人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

401 / 2547
400話、ありがとうございます!何時のまにやらこんな遠くまで・・・本当にありがとうございます・・・!

思えば、批判と批評を恐れて初投稿にビクビクしていた頃が、とても懐かしいです・・・ひっそりやれたらいいな、と言った感じで毎日書いていたらいつの間にかこんな長期連載になっていました。皆様、本当に本当にありがとうございます!

御機嫌すぎて台詞の四割くらいが笑い声な英雄王、総てに価値を見出だし、慈しみ、愉悦し、尊ぶ英雄姫、スケベ一途淫獣フォウ。女は捨ててないけどほとんど息してない人類悪ドラゴンガールリッカを初めとしたこの物語を受け入れて下さって、本当に本当にありがとうございます!

自分は取り立てて立派な人間ではないし、怒りも悲しみもする人間ではありますが、エアやギルやキャラクターに

「世界はこんなに楽しいものであってほしい」
「総てを認め、赦し、受け入れ、尊ぶ心があってもいい」

といった想いを常に注ぎ込んでおります。特にエアの言葉の一つ一つには「この物語を愛してくれてありがとう」といった想いを常に込めて描写しております。エアの言葉が、行動が、皆様の心に響くのだとしたら。きっと、こうした気持ちが皆様に伝わってくれているのかな?と思っております

そして、真に尊く、かけがえのないものは・・・「この物語を尊い」と思ってくださる皆様の心そのものです。どれだけ素晴らしかろうと面白かろうと、読者の皆様いなくば筆は進みませんしやる気は起こりませんし、陽の目を見ることもありません

この物語はいつだって、皆様の目に見てもらう事で完成するのです。毎日更新出来るのは、読んでくださるあなたに読んでほしいと確信を持っているからです

いつも、本当に本当にありがとうございます。これからも、皆様の人生の愉悦に、この物語が一役買ってくれたのなら、至上の喜びです

皆様の声援、自分の皆様への感謝より生まれし至宝。英雄姫エアと、ゴージャス英雄王の物語。どうかこれからも楽しみにしていただけたなら、幸いです!

どうか、気長に緩くお楽しみください!本当に、ありがとうございました!ではでは・・・

英霊剣豪 七番勝負 御前試合

勝負 四番目

仕合舞台 新皇座臨総鎮守 神田明神

立会人

尊神 平将門


宿業 一切首斬 叫喚地獄 源義経

VS

宮本武蔵 明神切村正 禁手・オーダーチェンジ


いざ、尋常に--!!



--無・空--境地見据える天眼の華

【あっはははははっ!!此処が如何な場所であろうと、如何な守護者の膝元であろうと構わぬ、知ったことか!この清澄なる空間、貴様の鮮血と晒し首にて汚し彩ってやろう新免武蔵!さぁ垣間見るがいい──遮那王流離譚、その真髄を余すことなく披露し!その五体を余さず砕き!素っ首を叩き落としてくれる!!】

 

 

英霊剣豪七番勝負。不思議な縁によって、不思議な結末と独特の清涼感をもたらしたリッカと衆合地獄・・・いやさ、酒呑童子の対決とはうってかわり。此方の戦い仕合は濃密な敵意と殺気、獣めいた合理性と首を狙う純然たる冷酷さしか辺りを満たすものはない。清澄にして鮮烈なる神田明神の霊験を殺気にて塗り潰し、目の前にいる獲物をただ殺す。そういった、ただ明瞭なまでの目的意識のみが横たわる相互理解など不可能な互いの行く先。止めたくば、遮りたくば。生還したければ目の前の敵を、討ち果たす他ないと世界の全てが厳かに告げる

 

「ならばやってみせましょう。必ずや私は空に至る──此処で足踏みなどしている暇は無いのですから!」

 

静かに柄を握り直し、伝わる冷や汗を拭うように発破をかける。目の前にいるのは源義経。霊基はやや小さくなっているが紛れもない天才にして歴史に疎まれた悲運の武将。その打ち立てた生涯の伝説数知れず。ならばこそ此処で手合わせするに相違も異論もありはせず。彼女との果たし合いにて必ずや、掴む物があると信じ剣を構える。そう、此処はまだ旅の途中。新免無二斎を、糞親父の無二の剣を越えるまで--かのリッカさんに胸を張れるようになるまで敗けられぬ!!

