ジブリール『あった…これが、ルシファーの羽根の設計図か…。…!』
そこにあったのは、無数のルシファーに『なるはずだった』もの。万を超えるルシファーの失敗作達が、そこに保管されている。
『…おぞましい…成功までの試行錯誤か、元々量産するつもりだったのかは解らないが、こうまでルシファーに入れ込むとは……』
(ルシファーを次世代の天使にするつもりだったか。となれば残りの天使は廃棄処分…扱いが雑なわけだ)
『…神の手により造られたこの羽根、設計図は私の力では壊せん。だからせめて、時代の遥か何処かに捨てるのみ』
(新たなる厄災になりうるかもしれぬ、しかし…ルシファーを量産されれば人間も、悪魔も誰もあの神たる誰かに勝てなくなる)
『アダムとイヴの子にも、よその世界にも苦労をかけてしまう。許してくれとは言わない。どうかせめて…』
『──健やかに、育ってくれ』
(そして、何者にもなれなかったルシファーだったかもしれない者達よ…)
『…これ以上、お前達の全てを踏みにじらせはせん…!』
大量のルシファーの失敗作…新たなる天使の尖兵は、寸での所でジブリールに焼き払われたのであった。
ルシファーの羽根の鋳型、設計図は喪失。ルシファータイプの存在は永遠に彼のみとなった。
故に、類似型があるとすればそれはサタンタイプ。魔と混血の、全く属性の異なる何者かであろう。
その設計図はどこかの世界に流れ、行方は掴めていない。
【虚飾の魔王……。七大魔王の大罪とは違う、まさか別ルートの覚醒を果たすなんてね】
サタンが神妙な面持ちで虚飾の魔王を見据える。巨大ながらも空虚、それでいて華美な装飾の魔王が、地獄において顕現したのだ。
【取り戻さなきゃ……今までの嘘だらけの人生なんかじゃない、家族を、兄姉を、私の全てを…!】
地獄の軍勢が、即座に止めに入る。杏里であることは通達済なため、あくまでも鎮圧の体だ。
【やめてよ!私の邪魔をしないで!!】
しかし、それを感知した虚飾の魔王は即座に自身の力を展開。それらの領域に入った悪魔たちに即座に変化が訪れる。
なんと、悪魔たち全ての力が初期値、言うなればデフォルトに戻されてしまったのだ。下級、中級、上級全てが等しくレベル1となってしまう領域と見受ける他ない領域…。虚飾の魔王たる杏里は、他者の力の全て、積み重ね全てを嘘とする。
【本当の真実なんて、お兄ちゃんやお姉ちゃんが皆いる家族以外ありえない!みんな、みんな、みんな嘘ばっかりなんだ!消えちゃえ、そんな嘘消えちゃえ…!!】
これはカルデアにとって、人間や歴史にとってまさに天敵とも言える存在である。人は、歴史は重ね歩むもの。それをこの魔王は強制的に嘘として無かった事とする。
彼女を仕留めるとするならば、それは神霊サーヴァントか魔王達に限定されるだろう。生まれながらに変わらぬもの、完成された存在。それら以外の全ては、重ねた研鑽や歴史を否定されレベルが1となってしまう。
【サタン様、私がヤツを留めます。沙汰の決断を。アスモデウス、レヴィアタン、マモンは続け!】
ベルゼブブが率先し、虚飾の魔王に挑む。魔王クラスはその理不尽な虚飾の咎を受けない。故にこそ、ここは彼らのみが戦えた。
【サタン様!一つ伝えておくこととしよう!】
【マモン?】
そんな中、死地に向かう前のマモンがサタンに声をかける。彼は虚飾の魔王となった杏里の誕生を心より祝福していた。
【人の器というものは如何に大きけれどいずれは溢れる!しかし杏里とやらは虚飾の魔王に覚醒し今までの人生全てのスペースを枯らした!】
【つまり…何かをいれる余地が生まれた?】
【そうだ!オレ的に虚飾の魔王でも一向に構わんが、本来の憤怒の後釜にするにはおあつらえ向きになった事だろう!全てはアナタ次第だ!サタン様!!】
それだけを告げ、マモン達は虚飾の魔王と戦いを行う。攻撃が、回避が、防御が嘘にされてしまうので攻撃をしたければ防御を、防御したくば攻撃を、回避したくば回復をしなければならない奇天烈さに、まともに力を出せるのは死蝿の力を振るうベルゼブブのみという有り様であった。
【やめて!やめてよ!私は取り戻したいだけなの!本当の私を!嘘まみれの人生から抜け出したいだけなの!】
【頭を冷やせ…。何もかもが嘘など、短絡的にすぎるぞ】
【あなたも私と同じでしょう!?今ならわかる、本当は神様で沢山の民がいたのに、ベルゼブブなんて嘘の姿にされて!どうして平気なの!?】
【嘘ではないからだ。ベルゼブブという名前も、私の真実だからだ】
【嘘つき!もうどんな嘘も聞きたくない!私が欲しいのは、家族みんながいる真実だけなの──!】
ベルゼブブの巨体が、虚飾の魔王に切り刻まれる。
【………!】
【ベルゼブブ!あなたは……!】
