に全開で胸を躍らせ、気持ちを弾ませ都行きの時を心待ちにする。目に見える物欲を満たせることに満足な武蔵ちゃん、カルデアのマスターとしての活躍を誉められることが嬉しいリッカと微妙な意識の差異はあるものの。ゴージャス王の事を気持ちの拠り所、支柱にしていることは揺るぎのない事実であり

 

なんだかんだで・・・あの愉快痛快な高笑いがあるから、頑張れる二人であったとさ

 

・・・そして同時に、庵の中より忙しない足音が聞こえ、朗らかな会話が聞こえてくる。それは互いの交流を深める音、父と母の看病をする者達の生活の音。ぬい、田助、そして小太郎と段蔵の四人である

 

「ちょっと待ってて、水くんでくるね!行ってきまーす!」

 

「きゃいー!」

 

朗らかに元気よく、笑顔にて働くぬいと田助。この短い触れ合いや冒険にてすっかり逞しくなった二人は両親を看病するまでとなった。どんな状態でも動じることなく、眠る二人を甲斐甲斐しく対応している。この調子ならすぐに目を覚ますだろう。二人も心に傷をおった様子はない。本当に良かった、と。忍二人は胸を撫で下ろす

 

「良かった。二人も、二人の両親も共に護ることが出来ました。最高の成果。段蔵も、頑張った甲斐がありまする」

 

「えぇ、そうですね。本当に良かった。忍として主命を果たす。最良の結果です」

 

小太郎、段蔵共に成果を、笑顔を貰い分かち合う。この穏やかな時間を得るために戦った、奮闘したのだと。段蔵は静かに頷く

 

「ぎるがめっしゅ殿のたゆまぬ整備、機能拡張のお陰でありまする。常に私の身を丹念に補修してくださり、こうして皆様についていけるのですから・・・カルデアの皆様、そして王には返しきれない恩義が出来てしまいました。返しきれるか、分からない程に」

 

「ふふっ、僕たち程度から借りる程、かの王は困窮しておりませんよ。自らの赴くまま、が王の信条なのですから気にせず、恩恵に預かればよいのです」

 

「──はい。ありがとうございます。残すところ、後一回の整備で段蔵は完治するとか。これで益々皆様のお役に立てるはず・・・ファイナルグレード・段蔵にどうぞ御期待くださいませ、小太郎殿」

 

くすくす、といたずらっぽく笑う・・・いや、笑えるようになった段蔵を見て、穏やかに胸を撫で下ろす小太郎。・・・最後と言うことは、彼女から抜け落とされ、破壊された最後の箇所の修理と補修を王は行うと言うことか

 

「・・・生きましょう、段蔵殿。あなたは、生きる意味と未来があるのですから」

 

ふと、そんな言葉を口にしていた。それはカラクリに向ける言葉としては不相応ではあるが・・・生きる生命に向ける激励としては・・・万感の想いを込めた言葉であった。彼は・・・彼女が何者かを理解するがゆえに

 

「はい。段蔵は・・・主命を終えたならば、庵で働いてみたく存じます。ぬい殿や田助殿や、村正殿、しらぬい殿・・・胤舜殿らと共に」

 

そう告げ、穏やかに笑う段蔵の表情は・・・誰がどうみても。血の通いし人間の、その心を顕すものに他ならぬ、と。小太郎は静かに確信するのであった──

 

 

めざすもの てんかたいへい けものかな

 

 

「──ふっ!!」

 

庵、鍛冶場にて。無呼吸における金槌の連打を行い、鉄を打ち込み、火を入れた炉の前にて無心に槌を振るう赤毛の匠が一人、自らの業の研鑽に精を出す。村正・・・千子村正が一心不乱に槌を振り、鉄を打ち。その道を──究極の一を再現するために研鑽を重ねていた。

 

斬るのは肉ではなく、断つのは骨ではなく。縁、怨恨、憎悪。あらゆる宿業の清算。その為に、自らは無数の刀塚を築き上げる。千の影では辿り着けぬ。無数の刀では辿り着けぬ。その程度で、形あるものを斬るだけでは意味はなく、その程度で満足していい筈はない

 

『戦乱で生き延びたならば、それくらいは成さないと生きた甲斐がない』。強迫観念にて突き動かされた生前が如く。ひたすらに、ただひたすらに鉄を打つ。自らの究極の一を、形にするために。これは自らの業、自らの清算であり・・・自らの意地でもあった

 

「ふぅ・・・」

 

帰ってきてから数時間、無呼吸にてひたすら鉄を打ち続け、鉄と頭、たぎる血潮が収まる頃には一息つき、起き上がる。村正も、自らの出番と、課せられた役割の成就が近いことを何処かで実感しているのだ。いつになく身体が逸るのはそれが理由だ

 

・・・世界が招いた戦力。キャスターにその名がありとされた安倍晴明ではなく、伊賀にその名有りとされた服部半蔵ではない。何故、霊基が足りない自分に都合をつけてまで白羽の矢を突き立てたのか。思い当たる節は一つしかないからだ。この馬鹿げた騒動の一番には自らの・・・自らの『業』が必要となることを実感しているからだ

