人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ジャンヌ「主よ――この麻婆を委ねます――」


泰然

滅びし町、リヨン

 

 

その傍らにヴィマーナを下ろし全員が降り立つ

 

 

 

「ここが、リヨン」

 

 

かつてあった栄華は見る影なく、かつてあった賑わいはどこにもない

 

在るのは、ただ静寂と、死臭――

 

 

「……随分と食い散らかしたものよ」

 

胸が、痛い

 

喪われた命の中に、無価値なものはなかったはずだ

 

喪われた命の総てに、明日に素晴らしき事を成せる可能性があった筈だ

 

――自分より何倍も価値のあった、たくさんの生命が消え去ってしまった事に……けして小さくない痛みを感じずにはいられなかった

 

 

「そら、下を向いていても仕方あるまい。この犠牲に報いたければ励め。竜殺しが目当てであろう?」

 

――その通りだ

 

進もう。喪われた命の分まで、先へ

 

 

「うんっ。手分けして探そうよ!」

 

「解りましたわ、競争ね!では、私とアマデウスは西を行くわ」

 

「では、私達は東へ。二人ともお気をつけて」

 

 

「音楽家、王妃を精々護るのだな」

 

「解ってるさ。最初は二人旅だったしね。任せてくれ」

 

 

「さぁ、行きましょうか!」

 

 

 

「ロマン、ロマン!……あれ、おかしいなぁ」

 

見るとマスターが、何度もロマンと通話を試みている

 

「どうした、マスター」

 

「うん、なんだかロマンと通信が通じないんだ。どうしたんだろ」

 

「通信機の不調か……アレは悲観的ではあるが勤勉だ。職務放棄は有り得まい」

 

――オルガマリーとロマンの声が聞こえないナビは初めてだ。少しだけ不安がよぎる

 

「まぁ、今は対処に追われていよう。放っておけばいずれ打開しようさ。それよりも我等は我等の意義をはたさねばな」

 

「はい。先輩、瓦礫などにお気をつけくださいね」

 

「ありがと、ギル、マシュ」

 

「……ここは、かつて美しい都市であったはずなのに」

 

呻くようにジャンヌが呟く

 

……自らの見知る景色が焼け落ちる感覚は、想像もできない。ジャンヌの胸の思いが、理解できない自分が歯がゆい

 

「何故、竜の魔女は……」

 

「アレは貴様ではあるまいよ」

 

器が口を開く

 

「アレは決定的に違うことがある。貴様にあって、アレにないものがな」

 

「……私にあって、魔女にないもの……」

 

「然り。それがない以上、貴様の骨組みを使った贋作に過ぎん」

 

「それは……一体?」

 

「さて、な。――恐らくヤツは、藁の柔らかさを知るまいよ」

 

「藁の……?」

 

……器の物言いは、遠く、広い。真意を読み取るのは一苦労だ

 

ただ、一つだけ。核心をつかないと言うことは……自分でたどり着け、と言うことだろう

 

「ギルは謎かけ好きだよね」

 

「凡俗は精々、足らぬ脳を働かせるのだな。フハハ」

 

「……今は、ただ。ここの喪われた魂達の安らぎを祈りましょう」

 

両手を合わせ祈るジャンヌ

 

――だが、それを阻む声があった

 

「安らぎ、安らぎ。それはもう無く、よるべのない無念が疼くばかりのただ地獄」

 

 

歌うような響きの声音

 

「サーヴァント……!」

 

マシュとジャンヌがマスターを庇う

 

巨大な異形の爪、ぼろきれのような布

 

顔の半分を覆う仮面――奇妙な出で立ちの男性

 

「ほう、怨霊の類いか」

 

「我が真名、ファントム・オブ・ジ・オペラ……無念を詠い、悲哀を唄い、絶望を歌うサーヴァント……」

 

 

「陰気な歌よ、聞くに値せぬ。マスターとマシュの教育に悪い。――疾く失せよ。不敬であろう」

 

直ぐに財宝を選別する。オペラ……オペラ……オペラは、あの歌のオペラか?

