人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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???



「散々虚仮にしてくれたわね、金ぴか・・・!だけど、いつになく慎重さを期したのが運の尽きよ!私は転んでもただでは起きない!必ず、必ず再起してやるんだからね、覚悟してなさいよ!それで泣いて謝っても遅いんだからね――!!!」


――大丈夫でしょうか、イシュタル様・・・

《まぁ、好きにさせておけ。一応やつは善なる神。自爆はするが、悪には陥るまい》

――信じましょう。必ず、大どんでん返しが起きると・・・!

《まぁそれはよい。さて――》

「あぁ、いたいた。ギル、ヴィマーナを用意してくれるかい?」

「む?行きたい所でもあるのか?」

「うん。――僕達だけの、あの場所へ。フォウと、彼女をね――」


「リッカ達も、ウルクできちんと休んでくれれば良いのだけど・・・」

「一緒に混ざれなくて寂しいですか?所長」

「――何を言っているんだか。寂しいですって?」


「所長ー!鍋できましたよー!」

「ピザもありますよ!」

「豚汁もできました!味噌だけは持ち歩いているんですから!」

「私たちは私たちで、騒がしいんだから。寂しがってる場合じゃないわよ」

「・・・ですね!」

「ラクダ、飼いたいですねぇ・・・ロマン様と、砂漠を二人で・・・横断・・・♥」

「クソァ!!」

「ムニエル!ムニエルスティ!!」

「ムニエル、人理を取り戻したらお見合いを・・・あら?」


「はーぁ、久し振りにあんなことしたわ。全く。女神が無償で何かをするなんて!」

「わがままを言ってはいけないわ。女神とは清く正しく生きるものよ、(エウリュアレ)

「・・・手向けになれば、よいのですが」

「ゴルゴン三姉妹・・・?」

「すみません、オルガマリー。その、私用でレイシフトを・・・」

「悪事でないなら、構いません。・・・大丈夫ですか?」

「はい。・・・お気遣い、ありがとうございます・・・」

「ムニエル、良い相手が見つかるといいわね」

「ありがとうございます女神様!♥」


幸福なる都市。決戦へ向けて

ウルクの、メソポタミアの、人類の未来を懸けた最後の戦い。訣別、親孝行作戦の儀を果たす最後の一週間の日々

 

 

「おぉ、なんという・・・なんという完成度なのか・・・!此処に、我が秘密兵器は完遂した――!」

 

 

「どうしたのですか王!まさか、またもやショック死の予兆が!?」

 

 

「違うわたわけ!これを見よ!あえてブイン族と呼称するが、奴等の技術を総結集し作り上げたナピュシュテムの牙、改の改築案が完成したのだ!見るがいい!あらゆる時空のノウハウを全て叩き込んだ最古にして最新の牙を!これをブイン族区画にて技術再現が可能となっている職員に届けよ!6日だ!6日を懸けて改築を万全にせよと伝えるのだ!」

 

「ほっ・・・これは・・・!外部からの圧力で自動的に段組が組合わさり、天にも届く牙となる(予定)とは・・・!まさに天才の所業です!王よ、建築家としての道筋も検討するべきかと!」

 

「褒めるな!真剣に迷うであろう!王とはなんでもこなし、なんでも修めまた治めるものなのだ!そこの地獄組はな、油の圧力で組み上がり波が押すように迫り上がる。麦酒をぐぐっとジョッキで飲み干す仕草に似ている故、我はジョッキアップ式と名付けた。どうか?」

 

「完璧にございます!これこそ、飛来せしティアマト神を食い止めし切り札!早速兵装舎に提出を!」

 

「――シドゥリ!」

 

シドゥリの後ろ姿に、王が声をかける

 

「如何なさいました?王よ」

 

「いや。――よくぞ生き残った。お前の献身、良きものであったぞ」

 

「・・・そのお言葉は、気が早くございます」

 

「フッ。――そうだな。では走れシドゥリ!急げよ!時間はそう無いぞ!」

 

「はっ!」

 

走り去るシドゥリと同時に、入れ替わるように兵士が殺到する

 

