人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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罪を犯した騎士はたどり着き


邪なる龍は未来を臨み

雪花の騎士は、決意を振るう

騎士の王は静かに佇み

至尊の獣は再び来る

英雄達の王は皆を見定め

英雄姫は今、答えを懐く――


獅子王――そして、忠義の騎士~~英雄姫の答え、旅路の果て~~

『――待っていた』

 

 

 

玉座への扉を開け、輝ける獅子の座へと至りし、カルデアの面々

 

 

十字軍が滅び、聖地が潰え、聖都が顕現した――有り得ざる歴史。獅子の王が打ち立てし、騎士道の極致

 

 

その王城の頂上、獅子の座。絢爛、荘厳なる玉座に座りしは――

 

 

――獅子王。アルトリア・ペンドラゴン・・・

 

相対するだけで、身体が萎縮するような感覚が一同を襲う。それは、紛れもない神威を目の当たりにした原初の畏怖。人が神の前に立つその意味を、魂が理解したがゆえの反応

 

 

(目の当たりにしているだけで、こんな――まるで、ギアスです・・・!)

 

(――獅子王・・・覚悟は決めていたつもりでしたが・・・ここまで恐ろしいとは・・・)

 

真っ当な感性、精神を持つマシュ、ベディヴィエールは、その偉容と風格を目の当たりにし、打ちのめされる。神の前に立つというのはそう言うことだ。矮小な人は、その存在の前には、みな等しきもの――

 

「・・・」

 

それでも尚、腕を組み力強く『神』を睨む『人』たるリッカ。――その魂が、唯の人の範疇には収まることが無くなってしまったがゆえに。――悪であるがゆえに、対立する善に気後れする事はない

 

『待っていたぞ。我が理想、我が望み、我が願い』

 

言葉を語らず、獅子王はエアに語りかける。かの魂こそ、かの女神が残さねばならぬ善なる魂。失ってはならない、逃してはならない究極の魂

 

魔神の悪意にさらされながら善を貫き、魔神の視点と同じになりながらも善を信じた

 

その功績こそ――全てが滅んだ星に残すべき、記念碑に他ならない

 

聖槍は、かの魂を取り込み完成する。かの魂ひとつにて、人の善性は証明される

 

『善なる魂。無垢の体現、至尊の魂よ。――我が手に、この槍に――』

 

 

獅子王の言葉が、エアの魂に響き渡る――

 

 

・・・――

 

 

「――我は、獅子王。嵐の王にして最果ての主。聖槍ロンゴミニアドを司る、英霊の残滓である」

 

全てを畏怖させる声音にて、高らかに・・・獅子王は名乗りを上げる

 

彼女こそ、女神。天の英霊。おぞましき善の極致。――この特異点の、元凶である――

 

「まずは――訪ねよう。おまえたちは私を呼ぶものか。おまえたちは、私を拒むものか」

 

その視線が、人類最後のマスター。リッカに向けられる

 

「邪龍、必要悪にして人類悪。人類を食物とせし龍よ。おまえは、何のためにこの果てに訪れた?」

 

「未来を取り戻すため、貴女を倒しに」

 

なんの躊躇いもなく、リッカは告げた。

 

何も変わらない。何もぶれることはない

 

望む未来があるから、取り戻したい未来が待っているから。神であろうと、なんの関係もない。

 

 

「貴女のやり方が、間違っているか合っているかは、ぶっちゃけどうでもいい。残すことを選んだ貴女、進むことを選んだ私達。『どちらが正しいか』じゃなくて、『どちらが未来を掴むか』ってだけの話。――だからこそ、私達は・・・此処に来たんだよ、女神様」

 

言葉と共に、邪龍の鎧を装着する。――それが答えだ。善の前で『悪』を纏う

 

『私は、貴女のものになる気はない』と――その禍々しくも雄々しい鎧が、物語っている。それが――藤丸リッカの選んだ生き方だ、と

 

「・・・残念だ。おまえは、聖槍には選ばれない。その魂は悪そのもの。悪にありながら善を騙る。灯に誘き寄せられる蛾のように、糧に誘き寄せられる獣のように。――お前は、我が前に『悪』そのものとして現れた」

 

はっきりと、獅子王が裁定を告げる

 

「死ぬがよい。私の作る理想都市に、お前の魂(人類悪)は不要である」

 

同時に、英雄王――いや、其処に寄り添う魂に向き直る

 

――貴女の理想都市。それは、世界を閉ざす事ですか?

