人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ちょっとお話を挟みます

人狼ジャッジメントあるじゃないですか。市民と人狼に分かれて戦うやつ

欺き、嘘ついて、誰かを吊らせて勝ちを目指すゲーム

面白そうなのでやってみました。二回やりました。人狼陣営に二回なりました。(人狼二人)

二回連続二夜で終わりました。負けました

人を騙す系のゲームがクソザコすぎる・・・きっとプレシャスパワーに触れ続けた反動なんだなって

幕間どうぞ


不死鳥と希望の華

「ふんふんふーん♪ふんふふっふふー♪」

 

あらゆる悦楽、あらゆる施設を兼ね備えし南極に居を構えし王が手ずから手掛けた地上の楽園、カルデア。人類が権利を主張しながら誰の手にも渡っておらぬ人類最後の秘境に打ち立てられた楽園にて、ある存在がスキップをしながら一室を目指している

 

足取りは軽く、陽気に鼻唄を歌い、そして愉快にステップすら踏みながら。左手には袋を持ち楽しくてたまらないといった様子ではしゃいでいる。それが少女や幼女ならばそれはそれは微笑ましく美しいものだろう。計算され尽くした歩幅はまさに素晴らしいと言えるだろう

 

カルデアの一室の扉の前に辿り着いた彼は、そのまま中へ入ろうとする

 

(こんな夜更けまでお疲れ様だネ我が生徒オルガマリー君!そんなキミに頭がリラックスするお菓子を買ってきてあげた!大好きMr.ダンディ!・・・なーんて、フフフ・・・)

 

扉の前で類いまれなる頭脳をフル回転させて妄想に勤しむはMr.ダンディ。カルデアでその存在を知るものはごく一握りしかいない、楽園に潜む蜘蛛であり、オルガマリーの強かさを鍛え上げ、悪辣さと非情さを教え込む犯罪世界のナポレオンだ

 

(おや、この明かりにこの会話声量。ターゲットとお話中かな?)

 

ドアノブに手を掛ける前に耳に聞こえてくる僅かな声量で、部屋の全貌を把握するMr.ダンディ

 

最近彼女には新たな自主教育の課題を施している。とある一人の人物の人心を手玉にとることを主題にした、会話術の会得だ。相手を手玉に取り、弄び、こちらが絶対有利な環境を整えるという問題を彼女・・・オルガマリー所長にプランとして提出したのだ。睡眠も食事も不要な以上、会話となれば取り組んでいるのはそれだろう

 

(ふむふむ、出来栄えはどのようなものかな?ちゃんとネゴシエーションできているか、パパ&ダンディが見ていてあげよう)

 

ぴったりと扉に張り付き聞き耳をそばだて、音を聞き取らんと決議する。深夜にドアに張り付くアラフィフなど中々に犯罪臭がする絵面だが、犯罪世界のナポレオンなら大丈夫なのだろう。彼のライバル存在が見たら何を思い、滝へと叩き込むのだろうか

 

(思うままにやってみるといい。何をするにせよ忘れてはいけないのは、君がイニシアチブを取り、君が優位に立つという事実だよ、オルガマリー君)

 

ぴったりと扉に密着しながら、世紀の大悪党としてのオーラと教えを振り撒くMr.ダンディであった。意識を集中し、オルガマリーの声音、トーン、発音から心理状態を読み取り、そのまま全てを把握する・・・

 

 

「うわははは!私の不死鳥たる所以は此処から来ているのだ!え?大丈夫なの?木っ端微塵に吹き飛んだカーから爆風をバックに現れる!皆が息を飲むなかゆっくりと現れ帰還する!誰もが私を称えるのだ!不死鳥のムジーク、不滅であると!」

 

音声と映像つきでバスローブに身を包んだ脂身の乗った身体を見せつけられ胴間声にて自らのカーレースの武勇伝を聞かされ続けるというごうも・・・微笑ましいはしゃぎようを張り付いた笑顔を浮かべ聞いている。音声も映像も加工しているためあちらにはこちらの個人情報は通らないので、遠慮なく溜め息を吐く

