人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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『そちらはマシュと上手くいっていますか?・・・随分と砕けて接するようになってくれた?そうね、ようやく接し方が解った、という所でしょうか。かといって、まだ適切な気安さなどは解りはしないでしょう。不快だと思ったら、すぐに諌めるのですよ。親しき仲にも礼儀あり、あなたは悪口などで腹を立てる器の狭い人でないのは解っていますが・・・えぇ、はい。では、お気を付けて』

念話を終え、一息つく。マシュの触れ合いをじゃんぬにリッカは報告しているのだ

「マスターは、なんと?」

「マシュが距離を詰めてきてくれて嬉しいって。ようやく遠慮や敬遠の壁から一皮向けたようね。それでこそです」

リッカの新たな交流の芽生えを、素直に称賛するじゃんぬ。ジャンヌにもその旨をつたえる

「リッカのメインサーヴァントですもの。それくらいしてもらわないと張り合いがありません。リッカのどんなポジションに落ち着くのか、見物ですね」

「気安い友、気のおけない異性・・・いつか、私もそんな相手に出逢えるでしょうか?」

「知ったこっちゃないわよ。・・・そう言えば、別のアンタは言ってたわよ、ジーク君だかなんだか、とか」

「確かに彼の記憶はありますが、今の私はカルデアのジャンヌ。別世界の記憶の関係を持ち出す、口に出すことは召喚してくださったマスターの、英雄王への無礼に当たります。恋をした私は、恋をした私だけのもの。私には関係のないこと、それはもう関係のない私なのです」

「フン、さっぱりしてるスタンスじゃない。私はリッカにしか召喚されないし、リッカの事はどこだろうが絶対忘れないけど」

「ふふっ、一途なところは私にそっくりですね!流石は私のオルタです!」

「ほっといてくれる?もう私が誰のなんでもどうでもいいわ。リッカが私を大切に思ってくれて、私がリッカを大切に思っていれば、なんにもいらないのよ」

「そうですね!どうか、その気持ちを忘れないでくださいね!あ、パンプキンケーキ、お願いいたします!」

「はいはい。・・・ちゃんと帰ってくるのよ、リッカ」



エリザベートの不憫な方

真祖アルクェイドの激闘(?)が功を奏し、無事にチェイテ城へと入場、エントリーが叶った一同

 

「どうだった?サーヴァントとして私、上手くできてた?」

 

「ご馳走さまでした!」

 

 

朗らかに笑うリッカとアルクェイド。何だかんだで、お気楽同士気が合っているのだ。お互い、細かいことは気にしない、根本的な部分で能天気な性分であるがゆえに。・・・それ故に、繊細さや細やかな気遣いはやや苦手なのが短所であり弱点でもあるのだが

 

「基本、自分の為にしか戦わないのが生物だけど・・・後ろに誰かがいる、なんて新鮮ね!付き合った人間があなただからかしら?他の人間なら、もっと別の私になっていたかも?」

 

「そうなの?どんな姿でもアルク姉さんはアルク姉さんでしょ」

 

「そう?・・・ふふっ、そうだと嬉しいかも。懐が深いのね、リッカ」

 

「大雑把で細かいことを気にしないだけとも言う!」

 

「自覚があるのなら気を回すのを推奨しますよ先輩!勿体ないです!出来る筈です先輩なら!」

 

「マシュが激励と諫言を飛ばしてくるぅ!」

 

「あははっ!じゃあ、次のサーヴァント戦も頑張っちゃおうかな~?」

 

二人を軽々と抱きしめるアルクェイド。リッカとマシュは気に入ったようだ

 

《ふむ。月夜でありながら暴走の目処は立っておらぬようだ。この下らぬ雰囲気と場所の効力か、祭りで浮き足立っているかどうかは知らぬがな》

 

一歩、二歩引いた目線で、ギルガメッシュは鋭くアルクェイドを見定めている

 

(アレは格式高い位の真祖だからね。誰彼構わず血を啜るなんて下品な真似はしないんだよ。現に今も、自分の中の衝動の七割を制限してる。今のアイツはそんなに強くない筈だよ)