 

王も、フォウも何も発することはない。此処まで辿り着いた姫、一人の魂、生きる生命の答えを待っている

 

『・・・理由か。どんな時代であれ、人間は、それを聞きたがる』

 

獅子王が、玉座から立ち上がる

 

『私が世界を閉じるのは、人間(おまえたち)を残すためだ』

 

瞬間、玉座の背後の景色が消し飛び『最果ての波』が荒れ狂う終末の景色としての姿を顕す

 

『魔神王の大偉業によって、この惑星の歴史は終了する。人理は焼却され、人類史は無に帰される。――だが、それは私の存在意義に反する』

 

同時に、右手に光輝く槍が装着される

 

『我等は人間によって生み出されたもの。神は人間なくして存在できない。――故に』

 

光輝く槍の拘束が弾け飛んでいく。高まる力が、嵐の形を成し肥大化していく

 

『故に、おまえたちを残す。何を犠牲にしても護る。――これは私の意思だ。魔神王が好きにするのなら、私も好きにすると決めた』

 

そうだ――と、静かに獅子王は告げる

 

『告白しよう。私は、ずっとそうしたかった』

 

胸の胸中を、閉じ込めていたその想いを

 

『おまえたちを、愛している。おまえたちが、大切だ。――だから、おまえたちを失うことに耐えられない。私は人間に永遠を与えると決めた。後世に残すに相応しい魂たち。悪を成さず、悪に触れても悪を知らず、善に飽きることなく、また善の自覚なきものたち。この清き魂を集め、固定し、資料とする。この先、どれほどの時間が積まれようと、永遠に価値の変わらぬものとして、我が槍に収める――それの』

 

英雄姫に、理想の魂に。残すべきと定義せし理想に、告げる

 

『何が間違っている?私の偉業は、全て人間(おまえたち)の為なのに――』

 

《――》

 

(・・・)

 

王は、最早見るに堪えぬと憐憫を隠そうともしなかった

 

獣は、これもまた、比較が叶わぬものだと静かに頷いた

 

――・・・

 

そして、姫は・・・

 

 

――いいえ。その想いは、その気持ちは・・・けして、間違いではありません

 

・・・その『想い』を、穏やかに肯定したのだった

 

『・・・英雄姫』

 

目を見開く獅子王。肯定するのなら、同意するのならば、何故――我が庇護を、拒むのかと

 

 

――何を犠牲にしても護る、何よりも大切だから。その気持ちは、紛れもなく・・・愛であり、気高く、美しい心そのものだと思います。そして――それにて、人類は永遠に価値を証明する事になりましょう。滅びを越え、一つの永遠として

 

 

・・・全てが滅んだ星に、新たなる生命が飛来せしとき、かの獅子王は証明するのだろう

 

『この星には、こんなに素晴らしい生き物がいた』と――確かに、人間は永遠を掴むのだろう

 

 

それは確かに救済だ、それは確かに・・・永遠の形だ。素晴らしい在り方だ

 

・・・でも

 

――獅子王。人間(ワタシたち)は・・・『永遠を求めぬ生き物』なのです。どんなに辛くとも、どんなに愚かでも・・・けして『永劫を求めてはいけない』生き物なのです

 

・・・それは、王が辿り着いた結論でもある

 

永く生きねば、価値を示せぬ生き物に、人間はなってはならない

 

困難を前に、全てを捨てて脚を止めてはならない

 

人間は、困難から逃げ出す賢い生き物ではなく・・・

 

――この燃え尽きた世界の中でも、希望と未来、明日を求めて足掻き、前に進むことが出来る人達がいる。全てが滅んだ世界を覆し、掴み取ろうと足掻く人達が、貴女の目の前にいる

 

 

立ち向かい、切り拓き・・・進み続ける。進化、変化し続ける・・・尊き(おろかな)生物なのだ

 

 

――ワタシたちは生きている。生きているのです。人間として、神から見れば、ちっぽけな生命として。懸命に生きているのです。――それが人の価値。――無垢なる自分が辿り着く『答え』を目指して・・・人生という『旅』を続けている

