人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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『あら、お帰りなさい。エア。ご飯にする?お風呂にする?』


「式ちゃん!頼みがあるんだけど!」

『あら、珍しい。ふふっ、いいわ?なんでも言って?』

「ワタシに絵を教えて!出来るだけ日本風味に!」

『あら、絵・・・?勿論構わないけど・・・』

「ありがとう!あと、筆跡とか・・・!」



『こんなものかしら。大丈夫?しっかり書ける?』

「ありがとう!見てて、ワタシはやるよ!行くよフォウ!フォームチェンジ!」

(任せてくれ!プライミッツ!ペンモード!)

《フォウ・・・フォームチェンジ・・・ふ、ふはははははは!はははははははは!!》

(一人で受けてんじゃねーよ!)

『ふふっ。一人でお絵かき・・・できるかしら?』

「・・・助六さんの想いを、フォウの筆先に込める!いざっ!供養の一筆入魂!」

(・・・キミは他人の為にも、自分の為にも頑張れるんだね・・・それでこそだよ、エア)

《ふっ。酔狂とは言うまい。これもまた、紛れもない手向けになるだろうよ》


後日談--天元の華、けして散らず

背筋も凍る、鬼ヶ島における鬼退治三番勝負を終え、リッカと武蔵は時空の狭間へと飛び込みカルデアへと帰還を果たす

 

漂流と平行世界跳躍を宿命として背負った武蔵の性質にて本来ならば同じ世界へとは戻れぬはずだが・・・英雄王と英雄姫の『単独顕現』の影響により、カルデアを基本的なセーブポイントとしているため、単純な行き来ならば可能となっている。同時にロマンのカルデアサーヴァント登録によって、楽園のサーヴァントをロスト、剥奪からカバーする魔術により不可抗力による消失を防ぐ手段が施されている為、武蔵は此処に帰ってこれるのだ

 

「いたっ!?」

 

「へぶっ!!」

 

リッカを下敷きに武蔵ちゃんが帰還する。其処は100万石倶利伽羅武蔵城の天守閣。飛び立った場所と、全く同じ場所である

 

「うわぁ!?帰ってきた!大丈夫かい二人とも!」

 

驚きを露にするはロマンである。頂上にて通信状況が不明瞭になり、こうなったらアルスパウリナして時間神殿建てて空間掌握しちゃおうかなと考えていた矢先に帰還を果たした二人が落っこちてきたのだ。用意していた湯飲みがひっくり返らない事に魔術回路の一割を使用し乗りきる程に動揺する

 

「ロマン・・・武蔵ちゃん、私達生きてるよ・・・」

 

「えぇ、そのようです。あれだけの剣鬼に睨まれて、五体満足でいられる事こそ大戦果。これ以上は望めぬほどの大勝利と言うしかないわ・・・」

 

見ると、鬼ヶ島に続く空間の穴が閉まっていく。役目を果たしたという事であるのか、もう二度と行くことは出来ないのか。それらの疑問と共に穴は狭まり、いよいよ以て完全に消え去る

 

「な、何があったのかは分からないけれど・・・取り敢えずお疲れ様、二人とも。無事なようで何よりだよ!大丈夫かい?顔色が真っ青だよ?」

 

二人のバイタルが乱れていることを見据え、労いといたわりの言葉を向ける。その言葉こそが、本当に帰ってきたという実感を二人にもたらし・・・

 

「「はぁぁあぁ~・・・」」

 

緊張と困惑の糸がぶっつりと切れ、ぐだりと倒れ込む二人であった。平穏の象徴たるロマンの顔を見ることが出来た、という事実が何よりも胸中に安堵をもたらすのである

 

「ど、どうしたんだい本当に!大丈夫かい!?しっかりしなよ二人とも!」

 

「ダメかと思った・・・本当にダメかと思った・・・」

 

「そんなにかい!?余程恐ろしい目にあったんだね君達は・・・!な、何がいたんだい?日本に伝わる大鬼、酒呑童子や大獄丸、温羅とかに出会ったのかい?通信が悪くて見えなかったんだけど!」

 

「セイザーのサーヴァント」

 

「えっ!?セイザー!?」

 

