人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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サタン【何かしら僕への関わりがあるとは踏んでいたけれど……まさか僕の模造品なんてオチだったとはね…】

ベルゼブブ【天界において、羽根を使った再設計の為の設計図が如何なる偶然の悪戯か流出し、彼女の世界へと流れ着き、人間としての構成を得て母胎から産み落とされた…そういった経緯を辿った存在と仮定すれば、説明はつきます】

サタン【この、『忘却記憶処置』っていうのは何?】

ベルゼブブ【はい、どうやら彼女は本当の記憶にあたる家族の存在を封じられている様なのです。それは恐らく、光の一族の末裔の何者かによる力かと】

サタン【そっか……奇しくも魔王の器としての資格は十分にあったって事なんだね】

ベルゼブブ【はい…。しかし、懸念材料はあります】

サタン【?】

ベルゼブブ【それは……彼女が今、魔王として覚醒してしまったならば…】




自由の真実

「うっ……ううっ……!頭、痛い…割れそう……!」

 

突如頭痛を覚えた杏里は、魔王達の手により下級悪魔救護室へと搬送。ベルフェゴールの鼻提灯により安静を取っていたが、その頭痛が収まる様子がまるでなく、今も尚苦しみを訴え続けていた。

 

それは家族の話をした直後の事であり、彼女自身の生い立ちに何か関係があるであろう事を魔王達はなんとなく察していた。流石にサタンに向けるほど徹底的な看護をするわけにはいかず、静かに経過を待っている。

 

【家族の事で、何か辛いことでもあったりしたのかな…】

 

レヴィアタンは単純に別離の哀しみを知っているため、杏里の身を純粋に案じながら見守っていた。

 

【ろくな真実ではなさそうだぞ。どう考えても知らない方がいいほうの真実であろうな。オレは凄く知りたいが!他者の秘密など、暴かずにはいられぬ!】

 

欲望は止められぬとばかりに杏里の過去に興味を示すマモン。心配と欲望が完全に両立するのがマモンたる所以だ。

 

【やめなさい、マモン。記憶や精神的外傷に関する治療は長期的にやらなくてはならないと配下に学びました。一先ず我々は見守ることくらいしかできないでしょう…】

 

サタンやルシファーが関わらなければ冷静かつ理知的なアスモデウスは、理性的に彼女を心配する。正確には、大いに関係がある構成をしているのだが。

 

【まさか、サタン様の設計情報が流出し、人間世界で造られたのが杏里ちゃんであったなんて……言うなれば、あの娘は人間たるサタン様…】

 

【人間の物理法則で造られた以上、サタン様には及ぶべくもないデッドコピーのイミテーションであろうがな。サタン様は羽根の管理が雑に過ぎた一面もあったが故の流出か?】

 

【マモン、そういう言い方はよくない……】

 

【許せ、誰かが言わねばならん事だ。どうする?我等魔王、如何なる理由があれサタン様の模造品を看過する理由があるか?】

 

【…どういう意味ですの、それは】

 

【言葉通りの意味だ。我等はサタン様に忠誠を誓いしものたち。しかし我等はサタン様の力や格ではなく魂に忠誠を誓っている。この娘がサタン様と規格を同じくするからといって、サタン様の威を借り傲られてはたまらぬからな】

 

さっさと処分しておくべきだ、とマモンは告げる。イミテーション…模造品という存在には彼は冷淡であるようだ。何故造られたか、という一点に興味があり、杏里への感心は希薄となっていた。

 

【そんな事は許しません。如何なる存在であろうと、サタン様やルシファー様の遠き縁があるのならば…私は彼女を庇護したいと考えます】

 

アスモデウスは杏里の擁護に回る。どのような存在であれ、彼女にとってはサタンやルシファーならば傷つけるなどありえないのだ。

 

【でも、生きてるだけで辛いって感じの頭痛してる…このまま生きていくのは逆に辛いことになるんじゃないのかな…】

 

レヴィアタンは特段思うところなく、ありのままの杏里を案じている。今更夫とルシファーへの想いが揺らぐことがないという自負故の余裕といえよう。

 

【( ˘ω˘)スヤァ】

 

ベルフェゴールに別段変化はない、が治療に積極的である。理解しているのだろう。彼女は別世界のサタンであることを。

 

【えぇ、やはり記憶の齟齬が苦しみの原因。なんとかしてあげられたなら…】

 

思惑はあれど、誰もが客人の彼女を心配している…その時であった。

 

【集まっているな、お前たち】

 

【あ、ベルゼブブ】

 

光り輝く神、バアルではなく死の蝿の王、ベルゼブブの姿を有した彼が医務室へと足を踏み入れ、その驚愕の裁定を告げる。

 

【今より佐田杏里を魔王に覚醒させる。暴走の危険性が高い、準備を行え】

 

【【!?】】

 

【ほう!後腐れなく殺処分するだけではなく、死に花を咲かせてやろうというわけか!悪くない趣向だ!】

 

【マモン!いい加減になさい!】

 

