「知ってる?アーノルド。近々此処にセラピストが来るみたいよ」
「ふん。こんな僻地にセラピストが何が出来ると言うんだ。君はそんな下らない事にかかずらう暇があったら職務の一つもうまくできるようになったらどうなんだマーブル」
「うぅ・・・で、でも私は楽しみだなぁ・・・新しい人って、やっぱり刺激になるしあいたっ!?」
「仕事をしろ、給料泥棒の無駄飯ぐらいめ。上司に密告してもいいんだぞ?」
「はーい・・・」
当日
「ガトー・モンジである!じゃんけんにて此処に招かれた縁、大事にしようではないか!ガッハハハハハハ!」
「・・・」
「・・・」
「よろしく頼むぞ!ガァッハハハハハハハ!!」
「マーブル・・・」
「私に聞かないで・・・じゃんけんで負けたって、どういうこと・・・?」
改装にて、すさまじい勢いで進化していくカルデア。変化していき、強くなっていき、強固になっていく。人の、王の手によって。それは無限とも言っていい財と、敏腕なりし改築の施しがあってこそ、即座に強力になっていくものなのである。
しかし、そこに住む者は一朝一夕にて強くなる、というわけにはいかない。財や、改築にて一夜にて強くなるのではなく、強力になりたいなら、違う自分になりたいのなら。自分を鍛え上げていかなければならない。そうしなければ、楽園にいる資格を失ってしまう。故に--日々を過ごす為に、一同は毎日を積み重ねている。若しものとき、侵入者を撃退せんが為に、未来へと前に進むために
・・・それは、前に進む者達の訓練であり、義務。そんな一幕を、毎日において描き続ける楽園の者達を・・・焦点を絞り垣間見ていこうと思う
「965、966、967、968・・・」
トレーニング、シミュレーションルームにて腕立て伏せを、『今日からモテモテになるお嫁さん花嫁修行、読んで身に付く女子力強化編』を読み込み、筋肉と女子力を同時に鍛え、自分を徹底的に高めて強くなっていくリッカ。このカルデア唯一のマスターとして、主軸として。完全なる怠惰は許されない。何処ぞの司教に問い掛けられないように自分を高みへと、一分一秒前の自分より高めていくのだ
「998、999、1000!よっし、腕立て伏せ終わり!次は家庭的裁縫の進めを読みながら腹筋行くぞぉ!12345678910・・・」
スポーツブラとスパッツを着用した身軽な姿のままで、本を読みながら自らを徹底的に高め、自らを可愛らしくするための知識を身に付けていく人類最悪のマスター。武器を振るい、特異点を駆け抜け、敵を倒し、世界を救う為の土台はこうして作り上げられる。何処までも、何度でも、限界はなく自らを鍛え上げていくのだ
「――」
そして、それはけして孤独な鍛練ではない。マスターを支える者達も、また彼女を支えられるように立派な自らを目指して。楽園に相応しい者となるように自らを徹底的に鍛えていくのである
「しっかり相手を見据えなさい。盾を持つものが恐怖に呑まれていては話にならないわよ」
両手に握る二挺拳銃。白い『フリージア』とオレンジ色の『アニムスフィア』から放たれる凄まじいほどのラピッドファイア・ガンドを無制限で放ちまくるオルガマリー、そしてそれを歯を食い縛って、耐え続ける・・・リッカのメインサーヴァントが一人、マシュ・キリエライト
「っつ、ぐ、ぐぅっ――!!」
あまりにも間断なくまるでガトリングの様に叩きつけられるその銃弾の嵐を必死に耐え抜き、反撃の機会を待つ。ガンドの一つ一つが神代の魔術により強化され、一撃食らえば霊核が軋むほどの凄まじい銃撃を必死に耐えて、耐え抜くその姿は、マシュの気迫と決意を存分に示している