 

だからこそ、停滞を受け入れられない。だからこそ、保存を認められない。だからこそ・・・保管を容認できない

 

だからこそ――

 

――獅子王。人間(ワタシたち)が、人間(ワタシたち)である限り――(あなた)の愛を受け入れる日は、永遠に来ない

 

それは、人間の歴史そのもの。片時も止まらず争い、蹴落とし、おぞましくも愚かにも、進み続けてきた。

 

積み上げた悲劇と同じくらいに――未来や進化を謳いながら。愛と希望を紡ぎながら

 

人間は、自ら進める脚を持っている。自ら困難を討ち果たす腕を持っている

 

より良き未来を望み、また造り出す可能性を――確かに持っている。そしてそれは一人一人違うカタチで、人間全てに備わっているものだ

 

だから、庇護はもう必要ない

 

幼年期ではあれど、確かに人類は前に進んでいる。確かに、未来に挑み、終わりに向けて歩んでいる

 

神の愛に回帰する必要は、もうない。神の導きは、もう不要なものだ

 

繁栄も、滅亡も・・・人は選び、掴み取ることが出来るのだから。故にこそ――人間(ワタシたち)は、此処にいる

 

――ワタシたちは何者か。そう訪ねましたね、獅子王

 

その答えを、ワタシたちは、ワタシは。既に持っている。

 

・・・今こそ告げよう。ワタシは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――人間(ワタシ)は、(あなた)に挑み、乗り越えるもの。従い、敬い、愛を受けながらも――その手から、想いから離れ、独り立ちし・・・――訣別し。自らの力で生きていくものだ。・・・それが、ワタシの、答えです。獅子王

 

 

そう。神の愛を否定するのではなく、拒絶するのではなく。理解し、それでも対立し、乗り越え、挑み。――訣別する

 

 

神に翻弄されるばかりであった未熟な種から卒業し、自分達の力のみで生きる。その価値を紡ぎ、やがてこの星すらも飛び出していく

 

 

それが人間だ。それが神の生み出したモノの義務だ。――人間は必ず、神の手から離れ、自立していく

 

価値を示し、生きていき、やがて・・・神すらも予想しなかった未来へ辿り着く。認識を広げ、星の海に飛び出し、尊き営みを、何処までも紡いでいく

 

神の手から完全に訣別する。神の庇護を無用とし、自らの力のみで物語を紡ぐ。そうすることが――『人間』という種を生み出してくれた『神』への最大の恩返しに繋がると、ワタシは信じている

 

・・・だからこそ、ワタシは。貴女の庇護を、愛を知りながらも・・・貴女に対立する

 

不理解ではなく、拒絶ではなく・・・感謝と、敬意を以て

 

 

『――感謝と、敬意・・・』

 

 

――ありがとうございます。人間(ワタシたち)を、大切といってくれて。滅びから、人間(ワタシたち)を護ろうとしてくれて

 

 

それは――エアの、種としての感謝。神の恵みなくば、庇護なくば生きていけなかった未熟な刻を見守り、守護を担った存在への、偽りなき想い

 

そして――

 

――ありがとうございます。女神様。ワタシを・・・『理想の魂』とまで仰り、目にかけてくださって。・・・ワタシは、貴女にこれを告げたかった

 

 

・・・それは、個人の魂として。己を大切だ、喪いたくないと言ってくれた、女神へ向ける感謝として

 

例え、その愛が人間とは相容れぬものであっても。例え、最早人の想いが、解らなくとも

 

その想いに、感謝を。そして――その決意に、敬意を

 

――人間(ワタシたち)を愛してくれて・・・ありがとう――

 

例え、訣別するのが必定だとしても・・・感謝と、敬意を忘れず、告げることは間違っていない筈だ

 

 

何故なら――ワタシは、ワタシの魂はそうやって此処まで来たのだから

 

『――・・・』

 

ワタシが、無味乾燥な魂が懐いた、初めての気持ちが・・・王に認められた、その感情こそが・・・感謝と、敬意なのだから

 

その想いを告げることは――決して、間違いなどではないと、ワタシ自身が信じていたいのだから・・・――

 

 

『――・・・・・・なんと』

 

獅子王は・・・いや、獅子王すらも気付いてはいないだろう。呟いた意図すら解らないかもしれない

 

