「然り。古今東西のあらゆる防衛概念を取り入れた、人間のカタチとした防衛。それこそが強化の方向性よ。これが完遂した暁には、やつめの願いにも大きく躍進しようさ」
「素材も潤沢、資金も万全。オーダーとしては問題ないが如何せん時間がいるかもだ。短くて一ヶ月長くて半年。それでもいいかな?」
「構わぬ。完璧・・・いや、磐石なものを造り上げよ。――ヤツはデミ・サーヴァント。いつまで我等と同じ様に戦闘を行えるかは未知数だ。万が一に備え、ヤツが抜け出た際の補填の意味合いも持っているのだからな」
「はいはーい。まったく面倒見がいいねぇ」
――申請もあったので上申します。ダメージを快復する、自動再生回復機能も付加した方が、マシュちゃんの負担も減りうるはずです
《ふむ、新たに製作するか。鋳造目は如何にするか?案はあるか?》
――そうですねぇ・・・キズナオール、とかどうでしょうか?
《キズナオール・・・微塵も捻らぬストレートぶりよ。――いや、絆の全てとかけたのか・・・?》
――?
「まぁよいわ。・・・ロマンはどうした?姿が見えんが」
「あぁ、ロマニはね・・・――」
「ふんふーん♪ふんふーん♪」
遥か山々に囲まれし楽園、カルデア。その秘境に現れし第二のウルクの一角にて、軽快な鼻唄を響かせてちくちくと手作業をする男が一人。食堂にてスイーツを頬張りながら、手をせっせと動かしていく
「・・・できた~!名付けて、ロマニ・アーキマン伯爵!うぅん、我ながらうまい出来映えだ。契約特化で道具作成は下手くそになっちゃったけど、これくらいは出来なきゃね」
その男の名前は、ロマニ・アーキマン。かつて聖杯に『人間になりたい』と願い、正しく願いを叶えた遥か過去に王でしかなかった者だ
そんな偉大なる男が一人寂しく何をしているかというと・・・裁縫である。一人でもできるソロモン裁縫セットを駆使し、悪戦苦闘しながらもやっとこさ自分の仮装セットを作り上げたのだ
何故こんなことをしているかというと・・・月見も終え、秋は深まっていく。そして行う次なるイベントを見越して、準備しているのだ
「所長もオッケーしてくれたし、やるなら徹底的に楽しまなくちゃね!よーし、僕はやるぞ!何時ものギャップ効果で、皆を驚かせてやるんだ!」
出来上がった服装を誇らしげに掲げ、心の底から楽しさを醸し出すロマン。彼はこんな些細な裁縫すらもやったことが無かったのだ。
滅亡の未来を見てしまったが故に、それに対処するために、あらゆる事をしてきたが故に。ゴールのないマラソン、終わりが見えないトンネルを走るようなその地獄のような自由、10年の月日はようやく終わったのだ
「――感謝しても、し足りないなぁ」
天井を見上げ、知らず笑みを溢すロマン。――この未来に、自分がいるとは思わなかった。何故なら相手がソロモンだというならば、此方には切り札があったからだ
――『訣別の時きたれり。其は全てを手放すもの(アルス・ノヴァ)』
ソロモン唯一の人間らしい神話の再現。神から与えられた指輪を天に返し、あらゆる世界より消滅する別れの詩。効果は、ソロモン王の死。翻って、ソロモン72柱の崩壊消滅。ソロモンが用意した、何れ魔術が人に仇なし、牙を剥いた時の安全装置
その効果さえあれば、ゲーティアを致命的な崩壊に導ける。最後の最期で、彼女達の勝利の切っ掛けになれた
・・・だが、それはソロモン王の完全なる消滅。あらゆる世界からソロモンは消え去ることを意味し、それはロマニ・アーキマンは勿論、英霊の座からすらも消滅する事となる、あらゆる生命が到達できぬ完全なる無への終着を意味しているのだ
「まぁ、それは生命に課せられた課題を全部やり遂げたっていう理屈だから、そう怖いものではないんだけど・・・やっぱり、一人だけっていうのは怖いよね、うん・・・」
あらゆる生命の課題をやり遂げた、そう聞こえはいい題目だが、積極的に其処に至りたい、と聴かれたらそれは断じて違う。嫌だ、と言ってもいいくらいだ
死んでしまう。もう皆にも会えなくなるし、もうスイーツも食べられないし、話も出来ないし、マギ☆マリも見れなくなるし、何より――僕が悲しい
十年の間、僕には勿体ないほどの宝物が増えすぎた。一人でなにかをできる時間、一人で何かに挑む機会。一人でなにかを為し遂げる自由。そんなチャンスが、振るまいが許されるのは初めての事だった
自分には人間の自由はなかった。王として求められ、そのように振る舞い、国を広げ、よきものにし続けた
『愛多き王』なんて渾名もある。数千人を愛した愛の王、とも。それは正しくて、違う。『求めを拒む自由』は、許されていなかったのだ
だから・・・自分は、この自由がかけがえのないものだった。例え対策と準備しかしていなくとも、何かを選びとる事そのものが、大事で、大切で、何にも代えがたい宝物だったのだ