 

【違うなぁ新免武蔵。足踏みするのは此方の方よ!貴様の屍を入念に踏み砕くためになぁ!!──遮那王流離譚、一景!自在天眼!!】

 

吼え猛る呪詛を吐き出し、すばやく跳躍する叫喚地獄。同時に自らの伝説、生涯にて打ち立てたその宝具の一端を速やかに開帳せしめる。それは自らを圧倒的有利に、相手を圧倒的不利な陣地へと落とし込む、彼女の天才的な戦術眼が昇華されし転移宝具

 

【六韜看破!!──いざや来るがいい!太夫黒!私を乗せ死出の坂を駆け下れ!】

 

その場に現れしはかつての鵯越が如きの断崖。その急なりし坂は叫喚地獄にて打ち作られし絶対有利の陣。戦では高所にて陣を構えしものこそが覇を握る。それは戦略的な観点であるのだが、叫喚地獄はその有利を戦術的観点、有利状態へと落とし込む才覚を垣間見せる。同時に剣を抜き、漆黒の馬を即座に召喚し軽やかに乗りこなす。遥か下にいる武蔵めがけて、人すら歩けば転倒する程の絶壁を。疾風がごとき迅速さで駆け下りる──!

 

【遮那王流離譚──『太夫黒・逆落とし』!!素っ首、頂いたァ!!】

 

猛烈な速度にて加速のついた叫喚地獄の剣。土蜘蛛を切り裂いた妖怪退治の名剣を血に濡らすこと微塵の躊躇いも見せず。その凄まじいまでの加速重量を一直線に武蔵の首めがけて振り下ろす。本来ならば受け止める、受けきるなどできない程の一撃だったが、武蔵は事に至って叫喚地獄ではなく、太夫黒に天眼を定めた

 

「────ぜぇえぇい!!!」

 

二刀合わせ、泰然にて渾身の剛力込めて刃を振るう。その刀に生死の狭間の刹那と気迫を込めて一文字に刃を振るう。そして、斬ると定めた者の始まりを見据え、必ず斬ると言う結果を定めし天眼にて振るい断ち切ると思い振るいしは彼女の愛馬──『将を射んとするならばまず馬を射よ』。弓ではあらねどその一刀にて正しく諺、先人の教えを此処に示す!

 

【ほう──!】

 

斬馬、此処に成し遂げり。脚の付け根から美しき一文字にて切り裂かれた太夫黒が真っ二つとなり、叫喚地獄の身を空へと投げ出す。いや、投げ出せたのだ。衝撃の反動として、主人を巻き添えにはせぬとの最後の意地として。空中にて無防備になったとされる叫喚地獄に即座に腰の刀を抜刀し、一直線に投げ放つ。目の一つも潰れてくれればもうけもの。せめて傷物になれば勝ちの目も増えるやも。そう考えた武蔵の考えをいとも容易く叫喚地獄は無にせしめる

 

【フン、駄馬め。真っ先に討たれるとは・・・我が身を預けるものとしてあるまじき醜態だ。文字通り──】

 

軽々とその剣を弾き、掴み取り。空中にて空気を蹴り。自在に転換し太夫黒に向かって跳躍を果たす。そしてそのまま武蔵の刀にて──

 

 

【死して詫びるがいい。我が配下に無能は要らぬ】

 

瀕死に喘ぐ太夫黒の首を撥ね飛ばす。その一閃澱みなく。先程まで生命を預け共に駆けていた者とは思えぬ冷血の斬首。返り血を庇い、身を汚さぬように振る舞い、消滅を冷めた眼で見送ったあと武蔵に刀を投げ返す

 

「・・・随分と酷いことするのね。敵を褒め称えるでも、自らを恥じ入るでもなく。まず斬首なんて」

 

その刀を受け取りながら、躊躇いなく微塵の葛藤なく己が半身を切り捨てた叫喚地獄に苦虫を噛み潰した表情で呻く

 

その行いは根っからの支配者のものだ。合理的、冷酷、非情。自らの役に立たぬならば要らぬ、自らの役割を果たして初めて存在することを赦す。【主人が首級を上げる前に果てる馬など駄馬も同然】という処断を、躊躇いなく下す冷血なる者が、眼前に立っている

 

【何か不思議な事をしたか?使えぬ者に情など要らぬ、当然だろう?戦場にて無能な味方など弾除けにしかならん。情で人が斬れるか?】

 