 

だが、確かに――

 

『なんと――・・・尊き、魂なのか・・・』

 

獅子王の目には・・・一筋の涙が浮かび、頬を伝っていたのだ

 

その涙を、獅子王が意識することはない。知覚することはない。

 

何故なら――もう、それを受け止めるモノは、抜け落ちているのだから

 

《――フッ。最早、我が至宝は神ですら受け入れると来たか。まこと、強欲にも程があろう》

 

神すら涙させし姫の魂を、力強く抱き寄せる英雄王

 

《だが――良き(まつりごと)であった。かの獅子王にも――お前の価値は伝わったようだからな》

 

(うんうん。敵意でも、悪意でもなく。敬意と感謝を滅ぼせる神なんていないからね。――人間は、それを神に、捧げてきたんだから)

 

フォウがいとおしげに、エアの頬にすり寄る

 

(あぁ――やっぱりキミは・・・素晴らしい魂に成長してくれたね・・・(ボク)なんかに、はじめから勝ち目は無かったわけだね・・・)

 

――王と、フォウが・・・ずっと一緒にいてくれたからだよ。本当に・・・ありがとう。二人とも・・・

 

王の腕の中で、フォウをいとおしげに抱きしめる

 

 

自分の総てを形作ってくれた、導いてくれた大切な二人の存在に、感謝と敬意を懐きながら――

 

 

「――・・・」

 

その結論を聞き、騎士王もまた、笑みを溢す

 

 

人でありながら、神を否定せず、立ち向かう道を選んだ、一つの魂に・・・

 

 

 

――だが

 

 

「――だからこそ」

 

 

神気、莫大なる神威が即座に放たれる。騎士王、リッカ、英雄王が三人同時に防護をせねば、粉々に散り逝く程の、荒波がごとき光の暴風

 

 

『な、シバが数枚ぶっとんだ――!?映像が落ちかけてる!?マジで!?』

 

『ロマン様、落ち着いて。私とレオナルドさんが代わりに『眼』となります』

 

その神威は、カルデアにすら届いた。観測の目を消し飛ばすほどの、圧倒的な力の具現

 

《チィ、女神の権能か!エアの存在を認めたからこそ本気を出したと見える!なんとしても庇護すると決議したか!子供か貴様は!》

 

「これが――神の、力・・・!」

 

【ッッ――!!】

 

防護宝具、騎士王の庇護、泥の総展開。これらを駆使し、漸く消滅を免れし『権能』

 

(俺ルール展開か!思い通りにいかないと癇癪を起こす――これだから神様はアレなんだ!)

 

《心底同意だが引っ込んでいろ!取り込まれるぞ!》

 

三人の力を合わせ、ようやく防護が叶うその圧倒的な力。戦いに移ることすら赦さぬ暴虐

 

英雄王、騎士王の『土俵入り』すら赦さぬ――暴虐的な善の極致――

 

 

「だからこそ、私は庇護せねばならない。おまえたちを、庇護しなくてはならない。失ってはならない。消えてはならない。なんとしても、なんとしても――」

 

「皆様――気をしっかり持って・・・!私達は、ここでは終われない・・・その筈です・・・!」

 

ベディヴィエールが奮い立つ。立つのもやっとな神威の中、前を見据える

 

「その善に、永遠を。限りある命に、永遠を。燃え尽きる命を凍り付かせ保管する。その価値が変動(おちぬ)ように停止させる。なんとしても。――滅びになど渡さない。滅亡などに晒させない。その敬意に、感謝に。私は・・・応えなくてはならない――」

 

――女神様・・・!

 

ギルと、フォウを離さぬよう強く強く見据える。善の極致。愛を掲げる一柱の女神を

 

 

『敬意、感謝・・・!?彼女は、何を言っている!?』

 

「――それが、命を護ると言うこと。人間を護る、究極の結論だ」

 

 

獅子王は告げる。変わらぬことこそが幸福。堕さない事こそが結論。それが守護、庇護の形

 

 

【そんなの――!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは違う!違うことです!!」

 

 

その結論に、高らかに『否』を告げる生命。今を生き、懸命に戦う少女が叫ぶ――

 

 

 

「レディ!?」

 

【マシュ――!】

 