マシュは先程、二人に告げていたのだ。『模擬戦に付き合ってください』と。自分に装着される新装備を的確に使いこなすために。そして、凄まじい勢いで進化していく先輩に必死になって比肩するために。その想いを汲み取り、オルガマリーが自分がやると申し出た。彼女としても、自らの魔術の腕を研鑽するにはうってつけの申し出だからだ
「おぉお・・・キツツキみたいにばかすか撃つなぁ・・・」
専用の反動軽減魔術、そして魔術の弾丸という特性上、其処に連射の穴というものはない。白とオレンジの弾丸は途切れることなく、マシュの盾を徹底的に打ち付けていく
「はぁっ――っうぅ・・・!」
「身体の中のギャラハッドに甘えてはダメよ。英霊の力ではなく、自らの勇気と決意で盾を支えなさい。生命の輝きが振るえるサーヴァント・・・それは今と未来を手にする資格を持つ極めて貴重な存在よ。――、――⬛⬛⬛⬛」
現代人が発音できぬ呪文を告げながら、マガジンに装填される魔術系列を取り替える。連射、速射式弾丸から、自在に駆動し、移動し、ホーミングしていく追尾弾を装填し、両腕で構え、マズルフラッシュと共に放っていく
「9、7、5。5、4、6」
それぞれ、時計の針が示す方向を表している弾丸の飛来せし方向へ銃弾を撃っていく。それぞれが盾の裏側にいるマシュを狙うための追尾飛来弾だ
「っ、くっ!――っ!――!」
当たれば致命傷の箇所に撃ち込まれる必中の魔弾。目、こめかみ、心臓に肺、動脈血管などに狙いを定めたその悪辣な弾をオルガマリーの声と共に反応し、次々と捌ききり、無力化していく
「8、6、5――12」
左腕の『フリージア』から絶えず追尾弾を発射し、マシュの動きを釘付けにしておきつつ・・・右腕の『アニムスフィア』を片腕のガンアクションにて振り回し、装填する魔術系列を入れ替える
「正面よ、マシュ」
即座に放ち、アニムスフィアによる一撃を叩き込む。真正面から飛来するその黄昏の魔弾。そして連射が遅くなったマシュは好機とばかりに、自らの五体を駆動させ突撃していく。オルガマリーの銃弾はサーヴァントの一撃に匹敵するものであるが・・・それを凌ぎきれば、自分がイニシアチブを取り無力化できると踏んだのである
「やぁあぁぁあぁあぁあぁ!!!」
「――――――(ニィ)」
魔弾を防がれ、無防備となったオルガマリーに、マシュは距離を詰め渾身の一撃を振るい上げる。盾によるシールドバッシュを狙った起死回生の一撃だ。――そしてそれは、オルガマリーの思惑通りであった
「――――⬛⬛」
オルガマリーが一言、神代の呪文を唱える。刹那――
「きゃあぁあっ――!?」
『盾に突き刺さった弾丸を起爆する』術式を展開され、振り上げた盾そのものを爆破魔術で吹き飛ばし、爆風に巻き込む。攻撃による意識に注力していたマシュにとってそれはあまりにも意識の外からの一撃であり、加えられた衝撃、混乱の最中の爆発。それらに翻弄され困惑のままに盾を取り落としてしまうマシュ。攻撃から一転、無防備の憂き目にたたされてしまうマシュ。盾が宙を舞い、突き刺さるのと
「
コツン、とマシュの額に『アニムスフィア』が添えられ、オルガマリーのウィンクがマシュを穿ったのは全くの同時であった。シミュレーションシステムを左手の指ならしで終了させる。ぺたんと尻餅をつくマシュ。クルクルとガンを廻し、太股のホルスターへとマウントするオルガマリー
「守勢による守備は強固なのは当たり前。一番脆く危ういのは攻撃に注視している時よ。攻撃しているとき、チャンスだと思うときにこそ自分の身の回り、展開に気を配りなさい」
「・・・い、一瞬何が起きたのか分かりませんでした・・・所長の銃撃が激しくて、ようやく懐へ、と思ったら盾が爆発して・・・」
