アダム「ここで、いいんだな」
パパポポ『うむ、神父はこちらで告解者の言葉を聞くのだっポ。アダム、他言は無用だぞ』
アダム「無論だ。墓場まで持っていくとも」
パパポポ『死ぬな死ぬな、まだやるべき事があるだろう』
アダム「あぁ。…む」
『モモトーク』
「…!」
パパポポ『来たようだ。私は傍にて黙る』
ミカ「………言わなくちゃ」
「アダム先生にだけは…全部」
『アダム先生、そこに…いるよね?』
「勿論だ。君の呼びかけに応えに来たぞ、ミカ」
ミカとアダムは、懺悔室の仕切りを隔て向かい合う。罪を伝える場所、抱えた苦しみを懺悔する場所。奇しくもそれは、ミカがアダムに罪を伝える形となっていた。
『うん……。あのね、アダム先生』
「あぁ」
『私、アダム先生の事…最初は凄く嫌いだったんだ』
「……それはまた、悲しい告発だな」
『あ、ううん!最初だよ、最初の最初!まだ、アダム先生の事を全然知らなかったときの話だよ。今は全然、そんな事ないからね!』
「そうか。私はずっとミカが好きだからな。誤解が解けて何よりだ」
『どっ…ど、どうして?』
「君は、私が一番辛いときに助けてくれた。…未来の話だが、恩と縁は既にあるのだ」
『〜。そっか…先生、私の事……』
「懺悔室に呼ばれた意味を解らぬほど私は愚鈍ではない。君の胸にしまっていた、重い荷物を請け負おう」
『…あぁ、もう。本当に…カッコいいなぁ…』
「ミカ?」
『な、なんでもない!うん、懺悔、懺悔…そうだね。伝えたいことが…伝えなきゃいけないこと、あるんだ。アダム先生に』
「あぁ」
『アダム先生は…トリニティも、ゲヘナも、アリウスも。過去の確執を越えて仲良くなれたらって思う人がいたら、どう思う?』
「素晴らしい志だ。誰もが願い、誰もが夢見る理想を懐ける事は、誰にでもできはしないからな」
『…うん。実はね、私…その理想を、形にしたいなって…思って。形にしようと動いた時があるんだ』
「本当か?」
『うん。アリウスの生徒に内緒に会ってね。もう争いや憎しみをやめて、仲良く未来で手を取り合おうって…伝えたんだ。そしてアリウスから生徒を一人、トリニティに迎えてね。その子は、アリウスからの和睦の使者なんだって…喜んでたんだ』
「素晴らしい…!私も、アリウスの皆を助けに行くと決めていた。私達は理想をも同じくしていたのだな」
『……同じじゃ、ないんだ。アダム先生』
「?」
『先生と笑って話せるのは、もうここで終わり。ここからは…私は、【魔女】として裁かれなきゃいけないから』
「ミカ…?」
『私はね、人を殺したんだ。大切な友達…百合園セイアって言うんだけど』
「!」
〚文字フォント変えているっポ。どうした、アダム?〛
(セイアが死んでいた?ミカが殺した?……いや、それはない。先の件で、それは実証済みだ)
『トリニティとアリウスも、ゲヘナも皆仲良くなれたらいいなって私が言ったら、セイアちゃんは『組織のトップがそんな理想論を言うものではないよ』って』
(セイア…ペシミズムをいずれケアする必要がありそうだな…)
『そんなの、やってみなくちゃ解らないし。誰もが幸せになれる未来をどうして否定するの?ってムカッと来ちゃって。私は、アリウスの皆と一緒にセイアちゃんを困らせようと…夜に会いに行ったの。そうしたら…』
「…ゆっくりでいいんだ、ミカ。落ち着いて、ゆっくり」
『……セイアちゃんを、殺したって。ヘイローを壊す爆弾が作動して、セイアちゃんは死んだって。アリウスの部隊が私に言ったの。セイアちゃんはもう、いなくなったって…』
「……………」
『嘘だと思った。悪い夢だと思った。何かの間違いだって、そんなつもりじゃなかったって。探して、探して、探し回って、でも、セイアちゃんはどこにもいなくて…私が、私が、セイアちゃんを困らせようとしたから……』
「……………」
『私が殺したんだって、私は悪くないって、もうどうしようもなくて、でも、どれだけ耳をふさいでも、その事実は消えなくて。もう、苦しくて、自分を殺したくてたまらなくて!何もかもかも逃げたくて、そんなの誰にも言えなくて…!!私は、私…!私が…!』
