ミカ(アダム先生との詳しい関係は聞けてないけど、今度ちゃんとお話してみたいな…。義理、っていうところが特に気になるかも。どうして義理なんだろ?血は繋がってないのかな?)
ビナー・イミテーション『─────!!!』
バルバラ『……!!』
ミカ(お友達になれるかなぁ…私の知らないアダム先生、たくさん教えてもらえたらいいな…)
ビナー・イミテーション『─────!!』
ミカ「─────あー、もう」
ビナー・イミテーション『!?』
ミカ「邪魔しないでくれるかな?」
ビナー・イミテーション『!!!!』
バルバラに損傷を受け、口を広げ迫ってきたビナー・イミテーション。
だがその行為は、リッカとアダムの関係に想いを馳せていたミカの気分を損ね…
ミカ「静かになったね。……色んな場所で生徒の皆が戦ってる。行こう、ユスティナの人」
バルバラ『………!』
召喚されし隕石を口に詰め込まれ、爆発四散と相成ったのだった。
そして二人は向かう。大聖堂の中へと──。
「ここが──アリウスの大聖堂。憎しみの中で忘れられてしまった場所。慈悲と憐れみ、誰かを信じる事を良しとしていた場所…」
ミカとユスティナの聖女バルバラは辿り着いた。かつてアリウスが喪った平和と信仰、慈悲と希望の拠り所の大聖堂。かつて、大いなる祈りが満ちていた場所へと。
そこは長きに渡る憎悪の果てに完全に荒廃していた。その場所にはかつての信仰が、願いの残滓が残るのみ。ミカは静かに、目の前にあるとある設備を見やる。
「グランドピアノ…。誰かが弾いて、誰かの祈りを届けた筈の楽器。…こんなに、ボロボロになって…」
最早不要に成り果ててしまったそれを見るミカの表情は切なげ、沈痛なものだった。アリウスの置かれていた状況が、それだけで理解できたからだ。
憎しみと虚しさの教育の中で、この確かなる信仰は消えていったのだろう。誰にも見向きもされず、人知れず朽ち果てていったのだろう。アリウスの生徒達の嘆きや哀しみに応えることもなく、静かに滅びていったのだろう。
「…………」
鍵盤に指を置く。音は───鳴らなかった。
「…ごめんね。もっともっと、早く来てあげられたら良かったね…」
ミカは語りかけるように、そっと鍵盤の埃を払う。痛ましげに思いを馳せていると、自分とは違う足音が響く。
『………………』
「あ……ユスティナの人…」
背を見せながら、歩いていくバルバラ。無言ながらも、ソレは着いてくるように促す姿なのだとミカは理解し、頷く。
「あなたにも、伝えたい事があるんだね。…解ったよ。その祈りと願い、見つけてみせるから」
ミカはその背を追いかける。敵はいない。ただ静かで荘厳な空気の中、二人は歩き続けた──。
〜
「ここは……聖歌隊室……?」
バルバラが導いた場所、それは聖歌隊室。聖歌隊、ユスティナの聖女達が歌を歌い、魂を癒やしていた場所なのだろう。バルバラの姿は、在るべき場所に辿り着いたかのような安らぎを示していた。
「え、そこに何かあるの?」
彼女が指し示した場所、そこをミカは意を決して探しこむ。少しの間をおいて、ミカはそれを見つけ出した。
「楽譜……。あと、蓄音機の起動キー…?」
そこには、金糸で編まれた神聖な楽譜と、蓄音機を起動させる外部キーが安置されていたのだ。ユスティナの聖女に刻印された紋章があることから、それは確かに彼女が手掛け、託したものであったのだろう。
「アリウスの誰にも見つからないように、隠してたの?でも、どうして…?」
『……』
バルバラは応えず、そっと楽譜の裏を指でなぞる。すると浮かび上がり、同時に響き渡る荘厳なる声。
『血に染まり、誰かを傷付けた者に真なる慈悲を齎す事は叶わない。我等ユスティナは、己達の為に手を取るべき者を傷付けた。その罪は、赦されることはけしてない』
「!」
『故にこの楽譜、慈悲を齎す為の器具は封印する。二度とまやかしの希望で誰かを惑わす事なきように。二度とまやかしの慈悲で誰かを絶望させる事なきように。これが、アリウスを害しまた救けんとした…己の最後の決断にして最期とする』
それは、ユスティナの聖女バルバラが最後に遺した言葉。ユスティナ聖徒会はアリウスを弾圧すると同時に、またアリウスの復興を主導で行っていた。この楽譜は、バルバラの神秘にて遺されたものであるのだろう。