「『意識の死角』『盲点』というヤツよ。まぁ、サーヴァントにこんな姑息な真似をしてくる者はいないでしょうけど。意識の外や死角を無くすことは覚えていて損はないわ」
そっとへたりこむマシュに、手を差し伸べ立ち上がらせるオルガマリー。未だに状況が飲み込めないとばかりに、マシュはぽわーっとしている。其処に・・・
「お疲れさま、二人とも!クッキー焼いたげるから休憩しよ、休憩!」
リッカが肩を組むように二人を抱きしめる。二人は汗すら掻いていないが、リッカは入念に拭き取った後だ。その対照的な姿に、3人は笑い合う
「そうね、休憩しましょうか。じゃんぬやエミヤさんに仕込まれた腕前、見せてもらうわよリッカ」
「は、はい!先輩、よろしくお願いいたします!」
「よろしい!任せといてー!」
『女子とは力』と書かれたエプロンをつけ、シミュレーションルームに備えられた間取りが5LDKの休憩施設のオーブンに引っ込んでいくリッカに、顔を見合わせ笑い合う二人
・・・人理修復を終えた今、新たなる脅威というものは突発的に発生する特異点ぐらいしかない。人理を脅かす何者かが現れる筈ではなし、このような鍛錬は謂わば日課、訓練の延長であり、ともすれば必要ないものでもあるのかもしれない。しかし、王は日常における怠惰と惰性を良しとしなかった
『人は堕落する生き物である。これは趣味嗜好ではなく原罪、人の業なのだ。堪能するのはよいが沈むことは赦さん。常に己を磨くがいい』
そのモットーにしたがい、カルデア職員を含めた皆は自らを鍛えているのだ。デスクワークでなまりがちなオルガマリーはあえてデミサーヴァントのマシュと組手へ、マシュは攻勢への転じ方を、リッカは女子力と槍の冴えをそれぞれ課題として集まり、練習しているのだ
日々とは鍛練であり、自らの限界に挑まぬ生命はつまらぬ。その理念を貫き続け、カルデアに在るものは自らを磨き続けるのである
「ありがとうございました、所長!また、よろしくお願いいたします」
「こちらこそよ。良いデータが取れたと師匠もきっと喜ぶわ。また時間があったらやりましょうね」
握手を交わすオルガマリーとマシュ。にっこりと笑い合いながら互いを讃え合うその姿に、もうかつての関係・・・恐れ、恐れられる関係は見られなかった。互いに認めあい、互いに支え合う大切な親友同士として・・・二人は互いを讃え、認め合っている
「リッカのクッキー、楽しみね。少しずつ、少しずつリッカも女子になっていっているから・・・これなら、未来は明るいと思うわ」
「はい!エベレストの山を登るのも一歩一歩・・・先輩はまだ登り始めたばかりです!この果てしなき自分磨きの旅を・・・!」
「・・・なんだかたどり着けそうにないのは気のせい?」
「焼き上がったよー!さぁお食べ、お食べ!たくさん食べて、午後も頑張ろう!」
「はい!先輩!」
マシュが喜色満面の笑みで先輩たるリッカの下へと駆け寄っていく。最近はすっかり遠慮が無くなり、気安い親友となった二人の関係に、静かに笑みをこぼす
「マリー!次は私とねー!」
「はいはい、クッキーが美味しくなかったら女子力補習よ」
「そこは大丈夫!じゃんぬにスッゴい仕込まれたからね!じゃんぬのコーチングは伊達じゃないよ!」
自信ありげに告げるリッカに苦笑しながら、オルガマリーもまたマシュの後を追う。そして訪れる、穏やかな一時
「美味しいです!先輩!やりますね!流石は私の先輩です!」
「褒めても何も・・・あぁ~後輩を甘やかしちゃう音ぉ~。クッキーあげる。いっぱい食べていいよ。どうせ栄養はおっぱいにしかいかないんでしょマシュは。いぃ~なぁ~!!私の後輩は本当たわわなしゅけべましゅなんだからなあ~!」