さも当然とばかりに告げる叫喚地獄。その人間離れした合理性、決断力。彼女はやはり天才なのだろう。如何なる情にも流されず、冷淡に、単純に自ら以外を駒と見るその在り方。やはり、歴史に名を残せし日ノ本の武将は、源義経は伊達ではなく半端がない。だが、それはそれとして--

 

「それはともかく──人の刀に、無用な血を吸わせるな!!」

 

先に放った刀を、勝手に処断に振るわれた。自らの意思でなく、血を吸わされた。それが武蔵の逆鱗に触れた。だからこそ武蔵は猛る。その無礼や、人の矜持など知らぬとばかりに踏みにじるその残虐さこそが武蔵の癪に障ったのだ。明鏡止水の境地遥か遠く。精神未熟なれど──無慈悲に切り捨てられし者を見て心猛らず何が人か!

 

「仁王!倶利伽羅!!象天聖!!!」

 

降臨させしは五輪の体現、剣鬼にて練り上げられし不動明王。武蔵の生きざまを、信仰心を体現した。諸悪を断つ憤怒の具現。武士の生命を愚弄し侮辱せしめた叫喚地獄に向けて、渾身の四刀を放つ、が──

 

【お前たち無能の凡俗は何故いつもそうなのだ?勝たねばならぬから、負けられぬから、赦せぬから。何故そうも自らの脆弱さと愚昧をみっともなく誤魔化し虚勢を張る?──五月蝿い五月蝿い、蠅のごとき喚き声、実に耳障りだ】

 

その憤怒の仁王の具現に軽く冷ややかな侮蔑と嘲笑を送り、左手にてむんずと地面を穿ちえぐり掴み取り、更なる宝具を開帳せしめる

 

【叫ぼうが喚こうが、神に願い奉った所で私と貴様の差は埋まらぬ。──弁慶・不動立地。そら、役立つがいい肉壁。人知れず勝手に死に果てた愚僧、存分に死に芸、立ち往生とやらを見せてみよ】

 

弁慶・不動立地。叫喚地獄が最も頼りとする者の肉体を疑似召喚し、相手の攻撃を阻ませる。その肉体は信頼が強固であれば強固であるほどに固さと強さを増す。──叫喚地獄に呼び出されればBランクの対軍宝具をも受けきれるほどに。まさに不動の壁として主君を護る忠義の守護と化する。そう──対人に極まった武蔵の技をも受けきるほどに

 

「っつ--!」

 

その肉壁は、村正の剛腕無双の剣で消し飛ばしたもの。自らの技はどこまでいこうとも対人。あれを消し飛ばすには位というか、カテゴリーの違いで届かない。立ちながら死したなどいう伝承があるなら尚更──!

 

【ご苦労だった。どけ、木偶の坊】

 

だがそれは叫喚地獄には、かつての主従関係などどうでもよいものであった。受けきったと見るや、あっさりと背後からその肉体を念入りに八分割し、切り刻み、蹴り飛ばし空中に四散させる。其処に、嘗ての軽やかさや自由さは、情などは微塵も無い

 

【サーヴァントというのは実に効率がいい。魔力があればいくらでも出せるというのが楽でいいな。さて──遮那王流離譚】

 

嘲笑い、冷笑を浮かべながら叫喚地獄は身体を疾走させ跳躍する。斬り飛ばした肉壁を足場とし、距離を一瞬にて詰める必殺の跳躍術。僅かな足場さえあれば、例えどこであろうとも跳躍を可能とする叫喚地獄が謳う伝説の中でも最も有名であり高名であるその伝承、逸話の再現にして御披露目。素早く武蔵の背後に在りし不動明王に近寄り──

 

【壇之浦、八艘跳──!その首、目障りだ!】

 

瞬時に剣を閃かせ振るい上げる──!反応も対応も赦されぬ刹那の一瞬にて愛刀、薄緑の目にもとまらぬ連撃連斬にて、不動明王の四つある腕が華麗に鮮やかに断ち落とされる。そして防御と防衛のいなくなり、丸腰となった不動明王の首を一閃して打ち払い吹き飛ばし、胴体を蹴りあげ軽やかに着地し

 

【──吼丸、蜘蛛殺】

 

薄緑にて音を鳴らし、清澄なる魔の音にて辺りを冷厳に糺し、厳かに不動明王を消し飛ばし辺り一帯にダメージを撒き散らす。その本来の刀の在り方すらも。宿業に歪められた物であれば純粋な殺人の業と変化する

 

「く、やられたっ・・・!しまった、此処まで鮮やかにやられるとは予想外・・・!」

 

上回れていることは知っていた。だがこれ程、これ程までに多彩な業だらけだとは思っても見なかった。精々一つや二つなんだろうなと侮っていた自分をぶん殴ってやりたい。五十に一しかない確率を嘗めてどうするというのか!