「生身の剣士として極みに至った方でした。・・・リッカさんと助六殿がいなかったら間違いなくやられていました。・・・はぁあ・・・」

 

「正座で剣士に?生身・・・!?ど、どういうことだい・・・!?」

 

「後で報告書書くから、今は取り敢えず・・・おうどん食べたい」

 

「おうどん!?」

 

「二人分、食堂にて用意していただけますか・・・もうホント、口の中がからからでして・・・」

 

「わ、解った!肉うどんと温玉だね!」

 

「「お願いしまーす・・・」」

 

二人の要請を受け、ダッシュで食堂に駆けるカルデアNo.2。パシりめいた事をさせて恐縮だが、死地から生還したことによる全身の弛緩にて動くことも出来ない二人である

 

「あー、死ぬかと思ったぁ・・・」

 

「全くよ!あのお爺様次会ったら・・・」

 

「武蔵ちゃん凄い、次会いたいんだ・・・」

 

「・・・なるべく、会いたくないですね、はい」

 

ごろりと身体を投げ出し、天守閣から見える景色を望む二人

 

「・・・リッカさんに、狸の小次郎。そしてあの剣聖のお爺様・・・」

 

武蔵の言葉に浮かぶは、自らの先を行く極みの剣士達。奥義をも開眼出来ずもがくこの身を嘲笑うかのように、次々と現れ出でる剣客。様々な障害にして、凄まじき者達

 

「・・・」

 

懐く志は高く、しかしてその到達するべき極みは遥か先に。自分はその切っ掛けに至ることすらままならず、護ることすらおぼつかぬ

 

「・・・あーあ、自信が無くなっていきます。こう、積み上げてきた細やかな誇りとかが木っ端微塵です」

 

様々な世界を見て、渡り歩き、女手一つで生きてきた。この剣と腕を頼りに生きてきた。様々なものを斬ってきた。それで多少は誇れる腕前があると自負も少しはあった

 

だが、そんなものは本当に強き者へとは欠片も通じなかった。掴んだと思ったものは、積み上げたと思ったものは、ただの自惚れでしか無かったのだろうか。ただの自己満足でしか無かったのだろうか

 

・・・自分は、何をしているのだろうか。身体だけではなく、魂まで依る辺を失った舟のようだった。何を目指し、何を求めているのかも、今は雲っているかのようだ

 

「・・・我が身、未だ空には至らず。求める零は遥か先--か」

 

その言葉と同時に、何か、気迫や意気込みのようなものもするりと抜け出ていくようで。剣士として、大切なものも、翳っていくようで・・・――

 

「――ありがとう、武蔵ちゃん」

 

――そんな武蔵の心の涼風となったのは、マスターたるリッカの感謝だった

 

「私だけじゃ死んでた。良くて引き分け。武蔵ちゃんがいてくれて本当に救われた」

 

リッカの言葉に、素直に是とは言えぬ武蔵。助けられたのはこちらだ。自分はただ、リッカさんの後ろに隠れて小賢しく生き永らえただけで・・・

 

「私達は生きてるよ。首も、腕も、脚も。ちゃんとあって、家に帰ってこれたよ。武蔵ちゃんがいてくれたから」

 

傍にいてくれたからだ、とリッカは告げる。貴女がいたから頑張れた、生きて帰れたと。そうリッカは武蔵に告げるのだ

 

そして、生きているなら必ずまた立ち上がれると。リッカは言葉を紡ぐ

 

「転んでもいい、泣いてもいい。そしたらまた起きればいい。泥を払う腕も、立ち上がる脚もちゃんと此処にある」

 

何度負けようとも、無様でも、みっともなくても。それならば必ず立ち上がることができると。リッカは武蔵にそう言うのだ

 

「リッカさん・・・」

 

それは、リッカがずっと続けてきた生き様。何れ程みっともなくても、前に進むことは止めず、諦めず、ただ前に進み、生きたいところに辿り着く。それが彼女の生き様にして、これまでずっとやって来たこと。今までも、これからもやっていくこと

 

だから――

 

「くよくよしてる暇はないよ武蔵ちゃん!さぁ、腹拵えして次会った時リベンジしよう!武蔵ちゃんなら絶対、セイバーのサーヴァントなんかに負けないよ!」

 

