人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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深夜3時


「ナイフを振ったらおくびが飛んだ♪もひとつ振ったらおくびが飛んだ♪・・・ん?」

「すう・・・リッカ・・・」

「・・・なんで部屋前で寝てるんだ、入ればいいのに。・・・」

『毛布』

「冷やさないようにしろって。サーヴァントだって風邪・・・引くのか?」


王の私室

「エア~」「エア~」「エア~」

「フォウがいっぱい!」

「エア~」「エア~」「エア~」

「あっちにもこっちにも・・・フォウがいっぱいだ~!わーい!ぎゅーってさせて!フォウ~!」

「「「「「「エア~」」」」」」

「ほわぁ~!」



--えへへ・・・フォウ・・・そんなにいっぱい・・・じゅんばんだよ、じゅんばんぅ・・・

(むぎゅうぅ~・・・)

「イン、ゴッド・・・」


おやこ~血が、繋がっていなくとも~

頼、と名乗る美人さんは、京・・・平安の方から流れに流れ着いた流浪の旅人らしい。薬や、色んなものを売りながら旅を続け、流れに流れてこの地までやってきた・・・との事だ

 

「夫にも子にも先立たれ、もう辛い思い出しか残らぬ土地から離れ、心機一転にて頑張りたい」

 

そう言った理由で、わざわざ一人旅を続けてきたという。その理由が真実であろうと、偽りであろうと・・・自分はこの人に力を貸したい。そう思った

 

だって、似ているのだ、そっくりなんだもん。私の大好きなあの母上に。あの・・・私を愛すると言ってくれた母上に

 

物憂げに俯く仕草、宵闇の夜空のような綺麗な髪、母性の表れの大きな胸、絶世の美貌。何から何まで、そっくりで。困っているなら、助けてあげたかった。理由も、理屈も抜きで。自分にしてあげられる事をしてあげたかった

 

『是。ますたぁの成したいままに振る舞うがよし。御身、我が保証する者であるが故に。黄泉に出向こうと連れ戻す決議なり』

 

ルーラー様の頼もしすぎる赦しも下りたので、進路を土気城へと取り、頼さんを助けることにした

 

「おぬいと田助を、本当にありがとうございました・・・!」

「是非、また会ってやってください。ほら、挨拶しろ」

 

「りゅうじんさま・・・」

 

「また会えるよ。今度は、家族でじいちゃまに会いに行こうね」

 

「うん!」

「だぃー♪」

 

「またね、田助くん、おぬいちゃん!」

 

一家の無事と息災を祈りながら・・・私とルーラー様、頼さんは里を後にした

 

 

「優しいのですね、リッカ様は」

 

馬を走らせているなか、そんな言葉を頼さんから頂いた。はて、と聞き直してみる

 

「幼児に優しくできるのは、また優しさを知るもののみです。あなたは、宝がなんたるか・・・理解しているようで」

 

【・・・て、照れます】

 

私だって女の子。身体中は筋肉まみれだけど人並みの感情くらいはある。そう言ってくれるのが母上と同じ顔であるならば尚更だ

 

「ふふっ、本当に気丈で、優しくて・・・私の娘とそっくりで。・・・本当に」

 

【・・・】

 

頼さんはそう言って、背中ごしに私を抱きしめる

 

「暖かい、生命が芽吹いております。・・・なんて、いとおしいのでしょう・・・」

 

・・・娘と息子を亡くしてしまっている彼女の胸中が、少しでも癒されるならと。私はただ、成すがままにその抱擁を受け入れた。馬は歩み続け、そのまま土気の城下へと至る--

 

 

【着きましたよ、頼さん。足許にお気を付けて】

 

手を握り、馬より下りる仕草を手助けする。その仕草の一つ一つが、はっとするほどの美しさに充ちていて。息を呑みながらゆっくりと肩を並べる

 

土気城・・・歴史では確か、上総らへんにあった城だが廃墟じゃなかったっけ?はて、と頭を捻る。時代考証とかはロマンやマリーに任せきりだったツケが此処で来る。マシュ辺りなら「そんなことも分からないんですか。頭も仮面ライダークローズですね」なんて言ってくるだろう。スパンキングしてやりたい。姫様、ギルならどう返してくれるだろうか?