「ミカ」
『!』
「大丈夫だ。私が今、傍にいる。君を責める者は、ここにはいない」
『…せん、せい……』
「大丈夫だ」
『……うん、ごめんね…最後まで、言わなくちゃ。…私は、自分が人を殺した事実から逃げたくて、取り返しのつかない計画を進めちゃったんだ』
「その、計画とは?落ち着いて、私に話してみてくれ」
『うん…。ナギちゃんの進める和平政策を全部壊して、トリニティのトップに私がなって、アリウスを公的武力に据えて、ゲヘナを全部全部壊して無くしちゃうんだって…』
「……極度の精神的負荷、その原因からの逃避のため、人は時に歪んだ自己正当化を果たすものだ。ミカ、ゆっくり深呼吸するんだ」
『…すぅ…はぁ……』
「よし。…ゲヘナの事は、滅ぼしたいくらいに嫌いか?」
『…………ううん。野蛮で、短絡的で、馬鹿で、愚かだとは思うけど…滅んでほしいとは思わない』
〚嫌いなところは強ち嘘ではなさそうっポね…〛
「それは今、ナギサが推し進めているエデン条約をも破壊するという計画で、間違いないのだな?」
『…そうなんだよ、先生。私は人殺しの罪に堪えきれなくて、全部全部めちゃくちゃになっちゃえって思って…取り返しのつかない罪を幾つも幾つも重ねちゃった』
「………」
『アリウスは近々、トリニティにまた襲撃をかけにくる。アリウスの皆は、憎しみと虚しさを糧に生きてきたから。ナギちゃんはもう誰も信じられなくなって、補習部の全員を裏切り者として処分しようとしてる。それだって、私が全部の罪をアダム先生と補習部に押し付けて切り捨てるための生贄に仕立てたから。ナギちゃんは本当は、友達を疑ったりゴミだなんて絶対に言わないよ。私が、一番良くわかってるから』
「………」
『全部全部めちゃくちゃになっちゃえば良かった。どうせ取り返しがつかないなら、何もかも壊れちゃえと思ってた。私が壊したんだから。どうせ全部目が醒めたら消える夢なんだって思ってたから。……アダム先生と、出逢うまでは』
「私に君がしてくれた、依頼だな。期待には応えられたようだ」
『応えたよ。応え過ぎなくらい。…アリウスの憎しみそのものに、学園の立場を越えて皆が力を合わせて戦ったね。アダム先生はその先頭に立って、誰よりも輝いてた。本当に、本当にカッコよかったよ。本当に…物語の王子様みたいに』
「痛み入る。王子様というには私は歳がいっているがな」
『関係ないよ。私はアダム先生が素敵だと思ったんだから。…でもそれは、私の選んだ道が何もかも間違っているって突きつけた光でもあったから』
〚ミカちゃんも願っていたッポ。エデン条約のような結末を〛
『必死に目を逸らして、誤魔化して、見ないふりをしていた私を…アダム先生は許してくれなかった。向き合わなきゃ駄目だって、教えてくれた。だから…私は、罪を、認めなくちゃいけなくて…だから……っ、だか、ら………っく、ひっく…うぅっ……うう〜〜〜………っっ…………!』
〚……泣いているのだね、ミカちゃん…〛
『ひくっ、えっく……泣きたいのは、私じゃないのに…私に、泣く資格なんて…あるわけ、ないのに…!ぐすっ、ひぐっ……私に、そんな事、許されるわけ、ないのに…!』
「ミカ………」
『どう…すれば、いいの…かな……?人を殺した罪を、何を、どうすれば…償えるのかな…?自分の罪を認められなくて、また重ねてしまった罪を、皆を巻き込んで大きくなっていく罪を、どうすれば、何をすれば償えるのかな…?解らなくて…怖くて、どうしようもなくて……!私は、わたしは、もう、どうすれば、いいのか…解らなくて…!』
「………」
『ごめんなさい…ごめんなさい…!セイアちゃん、ナギちゃん…!補習部の皆、ごめんなさい……!私が迷惑をかけた、全<ての人に…ごめんなさい…!アダム先生、ごめんなさい…!』
「─────」
『こんなどうしようも無いこと、伝えてしまってごめんなさい…!あなたに共犯者になってほしいだなんて思って、ごめんなさい…!あなたの事を…アダム先生の事を…!私の王子様になってほしいだなんて思ってごめんなさい…!』