 

フォウの同類としての観察眼が、アルクェイドの現状を見抜く

 

――100%のアルクェイドさん・・・どれほどの存在なのでしょうか・・・

 

エアの見立てでは、今のアルクェイドですらサーヴァント数騎分の力は容易に所持している。真っ当なサーヴァントだと確実に互角以上に立ち回れるだろう。それが三割の力となると・・・想像するだに恐ろしい存在だ

 

《遊興に紛れた爆発物、不発弾のようなものだ。些事と戦闘はマスターに任せ、此方はヤツに気を配るぞ》

 

人でもない怪物の思考なぞ理解に及ばぬ、といった理念を抱き、英雄王はアルクェイドを警戒する。朗らかに笑い合う友の喉笛を一秒先に食いちぎるのが鬼なのだ。真祖であるなら、尚更放置するわけにはいかぬと定義する

 

事後にて、全てが終わってからでは遅いが故に。怪物であるものには、一人は警戒する者がいなくてはならぬと、王は定めている。マスターと仲間が、心を許しているのならば尚更である

 

――警戒と、対処の財は選別しておきます。・・・杞憂、徒労に終わってほしいですけれど・・・

 

彼女なら大丈夫、と楽観する訳でもなく、エアは財を選別する。信じるが故に疑う。警戒は徒労に終わると信じ、油断と慢心を排する名目も兼ねて

 

「私のこと疑ってるでしょ~」

 

――!?

 

そんな英雄王の前に、むすっと頬を膨らませたアルクェイドが抗議の目線を送り、顔を近づける

 

「真祖、というか吸血鬼は律儀なのよ。一度取り決めた盟約は決して違えない。人間みたいに性悪じゃないわ。破った先の面倒事のほうが面倒だって、ちゃんと理解して回避できるんだから」

 

心外なんですけどーとする抗議を軽く流し、頭をつかんで体を振り向かせる

 

「異常が起きている貴様だ、いつ不確定要素が起きるか考えておかぬ訳にもいかぬというだけの話だ。貴様を疑っているのではない。暴走した貴様を警戒しているだけの話よ」

 

「あぁ、暴走してないなら仲間として見てくれるってこと?」

 

――暴走した仲間ならば、命懸けで制止しますよ!ワタシ達は!

 

信じるからこそ、最悪の事態に備える。そんなスタンスを理解したのか、アルクェイドは頷き、再び歩き出す

 

「なら大丈夫よ。月が浮かんでいる間、仲良くしましょう♪あ、階段!階段があるわ!上ってみましょう!」

 

「おー!」

 

「分かりました!先輩、転ばないでくださいね!」

 

「転びませんー!」

 

 

高校生にまざり、二人の手を取りながら走っていくアルクェイド

 

(・・・何をすればあんなあーぱーな人格が生まれるんだ・・・)

 

――素敵な出逢いだと思うな。ワタシが、フォウに出会えて変わったみたいに!

 

(・・・そっかぁ・・・ボクも変われたんだ。アレも変われない筈はない、か・・・)

 

納得したかのように頷くフォウを無言で撫で、後ろからゆっくりと歩みを進める英雄王を含め、一同は次なる歓待に向かう・・・

 

 

 

「あぁ、全く忌々しい・・・忌々しいったら無いわ・・・このしつこい汚れ、汚れ、汚れ・・・!」

 

全く腰の入っていないへっぴりで、モップを振るい、自分の城の掃除を進め、小言をぶつぶつ呟くは・・・

 

「あぁ、本当に忌々しい!鞭で叩いても、拷問しても、声を上げないブタのよう!本当に鬱陶しいわ!何故召喚に応じてしまったのかしら!何故英霊になってしまったのかしら!」

 

吸血鬼、カーミラである。自らの境遇のフラストレーションと怒りが高まりに高まり、とうとうハイヒールを鳴らし、怒りを示す

 

「あぁ、もう堪えられない!いいのよ私、こんなの私のキャラではないのだから!爆散なさい、アイアンメイデン!」

 