「そうですよ!先輩を飽きさせないマシュボディを作るため、余念が無いのです!誉めてください、先輩!」
「どうオルガマリー。コーヒーに合うような味付のクッキーを焼いたつもりだけど」
「先輩!?」
「悪くないわ、寧ろいいわ。ありがとうリッカ。成長しているわね。一個人として嬉しいわ」
「えへへ、ありがとう!頑張って皆に振る舞えるようになるからね!」
「ぐ・・・ぐぬぬ・・・オルガマリー所長!後でもう一回!再戦を要求します!」
「はいはい。じゃ、リッカ。午後はよろしくね。汗を流しましょう?」
「うん!あ、聞いて聞いて!スズカやカーミラに教えてもらったんだけど、アイメイクやネイルの使い方や、パウダーの合い方はね・・・」
三人で同じ机を囲み、笑い合う淑やかにて華やかな今を生きる者達の触れあい。日常の一幕
「・・・ふふっ」
「どったの、マシュ」
「いえ。こんな日が、続いてくれればいいな・・・と」
「・・・ん、そうだね!」
「続くわよ。このカルデアはもう・・・皆の家のようなものなのだから」
三人は顔を見合わせ、朗らかに笑い合う。女子力を学びながら二人を乗せて腹筋するリッカ、朗らかに過ごす日常の一幕
・・・ここで終われば。微笑ましい日常で済むのだが・・・此処は一味違うがカルデアである
「じゃあ、始めよっか」
龍が如く上着を脱ぎ捨て、鍛え抜かれた肉体を露にしエプロンを脱ぎ捨てるリッカ
「えぇ、いつでもどうぞ」
はらりとコートを脱ぎ、しなやかに仕立てられた雌豹が如き肉体を露出するオルガマリー
左手に槍を、銃を持ち、二人は拳を重ね合う
「我が名は藤丸リッカ。人類最悪のマスター也」
「我が名はオルガマリー。アニムスフィアの名は捨てし者也」
重ねたその合図を皮切りに――槍を振り回し、銃を引き抜き
「「いざ尋常に――勝負!!」」
訓練が始まる瞬間・・・華やかな雰囲気は消え失せ、銃弾、槍、魔術、弓、剣、神代の魔術がが飛び交う地獄さながらの演習が幕を開ける――!
「おぉおおぉおおぉおおぉおおぉおっ!!!」
「――ッ!!」
その様にシミュレーションルームが軋み、凄まじい勢いでシミュレーションエリアが崩壊していく
「先輩・・・所長・・・」
そのさまを呆然と見据えたマシュが、一人呟く
「私の知っている訓練は・・・こんなに激しいものではなかったと思います・・・」
「
「うぉおぉおぉお!!
激震する空間、軋み続けるシミュレーション。応酬される、宝具並の大火力。空に浮遊し、浮かび上がる巨大な魔方陣。人が弾け飛ぶ魔力総量
「『
「
・・・余波によって半壊するシミュレーションルームにてマシュは・・・二人のこの半年にて仕込まれに仕込まれ抜いた凄まじき血の濃さを痛感するのであった――
ガトー家
「カルデア・・・」
先刻 例のBGM
「ガトーさん、私、負けるわけにはまいりません(アー、アアァアァーァー)」
「ぬうっ--!この気迫・・・不動明王に匹敵するか殺生院!」
「カルデア・・・行かねばならぬ理由があるのです・・・!」
~
「良かった。95回のあいこの末、ようやく掴めましたわ。・・・」
(・・・あなたは、今もいてくださるでしょうか・・・)
~
人はまだ未熟。だけどいつか--宇宙の総てを、その積み重ねた徳で助ける日が来ます
・・・お医者様。私は、菩薩になりとうございます
~
(私も、あなたのように・・・同じ場所で。私の誓いを果たしたいと願います。どうか、見ていてください。そして・・・)
「いつかで会えた日に・・・名前を教えてくださいませ。--お医者様」
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