しかしバルバラは、自身に赦免と免罪の資格はないと判断しこれを封印した。弾圧の罪を、彼女は真摯に受け止めた…受け止めすぎたのだろう。
『故に、この慈悲と赦免は未来に託す。いつか、トリニティやアリウスの真の調停を願うものがあらば、この楽譜と器具を以てアリウスに福音を齎さん事を。私はその日を願い、自らの神秘を永遠にこの地に刻み、残す』
いつか、全ての赦しが巡りくるように。いつか、全てに慈悲がもたらされるように。神の言葉を受け甦れたのは、聖女の魂が未だこの地に…この大聖堂に在ったが故だ。
いつか、アリウスとトリニティが真なる意味で結ばれる未来を信じながら。アリウスの全てが、慈悲と赦免を齎される未来を案じなから。ユスティナの聖女バルバラは待ち続け、また護り続けていたのだ。
いつか──本当の意味で、アリウスを迎え入れ、受け入れてくれるであろう存在の事を。アリウスが迎える、幸福な未来を。
『……………』
神の御許に行けぬ事は、どれほどの寂寥であったろう。神の御許に召されぬ事は、どれほどの孤独であったろう。それでも、バルバラは魂をこの大聖堂に縛り続けた。
いつか、全ての憎しみを終わらせることの出来る者の来訪を願って。
そしてそれは───、今、叶った。
『───────』
バルバラの魂は、大聖堂の内に消えていく。それらは至高の神秘として大聖堂を満たし、在るべき姿に戻していく。
「大聖堂が……どんどん、直っていって………」
ミカが言葉を漏らしたように、崩れ果てた大聖堂はかつてアリウスの生徒達を慰めたユスティナの大聖堂の威容を取り戻していく。それこそがまさに、ユスティナの聖女バルバラが起こした奇跡。
真なる慈悲を、贖罪を知るものに全ての願いを託す事。奇しくもパパポポの願いに応えたバルバラは、己が身を以てその奇跡を成し遂げた。
蓄音機──卒業生の報を受けたアツコがこっそり手を加えていたそれは目覚めたように動き出す。
グランドピアノ──かつてバルバラが座り、厳かに弾いていたそれは、なんと主がおらずとも独りでに爪弾かれ始める。
金色の楽譜は輝く。奏でられるべき慈悲の歌を、大聖堂へと満たす。それらはアリウスの中で起きた、比類なき奇跡の具現。
『善悪と賢愚に関わりはなく、また信仰に善悪の違いはあり得ない。楽園を追放されしもの、楽園に在りしもの、等しく神の慈悲に救われますように』
バルバラの声──かつての祈りと残滓は、ミカに語りかける様に響き渡る。
『私達の誰もが祈り、また資格を喪った願いをどうか…よろしくお願い致します。償いを教わった貴女へ。慈悲を知った貴女へ』
「……バルバラ、さん」
『あぁ、主よ──。今ようやく、貴方の御許に参ります───』
バルバラの魂は、大聖堂に満ちる神秘となって静かに解けて消えた。弾圧と復興の二面性の中で、救いを望んだ聖女の昇天であった。
「…苦しんでたのは、聖女様も一緒なんだ。立場を決して捨てられなくて、願いを幼稚な夢だと捨てるしかなくて。それでも、苦しむ誰かを見捨てられなかった」
矛盾の中で、それでも未来に夢と願いを託した。遠い遠い未来の果てに──二人の姫は、それを受け取った。
「──ありがとう、バルバラさん。あなたの願いも、想いも、決意も…全部、未来に持っていくね」
ミカは決心し、起動キーを差し込む。蓄音機を起動させ、それに刻まれた音を起動させる。
同時に、グランドピアノに楽譜をそっと添える。それこそが、かつてユスティナやアリウスが歌い上げていた『慈悲の歌』。
「最後の最後に、誰かを救う事ができたなら……
誰かを救うはずの手で誰かを傷つけてしまったあなたの人生も、それだけで報われる……
……そう、思ったのでしょう?」
ミカの心は澄み渡っていた。その魂が、その願いが、成すべきことを知っていた。
「わかるよ。──私だってそうだもの。
だから……傷ついてしまった全ての魂達に、この歌を。
この願いを、この祈りを届けるね」
償いの仕方を知っているから。それを確かに、教えてもらったから。
「いつか、あなた達の苦痛が癒えますように。
今度こそ、誰もが望んだ未来に──
あなた達と、私達が……手を取り合って進んでいける事を願って。
あなた達が自分達を赦せるように、私は……
──あなた達を、赦すよ」
それが、アダムから教わった事。
出来るはずの無いことを行う。
誰かの痛みを知り、それを共に背負う事。
誰かを赦す事が、自らを赦す事に繋がる事だと…。