汚れのある箇所ごと、自らの拷問器具にて吹き飛ばす。巨大なアイアンメイデンに押し潰され、粉々に飛び散り、四散し、弾け飛ぶシミ。床ごとである

 

「ふっ・・・これでいい、これでいいのよ私・・・私は世界一有名な女吸血鬼・・・恐ろしく、おぞましく在らなくては・・・」

 

一人納得し、頷き、飛び散った破片を寂しく片付け始める

 

そんな、見られたら悶絶ものの恥態を、しっかりと見つめる一同

 

「家庭力があまりにも無いですね先輩。カーミラさんは掃除ができないようですよ先輩。あの醜態をどう思いますか先輩」

 

「何故連呼したし。そこに如何なる事情が在ったのかなマシュケベ」

 

「他意はないです。まったく他意はありませんが何か自己啓発しなくちゃいけない気がしませんか?」

 

「えぇ~?本当にござるかぁ~?」

 

「本当でございマシュるよ~」

 

「吸血鬼なのに、サーヴァント?え、どゆこと?どういう仕組みなの?」

 

不思議そうに覗き込むアルクェイド。サーヴァント自体、見るものが初めてなので好奇心旺盛マシマシである

 

『サーヴァントは伝承、伝説、実在の人物を召し上げたものだからね。吸血鬼という概念を抱かせた者には、そういった側面が付与され、召喚されると言った事も有りうるんだ』

 

「なるほど!悪いサーヴァントもいるってわけね!懲らしめるのは正義のカルデアの仕事!そういう事よね!?」

 

キラキラと目を輝かせるアルクェイド。以前に、そういった映画や番組を目の当たりにした事があるゆえの知識を当てはめ、テンションを上げる

 

『ギル。英霊召喚が為されているという事は・・・』

 

オルガマリーの推測に即座に頷く英雄王。考えるまでも無い。マタ・ハリ、カーミラ。英雄が召喚されているということは・・・

 

「駄竜め、何処かの聖杯を拾い上げ我欲に使用していると言った所か。かの吸血鬼も、強制的に使役されていると見た」

 

――掃除の仕方がなっていませんよ、カーミラさん!モップはもっとしっかり腰を入れて!大雑把では無く、細かく、丹念に行うものなのです!

 

普段から部屋や宝物庫の清掃を行うエア的に、カーミラの掃除の姿勢には言いたいことがある。ちょっとぷりぷりしつつ、話を脱線させないよう冷静さをなんとか保つ

 

(エアは掃除、整理整頓は拘るもんね。強さの秘密は並び替えさ)

 

――こ、こほん。英雄王。カーミラさんは反英雄、最低限の会話は可能ですが、すんなり通してくれるとは考えにくいです。ここは・・・――

 

《うむ。言わんとすることは理解している。速やかに・・・》

 

エアが進言しようとするよりも、早く・・・

 

「よーし!行くわよみんな!ハロウィンを脅かす悪は放っておけないわ!ファンタズムーン的に!」

 

ダッシュで物陰から躍り出、カーミラの前に姿を晒す

 

「あ!アルク姉さんが先行した!行こう皆!隠密は失敗だよ!」

 

「その様ですね!いつものように突破しましょう!」

 

「――ジャンヌという前例があったな。理性的な行動を期待した我が浅はかであったか・・・」

 

一同も腹を決め、覚悟を決めてアルクェイドの背を追う

 

 

 

「そこまでよ!城に巣食うわるーい魔女!仮在籍だけど、正義のカルデアメンバーが悪い吸血鬼をやっつけに来たわ!」

 

ビシリ、と声を上げ、指を突きつけカーミラに担架を切る。醜態をさらしていたカーミラは悲鳴を上げ驚きを露にする

 

「ひゃあ!?あなたたち、いつから其処に・・・!?」

 

「忌々しい、連呼してた辺りかしら」

 

「最初からじゃない!・・・見てしまったのね・・・この吸血鬼カーミラの、血の、宴を見てしまったのね・・・!」

 

肩を震わせ怒りを示す。その両手は、真っ赤だ

 

『血の宴要素、何処にあったかなぁ・・・?』

 

「あるのよ!あったのよ!私の担当はトマト料理だったのだし!」

 

それは料理と奮闘の証である。貴族であるカーミラに料理をさせるという謎采配なのである。基本、ドラ娘に理路整然や理屈を求めてはいけない。学士になりたくないのなら、芸人になりたくないのなら

 

――あ、だから両手が真っ赤だったのですね!良かった、おぞましいシリアスやスプラッタ、トーチャーはやはり無いのですね、良かったぁ!