〚…………〛
『教えてください、アダム先生…罪の償い方を、教えてください…私は、何でもするから…アダム先生の言葉なら、絶対に絶対に信じられるから…。アリウスの生徒を救えたアダム先生なら…キヴォトスの皆を一つにできた、アダム先生なら』
「……………」
『何でもするから……私に、何をすればいいのか教えてください………もう私には、どうすればいいか解らないの………』
「───────………………」
〚……アダム。彼女を、救ってあげなさい〛
「──あぁ、勿論だ。…ミカ」
『…はい…』
「私は、君を『赦す』。だから、君も自分を『赦して』あげてほしい」
『え…!?』
「自らの罪を赦す方法、それは他でもない他人の罪を赦す事だ。君が成すべき事とは、責め続け今も尚自分を傷つけている自分を赦す事なのだ、ミカ」
『そんな…そんなの、出来るわけ無い!私のワガママで、バカな行動で、人が死んでるんだよ!?』
「それでもだ。君は自分を赦さなくてはならない」
『赦せないよ!許せるわけない…!絶対に!できないよ!アダム先生…!』
「────罪と向き合い、絶対に出来ないことをしなくてはならない。それを人は『償い』というのだ。聖園ミカ」
『!!!!!』
「君の罪は、君自身が誰よりも知っていた。君の罪を誰よりも許せないと叫んでいたのは君自信だ。ならばその償いとは、許せない事を許し、罪と向き合うために前を向くことに他ならない。それが、君の犯した罪への罰だ」
『……人殺しの私を、私が赦す……?そんな、そんなの…』
「一人で赦免に挑む必要はない。今ここで、私は君の罪を知った。君の罪を受け取った。ならば私は今から、君の贖罪に寄り添う巡礼者だ」
『……………〜〜………』
「罪を犯した者に、他者は何をするべきか。石を投げるなど言語道断、罪を犯さぬ人間など存在しない。他者の罪を裁ける人間など存在しない」
『…アダム先生も、そうなの?』
「あぁ、神を殺したからな」
『!?』
「まぁそれはいい。ならば人は、罪を犯した罪人に何をするべきか?それは、寄り添い痛みと重みを分かち合う事だ。誰もが罪を抱えている。その痛みと重みは自分のものだと知り、互いに支え合い遥かなる償いの旅路を共に歩む事なのだ。私は、君とそう在りたい」
『!』
「君が自分を許せる償いを果たせるその日まで、私が君の傍にいよう。冷たい北風から君を護り、心無く投げられた石から君を庇おう。茨の道も、険しき崖も、君が君を赦せるようになるまでずっと一緒に支えよう。それが君の罪を聞き届けた私の責務だ。聖園ミカ」
『……アダム、先生………』
「辛い十字架は、二人で背負って歩けばいい。君がいつか、青い空を見上げる事ができるその日まで。私はずっと、君と共に在る」
『……あなたは、誰?』
「アダム・カドモン。健やかに育つ君達の先に生き導く者であり、楽園の在り処を示す為、全ての命の先を生きる者だ。聖園ミカ」
『─────!!』
「さぁ、もう朝日が登る時間だ。帰ろう、我々の在るべき場所へ」
『──うん。うん。アダム…先生』
───そしてその時、ミカは見た。
ステンドグラスから差し込む光。その光を背にしこちらに手を差し伸べ笑う…
「罪に苦しむ学園生活は、もう終わりだ」
鳩を肩に乗せた、神々しいまでのアダムの姿を。
アダム「罪は、心から反省し悔い改めた者の前から消えねばならない。あの時流した涙、懺悔した勇気を信じ、君に救いをもたらそう」
ミカ「え…?」
アダム「そうだろう?サクラコ。そして…ミネ」
サクラコ「──お見通しでしたか、アダム先生」
ミネ「先程、セイアさんの急速に容態が快復しました。アダム先生にお伝えしようかと思ったのですが…」
ミカ「…容態?快復?えっ…え…?」
アダム「言っただろう?救いは、あるのだと」
パパポポ〚石をパンに変えるよりは容易い祝福だっポよ〛
〜極秘医務室
アダム「やぁ、さっきぶりだな。セイア」
セイア「………困惑するやら、呆れるやらだよ……まさかあなたがここまで規格外だとは………」
ミカ「あ、あぁ……あぁ……!」