 

弱点はなんだ?……魔性を祓う武器を選別してみよう

 

器の指が僅かに力む。波紋を展開する合図だ

 

 

「悲哀は失せぬ、怨嗟は潰えぬ、絶望は消えぬ。故に歌う、歌う、私は歌う。望みのままに。願いのままに」

 

そのまま、戦闘へ移る刹那

 

 

(マスター、マスター!)

 

(沖田さん?)

 

(はい、沖田さんです!そろそろ出番がほしいなーと思うのですが……どうでしょうか?ダメですか?)

 

(え、うーん……直ぐに全力出せる?)

 

(もちろんですとも!新撰組は常在戦場!屯所をでたら殺し合い、カルデア出たらぶったぎりですよ!) 

 

(解った、じゃあ私の合図で出てきて)

 

(はーい!沖田さんの剣さばき、ご覧ください!)

 

 

「マスター、準備を――」

 

 

――それは一瞬だった

 

「フォームチェンジ!『戦闘服』!」

 

指環を使い、一瞬でコスチュームを変更する

 

「先輩!?」

 

 

「――ガンド!」

 

そのまま指の先から、指向性の呪いを放つ

 

初歩の魔術と侮るなかれ、その力はマスター全てを賄う筈だったカルデアの魔力の決算

 

その莫大な放出は確実に、サーヴァントの自由を奪う――!

 

「がっ――!!」

 

「ほぅ……」

 

「来て、『沖田さん』!」

 

呼ぶが速いか、跳ぶが速いか

 

「――一歩音越え」

 

瞬時に間合いを詰める桜袴のセイバー

 

 

「二歩無間」

 

一瞬の、ワープのごとき歩方で、命の瀬戸際に辿り着く

 

「三歩絶刀――」

 

刀を抜き放ち――

 

「――『無明・三段突き』!」

 

――『全く同じタイミングの連突』を――胸に放つ!

 

 

「がはっ――――――!!!」

 

飛び散る鮮血、吹き出る血飛沫

 

胸を三度貫かれたオペラは、あっけなく倒れ伏した

 

 

「――戦場で唄なんて歌うバカで助かりました。斬ってくれと言ってるようなもんです」

 

チン、と刀を鞘にしまう

 

「てなわけで、いえーい!カルデアの沖田さん初勝利ー!見てくださいましたマスター!皆さーん!」

 

「貴様、アサシンであったか……見事な奇襲よ。島国のニンジャとやらは一回の奇襲はノーカンと聞いたが……」

 

「うぇえ!?セイバーですよセイバー!今の突きを見ていただきましたよねぇ!?」

 

「いえ、その……あまりに意識の外過ぎて……」

 

「――すみません、見知らぬ方。見逃してしまいました……」

 

「ガーーーン!!カルデアセイバーの初仕事だったのにー!そんなー!」

 

「やはりカルデアには輝かしいセイバーがいる……聞こえているかセイバー。貴様だぞセイバー……」

――見事にすぎる瞬間移動、まったく同じ瞬間に放たれる三撃……

 

アサシンと器が言うのも納得だ。あんなもの、剣でもなんでもない。何か……もっと別の何かだ

 

沖田総司、新撰組最強剣士……

 

島国の日本は、こんなデタラメな人間がいたのか……

 

「お疲れさま、沖田さん。帰っていいよ」

 

「え!?もう終わりですか!?そんなー!不公平です!ジャンヌさんもヘラクレスさんもキャットさんも素敵な出番だったじゃないですかやだー!」

 

騒ぎながら、沖田は退出していった

 

 

「――絶命したのでしょうか……」

 

「確実に死んだと思うよ」

 

「どれ、背中を刺され無様に死んだ優雅の如く確かめてやろう」 

 

ゴン、と足先で頭を小突く

 

「存命か?まだ歌う気骨は残っているのか?怨霊」

 

 

「――来る」

 

「ん?」

 

「来る、来る――来る」

 

うわ言を呟く、オペラとやら

 

 

「何が来るのだ。主語をつけぬかたわけめ」

 

 

「魔女、魔女よ。聖女よりいでし魔女よ」

 

「――来る。邪悪がやって来る!」

 

 

「邪悪……?」

 

何を、と聞く前に

 

『ロマニ、復旧した!?聞こえる!?皆!』

 

「所長!」

 

『はい!皆!すぐそこから逃げてくれ!』

 