 

 

【大道芸も底が見えれば興醒めだな。これならばもう少しいたぶり抜いてすがらせてから破ってやれば粋のある絶望せし顏が見えたな、惜しいことをした】

 

「くっ、人の仏尊切り刻んでくれちゃって・・・!バチが当たっても知りませんからね!」

 

【おぉ、まだ活きがいいではないか。いいぞ、瀕死に喘ぐ落武者など斬ってもなんの足しにもならん。殺すならば──身の程知らずの若武者でなくてはなぁ!!】

 

そして、互いに打ち合い斬り合う真っ向勝負に移行し、武蔵はひしひしと感じとる。己の窮地、己に追い縋る死の気配を

 

(五十回に一回。そんな都合のいい勝機が巡り来る筈もないかぁ。このままじゃ、死んじゃうかもな・・・私)

 

そんな、明白ながらぼんやりとした死の予感。自分は何も残せず死ぬのだろうか。宮本武蔵、新免武蔵と謳われながら、その実主人と王に恩義も返せず無となって。──無となって・・・

 

(・・・ん?)

 

そんな中、ふと。軽く、思い付きや閃き程度の気軽さや気楽さで、宮本武蔵は無の在り方に、生死の境にて思考を至らせる

 

(なんで無は嫌なんだっけ?)

 

なぜ死を、無を恐れるのか。それは積み重ねてきたものが全て無くなるから、今こうしている自分が消えてなくなるから、総てを手放し、空っぽの存在になるから──

 

(無、空・・・──、・・・!)

 

其処で、思い至る。今まで自分は『無』をずっと『辿り着く』ものだと勘違いしていたのかもしれない。それは研鑽の霧散、打ち立てた人生の終演、誰もが辿り着く『無二』の終わり。だが、自分は何を目指していた?無に辿り着く為の剣か?──いや、違う。違う筈だ。無は、辿り着く為ではなくこの手で、この剣で──

 

(そして──空とは・・・)

 

虚空、空っぽ。全てが無くなる境地。それは積み重ねてきたものがあるから厭わしく、疎ましく、恐ろしい。確かに自分には、今の自分はそれはある。カルデアの皆、美味しいうどん、王様姫様、かけがえのない戦友にして親友、リッカさん──人間としての自分には数多ある大切なもの。だが、剣豪、宮本武蔵としては如何なるものか?

 

──何もない。数多の手合わせ仕合を乗り越えておきながら、世界を渡り歩いておきながら。自らの遺せしものは何もない。世界に弾き出され、世界にまろびでて、そして流れて辿り着き、また流れ出る。──どのような世界にもある、青空──『空』が如し──

 

(──!!)

 

天啓、あるいは悟りが如く。武蔵の魂の中でナニかが噛み合った感覚が、確かに何かのきっかけに届いたかのような感覚が胸を吹き抜ける。これは、死を明確に鮮明に捉え、『無』として垣間見たが故に、それに附随せし『空』の形をわずかながら垣間見たが故の確信──

 

【──何がおかしい?気でも触れたか?】

 

気がつけば、何時のまにやら自分は滅多打ちにされていたらしい。相手は無傷で此方は切り傷だらけだ。あぁ、自分は死にそうなのか、追い詰められているのかとあるがままに受け止め、笑う

 

「楽しいときには笑うものです。人間ならば、尚更ね」

 

そう──そうなのだ。怖いものなど、恐るるものなど何処にも無かったのだ。自らに喪い消える事を恐るる『剣』は無く未だ『空』である。仕合の果てに至る『無』はしかして自らが切り捨てるべき、断ち切るべきものにすぎない。故に、何も恐れなど必要ない

 

この身は流れ出ずる『空』であり、『無』に捧げる研鑽なし。空なる身なれば無を垣間見、無に至りて手放す剣なくば、その刃にこそ空宿る。空宿りしその刃にて、自らが至る無の総てを断ち切る──