「失礼しますギルガメッシュ王!ディンギル担当兵舎からの伝令です!」

「失礼します!ギルガメッシュ王!東市場からの嘆願書です!」

「失礼します!ギルガメッシュ王、娼館からの苦情報告です!」

「失礼します!ギルガメッシュ王!祭祀学舎からの要請です!」

「失礼します!ギルガメッシュ王!巫女所から本日の冠婚葬祭の」

 

「一列に並べ!全て片付ける!よい機会だ、ティアマト討伐までに仕事を全て片付けてくれるわ!今の我は整体を受け生まれ変わったリフレッシュ王!仕事の一つや二つどうということはない!何!?冥界の地図と位相が一致しない!?祭祀所に冥界の資料は有り余っているはずだ!かき集めてこい!何度も言わせるな!こちらが忙しなく働けばカルデアのらの負担が減る!楽に戦いたければ足を止めるな!む、なんだこの阿呆な仕切りは!果実は兵士に渡せ、疲れさせるな!ラピスラズリの運搬は巴に任せよ!奴は男性100人分は働く!怪鳥駆除はブレーキがない忠犬に一任だ、暴れられるよりよい!ギルス市の巫女長の報告はこれか!えぇい現金なやつよ、勝ち目が見えれば即座に乗るか!バウの神殿の貯蓄が来る!受領印を発行せよ!些か遅すぎたが、貴様らの決意を買ってやる!兵士の中の精鋭を海方面のディンギルに配備せよ!生まれながらの戦士のみ、死地に立たせるのだ!」

 

王が想像を絶する激務を、想像を絶する采配にて処理していく

 

(この半年間、鉛を飲む思いで待たされた。ここから先は我も読めぬ真なる戦い。神の前に屈するか、人が訣別を果たすか。――その果てに、我等は生きた証を残すに足るものなのか)

 

「全てはこの戦いの果てに垣間見えよう!――さぁ、我等ウルクの民総てを結集した力、災害の獣に見せつけてくれるわ――!!」

 

日が登り、星が瞬くまで、僅かの休みを取りつつ、エアにて整体されし肉体をフル稼働させ賢王は働き続けたのだった――

 

 

場所を変え、カルデア大使館

 

 

「さぁどうぞ皆様!食事、お花、お酒!ウルクの皆様から提供されし、ぱぁてぃを開始いたしましょう!」

 

一階のラウンジでは、ウルクの民たちが集まり、カルデアの勇者を祝い立てんと大混雑が起こっていたのだ

 

 

「やぁ、おつかれさんリッカ!今度は冥界に落ちた王を助けてくれたんだって!?ありがとう!ウルクの民を代表してお礼を言うよ!・・・いやぁ、ブイン族と出逢ってから今まで、長いような短いような。あっという間だった。皆が力を貸してくれたお陰で、俺達はここまでやってこれた。本当にありがとう。市場で祝いの席を作ろうと思ったら、こんなことになっていたよ。――ティアマト神との戦い、頑張ろうぜ!」

 

「ありがとう!」

 

ウルクの民とリッカが固く固く握手する

 

「あ!握手!握手だな、それは!リッカ達がよくやるやつだ!俺もやるぞ、握手させてくれ!作戦に参加する前の景気付けだ!あんたらにはいつも驚かされる!川に棲み着いたワニ100匹事件の時とかな!」

 

「ワニ美味しかったなぁ・・・」

 

「いやぁ、うちの蜂駆除の時ほどじゃない。あのときは世界の終わりが来たと焦ったもんさ。部屋が夜になるくらいの蜂でさ。リッカが立ち向かった時は心から痺れたね。蜂の毒で物理的に」

 

「刺されてたんだ!?」

 

「なぁ、ラマッス仮面の麦酒運びの話はしたっけ?してない?なら聞いてけ、すげぇから!ニップル産、ギルス産、ウルク産の三つの銘柄が名札なしで混ざっちまってさ、見分けがつかなくなっちまって。仕分けには丸三日かかるが、んな事してたら味が落ちる。そこに現れたラマッス仮面が颯爽と酒を仕分けてくれてさ!!もう子供達がうるさいんだ、『ラマッス仮面みたいにやさしいヒーローになりたい』って!あ、リッカも人気だぜ?『おっきくなったらラマッス仮面と一緒にリッカを倒す』ってさ!」

