人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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アダム「……………」


『グループモモトーク 大人の友人達 黒服 マエストロ ゴルゴンダ デカルコマニー』

「既読が付かん…打ち上げしようと誘ったが、忙しいのか…?」

(ミカや皆を助けられたのはお前達のおかげでもあるのだ。御礼の一つもさせてくれねば収まらんぞ…)

アダム「柴関ラーメンの打ち上げをしなければ、区切りがつかないのだからな…」


死よりも重き屈辱と敗北

【やはり今回のアダム先生は素晴らしかったですね。絆、王道、そして勝利。明日もきっと、これからもきっと素晴らしいでしょう。そうは思いませんか?ベアトリーチェ】

 

暗き空間。キヴォトスとは別の場所にて、黒服、マエストロ、ゴルゴンダ、デカルコマニーがその存在を取り巻いていた。

 

【…………!】

 

それは、魂と肉体の大半を一撃必殺のレールキャノンで消し飛ばされしベアトリーチェ。その魂の欠片を手持ちの檻に封じ込められ、身動き一つ取れない形だ。

 

【あなたの憎しみも教育論も否定され、アダム先生に完膚なきまでに打ち砕かれた。あなたの楽園は崩壊し、生徒達はアダム先生と輝ける未来へ進むことを選んだ。…これ以上ない敗北、醜態ですね】

 

【!!】

 

【あなたはアダム先生の宿敵か何かと思い上がっていたかのようですが、とんでもない。あの御方の敵は初めから偽神、ビーストΩのみ。あなたは路傍の石ですらない、ただの端役の生贄だった。アダム先生が織り成す崇高の物語のね】

 

無様なものです。そう低く笑う黒服に怒りはない。ただ、アダムの物語を彩ったピエロの姿を嘲笑っているのみ。

 

【……!!!】

 

【怒り心頭でしょう。屈辱の極みでしょう。ですがまだですよベアトリーチェ。あなたにはこんな児戯ではない本物の屈辱に塗れていただきます】

 

黒服は端末を取り出し、連絡を取りそっとベアトリーチェを捕らえる牢獄に近付ける。ベアトリーチェは四方面の檻に囚われ、抵抗すらままならない。会話すらできない形だ。

 

【貴方に齎される、死んだほうがマシなほどの敗北と屈辱。ではまずは屈辱から味わいましょうか】

 

【………!?】

 

黒服が電話をかけた相手が、屈辱を与える相手だと言う。それは──。

 

『……マダムか?そこにいるのか?』

 

【!!】

 

『連絡がつくとは思わなかった。私の声を覚えているか?アリウスの卒業生の一人だ。あんたの教えを受けた元生徒だ。久しぶりだな』

 

ベアトリーチェにかけられたのは、かつての卒業生。アリウスの教育を耐え抜いた、精鋭の中の精鋭。エンジェル・グレイブにて特殊部隊となったメンバーのリーダー格。

 

『あんたに伝え忘れたことがあってな。いい機会だ。この場で言わせてもらおうと思う』

 

【……!!】

 

馬鹿め、とベアトリーチェはほくそ笑んだ。生徒の憎悪、生徒の嫌悪は直ちに自身の力に変わる。この期に及んで再起の機会をもたらすとはと。腑抜けた輩どもめと侮蔑しながら二の句を待つ。

 

かつて敷いた教育。かつて敷いた楽園。その系譜を知るものならさぞや良き憎しみを有するはずだ。その力を以て───。

 

『あんたに仕込まれた技術や知識のお陰で、今は社会で立派に生きていけてるよ。ありがとうな、マダム』

 

【────────???】

 

ベアトリーチェは、その言葉の意味を一瞬全く理解できなかった。【色彩】という現象を調べる際も、偽神と合一した際も、ここまで理解できない事はあり得なかった。

 

何故───『感謝』などと……。

 

『解ってる。あんたはアダム先生とは真逆のタイプの教導者だ。私達の事は使える手駒、自分の道具くらいしか思ってないんだろ?でも、だからこそあんたは自分の役に立つように、使える道具にするための仕込みに手は抜かなかった』

 

道具は使えなくては意味がない。なまくらでは、ガラクタでは意味がない。故にこそ、徹底した教育を齎した。虐待にも発展したものだが、だがそれでも徹底した教育だ。

 

『そのお陰で、私達は今も重用されている。あんたのくれた技術が、今の私達を支えてくれたんだ。……アツコから聞いたよ。アダム先生にボロ負けして学園から追い出されたんだってな』

 

【………】

 

『ざまぁ見晒せ、クソババア…とでもいいたかったんだが、アダム先生が私達の怒りや、憎しみや、哀しみや怨みを全部ぶつけてくれただろうから、私達もあんたを憎むのも怨むのもやめにする』

 

【!!】

 

『不思議なもんだ。憎しみと恨みがなくなったら、残ったのはまっさらな感謝の気持ちだなんて。やっぱり、憎しみを煽ったあんたの教育は間違いだったよ。……だから』

 

【…………!!!】

 

『何処か知らない所で、惨めに元気に生きていけよ。二度と会いたいとは思えないけど、あんたっていう先生がいたことと、あんたがくれた教えはずっと覚えてるからさ』

 

それは、卒業生達の総意。今尚社会で生きている、生きていける力を有した彼女らの想い。

 

『じゃあな。……クソッタレな、私達の先生』

 