だからこそ・・・どうしようもなく怖くて、ギリギリまで決心が出来なかった。その全てを投げ出す覚悟が、どうしても、怖かったのだ
けれど・・・あの王様が、そんな不安を吹き飛ばしてくれた。いや、王様だけじゃない。あの王に寄り添い、宿っていた『英雄姫』
「・・・」
『死とは断絶ではなく、次の生命に希望と未来を託す儀式である』
音声しか拾えなかったけれど。その言葉の意味は、震えるような肯定の真理は確かに受け止める事ができた
ゲーティアに冠位を捧げ、全能を終わらせ、自らの答えで獣を討ち果たした尊き魂。王が認める至宝。人類最新の、英雄の姫。そんな彼女がいてくれたから、今こうして自分は生きている。こうして、自分は自由を謳歌できている
「・・・本当に、ありがとう」
面と向かってボロを出すのは怖いので、誰にも分からないように、一人告げる
その魂一つで、ゲーティアの、人類悪の在り方を受け入れ、打倒した。王が掲げる『完全無欠の結末』に、泥を塗らずにすんだ。こうして、自分は自分として、人間としての生命を謳歌できている
彼女が王の傍にいる限り、あの王様はずっと愉快なままだろう。僕達の無敵にして最高の仲間として、ずっとずっと笑っていてくれるだろう
そんな彼等が導いてくれた未来と、自由を、大切に謳歌すると誓おう。僕は、僕なりに生命を精一杯生き抜くと決心しよう。皆が辿り着いた未来で、一生懸命生きていこう
その為にも、まずはスタッフや皆の安全と、揺るぎない安心を確保しなくちゃ。自分にやれる事は、まだまだ沢山ある
~
「せっかく自由になったんだ。シバにゃんと世界を巡る旅とかに行ってみても楽しいんじゃないかい?私と愛弟子だけでもカルデアは回せるし、だーれも文句は言わないはずだぜ?」
~
レオナルドはああ言っていたけど、勿論僕は首を横に振った。シバにゃんも同じ解答だった
まだ、全てを投げ出す訳にはいかない。確かに自由や人生は大事だけれど、それと責任の放棄は別だ
たった一人でカルデアを背負う羽目になったオルガマリーも、まだまだ支えて助けてあげたいと思う。何だか最近加速度的にラスボスみたいな風格と落ち着きを身に付けて嬉しいやら恐ろしいやらなんだけど。しっかりと支えてあげなきゃ。いくら有能になろうとも、少女と言っていい歳なのだから
「でも最近、コーヒー飲みすぎだと思うんだよね。カフェイン中毒になっちゃうから気を付けてほしいんだよなぁ」
マシュも、寿命が解決したとはいえ全てはこれからだ。生命活動は17、8年くらいでも、しっかりと人間らしく人生を送り始めたのはまだ半年の事なんだ。・・・いや、半年で世界を救ったんだな僕達!?早すぎない!?
「送り返されたAチームの立場がないなぁ・・・そこはちょっと申し訳無いかも。カドック君とか悔しがるだろうし・・・まぁ、仕方ないことだし、どうしようもない事だったしね」
藤丸リッカ。――実のところ、彼女こそ、一番に支えてあげなきゃいけない子なんだ
人類悪。有り得たかもしれない獣。その実力と人格に惑わされがちだけど、彼女の抱えた宿業は誰よりも重い。家族の暖かみも、人の触れあいも満足に受けていない中で、世界を救った女の子
名声と栄誉、力・・・それを大抵得ていながら、人間として最低限の幸せをまともに知らない、歪ですらある少女
彼女を、放ってはいけない。世界を救うための御輿としてはいけない。自由意思が無い、英雄にしてはいけない
「家族の代わり、なんて立派なものになれるかは分からないけれど・・・出来るだけ、なんとかしてあげたいしね」
そんな想いが、皆にもあったのかもしれない。カルデアでの催しやイベントを、積極的に推進しようと提案したら、ほぼ二つ返事で承諾してもらえたから・・・きっと、全員が同じ気持ちなんだろう
血が繋がっていなくとも、人種だって違っても。家族の暖かさや団欒を、感じてほしいと願い、行動する事は・・・必ず、無意味では終わらないと信じてみよう
これが、世界を救うなんて重荷を背負わせた自分の罪滅ぼしになるなんて思ってはいけない。だけど・・・いや、理屈っぽいのはよくないな
「・・・君達は、幸せになっていいんだ」
世界を救ったのなら、その世界で幸せになっていい。君達の若い、大切な時間を戦いに費やすような真似をしては、させてはいけない
だからこそ、大人である僕達がいる。過去より積み重ねた責任や重責を押し付けてばかりだけれど。確かにしてあげられる事は在るのだから
その一環、としては微妙かもしれないけれど・・・なんだかんだで、君達の人生の、細やかな楽しみになってくれたのなら嬉しい
「楽しんでいいんだ。それこそが、君達の命の特権であり・・・生命を謳う意味であり・・・」
その言葉を口にしたとき、ゲーティアに言葉を告げた彼女の声がよぎる
――死と断絶を越え、愛と希望を抱き。尊き