震える手足を黙らせ、立ち上がり、真っ直ぐと神に立ち向かうマシュ。盾を振るい、叫ぶ

 

「あなたは間違っている!あなたのいう幸福を、私は認めません!!何故なら私は、『どう生きるか』を、まだ決めていないから!!」

 

 

【――!】

 

 

・・・それは、リッカが語ったこと。

 

人は、どう生まれたかより――

 

 

「私の事を恐れながら、自由を認めてくれた人がいました!友情を壊すことに震えながら、それでもかけがえのない友達に『私を頼む』と伝えてくれた人がいました!!」

 

『マシュ――あなた、聞いて・・・』

 

 

それは、非道な実験にて産み出されながら、その生命から目をそらさなかった一人の少女。自由をくれた、見守ってくれた。かけがえのない、マシュの大切な親友――

 

 

「そして――人は、どう生まれたかより、どう生きるかが大事だと・・・」

 

そして、マシュの目線の先には、漆黒の悪を纏いながら皆を護る、世界で一番格好いいと信じる、先輩の姿が――目に写っていた

 

 

「この世の総ての悪を背負い、神たる貴女が邪悪と断じて尚、戦い続ける人がいます!!私達の人生は、まだ始まったばかり――そして、命は先に続くもの!その場かぎりのものではなく!!いつまでもいつまでも、進み続け、広く広く繋がっていくものなのです!!!」

 

 

生命をもらった。かけがえのない未来を、皆からもらった。

 

友人ができ、寿命が延び、これから――沢山の未来がある

 

それを見ずに、固定されるわけにはいかない

 

これからの未来は、無限に広がっていく

 

だからこそ、マシュは戦う

 

神であろうと。滅びであろうと

 

大切な――総てを、護るために――!

 

「――――」

 

【――マシュ・・・――】

 

 

「ロンゴミニアド!あなたが、世界の果てだと言うのなら!!私は、全力でこれと戦います!!」

 

マシュの決意に、神の宣告が下る

 

「良いだろう、ならば見せてやろう!我が聖槍の呼ぶ嵐、世界の皮を剥がした下にある真実を!――聖槍、抜錨。基は空を裂き地を繋ぐ嵐の錨――」

 

巻き起こる嵐、放たれる裁き。聖なる果てとされる、余りにも巨大な、その槍。最果ての塔――

 

 

「行きます!!――オルガマリー所長、マスター・リッカ――私に、力を!!!」

 

 

盾を構え、守護の決意を奮い立たせ

 

 

「見ていてください――今こそ、人理の礎を――私達の絆を、証明します――!!!!」

 

 

マシュの守護の魂は今――白亜の城へと至る――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは総ての傷、総ての怨恨を癒す、我等が故郷――」

 

マシュの詠唱が、想いが、力に変わる

 

それは穢れなき門、総ての騎士が集い、良き営みが集い、総ての安らぎを癒す白亜の城

 

 

善なる在り方を掲げ、悪しきものを弾き返す、正しき心の具現

 

 

「顕現せよ――!!」

 

 

マシュの叫びが、身体が、想いが――

 

 

 

「ロオォオォオォオッド!!!キャメロットォオォッ!!!!!!」

 

白亜の城――今は遥か理想の城・・・『王城キャメロット』を顕現させる――!!

 

 

「っ、あぁ!っっっっっうぅうぅうぅうぅうぅうぁああぁあぁあぁあぁ――ッッッ!!!!!」

 

 

神威を防ぐ皆の頭上に降りかかる裁きを、顕現せし城、砦、城塞の総てを震い食い止めるマシュ

 

 

「面白い。その細腕で、白亜の城を何処まで支えられる!」

 

更に勢いを増していく、裁きの光。マシュの足が床にめり込み、砕け散らんばかりに力みを加えられる――

 

「はぁ、ぁああぁあぁあぁあぁッッッ――!!!」

 

 

気合いと共にそれを受け止め、食い止めるマシュ。城は激震し、その凄まじさを互いに物語る・・・!