口は悪くとも、そこに憎しみはない。恨みもない。あるのはむしろ……。

 

【あなたに誰一人憎しみ以外の感情を向ける輩がいなければ、あなたを永久の苦痛の中で始末するつもりでした。ですが曲がりなりにもあなたの生徒は、あなたに感謝を示した】

 

【!………!……!】

 

【故に、あなたは生かしておくことにします。あなたが供物と蔑んだ者達の成長に助けられ、あなたが道具と嘲笑った者達の感謝に救われ、教師として全てを否定されながら生きていくとよろしい。慈悲と情けで生き存える。それがあなたに齎される最大の屈辱です】

 

黒服は初めからこのつもりであり、アダムもそれを了承した。恐らく、彼女の手を離れた生徒達はそういった決断を下すだろうと。

 

【…………………!】

 

【まだ納得と理解が思いつきませんか?では、止めを刺していただきましょう】

 

パチリ、とベアトリーチェの前に映像が流れる。それは、生徒会長の服装に着替えたアツコの、アリウスの映像。

 

『おばさん。あなたの事は色々と許せなかったり、おばさん呼ばわりもしたり…とても普通の、生徒と先生なんかじゃなかったよね』

 

それは、アツコがこっそりと建てた慰霊碑。ベアトリーチェの名を書いた手製のものに、花束を置くアツコの姿。

 

『私はあなたを許せない。よくもサッちゃんを、ミサキを、ヒヨリを苦しめてくれた。アリウスの皆の人生を狂わせてくれた。アダム先生がいなかったら、私があなたを殺そうと今もきっと憎んでた』

 

【…………】

 

『でも…でもね。憎しみは捨てなきゃいけない。古い憎しみは捨てたんだから、私が憎しみを生み出しちゃ意味がない。…自分が絶対に出来ないことをやる。出来るはず無いことをやらなくちゃいけない。それが償いだって、サッちゃんは言ってた。だから…まぁ』

 

だから。新しい未来に行くために、彼女は。

 

『あなたを赦すよ。そして忘れない。あなたという、最低で、若作りで、ドレス似合ってなくて、高慢ちきで、ケバくて、目がいっぱいあって気持ち悪くて、口裂けてて気持ち悪くて、自分が一番賢いと思ってそうな態度のあなたを、忘れない』

 

【!!!!!】

 

『ありがとう、マダム。あなたが私達に酷い事をしてくれたから、酷い教育をしてきた歴史があったから…。私達は、アダム先生に出逢うことができたよ。私達を、アダム先生に巡り会わせてくれてありがとう』

 

【…!!】

 

『もう行かなくちゃ。また会いに来てあげてもいいから、化けて出ないでね。夢にも出てこないでね。………さようなら、もう一人の、先生だった人』

 

アツコはアリウス生徒達に呼ばれ、秘密の慰霊碑を後にする。それは、ベアトリーチェに対する最後の裁き。

 

【どうです?あなたが最も目にかけ、あなたが最も食い物にしようとした生徒は今、あなたを受け入れ未来に旅立っていきました】

 

【……………!!】

 

【あなたの教育を受けた生徒達が、皆あなたを受け入れ受け止めあなたから離れ巣立つ。あなたの予想が、教育論が全て否定された気分は如何です?】

 

【─────!!】

 

【アダム先生との約束です。あなたの事を赦す者がいるならば殺さない。あなたはこれからの人生、生徒達の情と赦しにより惨めに永らえて生きていくのです】

 

【…………………!!!】

 

【全ての契約が潰えながら、全ての計画が途絶えながら、あなたが見下していた子供達の成長で拾った命を全うなさい。あなたにとって今すぐ死にたくなる生き恥でしょうが、それがあなたへの罰です】

 

【………!!!!!】

 

【生徒達の『自立』。それを齎した事による九死に一生…それが、あなたへの罰ですよ。ベアトリーチェ】

 

…ベアトリーチェは震えていた。その感情がなんなのかは、彼女にしか解らない。

 

小さなサイコロのように成り果てたベアトリーチェは、その束縛の中で…

 

ただただ、静かに小刻みに震え続けていた。




黒服【……かくいう私達も、アダム先生に酷い事をしましたし。生徒達にも害をもたらしました。偉そうに他人を裁ける立場には無いという事ですね】

マエストロ【うむ。どの面を下げて…と言われれば否定できんからな】

ゴルゴンダ【ケジメは必要でしょう。アダム先生の友人であるためにも】
デカルコマニー【そういうこった!!】

黒服【──ねぇ?そう思いませんか?】


シロコ【……ゲマトリア。雁首揃えて丁度いい】

黒服【……】

シロコ【アナタ先生の願いを果たす。アダム先生の道筋を穢させはしない】

黒服【──えぇ。我々は黒。虹と青を汚す不純物だ】

?【───良くわかってるんだね】

マエストロ【!】

ミカ?【自分達が、誰にも必要とされていない不純物だっていうのがさ。なら──死ななきゃね】

ゴルゴンダ【……なんという。よりによって君がそうであるとは】
デカルコマニー【そういうこった!】

シロコ【消えろ。あの人と、アダム先生の為に】
ミカ?【あなた達なんて、もういらないんだよ】


黒服【………………】

(因果応報。我々は悪辣に過ぎた。………アダム先生。こんな私達を友人と呼んでくださった事は、永遠の誇りですよ)

黒服【願わくば、もう一度。あなたと共にあの屋台で───】

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