そうリッカは信じている。そうリッカは信頼している。だって、目の前にいる彼女は紛れもなく、誰でもない・・・

 

「あなたは、天下無双の大剣豪!宮本武蔵なんだから!私の信じる最強の剣士!でしょ?」

 

宮本武蔵であると、確信しているのだから。だからこそ自分は、彼女を信じるのだ。何度でも立ち上がることができる。必ず、極みに至る事ができる

 

必ず・・・空位に至る事が出来ると。出来るかできないかなどどうでもいい。ただひたすらに信じること、応援すること。それがマスターとして、パートナーとして。自分ができる唯一にして最大の事だと。リッカは信じているがゆえに

 

「――リッカさん・・・」

 

萎えかけていた闘志と剣気に、力が戻る。その眼差しに、再び晴れやかな炎が灯る

 

――名誉や金のためなら自分は逃げる

 

――恨みやつらみの類いにおいても自分は逃げる

 

――だけど、この身を、この未熟な刀を信じ、魂を預けてくれると言うのなら。この私を、信じてくれると言うのなら

 

「――応とも!一や二の失敗や躓きでへこたれてはいられません!」

 

我が身、全てを駆けてその信頼に応えるために剣を振るわん!差し出されたリッカの右手を掴み、立ち上がる

 

「私の道は遥か遠く。なればこそつまづいてはいられません!この身にかかるあなたの期待に、全霊を以て応えましょう!」

 

その顔に、先程かかっていた曇りはなく。ただ晴れやかで自信に満ちている。自らを頼りにしてくれる信頼の重みが、確かに武蔵の魂を叩き起こしたのだ

 

「改めて、よろしくね。リッカさん!私の空位への道、しっかりと見届けてもらいます!この身が果てるその時まで・・・傍にいてもらうから!」

 

「おうっ!じゃあ私のことは、リッカ殿って呼ぶように!主従なんだし!」

 

「ええっ!?格式まで適用ですか!?」

 

「あはは!うそうそ。その代わり・・・互いにお尻を叩き合うって事で!サボりは、ほどほどにね?」

 

「はい・・・真っ当に頑張ります・・・」

 

手痛い敗北と無力感、遥かに遠き頂きを痛感し折れかけた剣を、再びリッカが打ち直す

 

「お待たせ!うどん持ってきたよー!」

 

「「あ!ありがとう!」」

 

傍に、自らを信ずる何者かがいる限り。人は何度でも立ち上がれる。だからこそ、道を進み、何処までも歩み続けられる

 

一人では届かずとも、二人でなら。極みに至る道筋は、必ずや其処にあるが故

 

「「いただきまーす!!」」

 

その為に。人は出逢い、縁を紡ぎ前を向く。脚は前に進むために?腕は立ち上がり、道を斬り拓く為に

 

大輪の華は、邪龍の傍らにて咲き誇る。遥かなる頂きを見据え、青い空を眺め・・・花を慈しみ、空を飛ぶ鳥に想いを馳せ、風を受け、月を眺める

 

それこそが、今を生きる人の特権。総てを為し遂げる可能性を持つ、未来へと紡がれるべき魂の輝きに他ならぬ故

 

「大体、凹んでいたら助六殿に怒られます!『宮本武蔵、語るに落ちたり!』なんて!剣豪フリークでしたし?」

 

「だよねー。次に会うときには奥義に達してないと助六くんがっかりするだろうなー」

 

「・・・わ、若いうちに会えるかしら・・・大丈夫よねきっと!うん!」

 

「僕もそうだな、シバを誘ってみよう。日本のうどんは美味しいってね!よーし、早速・・・!」

 

――宮本藤丸伝説。未だ始まったばかり。その研鑽と歩みは、此より積み重なり、未来へと歩み、進んでいく

 

「そんな事より・・・!」

 

「「おうどん美味しい!!」」

 

・・・但し。色気と出逢いに関しては暖簾に腕押し糠に釘。遥か空の、月の彼方の話である。

 

 

・・・不可思議な鬼ヶ島のお伽噺は、此にて御仕舞い。そして舞台は--

 

 

