人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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サオリ「はぁ……はぁ…はぁ……」

ミサキ「……最悪な状況だね。もう弾薬も、補給も絶たれてる。手持ちの戦力も、戦力を拮抗させる止まり。打開策も、思いつかない」

ヒヨリ「こ、ここに来て手を取り合うなんてあるんですねぇ…バラバラに分断して、混乱して、撃破するのが私達の勝ち筋だったのに…」

サオリ「…………」

ミサキ「そして【災厄の狐】に、あの指揮を代わりに執ってる『指揮官』。虎の子のミメシスも、ほぼ戦線維持にしかなってない。私達も合流も離脱も出来ない」

アツコ「………」

ミサキ「……私達の、負け。かもね。あの先生さえいなくなれば空中分解するかと思ってた私達の、認識の甘さが…」

サオリ「もういい、黙れ。それでも私達はやらねばならない」

ミサキ「……」

サオリ「おめおめと逃げ帰ってどうなる?作戦を失敗し、敗退した私達になんの道が待っている?処分されるだけだ。ならば、生き残るには作戦を遂行するしかない。生き残るにはそれしかないんだ…それしか…!」

アツコ「…サッちゃん…」

サオリ「諦めんぞ…!この全てが虚しい世界の中で、こんな最も虚しい終わりなど認めるものか!」

ミサキ「……」

サオリ「それでは私達は…一体なんのために…!アズサと私達の、一体何が…!」

ミサキ「!!リーダー、危ないっ!」
ヒヨリ「手榴弾です〜!」

サオリ「姫──!!」
アツコ「!」



ワカモ【今更何を後悔なさるのですか?さぁ、かくれんぼは終りにしましょう?】

サオリ「ぐぅ……っ」
ミサキ「……っ」
ヒヨリ「うぅ…痛いですね、苦しいですね…」
アツコ「………」

ワカモ【こちらも…貴方達で遊ぶ時間は終わりましたので】

サオリ「な……」

アダム「──ありがとう、ワカモ。良くぞ時間を稼いでくれた」

サオリ「馬鹿、な…」

ヒヨリ「ど、どうして…!?」

ミサキ「瀕死だったのに…こんなに早く…!?」

アツコ(ほっ…)

アダム「言っただろう。生徒の青春に虚しいものなどないと。全てに意味はあるのだ。生徒達の青春にはな」

サオリ「……シャーレの『先生』…!アダム・カドモン…!」

「さぁ──君達にも示そう。楽園に至る道筋を」




楽園に至る者達

ワカモはそっとアダムの後ろに侍り、待機する。全快し、仁王立ちするはアダム・カドモン。全治し、全快となった完全状態でサオリ達の前に立つ。暗き暗雲の中で、真っ直ぐにアリウスの生徒達と向かい合う。

 

「もういいんだ、アリウスの生徒達。君達の指導者の教育は破綻している。卒業生は就職し、退学者は教育を受け、アズサは今この瞬間も足掻いている。全てが虚しいなどという教育は、君達の人生を利用する為に悪しき大人が仕立て上げた詭弁。これこそ、虚しい風習そのものなのだ」

 

だが、アダムは四人を屈服させるためでも打倒させるために来たのでもない。先生とはいつだって、道を示し導く事が本懐なのだ。

 

「君達にもできる。光に満ちた歩みを、その道筋を辿り楽園に至る事が。君達の青春に、虚しいものなど何一つない。だからどうか、私達の手を取ってはくれないだろうか?」

 

拳は握らない。解いた拳は、いつだって生徒に差し出すために。アダムはどこまでも、彼女達自身を案じていた。

 

「……笑わせるな、シャーレの先生。私達はまだ負けていない。何もかもが、終わった訳では無い……!」

 

だが──サオリは、その目の光を燃やしアダムを睨みつける。

 