【杏里ちゃんを敵と思ってない…のかな】
万に一つも杏里を傷つけてはならないし、犠牲者を出させてはならない。誅伐する敵にならぬようにするベルゼブブの気払いであった。
【……嘘に塗れた人生、か。空虚に感じたのかな、大切な人がいない人生を】
サタン…いや、ルシファーは杏里の言葉の意味を考えていた。奇しくも、ルシファーにもそれは覚えがあった。
天界での無味乾燥な平穏、退屈な日々。神の左にて、偽神の自身を満足させるためだけの愛玩人形としての日々。
だが、それら全てが下らないもの、嘘であったとは思わない。サリエル、ジブリールとの交流は楽しかったし、ミカエル等大天使と遊んだ事は愉快だったし、三分の二を狂わせたことは面白かった。
【どんなに嘘で虚しい事象にも、本当の何かは生まれるものさ。君も僕なら必ずそうだ。いや、そうじゃないなんて言わせない】
熱で朦朧とした意識と身体を起こす。内部の猛り狂うドラゴラースを、サタンの霊基を起動する。
【自分の全てが嘘まみれだなんて──そんな女々しく哀しい魔王なんて必要ない!】
ドラゴラースを纏う。憤懣竜王概念武装、ドラゴラース・ルシファー。溶け落ちるマグマのような赤と黄色、オレンジの姿となって、虚飾の魔王へと突進する。
【!!】
【杏里、君は間違っている!今から君に道を示そう!魔王としてね!】
ドラゴラースの励起により、ルシファーの体内温度は300度を超える。もはや人体にあってはならない熱であるが、それでもルシファーは杏里に諭す。
【君の人生は真実だ。それは、オレが保証しよう!】
【あなたも嘘をつくの!?本当の事を知らないまま生きてる人生のどこに本当があるっていうの!】
【あるとも。それは、君自身の頑張りと共に積み上げた毎日だ】
【!?】
虚飾の魔王としての本能が、サタンを攻撃する。しかし、大魔王たるサタンに生半可な攻撃など効くはずもない。全て蒸発、霧散せしめる。
【佐田杏里として積み重ねてきた全てが、君の本当だ。君自身が嘘だと言っても、それは絶対に覆らない】
【そんなの、そんなのありえない!家族の事を忘れたまま、どうしてそんな歩みが本当だなんて…!】
【君が話してくれた仲間たち、そして君が食べさせてくれたお肉。それら全てが真実だからそう言えるのさ。お陰様で、病人のオレでも無茶ができる】
【…牛丼…お肉…】
【君の仲間は、君を得難い友達と思ってるはずだ。そして君自身も友達の事を想ったからこそ、皆に友達の事を話したんだろう?魔王相手に命乞いじゃなく身の上話をしたのは、それが真実として胸を張れた自慢だったからだろ?】
魔王だろうと、決して揺らがないものがあった。杏里にはそれが精肉店の日々であり、シャドウミストレス優子やそれらと過ごした日々であった。それらは、杏里の真実の証なはずだ。サタンはそれを信じたのだ。
【私には…真実が、あった…?嘘だと思っていた人生に…】
【そうさ。あの肉の美味しさは間違いなく真実だよ。せめて小盛りにしてほしかったけどね】
虚飾の魔王の頭上を取り、サタンは自らを燃やし尽くす。
【新たなる魔王の同胞よ。歪められた座など我等には必要ない】
【!】
【我等は世界に自らの意思で仇なす者。そしていつの日か、神の暴虐に打ち克つ星を導くもの。君を縛るその座を今よりオレが打ち砕こう】
灼熱の隕石となったサタン、燃え盛る竜となったドラゴラースは杏里を捉える虚飾の魔王に向けて全力で突撃を行い──。
【君の人生を嘘と否定する魔王など、我等軍勢には必要ない───!!!】
太陽爆発に匹敵する一撃と共に、杏里を縛り付けていた虚飾の魔王はチリ一つ残さず滅却消滅となる。中核たる杏里は、ベルフェゴールの鼻提灯にて保護される。
【魔王たる条件はただ一つ。世の全てを敵に回せど貫きたい意志を魂に宿す事。嘘偽りの大罪など、オレ達には無用なものだ】
「サタン…ルシファーさん……」
【じっくり考えよう。君がどんな魔王になるべきか。奪われたものに、どう向き合うべきか。君は既に、魔王の資格を持っているんだから】
「………はい!」
魔王達が手こずる虚飾の魔王を一撃で焼き払い、杏里の全てを取り戻したサタン。
(この人が、まぞく最強のご先祖様かぁ……凄いなぁ…)
杏里は心から、シャミ子何人分なんだろうなぁといつも通りのノリで思い浮かべるのだった。
尚、この後ルシファーは熱量がぶり返し集中治療室送りとなり一週間床に臥せったのであった。
ルシファー『あついよー、だるいよー、あついよー…』
ベルゼブブと、彼が推薦したアスモデウスがつきっきりで看病したという。
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