【・・・――ライダー、叫喚地獄。此処に顕現致した。私は何を斬り、何を紡げば良い?】

 

【・・・駒は揃いつつある。・・・後は、二つ。邪龍と新皇に滅せられたキャスター・リンボ、そして・・・】

 

 

 

別場所・神社

 

 

「・・・む?縁もなく、マスターもなくこの身が呼ばれるとは。如何なる仏の導きか・・・まぁそれはともかく。呆けてばかりもいられぬ、か」

 

 

平将門公・首塚

 

 

「ワォオーーーン!!」

 

「待って!白ぬいー!待ってってばー!」

 

「きゃっきゃっ!あうー!」

 

・・・おんりえどの死風漂う、下総の地へと向かい始める

 

 

――日ノ本に、再び暗雲立ち込めし時。我、必ずや顕現を果たさん――

 




そしてこれは、数日後のお話


【私が編み出した槍技、見せてあげる!!行け!我が槍!!我が悪の結晶よ!】

「槍を投げ--!?」

運命の戦争(ミラボレアス・)を告げる(ラグナロキリウム・)槍龍(スピアニス)】!!

【--⬛⬛⬛⬛!!!!!】

「それ槍なんですか--!?泥と槍で組み合わせた龍とかぶっ飛びすぎでしょう--!?」

【万能に暴れ回り、生物の極みとして出鱈目に強い!触った総てを呑み込み倒す!!これが私が編み出した槍だぁ!!】

「それ槍違いますよリッカさん--!!」

そんな楽しい特訓の日々を過ごす二人に・・・


「おーい!二人ともー!」

「?姫様?」

「え!?まさかの!?」



「こちら、二人への届け物となります!」

エアから受け取った巻物を開き、二人は感嘆を上げる

「これ・・・!」

其処には、リッカと武蔵が鬼相手に立ち回る姿が記された物語が紡がれていた。それらは童話のようにデフォルメされ、可愛らしく描かれている

「宮本藤丸伝説・・・助六様から預かってきました!二人に渡したいとの事なので、お納めくださいね!」

二人の女性が、小鬼の案内にて痛快に鬼をやっつける英雄譚。鬼ヶ島で起こった一部始終が鮮明に書き記されている

「助六殿、絵が随分可愛らしい筆遣いなのね!あ、このまるっこいのはリッカさんかしら!」

「武蔵ちゃんも可愛くなってる!むしろ私は本物より可愛い!!」

二人はその物語を夢中になって読み耽る。その様子を見て、エアとフォウは顔を見合わせ笑い合う



《仕損じるなよ、獣。貴様の尻尾がエアの脚を引っ張ることは許さぬぞ》

(解ってるよ!見ておくがいいさ。ボクの尻尾は会心の出来さ!)

「よーし、行くよ!フォウ!」



フォウの力、式ちゃんの力を借りて、エアが助六殿の遺志を継ぎ宮本藤丸伝説を代わりに書き上げたのだ。筆先に人格が出たのか、暖かく柔らかい水墨画めいたタッチになってしまったが、それが逆に暖かい雰囲気を醸し出している

《フッ、まこと甲斐甲斐しい事よな》

--これがきっと、あの助六様への供養になると信じたいです。彼と二人がいた時間は、こうして残っているのだと

そうする事が、僅かなりとも魂の慰めになると・・・エアはそう信じ、行動したのだ

あの旅路は、僅かなる冒険は確かに在ったもので。彼は確かに、二人の女の子と鬼退治を行ったのだと、残すために

--ありがとうございます。助六様。あなたが救ってくださった二人の生命は、必ずや何万倍もの命を護り、救ってくださるでしょう

だから、どうか安らかに。怨念と我執を越え、二人を護り抜いた気高き武人よ

《フッ--さて、戻るぞ。二時間近く夜更かしをしたのだ、昼寝の時間を取り、休息を取ることを命ずる。これは王命である》

--はい!エア、寝ます!

この物語が、あなたの魂が在った証となり。ずっと二人の心に残りますように--



--・・・忝ない。慈悲深き配慮、感謝の到り--


吹き抜ける風に混じり、そんな声が・・・耳に聞こえた気が起こり。エアは空を見上げるのであった

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