 

ほっと胸を撫で下ろすエア。子供を傷つける事は在ってはならない。歩く可能性は、慈しみ、育てるものだからだ

 

《そうだな。子供を現界の楔になど使ってはならんな、ははは》

 

(醜態が叩けば叩くほど出てくるな、アーチャーのオマエ)

 

《仕方在るまい。物語において、乗り越えられる壁としか望まれなければそんなものよ》

 

三人のスピリットトークと並列して、アルクェイドとカーミラの会話は続いていく

 

「私たちは城の天辺に用があるの。大人しくやっつけられるか案内してくれる?」

 

「すると思う?この吸血鬼カーミラが?私はあなたたちを歓待するために・・・って、何よ貴女、ご同類?」

 

「同類・・・なのかしら?私、血に関しては見るのも嫌なんだけど・・・まぁ括りにしてみれば同じようなものよね。まぁ細かい話は抜き!正義のカルデア一行の前に、ささっとぱぱっとやられなさーい!」

 

びしり、と突き立てる指、リッカとマシュが深々と頭を下げる。『あぁ、あなたたちも振り回される側なのね』と理解し、話し合いは諦める

 

「そう、なら味わわせてあげるわ。血も凍る饗宴、このカーミラの歓待――精々絶望を謳ってちょうだい・・・!」

 

戦闘態勢に移るカーミラ。一同が気を引き締める

 

「来るよ!アルク姉さん!カーミラはどこからか拷問器具を出してきたり爪で引き裂いて来たり、踏んづけてきたりする吸血鬼だから!」

 

「そうなの!?へー、吸血鬼も様変わりしたのねー!」

 

「来ます!私の後ろに――!」

 

身構える一同。カーミラが先手を取り――

 

「遅いわ。食らいなさい――」

 

高まる魔力。襲い来る敵意。アルクェイドに放たれる――

 

 

「拷 問 弾 ! !」

 

ピンク色の、鬱憤と気迫がメンバーに襲い来る・・・!

 

「拷問弾!?え、何それ!?」

 

驚きのあまり硬直するリッカをカバーするマシュ。無理もない。なんだかモーション的にも味気無いような気がするのだが・・・

 

「これは・・・そう、私の拷問への気持ちを込めた弾よ」

 

「そうなの!?」

 

「拷問したいな~っていう・・・いつもの、そういう残虐なアレは封印されているのよ。忌々しい事に・・・!」

 

拷問弾を爪で引き裂き、回避するアルクェイド。若干哀れみを浮かべた複雑な表情だ

 

「使えないの?宝具・・・さっき使ってなかった?」

 

サーヴァントと戦う際、宝具に気を付けて!と念押しされていたので、若干ワクワクしていたアルクェイド。サーヴァントの名刺とも言えるその宝具を目の当たりにしたいと思っていたので、露骨に残念がる

 

「見たかったのに・・・」

 

「私だって好きで封印している訳じゃないのよ・・・!ああいう風にしか使えないのよ!・・・そうまで言うなら見せてあげるわ!あげるわよ!」

 

アルクェイドの無自覚な挑発にあっさり乗るカーミラ。彼女に向け、魔力を練り上げ始める

 

「宝具の開帳か。減衰しているとは言えど宝具は宝具。直撃すればそれなりの手傷となろうよ」

 

――アルクェイドさん、警戒を!退避か、防御を・・・!