「どうやって治癒したのかは知らないが、ここに出て来たのはお前の最大の失策だ…!お前を討ち、人質にし、降伏を勧告すればいくらでも、逆転は叶う!」

 

「り、リーダー…!」

「…いくらなんでも、それは…」

 

アダムの傍にはワカモがいる。そしてアダムは、身体の傷を癒やしている。それがどれほど決定的な要因か、二人は痛感していた。

 

「それしか無いのなら、それをやるまでだ…!所詮キヴォトスの連中なぞお前の傀儡、駒でしかないのだろう!?」

 

「………」

 

「甘い言葉をささやき、耳障りのいい言葉を並び立て!自分の都合の良いように洗脳してきたのだろう!?私達の関わってきた大人がそうだったように!アリウスの大人が全てそうだったようにだ!それが今更、私達に通じると思うな!」

 

サオリは、銃を突きつける。アダムを…不条理と理不尽をもたらし続けた世界に。大人そのものに。

 

「誰も助けてくれなかったんだ…!誰もが私達を傷付けた!だから私達は変わったんだ!強くなり、誰にも頼ること無く生きられるように!」

 

「…………」

 

「どこまで私達の人生を狂わせれば気が済むのだ!なのに今更、救いの手など!何もかも手遅れだ!私達が辛い時にお前は何をしていた!私達が暗く冷たい場所にいた時に、お前は一体何をしていた!?私達を助けたか!?私達を救ったか!?」

 

その憎悪は彼女が感じた絶望そのものだ。世界に受けた傷そのものだ。

 

「穢らわしい大人が!これ以上私達の人生を弄ぶな───!!」

 

サオリが銃弾を放つ。それを──アダムは、受け止めた。

 

「……そうだ。私は過去を変えられない。苦しみを無かった事には出来ない。それは既に、起きてしまった事だ」

 

静かに、アダムはそれでもサオリ達を見つめる。

 

「だが、今この瞬間は…私達の道は交わっている。君達に、私の手は届く。君達の傷ついた魂に寄り添う事ができるのだ」

 

「!」

 

「過去は救えなかった。だが、今と…その先の未来は変えられる。君達の青春を、君達に取り戻す事が出来るのだ」

 

「……………」

 

「私はその為に此処にいる。君達の絶望と諦観を終わらせる為に此処にいる。私はアダム・カドモン。全ての生徒の先を生きる者。その生徒の中には──君達も当然入っているのだから」

【♡♡♡♡♡♡♡】

 

「…アダム、カドモン…」

 

「──それに。生徒は私の駒ではない。私を今、ここで討っても無駄な事だ」

 

アダムは頷き、空を見上げる。陽の光すら射さない、分厚い曇天。

 

『───トリニティにいる全ての皆さん!聞こえますか!?私は阿慈谷ヒフミです!今、ナギサ様のご意向と私の気持ちをお話します!どうか、聞いてください!』

 

「!」

 

「全天放送……?」

 

それを切り裂く様に──ヒフミの声音が、響き渡った。

 

 

『ナギサ様達ティーパーティー、そしてゲヘナの皆さん!そして最後になんと、アリウスの生徒会長さんの合意を得て、私達は手を取り合う事が出来ました!私達は本当の意味で、エデン条約の調印が出来たんです!』

 

ハスミ「!本当なのですか、それは!?」

 

イチカ「それが本当なら偉いことっすね〜。めでたいっす!」

 

イオリ「本当だぞ!めでたいことにな!」

 

アコ「協力して押し返しますよ!」

 

ハスミ「風紀委員…!」

 

ヒナ「行こう、ツルギ」

ツルギ「あぁ…!始めるとするかぁ!!」

 

 

『異なる立場のみんなでも、こうして手を取り合えるんです!過去の風習とか、長い長い確執だって、信じ合って、夢を分かち合って話し合えば、誰とだって解り合えるんです!』

 

マコト「遅れるなよ、ティーパーティー!」

ナギサ「そちらこそ…。和を乱さぬように」

 