 

「ラスボスだよね!やっぱりね!」

 

代わる代わる、リッカの、カルデア一行の武勇伝が話される。それを誇らしげに聞く、巴

 

「リッカ様。長い滞在とふんばり、本当にお疲れ様でした。私どもも共に戦えて、光栄の至りです」

 

「あははっ、出来ることをやっただけだよ」

 

「・・・謙虚なのですね。ますます素晴らしいです。・・・私からも、一つ」

 

「?」

 

「長生き、してくださいね。あなたの人生は、まだ始まったばかり。健やかに、長生きを。それこそが、あなたの為すべき、生涯に至る戦いなのですから」

 

「――はい!」

 

 

パーティーは、続いた。絶望に屈せず、笑い合える強さを、互いに噛み締めながら・・・

 

 

 

・・・そして、花屋

 

 

 

「おばあさん。商品の仕入れ、終わりました」

 

花屋の手伝いを終えたアナが、盲目の女性、老婆に寄り添う

 

「ありがとう。本当に、良くしてくれたねぇ。こんな終末に、私みたいなのが生き残れたのは、あんたのお陰だよ」

 

「いえ、そんな・・・」

 

「・・・私ゃ偏屈でねぇ。家族の反対を聞かないフリして、花屋を続けていたんだよ。・・・格好だけだった。店先にも出られない。呼び込みもできない。せっかく孫夫婦が持ってきた花を枯らすだけの毎日だった。・・・それを、あんたが変えてくれてねぇ・・・」

 

アナは静かに、老婆に寄り添い、話を聞いている

 

「ここ数日は、若返った気分だったよ・・・。私が病気にやられた時も、あんたは傍にいてくれた。家族は諦めて、あたしを旅立たせようとしてくれた。あたしも、もう十分だと受け入れた。でも・・・あんたは、私の体にすがってくれたね。『まだおばあさんは生きている、諦めないで』って。・・・だから、私は今、生きているんだ。・・・『人は、忘れられなければ死んじゃいない』んだから・・・目を覚まして、あんたの顔に触れて・・・」

 

「・・・」

 

「ビックリしたよ。こんな美人だなんて知らなかった。布で隠すなんて勿体無い。あんたは街で一番の美人になる。だから顔をおあげ、なんて言っちまったが・・・それなら、花の飾りの一つもないとしまらない。だから・・・あんたに、これを渡したくてね」

 

そうして、老婆は渡す。アナの頭に、華で編まれた冠を載せる

 

 

「おばあさんが、一人で・・・?」

 

「ふふっ、実はね。手伝ってくれた人がいたんだよ。落ち着いた声の、背の高い女の子。小さくて、意地悪そうな女の子、おてんばで、気の強そうな女の子が、花屋に来てくれてね」

 

「それは・・・」

 

「『妹に、似合う冠を』なんて・・・。愛されているじゃないか。胸をお張りよ。あんたは・・・一人じゃないんだから・・・」

 

「・・・はい。・・・――はい・・・」

 

涙を流し、静かに佇むアナ。優しく、受け入れるおばあさん

 

おばあさんとアナは、最後の時まで・・・共に、花屋を続けているのだった・・・

 

 

そして、兵士鍛練場にて、マシュとレオニダスは・・・互いの信念を交わしていた

 

「戦いを怖がることは恥ではありません。基本、命の奪い合いです。怖くないはずがない。戦う武器に向き不向きがあるように、戦う姿勢、というものにも向き不向きがあるのです。マシュ殿は、恐怖を飲み込んだり慣れたり出来るタイプではありません。その恐れは一生、あなたに付いて回るでしょう」

 

「・・・そう、だと思います。でも私は、恐れを克服したいです。このままでは、いつまでも、マスターのお役に立てません」

 

「・・・・・・、失礼」

 

レオニダスは、兜を外す。燃えるような髪と眼差しが、外界に晒される

 