 

警告を飛ばす。が、――アルクェイドは一味違った

 

「よーし!バッチこーい!!」

 

 

逃げることもせず、防ぐこともせず、待ち受けるという選択肢を取ったのである

 

「ちょっ!?」

 

「アルクェイドさん!?」

 

「大丈夫大丈夫。私はそう簡単には死なないの!」

 

ピースを返した直後・・・

 

 

「『幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)』――!!」

 

アルクェイドを閉じ込めるように、悪夢にして架空の拷問器具が展開され彼女を害する・・・!

 

当然回避行動すると認識していた一同は、対処も遅れてしまった

 

 

「アルク姉さ――――ん!!!!」

 

「そんな・・・!」

 

「――――」

 

――な、なんと・・・!?

 

一同が目を見開き硬直する

 

『な、直撃!?直撃したぞアルクェイドさん!?』

 

『何故、何故避けようともしないの・・・!?宝具よ!?』

 

(真祖――!?)

 

その安否は・・・

 

「――どーん!!」

 

アイアンメイデンを元気よく蹴破るアルクェイドの声にて、不安は掻き消されるのである

 

「アルク姉さん――!?」

 

「死んだと思った?ところがどっこい生きてるのよ~!ふふ、ぶいにゃのだ~!」

 

元気にピースするアルクェイド。見る限り傷を負った要素はない。血の一滴も流れていない、外傷のひとつも流れていない

 

「ほいっと!」

 

後ろ回し蹴りにてアイアンメイデンを蹴飛ばし、天井に叩きつけ破却する。ひしゃげ粉々になりがらがらと崩れ落ちる拷問器具

 

「はぁ・・・だから言ったでしょう。無駄なのよ。今のソレは、誰も傷つけられないの」

 

うんざりげに、嘆かわしさを隠そうともせず眉間を抑えるカーミラ

 

――な、何か宝具に細工でも・・・はっ!?

 

 

エアはアイアンメイデンの残骸を見て、その真意に思い至る

 

アイアンメイデンは人一人が入れる空間と、中の人間を串刺しにする針の扉で構成されている。針の筵となる両の扉が全身に突き刺さり、身体中から血を流し、下部の穴から新鮮な血を啜り取るという拷問器具である。当然針がなくばそれは成立しない

 

だが・・・さきのアルクェイドに針を突き刺すパーツに当たる部分に、何もついていないのだ。針の一つも見当たらない、見受けられない。これではただ、閉じ込めるだけのものである。閉所恐怖症には辛いだろうが、ソレ以外には狭苦しいだけのものである。要するに・・・

 

「見かけ倒しにも程があろう。いや――『制限された』とはそういうことか」

 

姫の着眼を受け取り、素早く真意に至るギル。もう頭痛まで感じながらも答えを告げる

 

「『驚かせ、傷つけるな』なんて注文のせいで、私のアイアンメイデンは人に使っても無意味になってしまったのよ。針も無いのでは、血の一滴も流させられないわ。後生に残る忌まわしき拷問器具をこんなパーティーグッズにするなんて、何を考えているのかしら・・・!あぁ、もう腹が立つ!たまらないわ、この屈辱・・・!」

 

地団駄を踏むカーミラが、次なる階層へと向かう階段を指差す

 

「さっさと行って、あの愚かな私に止めを刺して頂戴!はやくこんなおふざけからは脱却したいのよ、私・・・!歌だの躍りだの、貴族に似つかわしくない遊興を、いつまでも・・・もう、もう・・・!あぁあ、虚空に、虚空になるのよ私・・・!――ふわ~」

 

癇癪と頭痛と煩悶と苛立ちと怒りにて頭を抱えたカーミラは、やがて停止する。思考回路を使うことを拒否したためだ

 

「あら、通してくれるのね。じゃあ遠慮なく!皆、行きましょうか!」

 

楽しかったわ!拷問器具!と朗らかに無邪気に楽しむアルクェイドに

 

「アルク姉さんのおばかー!」

 

「けふぅ!?」

 

体当たりをかますリッカ。受け止められはしたものの中間筋に全身を変化させた女子のタックルは真祖の予想より重かった

 

「スパルタクスじゃないんだから、あえて宝具食らうなんて駄目!死んじゃうんだよ、かなりの確率で!」

 