ミネ「セイアさんは重症でしたが生きていました。再びの襲撃を危惧し、私達が保護治療をしていたのです」
サクラコ「極秘でしたが…アダム先生以上に、信頼できる方はおりませんので、先んじてお伝えしていたのです」
セイア「…ミカ。君の理想を頭ごなしに否定したのが事の始まりだ。君への配慮が足りなかった、ごめんよ──」
ミカ「セイアちゃーーーーーーーーーん!!!!良かったぁーーーーーーー!!!」
セイア「まっ、死ぬ!今度こそ死んでしまう…!」
ミカ「良かった…!本当に、本当に…!良かったよ…!ごめんねセイアちゃん…!本当に、本当にごめんね…!」
セイア「……これじゃあ、謝り合戦に終りが見えないな…」
アダム「ならば元の鞘に収まるといい。あと一人、救わなければならない相手がいるぞ。二人共」
「「!」」
〜
ナギサ「せ、セイアさ、え!?セイアさん…!?何故、どうし…!?」
セイア「唐突な復活ですまない…」
ミカ「ごめんねナギちゃん、裏切り者は私なんだ☆だから補習部の皆の退学は絶対なし!ね?」
ナギサ「えっ!?え!?え!?えぇえ!?」
アダム「まぁシンプルに赤点スレスレなので勉強はしてもらうが」
パパポポ〚浦和フラワーあたりは自主退学狙ってるからケアしてあげるっポよ〛
アダム「アダムとイヴの逸話ってHなのだろうか?」
パパポポ〚イチジク次第だっポ〛
ミカ「アズサちゃんはアリウスからの和睦の証だから大事にしてね☆」
ナギサ(思考停止)
セイア「だめになってしまったね…」
サクラコ「これでティーパーティーは元通り…でしょうか?」
ミネ「命を助けられて何よりです、アダム先生」
アダム「あぁ。後はエデン条約の完遂だ。油断は赦されない」
サクラコ「アダム先生?」
アダム「このままでは…エデン条約は必ず失敗するからだ」
「「…!」」
アダムは朝焼けを見つめていた。
それらが照らさぬ、狭間の闇を。
どのキャラのイラストを見たい?
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コンラ
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桃太郎(髀)
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温羅(異聞帯)
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坂上田村麻呂
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オーディン
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アマノザコ
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ビリィ・ヘリント
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ルゥ・アンセス
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アイリーン・アドラー
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崇徳上皇(和御魂)
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平将門公
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シモ・ヘイヘ
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ロジェロ
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パパポポ
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リリス(汎人類史)