【カルテの通り、彼女は規格が人間に寄ったサタン様と言っていい。そして今、彼女は光の一族の末裔からの記憶処理に苦しんでいる。このまま放れば、いつか大いなる厄災となるだろう。その前にここで抜本治療を行えとサタン様の思し召しだ】

 

即ち、記憶処理を外し、真の記憶を彼女に渡す。そうすることで起きる弊害を魔王たちで当る、という用向きであることをベルゼブブは告げる。

 

【ともすれば、憤怒の魔王の空席も埋まるやもしれん。記憶次第ではあるが、彼女が奪われていた全てに対し強い怒りを懐けば、或いは】

 

【ほう!模造品が憤怒の魔王として真作に覚醒するのを見るわけか!それは素晴らしいな、是非ともやろう!まがい物でなくなるならばオレの欲望ポイントイイネをくれてやるに相応しい!】

 

【いらなすぎるそのポイント…】

 

【荒療治にも程があります、ベルゼブブ!人間として生きてきた彼女を、いきなり魔王に覚醒させるだなんて…!】

 

【…そうだな。しかし、ルシファー様はこうおっしゃっていた。『天国で奴隷であるより、地獄で自由気ままなほうが楽しいよ』と】

 

【!】

 

【彼女の人生は彼女のものだ。天界、ひいては神の手による理不尽な迫害ならば…その痛みを最も知る我等が助けてやらねばならぬはずだ、アスモデウス】

 

アスモデウスは本気で彼女を心配している。それはサタンの模造品でなく、ルシファーの代替品でもなく、あの朗らかな彼女とその人生を案じているが故だ。出会ったばかりではあるが、彼女は出会ったばかりの存在にも愛情を注げる、色欲の魔王であるのだから。

 

【……解りました。彼女の本当の人生を思えば……】

 

【うむ。では彼女を苛む忘却の封印を破壊する。一同配置に付け】

 

【新たなる同胞の誕生かぁ!存分に祝ってやらねばなぁ!】

 

【憤怒の魔王が生まれたなら、ルシファー様が苦しまなくて済むね】

 

【いいや、レヴィアタン。恐らく憤怒の魔王は生まれぬとオレは予測するぞ?】

 

【え…でも……】

 

【ただの模造品で無いのなら、の話だがな。まぁネタバレは厳禁だ!今はあのガラクタの行く末がどこに行くか、ワクワクしながら見守ろうではないか!】

 

【…それはともかく、仮にもお客さんに対する口は控えなよ、マモン】

 

【ぐおぉおおぉおぉおぉおぉ…………!!】

 

度を越した彼女に対する口の悪さに、アイアンクローならぬアイアンテールにて制裁を加えるレヴィアタンであった。

 

そして準備は執り行われる。彼女にかけられた光の封印を、ルシファーが消し飛ばす。

 

【彼女には、牛丼一杯の恩があるからね……秩序を壊して、本当の彼女の道を教えてあげなくちゃね】

 

【ルシファー様、ご無理をなさらず】

 

【大丈夫大丈夫。おーい、杏里、大丈夫?】

 

「サタン、さん…」

 

【今から君に、人生を取り戻してあげるね】

 

「私……お、お願いします…!」

 

【また牛丼作ってね。美味しかったから】

 

 

それだけを告げ、ルシファーは光の封印を粉々に破壊する。

 

「うっ、あ……!私…私…は……!」

 

杏里の記憶に、その光景が去来する。

 

それは───。

 

「あぁ、あぁあ……!」

 

 

…姉と兄が、無惨に殺され肉片と化していた光景。

 

 

「ああああああああああああ………!!!」

 

そして、その全てを忘れ奴隷のように生きてきた事実が、杏里に突きつけられた。




『ああ、そうだ。思い出した…私は…私は、嘘だらけの人生を生きてきた…!取り戻さなきゃ、本当の私を、本当の人生全てを…!』

ベルゼブブ【これは……】

レヴィアタン「憤怒じゃ、ない…?」

マモン【フッハッハッハッハッ!!やはりな!!】

アスモデウス【マモン…!?】

マモン【大切な記憶を奪われ、屍のような人生を送ってきた者が憤怒など抱くはずもない!その人生こそが魔王であるならばそれは憤怒ではない!】

ベルゼブブ【では…】

【大切なものを抜き取られた人生になど、中身が伴うものかよ!今までのヤツの人生はまさに嘘偽りに塗れた茶番!それを魔王とするならば、座する席は一つ!!】

真名覚醒・虚飾の魔王 佐田杏里

マモン【おめでとう佐田杏里!!貴様だけの魔王!!何もかもが虚飾に塗れたその人生が魔王に昇華した瞬間だァ!!ハッハッハッハッ!!アッハッハッハッハッ!!!】

伽藍堂の金メッキの鎧で出来た、超巨大なハリボテの身体を持つ魔王。

家族への欲望無き彼女の真理を見抜いたマモンが笑う。

それは虚飾の魔王に告げる、模造品ではなく同胞に贈る祝福であった。

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