 

・・・その後どうなるかは、まぁ読めてはいるが。貯蓄は束ねてきたつもりだ。なんとかなるだろう。元々英霊なんぞ死人返りと変わらない。長々と人の営みに関わるものではない。仕事を終わらせたならさっさと帰る。そういうもんだと頷き、息を吐く。・・・まぁ、心残りが無いといえば嘘にはなるが・・・だからと言って、年長者が怖じ気付く訳にもいくめぇよ。頬を叩いて気合いを入れ直す村正の前に

 

「ワン」

 

見透かしたように現れたのはしらぬいだ。手拭いと、水。桜餅を差し入れに来たらしい。つくづく気の利くワン公だと笑いながら、それを受け取り座り込む。しらぬいもまた、同じように隣に座る

 

「なんだ、おめぇも機運を感じたのか?わざわざこんなところまで来やがって」

 

「ワフッ」

 

「お前も儂も、神様に招かれたって点ではおんなじだな。まぁおめぇさんは儂より真っ当な神様なんだろうが・・・あの首塚の像なし台座、何か関係があるんだろ?」

 

「ワフ?」

 

またこれだ。しらぬいは自らの事になると、すぐに首をかしげてとぼけて誤魔化す。他人の事を誰よりもおもんばかり躊躇いなく助けるくせに、自らの事は何も語らない。名誉も顕示欲にも興味がない無私奉公の在り方。おおよそ人には出来ない生き方を当然のように為し遂げている。惚けた顔で気の抜けた振るまいが目立ちはするが・・・その生き方は、人間を遥かに超越した・・・まさに『神仏』降臨せし生き方だとの所感を懐かざるを得ない。ただ、どこまでも気の抜けた狼に変わりはないのだが

 

「ワフ・・・」

 

しらぬいはただ、空を見ている。自らは何もせず、皆が導きだす答えに従うとばかりの態度を感じさせる。自らが力を発揮するのかどうか。それは今を生きる者達と言わんばかりの秘匿、自らの存在の不干渉ぶりだ。其処にある人々が、カルデアの皆がどう動くのか、どう在るのか。それをしらぬいは・・・静かに見ているように見えるのである

 

・・・或いは、この狼は。何か自らが定めた『敵』を見定めているのやも知れない。自らが討ち果たすべき何かがいることを、静かに睨み、静かに見据え、決意を燃やしているのかもしれない。それならばこそ、しらぬいは自分なりの準備を、対策をしてきたのではないか?・・・自らの総てを懸けて討ち果たすべき何者かを、打倒するために

 

「──おめぇも色々と抱え込むクチか?惚けた面で食えねぇヤツだ」

 

「ワフ」

 

「あなた程じゃない、だぁ?言うじゃねぇか。そうだよ、儂は奥の手を隠す食えねぇ爺だよ。だが・・・一つだけ言わせろ」

 

「ワン?」

 

「──ぬいと田助、頼んだぜ。お前さんになら任せてもまぁ、不安はねぇ。貯蓄はお前に預けるからよ。あいつらが一人前に・・・とまではいかねぇだろうから、安心できるまでな」

 

しらぬいの頭をわしわしと撫でながら、胡座をかいて力強く、村正は告げる。あいつらを頼んだと。あいつらのいく先を任せたと。──寄り添ってやってくれと

 

「任せたぜ、狼サマ」

 

「──ワフ!」

 

それが肯定なのか、否定なのかは預かり知れぬ、が・・・解ることはたった一つ

 

惚けた顔で、こちらを元気付けるかのような鳴き声が。庵に響き渡った事のみであった──




--そして。最終局面の幕が開く

【--時は来た!いまこそ、【厭離穢土】・・・そして【大怨霊】搭載せし【常闇皇】降臨の時・・・!リンボ、夜の帳を下ろせ。--此より人の世は、憎き徳川の治世は、世界は・・・完全に終末と終焉を迎えようぞ!】

【御意に。--さぁ、太陽よ、暖かに祝福を与えし太陽よ、沈め。眠ってしまえ。これより先は--我等『闇』の者が目覚めし時間なれば!】


世界は闇に閉ざされ、太陽は沈み、【陽】を阻む【触】が訪れる。一寸先すらも見えない、完全なる闇が訪れるのだ

「ワゥッ・・・ワフ・・・」

「わぁっ・・・真っ暗、真っ暗だよぅ・・・!」

都にて行われる、真なる世界を終わらせるその儀式。民草を総て害し、殺め、一掃せしめるその終末の光景

・・・しかし。どれ程の困難、苦境にも。人は抗う術を・・・人の心には『光』がある

「さぁさぁ!暗がりだろうが関係ねぇ、ちょいとこいつを見てくんなぁ!」

闇が世界を覆うとも、闇が世界を包むとも


「--ワォオォオォーン!!!」

必ずや・・・光は。『祈り』は・・・心に光を灯すのである

--祈りは力なり。力は、祈りなり--

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