セイア「狙うべき場所は私が示す。私の感覚と同調したまえ」

 

マコト「行くぞ!!撃てーーーーッ!!!」

ナギサ「ペロロ様の導きがあらん事を…!」

 

セイア「未来を信じすぎない。未来に囚われない。…あぁ、やってみせるとも」

 

 

アル「便利屋68!意地と手腕を見せるわよ!」

ハルカ「はい!全てはアル様のために…!」

ムツキ「くっふっふ〜!大盤振る舞いしちゃうよ〜!」

カヨコ「オルガマリー。バックアップは任せるね」

オルガマリー「お任せください。下っ端として全力を尽くしましょう」

 

 

 

『それが私達にはできます!出来たんです!何もかもが素晴らしい結末に辿り着ける楽園の道は、完全無欠のハッピーエンドの道は確かにあるんです!そして私は、そのハッピーエンドが大好きです!』

 

ミカ「行こう、コハルちゃん!私があなたを護るからね☆」

コハル「み、ミカさん…!」

 

ミカ「私の夢…あんなに真っ直ぐ信じてくれてありがとね!コハルちゃん!」

コハル「う、うん!」

 

ハナコ「リッカさん、聞こえますか?これよりユスティナ聖徒会を無力化します。あなたが託されたシッテムの箱を、アダム先生に!」

サクラコ「手段は確立してあります!私達を信じてくださいますか?」

 

リッカ「勿論!だって皆、アダム先生の大切な生徒だもんね!」

 

 

『信じ合って、助け合って…!私達の青春の物語は、ずっとずっと続いていくんです!』

 

アズサ「ヒフミの邪魔はさせない!絶対に!」

 

?「おんやぁ〜?孤軍奮闘している子がいるよ〜」

?「ん、これは加勢するべき」

?「はい!助太刀参上です♪」

?「お待たせしました!援護します!」

?「覆面水着団、戦線に参加するわよ!」

 

アズサ「君達は…!?」

 

 

『だから皆も、皆さんも信じてください!隣りにいるかけがえのない仲間たちを!かけがえのない友達を!』

 

正義実現委員会「大丈夫!?」

 

風紀委員会「ぐうっ…すまないな…!」

 

正義実現委員会「困った時はお互い様、でしょ?」

 

正義実現委員会「困った相手を、助ける理由を求めるな!ね?」

 

風紀委員会「……あぁ!」

 

リッカ「パパポポ様、アロナちゃん!行って!アダム先生のところに!」

 

パパポポ『あぁ!』

アロナ『はい!行ってきます、リッカさん!』

 

 

『どんなに辛く苦しい事だって…皆で一緒に挑めば乗り越えられるんです!』

 

メイ「アスカ!」

アスカ「メイ!?」

 

メイ「私も…一緒に戦う!」

アスカ「──解った!」

 

サラ「ヒフミ、やっぱり普通じゃなかったな」

ヤマト「本人の前で言わないようにね」

 

アスカ「よーし!!ミネ団長!指示をください!」

 

ミネ「はい!我々の救護を、始めましょう!」

 

 

『私達は一人じゃありません!私達を教え、導いてくれる『先生』は、私達とずっとずっと一緒にいてくれます!絶対に裏切らない、私達の味方であり頼れる大人の、アダム先生がいてくれます!』

 

パパポポ『アダム!』

アロナ『アダム先生!ただいまです!』

 

『ですよね、先生!アダム先生こそ──』

 

「───お帰り、アロナ。ありがとう、皆」

 

『私達を、ハッピーエンドに導いてくれる素敵な大人の先生なのですから──!!』

 

 

ヒフミの言葉を受け、シッテムの箱とアロナの帰還を受け、全ての機が熟した事を確信するアダム。

 

ならばこそ、生徒会長の理想を此処に叶える。

 

ならばこそ、皆が夢見た理想の結実を宣言する。

 