 

(他人の自慢話を聞かされる側はこうも退屈でつまらないのね。参考になるわ)

 

一方的な会話、押し付けるコミュニケーションは誰も幸せにならず、むしろ相手を不幸にする。オルガマリーはまた一つ賢くなり、あくびを噛み殺すのであった

 

カルデアメンバーの家族を養い、保護している身分なため丁重に扱わなくてはならないし、それなりの礼儀はきちんと通すべきである。それ故にこうしてビジネスライク以外のお話にも付き合い、個人としての人となりを把握する名目も兼ねて会話しているのだが・・・

 

(バイタリティの塊ね、この人は・・・)

 

話される内容からも、それが見てとれる。魔術師としては平凡な家系であり、財力に僅かにアドバンテージを持つと評価するに相応しいムジーク家。彼はそこの頭首であり、同時に・・・名うてのドライバーでありサバイバーである。間違いない。通信を開始してから毎日聞かされているのだから

 

ドライバー、スポンサー、メンテナンス全て彼。ドライビングテクニックは上の上。あらゆる困難や障害物を物理的に越えていき、躓いたりカークラッシュしてもへこたれない(カーは爆散するけど)。どんな怪我をしても必ず舞い戻るその不屈ぶりからカーレース界隈では名の知れた凄い人らしい。いまいちイメージできないのでゴーカートでシミュレーションしたら噴き出してしまったのはこちらのミスだ。反省しなくてはならない

 

サバイバーとしての技術も一流で、ゴルドルフ自らが愛用し重宝する『腐肉を霜降に変える魔術』を利用しどんな場所からでも生還を果たす実績と力を持っているようだ。・・・全く余計なお節介であり、どうでもいい事ではあるが。その魔術でどうやって根源へ至るつもりなんだろうか。魔術師の研鑽は結局の所其処に終始するので疑問を浮かぶのも詮無き事と許して欲しい。美味しい肉を食べた衝撃にて根源へ魂を飛ばす・・・?

 

「――――ッッッ」

 

いけない、いけないわ私落ち着いて。他人の研鑽を笑うような真似はいけない。それはMr.ダンディが提唱するスマートな悪ではない。三下ではなく支配者であれといった彼の教えに背いてしまう・・・でも、そんな・・・面白すぎるでしょう・・・美味しんぼみたいな・・・

 

『お、感動に打ち震えているな?そうだろうそうだろう!何せ私の数少ない取り柄と趣味だ!私自身の力にして功績なのだからな!』

 

悶えて沈黙していたのを肯定と勘違いしたのか、ますます雄弁に語り始めるゴルドルフ。尽きぬ武勇伝を耳にしながら、オルガマリーはツボに入った自分の感情を抑える為に戦い続けた・・・

 

そして、深夜一時をまわった時分にようやくゴルドルフが話を切り上げる

 

『ほっ、もうこんな時間か。随分と話し込んでしまった。今日の会談はここまでとしよう』

 

「はい・・・っ・・・有意義な、時間でした・・・」

 

『そうか、そんなに感銘を受けてくれたか!そうかぁ・・・!』

 

わはははは!と上機嫌となりしゴルドルフ。オルガマリーの腹痛を堪える悶絶格闘を称賛と感動と勘違いした彼は益々もって高らかに謳う

 

『其処まで気に入ってもらえたのなら、次は私の活躍を纏めた映像記録をお見せしよう!私の疾走するカー!爆発するカー!みなぎるガッツ、有り余るガッツ、そして持て余すガッツ!全てを御覧に入れようではないか!』

 

「はいっ、ありがとう、ございました・・・では、次なる会合にてお会いしましょう」

 

『わはははは!あの連中への食い扶持は任せておけ!実のところ、ゴーカートやサーキットやレンタカーを解放しており不満はそんなに出ていないのだ!』

 

「・・・あら」

 