「り、リッカちゃん?大丈夫よ、私、頑丈だもの!」

 

「頑丈とか関係無いやい!誰かが進んで傷付くのは私は嫌だって話!あなたの大切な人に心配かけたりしちゃうんだよ!自分は大丈夫でも、あなたを心配する誰かは大丈夫じゃないの!」

 

だから、無茶は禁止!と念を押す。誰かを捨て駒に、肉盾に、といった役目は自分以外に絶対やらせないのがリッカ流だ

 

『その通りです。せっかく知り合ったのですから、あまり無茶はなさらないでください。そこにいるカルデアのマスターは、自らより他者の傷を苦痛と感じる人種なのです』

 

『そうですとも。生命力が強いからと行って、積極的に生命を脅かして欲しい訳じゃない。あなたにとっては余計なお世話でしょうが、それがカルデアの方針ですから諦めてください、なんて』

 

後方も念を押す。そして、きょとんとしてしまうアルクェイド

 

「・・・ひょっとして、私今心配されてる?」

 

「まさしく、だ。お前が死ぬのは構わんが、それは我等と別れてからにせよ」

 

――離別とか、悲劇とかは・・・ワタシたちには不要なものですから

 

「――・・・そっか。私、心配されてるんだ」

 

その、むず痒いような、暖かいような胸の内を感じ、体をよじるアルクェイド。

 

大袈裟な人達。バラバラにされたって、私は大丈夫なのに。でも・・・この暖かい思いやりは、かつて感じたものと一緒だ

 

(初めて会ったばかりの相手を、本気で心配するなんて。変な人達)

 

そう感傷を懐くアルクェイドの顔は、綻んでいた。すぐに右手を上げ、宣誓する

 

「はーい。マスターリッカちゃんと、カルデアのみなさんに誓って、もう無茶はしませーん」

 

「本当に?」

 

「本当に、本当でーす。ふふっ、命の心配をされたなんて初めて。――悪くないわね、このあったかい気持ち!」

 

リッカを抱きしめ、愉快に笑い、歩き出すアルクェイド

 

「よーし!気を付けて、次いってみよー!ちゃんと私の命を護ってね、マスター!」

 

「お、おぅ?はーい!」

 

「辺りの警戒、終了しま・・・先輩、どうかしましたか?」

 

「なんでもなーい!」

 

なんだかんだで、一同は次の階層へ向かうのだった・・・




「リッカちゃん」

「ん?」

「ずっと、優しいあなたでいてね」

「・・・――頑張る!」

――皆様も行きましたし、ワタシたちも行きましょうか

《見るべきものは見た。さっさと次の回に、赴くとするか》

――はいっ。・・・――

「ふわ~」

(?どうかしたかい、エア?)

――・・・英雄王

《うむ、言わずともよい。お前ならばそう言うと踏んでいたとも》

――ありがとうございます!では、少しだけ。清掃と脱臭、洗剤の原典を。1分で終わらせましょう――




「・・・はっ。虚空に行きすぎていたわ。掃除しなくちゃ・・・あら?」

部屋は、完全に整理整頓されていた。染み一つなく、完全に、完璧なまでに

「・・・どういうこと?これは・・・」

ふと、手元にある紙に目を通す

「・・・?」

『チェイテのお城へのご招待への 感謝を込めて ギルガシャナ=ギルガメシア』

「・・・この子が、掃除をやってくれた、という事?」

カーミラの口から、思わず笑みがこぼれる

「うふふっ、馬鹿な子ね。招いたのは私ではなく、過去の私なのに」

そう言いながらも、その手紙をそっと懐にしまう

「殊勝な子が世の中にはいるものね。さぞかし素敵な血と美貌を御持ちなのでしょう。お茶でも一緒にしたかったわね・・・」

埃一つない部屋とフロアに上機嫌になりながら、カーミラは厨房に引っ込んでいった・・・


[・・・気を遣う姫よな。生来の気質か?全く、忙しない事だ。これは些か、侮っていたやもしれんな]

呆れたような苦笑を浮かべる、何者かの称賛がフロアに染み入った――

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