「泰然とせぬか。どうした?」

 

 

『来るのよ!来るの!』

 

『サーヴァントを上回る、超極大の生命反応――!!竜種が来るのよ!!』

 

――なるほど

 

「――慌てている理由はそれか」

 

「サーヴァントを上回る……!?そんなことがあるのですか!?」

 

『そうよ!竜種は幻想種の頂点!サーヴァントだって上回る大きさなの!』

 

『まずいわ――!ぶつかったらただではすまない!』

 

「あぁ、ここにいたのね!」

 

マリー達がやってくる。異変を察知し駆け付けたようだ

 

『皆、撤退してくれ!ギルガメッシュがいれば安心とも言い切れない!その王様防御が手薄だから、君達が先にやられてしまう!』

 

「手薄ではなく一任しているのだがな……さて、どうする?なんの成果もなく、骨折り損で逃げ帰るか?」

 

「それは――!」

 

「今逃げたら、いつここに来られるか解りません――!それに、打開策なく逃げ回っていたら、いずれ……」

 

――その通り。押し込まれるだろう。じり貧だ

 

「であろうよ。ヤツは貴様らを逃がしはしない。少しはマシな種を招いたのだ、気を入れているのは瞭然よ」

 

「じゃあ、どうしましょう……?」

 

――決まっている

 

ここでの答えなど、考えるまでもない

 

 

「――我が竜めを引き付けよう。貴様らは竜殺しを拾い上げてくるがいい」

 

「え!?」

 

「英雄王――!?」

 

『何を無茶なことを!竜種だぞ!?いくら君が規格外だからってそんな真似は!』

 

「たわけめ。貴様らは我の何を見てきた。本気で倒すならともかく、時間を稼ぐなぞ造作もないわ」

 

――そうだ。ここに来た時点で覚悟は決まっている

 

「竜殺しなど王の役目ではない。我の財を無駄に費やさねば沈まぬ竜の討伐など願い下げだ」

 

――竜殺しの宝具の選別は終わっている。その中には当然、防御の宝具もある

 

問題ない。時間は稼げる。自分なら――英雄王ギルガメッシュなら

 

「王には王の、料理人には料理人の、竜殺しには竜殺しの責務があるのだ。――行け」

 

だから、行ってくれ。ここは自分に任せてほしい

 

「竜の躾くらいはしておいてやる。目当ての宝、必ず手にせよ」

 

「ですが……」

 

「行こう!皆!」

 

『リッカくん!?』

 

口火をきるマスター

 

「王様が言うんだもん、間違いないよ!私達は、私達のやることをやろう!・・・そうだよね、ギル?」

 

――目に涙を浮かべるマスター

 

……不安を圧し殺しているのが解る。死地に放る判断を下さねばならないことを

 

「ははは!それでよい。王の言葉だ、信じるがよい」

 

「――解りました。どうかご無事で、英雄王!」

 

「死なないでくださいね!」

 

「ゴージャス様!必ずまた……!」

 

『皆!その先に微弱なサーヴァント反応がある!そこにいる筈だ!』

 

 

「……無礼を詫びるよ。きみは大した王様だ」

 

「必ず戻るから――!」

 

走り去る一行

 

 

――これでいい

 

絶対の死地があるなら、自分が率先して立つ

 

皆を、みすみす死なせはしない。理不尽な死など認めない

 

必ず――皆を旅の終わりに導くために

 

 

自分が、何かを為すために……死の運命に立ち向かおう

 

 

「――わざわざ来てみれば。あなた一人ですか?」

 

凄まじく巨大な邪竜の上から語る魔女

 

 

「そうさな。我も散歩をするときもある」

 

「――なるほど。それはそれは――どこまでも嘗めてくれますね!このファヴニールを前にして勝てると!?」

 

「当然であろう」 

 

竜殺しの武具、総動員。砲門展開――350門

 

 

 

「我はゴージャス、ギルガメッシュ。――人類最古の英雄王。その程度の蜥蜴など見飽きておるわ」

 

――皆、ここは器と

 

「――試してみるか?我が財の真価を、その図体で余すことなくな――!!」

 

――無銘の自分が、引き受けた――!!

 

 

 

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