それは嬉しい誤算だった。魔術師然としていた彼ならば、悪態一つを吐いてでも嫌々やっているかと思っていたのに。まさか自発的に環境を整え、生活水準を上げてくれるとは思わなかったが故に、オルガマリー的にはグッと好印象を抱いたのである

 

カルデアの皆の家庭がかかっているのだ。機嫌は良く、関係は円満な方がいい。例えそれが自らの優越性を主張するものだとしても。こちらに利があるならば活用させてもらうのみだ

 

「ありがとうございます。魔術師としては異例な判断、他ならぬ私は評価させて頂きます」

 

此処で『相手がおかしいことをしている』ということと、『私は評価する』といった言い回しによって、相手の自尊心を満たしつつ、こちらへの友好度を高められる会話運びが行えるのだ

 

『そうだろうそうだろう。時計塔などではない。私は今度こそ、あんたの言う楽園で成功してみせると決めたのだからな』

 

「・・・それは、どういう意味ですか?」

 

思わず口にしてしまった疑問に、ゴルドルフは揚々と答える

 

『単純な話だ。私の人生はどん詰まり、袋小路なだけというものだ。成功はしたとしても、名声は得たとしても、それは今代限りで消えてしまうものだ。血統を残し、重ねるという魔術師の観点からしてみれば私は未だなんの功績も残してはいないんだよ』

 

「・・・」

 

『だが・・・どうすればいい?人に取り入ろうとも他人の気持ちなんて、愛され方なんて解らない。どうやって他人と接すればいいかなんて、何が正解なんて解らない。だから誇示するしか無かった、無かったんだよ。家督を、財力を。だってそれしか無いんだから。それしか他人と繋がる接点がないんだからしょうがないじゃないか・・・』

 

先程の覇気とは打って変わり、背中を丸めてしょんぼりするゴルドルフ。他人への愛し方、愛され方が解らない。だから私は嫌われものだし、嫌われてばかりだったと

 

魔術師は、自らの研鑽のために不要なものは容赦なく切り捨てる類いの人種だ。その為なら容赦なく他者を犠牲にするし、肉親であろうと材料に使う、そういったものだ

 

リッカのように、誰かと仲良くなるなんて手段はそれこそ不要と真っ先に切り捨てられただろう。・・・だからこそ、彼はそんな悩みを抱えていたんだ

 

ヤマアラシのジレンマ。触れあいたい、近付きたいと思うほどに相手を傷付けてしまうもどかしいあり方。ならば、何故今になってそんな事を?

 

『何、あんたに話を聞かせている内にあの連中にも私のドライビングテクニックを見せ付けてやりたいと思ったまでだ。あいつらめ、私の華麗なハンドルさばきに目を見開いていたさ。あぁ、楽しかったとも!たかだか一般人に見せてやれるのはこれくらいだからな!』

 

やけくそ気味に叫ぶゴルドルフ。どうやら自分との対話で、何かしら心境の変化があったらしい

 

『この袋小路の人生、今度こそアンタの言う楽園で打開して成功してみせる。今度こそ、私は私自身の手で未来を勝ち取り、誰かに認めてもらうんだ・・・認めてもらいたいんだよ・・・!』

 

「・・・」

 

・・・似ている。そっくりかも知れない。古い鏡を見せられているようだ

 

 

どうして!どうして!どうしてよ!なんで上手くできないの!なんで上手くいかないのよ!

 

こんな筈じゃないのよ、こんな筈じゃ・・・!私はアニムスフィアの君主なの!キリシュタリアじゃない、出来損ないじゃない!お飾りの所長じゃない!

 

嘘よ、嘘よ、こんな、こんな筈じゃ・・・!私は悪くない、私は悪くない!私を活かせない連中が悪いのよ!私を認めない世界が悪いのよ!私が頑張れない今の全てが悪いのよ!

 

誰か、誰か認めてよ!頑張った、お前は優秀だって認めて、声をかけてよ!

 

どうしてそんな目で見るの!?どうしてそんな態度で私の前に立つの!?私が、私が、私が悪いっていうの!?