 

 

【くっ!この波がなかったら・・・!】

 

手を緩めることは赦されない。三人にて拮抗させし守りを緩めれば、即座に塵にされる

 

その時――

 

「――ありがとうございます。私はまた、罪を犯すところだった」

 

ゆっくりと、マシュに歩み寄っていくのは・・・

 

 

「――決心したのですね、ベディヴィエール」

 

左手にて荒波を抑えながら、振り返らず告げる騎士王

 

 

「はい。ですがまずは――ギャラハッドが認めし騎士、私達の後輩にアドバイスを」

 

笑顔にて、マシュの手に手を重ねるベディヴィエール

 

「力まないで、サー・キリエライト。その盾は決して崩れない。貴女の心が乱れぬ限り」

 

「ベディヴィエール、さん――・・・こう、ですか?」

 

ベディヴィエールの言う通り、力を抜き、心を沈めるマシュ

 

揺れていた城は磐石となり、槍と拮抗・・・いや、弾き返す。揺らがぬ決意を、魂を。形にするかのように

 

「そうです。大変筋がよろしい。いいですか。忘れないでください。白亜の城は持ち主の心によって変化する。曇り、汚れがあれば綻びを生み、荒波に壊される。けれど――その心に一点の迷いもなければ、正門はけして崩れない。貴女は、敵を倒す騎士では無いのです。その善き心を示すために――円卓に選ばれたのですから」

 

 

「――何者だ」

 

獅子王が、告げる。是非を問う

 

――貴女が、最も見るべき。受け入れるべき魂です。女神様

 

エアが、謳う

 

「いや、知っている筈だ。私は、貴女は知っている。かの騎士を、――かの、忠節の騎士を。名は――ベディヴィエール」

 

騎士王が、その騎士の名を口にする

 

「――何を、言っている・・・そのような騎士を、私は、知らな――――」

 

その言葉を聞き、静かに頷くベディヴィエール

 

「そうでしょうとも。ですが・・・これを見れば、その記憶も晴れましょう。――『剣を摂れ、銀の腕(スイッチオン・アガートラム)』。今こそ、裁きの光を切り裂きたまえ――」

 

起動せし銀碗、内封されし――聖剣。彼の、罪の輝き――

 

裁き、荒波、権能を――一太刀にて切り裂き。高々と掲げられし――その輝き

 

「――今の輝きは――知っている・・・・・・――それを、私は、知っている――」

 

「――・・・」

 

「貴様、何者だ。私は、何故――ぐうっ・・・!」

 

突如走る頭痛、齟齬、軋轢。致命的な何かがよぎり、頭を片手で抑え苦しむ獅子王

 

 

「――私がここまで来れたのは、数多の王達の力、そして――リッカのお陰です。皆様の、これまでの総てに感謝します。――此処に、我が使命を果たすときだ」

 

【ベディヴィエール――】

 

 

「ありがとう。――短い間でしたが、皆様といた時間は。過ごした時間は――1500年の放浪の総ての疲労と自責を、癒してくださった――」

 

そして、ベディヴィエールは力強く、獅子王に告げる

 

「覚えが在る筈だ。これは貴女の持つべき輝き。――銀碗、いや。――聖剣、エクスカリバーなのだから」

 

「エクス、カリバー・・・ベディヴィエール。その名前は、確か・・・」

 

頭痛に堪えながら、弾かれたように顔を上げる獅子王

 

「まさか、貴卿、は」

 

「――そう。私は罪を犯しました。王を失いたくないという思いで、あまりにも愚かな罪を。――こうして、私は最後の機会を与えられました。皆様のお陰です。そして、リッカ」

 

【――私?】

 

 

「あの聖抜の夜、貴女がいなければ私は、此処まで来れなかった」

 

 

・・・それは、生命を救う戦い

 

難民を護るため、総てを懸けて、戦った、救う為の戦い

 

その戦闘に立つ彼女を見て、ベディヴィエールは決意した。そして――剣を執ったのだ

 

「思い、出せない。ベディヴィエールという名前は解る。だが、卿との記憶が、何一つ。――貴卿は、本当に、ベディヴィエール卿なのか?」

 

「・・・――」

 

「・・・いいだろう。ならば私のもとに戻れ。その剣を捨てよ。私には、不要なものだ」

 

手を、伸ばす。失われた何かに、大切な何かに、手を伸ばす

 

「我が騎士だと言うのなら、我が声に従え!我が円卓に戻れ、ベディヴィエール!!」

 

ベディヴィエールはゆっくりと首を振り、その声を振り払う

 