「――君達の旅は、始まったばかりなんだから」
そうだろう?姫に看取られるなんて役得してくれちゃって
笑うロマン。かつての使い魔たちは、皆消え去った。ただの一柱も、残すことなく
その意味は・・・全ての希望を託せる何かを、彼等が見付けることが出来た、と言うことに他ならない
彼等も答えを見つけたのだから、自分も負けてはいられない
精一杯、自分の出来ることと、やれる事をやっていかなくちゃね。自分の生命を、今度こそ自分が使いたいように使うんだ
彼女等の幸せを祈る。それもまた、僕の願う自由の形だ
「その為にも、まずはハロウィンだ!皆が楽しめるように、色々手を回さなくっちゃね!」
より一層、手を器用・・・という程でもないように動かすロマン
「所長には何が似合うかなぁ?リッカ君はカッコいいから吸血鬼が似合う・・・ん?ギルは何が似合うんだろう?マシュは・・・うぅん、意外と難しいなぁ・・・?あ、シバにゃんは狼コスプレだね!ケモミミあるし!」
平穏な日常を楽しみ、伸び伸びと笑う、一人の自由を何よりも望んだ、かつての王
「姫様は何を着るのかなぁ・・・?英雄王、服のセンスは無いからなぁ・・・ヘンテコな格好にならなければいいんだけど・・・」
そんな、当たり前の細やかな楽しみに胸を躍らせ、そんな日常を謳歌し、誰かの幸せの為に笑う
これこそが、明日をより良くするため、未来をより良くするために何かを行う概念
・・・――要するに、ローマであり、ロマンである
・・・そして、そんな自由を謳歌するロマンに
「ほうほう、これは楽しい催しだねぇアーキマン?自作の衣装とは実に凝っている!」
からかうように現れしマーリン
「当然、我の装いは黄金の豪奢でゴージャスなものであろうな?」
愉快げにロマンの衣装に金箔を付け始める英雄王
「ちょっ!?僕の細やかな自由を引き裂く筆頭が来た!勘弁してよ内職中なんだから!」
「実に人生エンジョイしているようで大変結構!どうかな、衣装作りなら僕も協力できると思うのだが?」
「君のセンスなんて信じれるもんか!どうせ露出が高いのばかりで扇情的なものになるに決まってる!」
「酷いぞアーキマン!その通りなんだけどね!」
《もうそのような季節か。エア、何かリクエストはあるか?服の一つや二つ、この我がいくらでも見繕ってやるぞ?》
――こ、これは・・・!月夜を駆け抜ける、パンプキンラマッス仮面が電撃実装・・・!獅子とカボチャの怪盗・・・お菓子を華麗に配る義賊にして皆のラマッス仮面・・・ハロウィン、ハロウィンデビュー・・・!
(エア、ラマッス仮面だとテンション上がるなぁ・・・デンジャラスビーストはエアにはコンセプトが合わないな。劣情と扇情的な衣装は・・・マシュにお願いしよう。スケベな身体してるしね。お団子食べさせなきゃいけないなぁ!)
「我は当然、人類最古の領主コスであろう?黄金と黒のコントラスト、期待しているぞ」
――たなびくマント、駆け抜ける黄金、人か獅子か!ラマッス仮面!ラマッス・・・ラマッス!
《わかったわかった。特注してやる。しっかり着こなすのだぞ?》
――ありがとうございラマッス!あぁ、楽しみですね!フォウも一緒に!ラマッス仮面の頼れるパートナーとしてお願いね!
(任せてほしいな。女怪盗?には相棒が付き物だからね!)
「あ、ところで・・・リッカ君の衣装は・・・」
「「「・・・」」」
――な、何故皆様そこで黙るのですか!?
(エアは彼女に着せる仮想はイメージあるかい?)
――こんなときこそお姫様コスプレ!皆の憧れに、リッカちゃんが今こそなれるチャンス!
(エアの格好だなんて自信家だなぁ・・・)
――ちーがーうーのー!そういう意味じゃないの~!
あたふたあわあわとフォウを抱き抱えうりうりする。フォウはエアをからかえて楽しげだ
《無理をさせる必要も無かろう。・・・邪龍の鎧で事足りるわ》
――うぅ、リッカちゃんだって可愛い衣装が似合うはずなのに・・・
そんなこんなの、日常の一ページ。それはこれからも、変わらず紡がれていく・・・
あらゆるものは永遠ではなく、最後には苦しみが待っている
だがそれは、断じて絶望なのではない
限られた生をもって死と断絶に立ち向かうもの
終わりを知りながら、別れと出会いを繰り返すもの。・・・輝かしい、星の瞬きのような刹那の旅路
これを、愛と希望の物語と云う
そして、死と断絶を越え、愛と希望を抱き
尊き生命を謳う旅。それが・・・この旅路の答え
おめでとう。この細やかな、けれどかけがえのない一時が、十年の自由に与えられた報酬だ
その一時が、日常が。どこまでも続くことを切に願う
・・・誰もが望み、届かなかったその未来は、始まったばかりなのだから――
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