「はは、少し熱くなってきたので。いよいよ神との決戦ですからね。私も気合いが消えません。さて、先程の話の続きですが。あなたは恐怖を忘れられるタイプではない。あなたは、恐怖を勇気で押し込められるタイプです。私はこちらのタイプの戦士をこそ信頼し、尊びます」

 

「勇気で、押し込める・・・?レオニダスさんも、もしや?」

 

「ははは、残念ながら私、恐ろしいのは亡霊のみ。これでも王ですからね。戦いにて恐怖を感じぬよう、幼い頃に鍛えられてしまったのですよ」

 

「あ・・・すみません・・・」

 

「いえ。いいのです。――私は確かに恐怖は感じませんが・・・戦いに出ること自体は、つねに恐怖がありました。国を空ける事、国を護ること。残されるモノたちの人生を考えると、思わず槍の柄を握り潰す程でした。――その最たるものがテルモピュライの戦いです」

 

炎の門。レオニダス、最大の防衛

 

「敵のペルシアは十万。対して我がスパルタは三百人ほど。集結したギリシア連合の、ほんの一握りです。戦えば敗北は必定。しかし降伏し、ペルシア軍の進軍を見逃せば、スパルタは助けると言われました。彼等の本命はアテネですからね。――ですが、我々がペルシア軍を押し留めねばアテネの滅びは必定」

 

たった1日、たった数日の足止め、国の命運を分ける、その決断

 

信を取るか、生を取るか。彼は悩んだ。そして、かつてない恐怖に襲われた

 

 

妻と子を残し、死地に赴く。それは、自らが死ぬより恐ろしいこと

 

「でも、レオニダスさんは戦いに出られた。――数日もの間、十万のペルシア軍を押し留め・・・そして、亡くなられました」

 

恐怖を抱き、戦いに出向かれたからですか?とマシュは問う

 

「いいえ。――神託があったのですよ、マシュ殿。迷った私は天に祈り、神の声を求めた。かくして神託は告げました」

 

 

――『戦いに出れば、お前はスパルタに帰ることはない』と

 

「・・・」

 

「私の迷いは、それで消えました。それなら迷いも恐怖もなく、今までのように戦えると。」

 

「ど、どうしてですか?帰ることはないと言われたのに?」

 

「『戦う意味はない』とは言われなかったのです。そして、私達が敗れても、スパルタが滅びることもないと。我々は、戦場からは帰れないでしょう。ですが、それは無意味ではない。帰る場所は無くとも、我々の戦いは後に続く者達を守るのだと知ったのです」

 

我が身朽ちても、遺志は滅びず

 

守護の先に、続く者がある、続く意志がある、未来がある

 

「これが、恐怖を飲み込むのではなく、恐怖を希望で塗り替える強さなのだと。――その事実を、私はしたり顔で友に自慢しました。どうだ、知っていたか?と」

 

 

 

――『そんな、お前以外全員がやっていた事を今更得意げに言われても』

 

「――ははは。まさに三百人、大爆笑でした。私はともかく鈍感ですので。尊敬する友達の強さの源泉、その心の在り方に最後まで気が付かなかった。――いえ、最後の最後に、ようやく気が付けた」

 

奇跡があるならば

 

真に、奇跡が起きたなれば、それは、その天恵

 

 

「いいですか、マシュ・キリエライト。あなたが戦いを恐れるのは、大切なものを多く知っているからです。それが多い分だけ、恐怖を乗り越える分だけ、あなたの心は強さを増すでしょう。それが、あなたの最大の武器になる。その心が、自らの恐怖で折れない限り――あなたの盾は、他の何者にも汚されない。負けることは、無いのです」

 

「――強者には栄光と勝利を、敗者には恥辱と死を。・・・あなたは、そうなってはならない」

 

レオニダス王の教えが、心に染み渡る

 

「――ありがとうございます。やはり、レオニダス王は私が尊敬する、最高の盾使いです!」

 

「ははは。光栄ですなぁ。――冥界ではお疲れ様でした。・・・その、私は亡霊は、諸事情から駄目なので。――私より理系で、計算が早そうなので」

 

「そ、それが理由でしたか――!」

 

二人の守護者は、楽しげに語り合った――

 

 

 

メソポタミア上空――

 

 

――わぁあ・・・!