 

「──見えた。空の境地。無たる死地を、何も重ねぬ空の刃で叩き斬るその極致。確かにこの眼で垣間見た・・・!」

 

 

垣間見えし、生涯の極致。あらゆる『無』の可能性・・・自らが死に至るもの、敗北するもの。それら総てを断ちきり因果を自らに収束させるもののみを掴みとる剣。──駆け抜ける雷、その傍らに常にある空なる位。その感覚を武蔵は刃に宿す──

 

【何をしているかは知らんが・・・念仏なら地獄で唱えるのだな新免武蔵ィ!】

 

叫喚地獄の──いや、かの存在のあるがままが見える。今までは暗中模索であったその輝き、その宿業、その姿と形がはっきりと見える。──断ち切れる。全ての因果、全ての無に、無為に終わる結果を捩じ伏せ、有となりし『両断』の結果のみを手繰り寄せる、泰然にて自在、静かな一刀を・・・躯たる叫喚地獄に一直線に振るう──

 

【──!?】

 

叫喚地獄が飛び退く。その当たり前のように、当然のようにするりと通り抜けた『一閃』を、彼女は天性の直感にて察知し警戒を為す

 

【貴様、何を・・・──】

 

見れば、武蔵は既に振り返ることもなく、ただ静かに刀を納刀している。この場に切るものなど無いというように。もう既に、掴むべきものは掴んだというように

 

「叫喚地獄、成敗。──貴女に感謝を。源義経。貴女の遮那王流離譚が、私に『空』の在り方を、『無』の断ち切る様を教えてくれました。奥義開眼──にはまだ足りませぬが。もう、宿業を斬る感覚と手応えは確かに」

 

静かに、厳かに刀を納め。チンッ、と静かに刀が音を鳴らすのと

 

【──!?な・・・!】

 

ばりん、と。──叫喚地獄が宿業を断ち切られ霧散が始まるのは・・・全くの同時であった──

 




【なっ--馬鹿な、こんな・・・】

「--・・・」

【認めぬ、なんだそれは!ただの、ただの一度にてこの私が・・・!このような結末が、このような決着が・・・!】

再び剣を抜こうとするが、もはや消滅は免れない。それを認めんと食いすがる叫喚地獄

【この世に最早正しきモノなど無いのだ・・・!人の世など百害あって一理もない、故に私は召喚に応じたのだ、この世を終わらせると・・・!たかが宿業が穿たれた程度で・・・!】

這いつくばりながら、血の泪を流しながら呪詛を撒き散らす。それを見かね、介錯せんと武蔵が振り替えるその時・・・

「ワフ」

【・・・貴様・・・】

しらぬいが、叫喚地獄の・・・牛若丸の傍にて一鳴きし、それを渡す。自らの好物、桜餅を

「ワン」

もういい、休みなさい。そう告げるかのように、叫喚地獄の傍らにて眠る姿勢に入る。そのあまりにも無防備な姿に、惚けきった顔に。--呆れたように苦笑を溢す

「--餞別にしても格安に過ぎる。このような餅で私を見送るのか、犬め・・・」

「ワウッ」

「・・・ふふっ、あははははっ・・・そうか。・・・人は、こんな甘味をも作るようになっていたか・・・あぁ・・・惜しいことをした。そうと分かっていたなら・・・」

少しは、自らを省みくらいはしたものを・・・そう呟き

「・・・兄上。・・・泰平の世・・・その価値が、なんとなく理解できたような気がします。刃を振らず、このような甘味を、兄上と共に食べられるような世の中は・・・それは--なんと素晴らしい・・・」

お惚けた顔の狼に見送られ、静かに消滅を果す

「--ワォオー・・・・・・ン」

その『牛若丸』の最期を送り出すかのように。静かに--しらぬいは遠吠えを行うのであった--

どのキャラのイラストを見たい?

  • コンラ
  • 桃太郎(髀)
  • 温羅(異聞帯)
  • 坂上田村麻呂
  • オーディン
  • アマノザコ
  • ビリィ・ヘリント
  • ルゥ・アンセス
  • アイリーン・アドラー
  • 崇徳上皇(和御魂)
  • 平将門公
  • シモ・ヘイヘ
  • ロジェロ
  • パパポポ
  • リリス(汎人類史)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。