「いいえ、それは叶いません。獅子王。聖槍の化身よ。貴方にとって、私は討つべき敵です。貴方は私に、復讐しなくてはいけないのですから――そして」

 

放たれる裁き、荒波を、その右腕で切り裂き、歩みを続ける――忠節の騎士

 

「――私は円卓の騎士、ベディヴィエール!善なるものとして、悪である貴方を討つものだ!」

 

「――違う」

 

いよいよもって頭痛は最高潮に達し、呻くように呟く

 

「何を言う、ベディヴィエール・・・貴卿は、私の――私だったものの・・・」

 

「――本懐を果たすか、忠節の騎士」

 

英雄王の言葉に、頷く

 

「はい。――我が身を癒してくださり、本当にありがとうございました。貴方は・・・確かに。偉大なる英雄達の王だ」

 

 

――ベディヴィエールさん・・・

 

 

「――皆様が与えてくださった、四度目の機会。今こそ、此処に――」

 

その優しき笑顔が――心を、深く打つ――

 

 

――もう、ベディヴィエールは振り返らなかった

 

 

放たれる槍を、裁きを、荒波を。切り裂き、穿ち、ゆっくりと獅子王に歩んでいく

 

「私が――英霊ごときに、押されている・・・いや、貴卿は英霊ですらない。ただの、ただの人間が・・・私に迫るのか・・・?」

 

力のみなぎる身体で。誇り高き魂で。けして揺らがぬ精神で、ベディヴィエールは獅子王へ、確かな歩みを重ねる

 

「・・・何故、其処まで――?」

 

 

「それは――あの日の笑顔を、今も覚えているからです。アーサー王」

 

 

~~~~

 

 

――貴方の生が充実しているなら、私も嬉しい。どうか私や皆が見落としてしまう、細やかな営みを、見逃さずにいてほしい。

 

 

アーサー王・・・

 

 

それが、貴方が円卓にいる意味だ。『ベディヴィエール』

 

~~

 

 

ゆっくりと、右腕を、エクスカリバーを振り上げる

 

握り続けた槍へ向けて。この世界の、狂い果てた元凶へ向けて

 

 

「――円卓の騎士を代表して、貴方にお礼を。」

 

その一刀は、返還の儀。長らく共にした、聖剣が在るべき箇所へと戻る

 

 

1500年の旅が終わる。1500年の忠節が報われる

 

 

「――あの暗い時代を、貴方一人に背負わせた。あの華やかな円卓を、貴方一人知らなかった」

 

騎士王は、静かに顔を伏せた

 

盾の騎士は、涙を堪えながら目を見開いた

 

邪龍は、目を閉じ、言葉を聞き入っていた

 

獣は、人の成しうる奇跡を痛感していた

 

英雄王は、その総てを見届けていた

 

英雄姫は――目を閉じ、手を合わせ、祈っていた

 

「勇ましき騎士の王。ブリテンを救った御方。貴方こそ、我らにとって輝ける星。我が王、我が主よ。今こそ――いえ、今度こそ。この剣を――御返しします――」

 

――1500年の、忠節は――この、為に

 

 

この瞬間のために、彼は――

 

 

「――『剣を置け、銀の腕(スイッチオフ・アガートラム)』――」

 

 

永い、永い旅路を続けてきた、そして――

 

 

 

――どうか、御休みください。私は――貴方の安らぎこそを、願い続けていたのだから――

 

 

一人の騎士の、旅の終わり――此処が、優しき罪人の、行き着く果てとなったのだ――




――そうか。ようやく思い出した




あの森を、あの丘を。最後まで私を気遣う、泣き腫れた騎士の顔を


その悔いを晴らすため、そなたは幾星霜、さまよい続けたのか。

・・・・・・見事だ。我が最後にして最高の、忠節の騎士よ


聖剣は、確かに返還された。誇るがいい、ベディヴィエール。貴卿は確かに――そなたの王の命を、果たしたのだ


・・・そして、無垢なりし英雄姫

・・・この中で、ただ一人・・・『獅子王』の在り方を肯定し、尚、立ち向かったかけがえのない魂よ


――敬意を払うのはこちらの方だ。その優しさ、尊き想い。――とても、我が槍などに収まる矮小なものでは無かった、と言うことだ――

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