 

雲の上、遥かなる運河を下に見据える、空の高層――

 

「ここはね、僕とギルが天の牡牛と戦った場所。ギルが英雄として、最も強く強大だった頃の思い出の場所さ」

 

ヴィマーナにて、エルキドゥが誇らしげに微笑む

 

「ウルクに来たのなら、名所観光はしなくちゃね。どうかな?僕達だけの秘密の場所は」

 

――凄い!凄いです!空、雲、そして――!

 

エアの眼には、輝くばかりの星々が映る。遮るもののない、原初の輝き。黎明の空に散りばめられた、遥かなる過去よりの贈り物――

 

――見てみてフォウ!手が、手が届きそうなくらいぴかぴかして、輝いて・・・!ワタシ達だけだよ!独り占めしてるの!この景色を・・・!

 

(うん。うん!これが天然の宝石箱というヤツだね!何より――キミがはしゃぐ姿が、ボクにはなによりの輝きにして、宝物さ!)

 

フォウとエアが、目を輝かせその光景を堪能し、称賛する。二人は寄り添い、空を見上げ、耀く星の輝きをその身で受け止める

 

《大袈裟に過ぎよう。星々の輝きなど、今まで散々見てきたではないか》

 

笑いながら、天空神の酒をあおる英雄王。その声音は、いつになく穏やかだ

 

――この空は特別です!何せ、ワタシがこの世で最も敬愛する王と、その友達が垣間見、愛した光景なのですから!

 

《――・・・》

 

――ワタシは、この光景を一生忘れません・・・!英雄王、エルキドゥさん!ワタシに、フォウに、こんな素敵な世界を見せてくださり・・・本当にありがとうございます!

 

心の底より発せられるエアの敬愛と感謝を、満足げに受けとるメソポタミアの二大英雄

 

「気に入ってもらえて、良かったよ。・・・実のところ、気に入ってもらえる確信はあったけどね」

 

《・・・・・・》

 

「君も、そんな顔をするんだね。イシュタルが見たかったような、そんな顔を」

 

《――戯れが過ぎるわ。エアめに、いや・・・誰にも言うなよ》

 

「解ってるさ。・・・うん。やっぱり、君の傍にいてくれた魂が、彼女でよかった」

 

友の、何者にも見せぬような表情に、エルキドゥは一層心を震わせる

 

「・・・もうすぐウルクとお別れだ。けれど、彼女と彼は、辛く感じてはいないようだね」

 

《それが我等が旅路よ。人生において別れは必定。それを厭い、疎んでいては立ち行かぬ。別れれる際は笑顔と、感謝を浮かべるべきなのだ。互いに生きながら、離別を果たせる幸運を味わいながら》

 

「――そうだね。その通りだ。そんな事も、彼女は君から教わっていたんだね。――だから、カルデア、なのか」

 

エルキドゥが深く頷く

 

「遥かなる過去に生きた何者かの人生(かがやき)を、遥かなる未来に生きる何者かが受けとる。遥かなる過去の星の輝きを観測する天文台のように。――英雄を支配するのではなく、識るために手を伸ばす。だから――皆は力を貸す。だから・・・星見の天文台なんだね」

 

その友の言葉を、英雄王はただ笑う

 

《設立せし者が何処まで思い至っていたかは知らぬがな。だが・・・的外れでも無かろうよ》

 

「うん。だから――君は彼女に、あんなにも優しいんだね」

 

無邪気に星を見る、人類最新の英雄姫を、いとおしげに見つめる

 

「遥かなる最古の君の輝きを敬い、憧れ、理解し、寄り添う事を選んでくれた――一番の後輩にして、最新を生きるヒトの、彼女に」

 

《そう大層な理由など無いわ。――魔神王に総ての悲劇を見せつけられながら、『人の営みはそれだけではない、知ったことか』と人の善と在り方を信じた頑固者。魔神ではなく姫である道を選びし自己の極致――個人のすべて、世界と其処に生きる総てを慈しむ在り方。我が庇護に値せし『人類最新の英雄姫』。贔屓もしよう、寵愛もしよう。何故ならば――》