本当の楽園に、辿り着ける道だと…。
「──私の大好きな、大切な大切な、あの人が教えてくれた事だから」
自らも、その慈悲の歌を口ずさむ。アリウスの全てに、届く様に。
…そして、彼女は立ち向かう。その慈悲の歌を封じ込めるために用意されていた、ベアトリーチェの最後のセーフティー。
ラフム、ユスティナ、バルバラ、そして全ての巨大エネミーすらも複製され、大聖堂を丸ごと別時空に隔離する徹底した封印ぶり。ミカは大聖堂ごと、別時空に閉じ込められてしまった。
「無駄だよ。例え私を殺しても、この慈悲の歌は止まらない」
蓄音機、そしてグランドピアノを護るように、ミカはたった一人で武器を構える。
「この歌は、この慈悲は。誰もが望んだものだから。暴力や憎しみや、弾圧なんかで絶対に止まない。止まらないんだよ」
ミカはたった一人。先のバルバラの圧倒的戦力すら複製され、辺りには無数のエネミー達。
全力のミカが、ギリギリ生きて帰れるか…。それだけの戦力差。だがミカの表情に、絶望も焦燥も存在しなかった。
「──ここから先は、誰もが望んだハッピーエンド。楽園に行ける道だから。あなた達は通れないよ。通さない」
歩みを進め、戦う。その勇気と決意は既に貰ったのだ。
(だよね、アダム先生。……──あなたが全部教えてくれた。あなたが全部、導いてくれた。)
あなたが全部、叶えてくれた。
私の夢を、叶えてくれた。
私の罪を、赦してくれた。
本当に、素敵な大人の人。
本当に、素敵な男の人。
本当に素敵な───私の、たった一人の王子様。
ずるいかな?傷になれたらいいな、なんて。
哀しませちゃうかな?ここまで来て、生きて帰れるか解らないなんて。
ごめんね、アダム先生。私は、悪い子だから。
どんな事をしても、あなたの心に残りたいんだ。
素敵な素敵な、たった一人の王子様。たった一人の、王子様。
迎えに来なくていい。振り向いてくれなくてもいい。
あなた以外の人なんて、もうきっと見えないから。あなた以外の人を愛するなんて、もう無理だから。
だからせめて、あなたの為にこの命を使わせてください。
私は──あなたが大好きです。
強くて優しくて、面白くて、魅力的なあなたが大好きです。
あなたの為に、生きさせてください。
あなたの為に、死なせてください。
あなたの心の中に、私をずっとずっといさせてください。
私はあなたを愛しています。
素敵な素敵な、アダム先生。
私のたった一人の、運命の人。
もう二度と現れない、白馬の王子様。
「──さようなら。アダム先生」
さようなら。大好きなあなた。
さようなら。大好きな王子様。
こんな私でも、真っ直ぐに大切な全てを教えてくれて──。
あなたに出会えて、私はとっても。幸せでした。
「───さようなら。私の、初恋の人」
さようなら。アダム先生。
二度と出逢うことのない……
素敵で無敵な、王子様。
───自らの燃えるような恋心を奥底にしまって、ミカは駆ける。
切り離された空間に、ミカはたった一人。敵は数多無数の大軍。
ただ一人の決死の戦いに。それでもミカは駆け抜ける。
アダムの望んだ未来の為に。
新たな未来を迎えるために。
彼女の、彼女達の手で…
憎しみは、潰えようとしていた。
────あぁ、でも。
(───死ぬのなら。アダム先生の腕の中で、思いっきり抱きしめられながら…死にたかったなぁ………)
放送塔頂上・放送室。
リッカ「ついた!」
パパポポ『設備起動は私が…む?』
リッカ「どしたの!?」
パパポポ『大聖堂から、音が…これは…』
アツコ「慈悲の歌…。蓄音機、直ったんだ…」
リッカ「…キリエ・エレイソン…?ミカちゃんも歌ってる…」
パパポポ『この言霊…行けるぞアツコちゃん。この音楽と君のロイヤル・ブラッドの宣誓があれば、憎しみを祓える』
アツコ「うん。…スピーチはできた。あとは伝えるだけ」
リッカ「放送は任せて!こう見えて放送部員もやってたから!」
アツコ「何から何までありがとう。──じゃあ、行くね」
リッカ「うん!」
アツコ「──聞こえますか。アリウスにいる皆。私はアツコ。秤アツコ。皆が姫と、慕ってくれたアツコです──」
ミカの慈悲と、アツコの決意。
それが今、アリウスに満ちようとしていた。
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