 

もう嫌・・・助けて、助けてレフ・・・私、嫌よ・・・このまま、私・・・

 

誰にも、認められないまま生きていくなんて・・・嫌なのよ・・・

 

 

「・・・まぁ、貴方の悩みは貴方のものなので、貴方自身の手で切り拓いていただく他ないのですが・・・」

 

あえて辛辣な物言いで一度突き放し

 

『ドライだなあんたは!い、いや当然か。フリージアと私はビジネスパートナー、其処までは・・・』

 

「ですが・・・」

 

あえて、ためて勿体振り・・・

 

「私は貴方のその不屈ぶりを高く評価しています。己の矮小さを弁えながら、それでも貴方らしく振る舞える貴方に私は敬意を表します」

 

『・・・あんた・・・』

 

「押し潰されていないだけ、あなたは立派ですよ。・・・私より、ずっと」

 

それは、オルガマリーの本心だった。誰かを気にしながら、拒絶しながら。依存せず前を向いているゴルドルフは、自分より余程強い人間だ

 

「ですが自覚があるのなら努力することをお勧めします。死んで奇跡が起きる、なんて事象を期待してはダメですよ、ムジーク氏」

 

『わ、わかっている!私のガッツを侮るな!招待の目処が立ったら、すぐ私達を招くんだぞ!ではな!』

 

一方的に切られる通信。椅子に腰掛け息を吐く

 

「・・・誰にも、認められないまま・・・か」

 

・・・この手の特効薬は知っている。わかっている。簡単だ。そんな複雑な魔術も、魔力も要らない

 

ただ・・・

 

 

奮闘、大儀であった。手柄だぞマリー。我も鼻が高い

 

 

マリー!いつもありがとう!私もマスターとして頑張らなくちゃね!

 

 

所長、ありがとうございます。私、友達になれて本当に嬉しいです!

 

 

「・・・ふふっ」

 

頭に思い浮かぶ声に、笑みを溢す

 

「そうね、・・・心に響く言葉を、カエサルさんに教わってみようかしら」

 

誰も認められないなんて言うのなら、仕方無い。私が初めて認めた人になってあげるしか無いようだ

 

世界はそんなに狭くない。ただ気付かないだけのネガティブを、私が破壊する

 

「どんな顔をするのか楽しみにしているわね、ムジーク氏」

 

通信越しではなく、いつか顔を合わせて突き付ける労いと感謝

 

その反応を楽しみにしながら・・・彼女は一人、笑うのであった




「素晴らしい!実に素晴らしい依存させっぷりだよオルガマリー君!私は嬉しい!完全に君が優位だ!」 

「あ、いたんですか」

「いたヨー。いやはや聞き上手だな君は。彼も満足そうで、何よりだよ?」

「・・・あの手合いは自己評価が邪魔になって本領を発揮できていないタイプです。もしかしたら化けますよ」

「フフフ、その通り!一皮剥けたら才能が開花するなんてよくある話さ。問題は、こちらに有利か、不利かという事だけ。不利ならば・・・」

「その時は・・・始末しましょう」

「おっと、オルガマリー君イエローカードだヨ~」

「え?」

「その沈黙は感情移入、躊躇いとなっている変数に値する揺らぎだ。然るべき相手ならば、君の悩みは容易く見抜く。そこは即決でアンサーしておきたまえ。迷いや悩みは、案外口に浮かぶものだ。君にそんなつもりは無くとも、冷酷非情の仮面は取らない方が色々やりやすいからネ」

「・・・ありがとうございます。まだまだですね、私も」

「いやいやいいんだよ。あからさまに悪いやつ~、してるのも、笑顔で親友を崖に突き落として涙する破綻も私は好きだからね。あ、でも君には颯爽とした悪役になってほしいかナ~」

「どのみち、笑顔が大事ですから・・・でしょ?」

「そういう事サ。大事なのは『本心がどうであるか』より、『本心がどうであるかのように魅せる』ということだ。覚えておくといい」

「はい。・・・ところで」

「ん~?」

「それ、型崩れしません?」

「――あっ!!」

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