 

王は、静かに告げる

 

《――至高の財(エア)を庇護し、守護する事こそ。『獲得と守護(わがおうどう)』の遵守に他ならぬのだからな》

 

・・・英雄姫こそ、人類の善性、善き営みを証明せしものであるのだと。

 

かの魂が愛しているという事実こそ、人類が織り成す歴史における『善』という紋様の価値の証明であるのだと・・・既に英雄王は定めていたのだ

 

ゲーティアに手を伸ばされながら、それをはね除け

 

獅子王に選ばれながら、対立を選んだ

 

自らを敬愛せし、一つの至宝の価値を――

 

「――あぁ。その通りだ。――ようやく、現れてくれたんだ。孤高である君の矜持に、傷をつけた・・・僕の過ちを、君の孤独を癒してくれる、魂を・・・」

 

《エアには宣うなよ。恐縮にて倒れられては事だからな。――やつの生の答えは、ゲーティアに突き付けられよう。それを、楽しみに待とうではないか》

 

 

「始まりは退屈と好奇心であったが。この旅が始まってからというもの、倦怠とは無縁であり、お前の成長は我の想像を越えるものであった。――お前は我に寄り添うとばかり口にするが・・・我もまた、お前の成長と旅路に、頬を緩める者の一人である。・・・思うままに進め、エア。その生の儀を全うする事によって、我とお前の旅路を終えるものとする」

 

「――・・・」

 

「この我は、座には帰らぬ。この旅の経験と記憶は、我だけのモノだ。抱え、懐き。虚無にて微睡むとしよう。・・・我が閨にて振り返る叙事詩、これからも彩ることを期待しているぞ、エア――」

 

分かっているとも、と笑い合うエルキドゥ、そして、ギルガメッシュ

 

 

――いつか、あの星の向こうまで・・・皆で、旅に行くために・・・

 

(?)

 

――絶対、未来を取り戻そうね。フォウ!

 

(あぁ!その為に、ボクも――戦う決意を固めたのだから!――この世界は、好きかい?)

 

――うん!英雄王の庭、其処に生きる人と、其処にある全てが・・・ワタシは、大好き!いつまでも、世界が・・・この空のようにどこまでも続き、

この星々のように、輝きますように――!

 

 

星の輝きに懐かれながら・・・王と姫達は、天上の景色を味わい続け、夢と未来に、胸を躍らせるのであった・・・




天の丘

「ここが・・・天の丘。友と、初めてあった場所」


(・・・身体が、告げている。ここに来れば・・・)


「――ほう。一息つきに来てみれば、珍しい顔もいたものよ」

「――!」

「随分と手酷くやられたな。まぁ、相手が相手だ、仕方あるまい。――手傷の割に、すっきりとした顔持ちではないか」

「・・・――」

「その身体で、何をするつもりだ?停止が間近な死に損ないにしか見えんが」

「・・・涙を流す人がいる」

「・・・」

「――笑顔を見たい、人がいる。だから・・・最期まで、足掻いてみせる」

「――そうか。そう言えば、このようなものが残っていたな」

『ウルクの大杯』

「――!?」

「ほう、聖杯を心臓にしただけある。ウルクの大杯、案外に使えるではないか」

「何を・・・」

「貴様がしたい事を見つけたならば、後押ししてやるのが友と言うものだ」

「――え?」

「言わねば分からぬか?貴様が何者であろうとも、その身体は、地上でただ一つの天の鎖。ならば――友愛の対象に他ならぬ。贔屓して何が悪い」

「・・・――君は・・・」

「ではな。胸に懐いた願い、精々果たすがいい」

「待て、君は・・・!」


「己を決める部品は、貴様だけのモノだ。無くすなよ」

「・・・」

「・・・全く・・・旧人類なのに、偉そうに――」


(全く休めぬではないか。――仕方あるまい。エアめの顔を見に行くとするか)

深夜


「起きよ、エア」

「ふぁっ・・・?」

「やはり、英雄姫の姿で寝ていたな。――突然だが、少し付き合うがいい」

「賢王・・・?」

「お前にも見せてやろう。我が(ウルク)のなんたるかをな――」

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