自身が楽園を作る必要はない。

 

生徒達の築いたそれに、名を冠するだけでいい。

 

「───此処に、宣言する」

 

拳を、強く強く握り締め、キヴォトスに響き渡る程の声量と共に、シッテムの箱を有せし、生徒会長権限の所持者たるアダムは告げる。

 

 

「我々こそが!!エデン条約機構だ───!!!!!」

 

 

突き上げられた拳から、全身から黄金の波動が噴き上がり、黒き空を突き穿つ。

 

「ウソ……」

「そ、空が──」

 

ヒフミの願いが奇跡を起こし、それをアダムが想いを束ね空へと届けた。

 

暗雲は跡形もなく消し飛び───。

 

エデン条約の成立を祝福するかのように、突き抜けるような、青き空が何処までも、何処までも広がっていた。




サオリ「………………………」

ミサキ「……ミメシスの反応、完全消滅。さっきので、全部吹っ飛んだみたい」

ヒヨリ「こ、これじゃあ……もう…勝ち目なんて……」

サオリ「…………ここまで、なのか」

アツコ「…うん。もう、ここまでだよ」

その時、アツコはガスマスクを外し告げる。

アツコ「エデン条約には、私も調印した。もう憎しみ合う事も、諦める必要もない。新しい道を、進んでいける」

サオリ「姫……」

アツコ「アダム先生と、一緒なら。ね?」

アダム「───あぁ!もう既に、君達の教育カリキュラムは組んである!」

アツコ「ね?……アダム先生は、アリウスにいた大人とは違う。私達の失われた時間も、未来も、取り戻してくれるはずだよ」

サオリ「姫……どうして……」

アツコ「思い出して、サッちゃん。私達は、誰も憎んでない」

サオリ「!」

アツコ「この憎しみは、私達のものじゃない。これからは…私達の人生を生きようよ」

サオリ「…彼女が、赦すはずがない。私達は…」

アツコ「うん。『だから私が、説得してくる』」

サオリ「!?」

瞬間、空間が裂けワームホールが開く。アツコは全て覚悟の上だったのだ。

アツコ「生徒会長として、あの人から全てを取り返す。そうしなくちゃ…アリウスに、未来は来ないから」

サオリ「な、馬鹿な!姫!だめだ!」
ミサキ「そんなの、殺されるだけ…!」
ヒヨリ「姫ぇ!」

アツコ「大丈夫。たとえ殺されたって…これ以上、あの人の言いなりになんかならない」

アダム「アツコ!!」

アツコ「ありがとう、アダム先生。皆を救ってくれて。──あなたが先生で、良かった」

アダム「駄目だ!私も一緒に!」

アツコ(ふるふる)

アダム「!」

アツコ「私は、一応生徒会長だから。…だからまた、先生にお願い」

アダム「……!」

アツコ「私の大切な友達を…アリウス皆の未来を。どうかよろしくお願いします。アダム先生」

ぺこり、と頭を下げ、真紅のワームホールへ消えていくアツコ。


アダム「アツコ……!!」

サオリ「そんな……!何故だ、姫……!何故……!」

……アツコを除いたアリウススクワッドは、身柄を保護され治療を受ける事となる。


ミカ「アダム先生!…?」

サオリ「くっ、ううっ……私だ…!私の、せいだ……!全部、私の…!」

ミカ「…サオリ、ちゃん?」


──調印にて、エデン条約は正式に締結。此処に、トリニティとゲヘナの確執は終わった。

補習部は『パンゲア・パーラメント』と名を変え継続。トップ層生徒の個人的な部室も兼ねる事となる。

何もかもが丸く収まった事により、シャーレのアダム・カドモンの名は不動の名声となる。

アダム「………………アツコ」

全ての首謀者として、生徒会長として。責任を果たしに向かった、秤アツコを除いて。

エデン条約に纏わる全ては、新たなる未来へ歩みを進めていた。

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