 

「ありがとうございました。優しき御方。此処で、私の新しい営みが・・・」

 

そう眺める頼さんの横顔を眺める。・・・似ている。本当に瓜二つで、そっくりだ。生き写しなのだろうか

 

「夫には先立たれ、子も娘も戦に巻き込まれ・・・もう、私に幾ばくの余力が残っているかもしれませんが・・・懸命に、生きていくしかないのですものね」

 

その声音は虚ろで、屍や骸が言葉を発しているようだ。まるで生気が感じられない。そんなどんよりした気持ちが、こちらにも伝わってくる

 

「・・・」

 

・・・このままじゃ、いけないと思う。私ならナンパしてきたなら強引なら返り討ちだけど、この瞳のはそうはいかない。こんな美人、虚ろなまま人の波に放り出すわけにはいかない。意志が希薄な人を、社会に放り込むのは危険なのだ

 

けれど、何をしてあげられるかといったら、何ができるかといったら・・・

 

「あ、あの」

 

「・・・はい」

 

「も、もし良かったら一緒に色々見て回りませんか?実は私も此処に来るのは初めてなのです。よろしかったら一緒に回りましょう?」

 

そんな申し出くらいだった。誰もが振り向く美人の中の美人の隣にいるにはあまりにもゴリラで華がない女でも、引き立て役にくらいは、悪い虫を追い払うくらいは出来る筈だ

 

『ますたぁ、金子を懐に入れておくが故、活用すべし』

 

ルーラー様の優しさと気遣いが五臓六腑に染み渡り感激していると、頼さんは嬉しそうに頷いてくれた

 

「願ったりです。では・・・共に参りましょう?」

 

差し出された手を、そっと握る。--冷たくひんやりとした手だった

 

・・・いつも、マイルームで私を撫でてくれるあの暖かい手を、思い出してしまう。母上の、暖かい優しさを、思い返してしまい

 

「・・・――」

 

その手を暖めるように、小さく強く、握り返す。母上から貰った優しさと温もりを、分けられたらいいな、と。願うかのように

 

「ふふっ、では・・・行きましょうか」

 

「はい、頼さん」

 

こうして私は、頼さんと歩幅を合わせて城下町へと繰り出したのだ。霊体化して、傍にいてくれるルーラー様と共に・・・

 

 

火事と喧嘩は江戸の華という。その見聞に偽りなく、人と人でごった返す城下町

 

道行く人々は頼さんの美しさに振り返り、立ち止まり、見とれる視線を絶え間なく送る

 

正直な所、誇らしかった。母上と同じ顔をしている方が誉められているのは、自分の母上が誉められたようで、本当に

 

中には遠巻きから一歩進んで声をかけようとする人もいたにはいたが、下卑た視線や偽りの親切、下心はたちどころに見抜けるのでそういった連中は威嚇して追い散らした。彼女は家族を喪って傷心しているのだ。心の隙間に入ってくるような真似は許さない

 

それを知ってか知らずか、小さくきゅっと手を握り返してくれる頼さんの反応が嬉しくて、ついつい笑顔を浮かべてしまって。そんな私を見て、頼さんも笑って。お互いなんだか、くすぐったく思うような気持ちになっていたんだと。そんな感じで、一緒に歩いた

 

ぽつりぽつりと、話をした。空が青いこと、城が大きいこと。人が多いこと。食べ物はどうとか、旅はどうだったかとか、そんな他愛のない話

 

私の話を、どんな事でも相槌を打ち、返してくれる頼さん。私も、培いに培ったリッカマニュアルの一つ『傷心中の人には、親身になって聞いてあげる』を実行し、頷き返す

 

正直な所、こういった時間は憧れていた。母親と手を繋ぎ、何でもない時間を過ごす。私は物心ついた時は、鉛筆しか握っていなかったから。そんな、穏やかな時間を過ごせることが、嬉しかった

 

頼さんも、私に娘の面影を重ねてくれているのだろうか。私みたいな女の子がぽんぽんいたら日本は終わりだろうから、私とは似ても似つかないたおやかな娘さんであってほしい

 

「ふふっ、歩くだけでも、楽しいものですね」

 

「はい!」

 

そんな、何をするでもなく歩きに歩き、やがて一つの団子屋にて腰を下ろし、共にお団子を食べることにした

 

「代金は私にお任せください!」

 

見栄を張って、二人分のお団子を買う。ルーラー様、本当にありがとう。助けられてばかりだ

 

「ありがとうございます。ふふっ、あなたには助けられてばかりですね」

 

そう言って、団子を口にする頼さん。京から来たのだ、食べなれてはいるだろうが・・・気持ちばかり、というものである

 

自分も口にしてみる。・・・甘い。じゃんぬ程ではないにしろ、ご当地補正で十分美味しい。これはおかわりしたくなる美味しさだ

 

「美味しいですね、ははうっ・・・頼さん」

 

しまった、うっかり言ってしまった。これが、これが授業中お母さん呼び事件・・・!はずかしぃ!

 

「ふふっ、あなたの母と私は、そんなに似ていますか?」

 

・・・気を遣わせてしまったかもしれない。お母さんと瓜二つだから優しくしています、なんていい気分ではないだろうに

 

「嬉しいですね。私も、二児の母として生きたので・・・」

 

「・・・素敵な子でしたか?」

 

あえて、踏み込んでみる。亡くなってしまった者の想いを少しでも吐露できればと、不躾な質問をあえて問う

 

「えぇ、とても。息子は、そうですね・・・」

 

喜びながら語る。息子は腕白やんちゃで怪力無双。山に出たら帰っては来ず、手を焼かされてばかりであると。それでいて不器用で、母から逃げてばかりだと。それでも、誕生日には華をくれたり・・・優しい息子だった、と

 

「・・・そっくりだぁ・・・」

 

金時兄ぃにそっくりな人だ。逆に、哀しく思ってしまう。そんなに鮮明に思い出せる息子さんを、戦で失ってしまうなんて・・・

 

「・・・・・・」

 

「ふふっ、悼んでもらえて、あの子も喜んでおります。娘は、そうですね・・・」

 

娘は、捨てられていた所を保護し、育て始めたという。よく笑う娘で、はきはきとものを言い、誰とでも仲良くなれる快活な娘であったという。けれど・・・

 

「心を開くまでが大変で、顔色を窺いながら何かをしよう、何かをしようと忙しなく。きっと、役に立たなくては愛されないと思っていたのでしょうね。・・・誰かが誰かを愛するのに、理由などないと。辛抱強く言い聞かせておりました」

 

・・・似ている。それは、あまりにも似ている。そこまでそっくりだと、思わず聞いてしまった

 

「名前は、なんというのですか?」

 

頼さんは寂しげに、空を見上げ伝えた

 

――立香。立ち上る香のように、艶やかで、美しい女子であれとつけた名だと

 

・・・その名を聞いて、私は少し・・・嬉しくなった。不覚にも、喜んでしまった

 

どんな場所でも、母上は母上で、愛知らぬ者に、母であろうと努めてくれる事実そのものを。私は嬉しいと思った

 

あの日、私に母上がしてくれたように。あなたを愛する、と誓ってくれたあの日のように

 

・・・出来れば、もう少し一緒にいたいと思った。せめて、心の傷が癒えるまで、そばに。でも・・・それは出来ない

 

自分を愛すると言ってくれた母上は、別の存在で。彼女の愛する娘は、もうこの世にいない。それに私は、頼さんの傍にずっといてはいられない。別れは必然だ

 

「・・・泣いているのですか?」

 

気付けば、涙が出ていたらしい。傷ついた心に、なにもしてあげられない不甲斐なさ故か。この涙は

 

「ありがとう。私の為に泣いてくれて。娘が、蘇ったかのような気持ちです」

 

そっと、私の涙を拭い。彼女はそう言って笑ってくれた

 

「あなたに会えたことを励みに、頑張ってみようと思います。もしかしたらあなたは、神様が私の背中を押すために遣えさせてくれた者なのかもしれませんね」

 

そういって、優しげに頼さんは笑いかけてくれた。沈鬱な表情なんて見られない、柔らかな笑顔だった

 

・・・そんな頼さんに釣られて、私も笑ってしまった。母上ではなくとも、違った存在であろうとも

 

母上と同じ在り方をしたあなたが笑ってくれる事が・・・私には、とても嬉しかったのだ

 

 

日も傾き、空が夕焼けとなる。そろそろ、庵に戻らなくてはならない頃合いだ

 

「お別れ、なのですね」

 

握った手に、力が入る。本当なら不安だ。誰か、悪い虫につけ込まれないだろうか。本当なら、もっと傍にいたい。だけど・・・

 

私には、帰る家があり、私には待っている皆がいる。ずっと一緒にいれないのなら、別れを引き伸ばすべきじゃない

 

「うん。・・・今日は、ありがとうございました」

 

楽しかった。使命なく、役目なく、ただ過ごす事は久しぶりだった。本当に、穏やかな時間だった

 

「こちらこそ。あなたの優しさを、けして忘れはしません」

 

目には、活力が戻っている。きっと、もう大丈夫だろう。そう、信じる。二児の母となって戦ってきたのなら、きっと、新しい生き方を見つける筈だ

 

「では、また」

 

手を離し、町から出ようとする中

 

「最後に、二つだけ。どうか、忘れないでください」

 

背中から、言葉を贈られる。振り替える事なく、背中越しに言葉を聞く

 

「貴女の母は、どんな事があろうとも貴女を愛しております。どうか、それを忘れないで」

 

その言葉には、肯定と情愛が詰まっていた。貴女への想いを、どうか信じてほしい、と

 

「そして・・・二つ目は」

 

振り替える事なく、言葉を受けとる

 

「どんな事があろうとも・・・母は、貴女を恨みません。どうか、それを忘れないで」

 

その二つを聞き、たまらず振り返ってしまった。あまりにも同じだった。まるきり、同じであったからだ

 

毎日、傍にいてくれる母上に。私に、親子のなんたるかを教えてくれた・・・二人目の、母上に

 

「――っ!」

 

振り返ってしまった。振り向かないと決めていたのに。彼女は母上ではないと、納得していたのに

 

緋色の空に、染まり行く城下街。往来にて背中を見守っていた頼さんは、もう何処にもいなかった

 

「・・・」

 

・・・何もいない、誰もいない、そこに誰かがいた名残を感じながら、踵を返し町を後にする。龍騎に乗り、歩を進める

 

【行こう、ルーラー様】

 

『――是。脅威に非ず。あれは、ただの母親なり』

 

ルーラー様の言葉を胸にしながら、龍騎にて歩き出す

 

その、僅かな一時の出逢いを。静かに噛み締めながら・・・




「・・・さようなら、リッカ」

(宿業を埋め込まれた私が、ただの一人も殺める事なく町中を歩けたのは、貴女が傍にいてくれたから。あなたは、どんな時にでも優しく、強いのですね)

「・・・躊躇ってはいけません。この場にいるはただの躯、あなたの母を騙る一匹の鬼なのです。貴女が胸を痛める必要はなく、また、貴女が討つべき畜生であるのです。あぁ、でも--」

(あなたはきっと、気に病んでしまうのかもしれません。見た目も、声も同じとする、躯を纏うこの魔物を打ち倒す事に)

「・・・いいえ、良いのです。良いのですよ、リッカ。私は、貴女にこそ、貴女にこそ幕を引かれたいのです。金時に続き、私を母と仰いでくれた・・・唯一無二の貴女にこそ」

(だから・・・リッカ。迷わないで。どうか、どうか・・・もはや止まれぬこの身を、どうかこの躯の後始末を・・・よろしくお願いいたします)

「・・・あなたの母は、カルデアにいる源頼光ただ一人。どうか迷わず、討ち果たしていただくように・・・--」


『--ますたぁ』

【うん】

『--言葉は無用か』

【・・・うん。私は、迷ったりしないよ】

『・・・--強き子であるな。ますたぁ』

【--ありがとうございます、ルーラー様】

(・・・母上。ありがとう)




「・・・こいつぁ、参った」

『神気を湛えた太刀』

『血染めの刃紋を懐く漆黒の太刀』

「・・・陣地を使って刀を作れると気付けたのは良いがよ。なんたって・・・『大業物の妖刀』を二振りも拵えちまったっつうんだよ・・・」

『童子切安綱』

「国宝を見て、槌が逸っちまったか・・・あの娘に振るわせるには、重すぎるッてぇもんだろ・・・」

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