人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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サタン【丼は全快してからいただくことにするね……】

バアル(熱のせいで誇り高さが見る影もない…)


サタン【見たところ、どう考えても普通の女の子だよね。何か呼ばれるような因子があったという事なのかな…】

バアル『直ちに調べます。ルシファー様は安心してお待ち下さい』

サタン【調べる?どうやって?】

バアル『それは勿論、人間ドックです』

サタン【アナログかつ堅実なやり方なんだね……】

バアル『それに気がかりであるのが、ルシファー様の羽根が確認されたこと。類似性を調べます』

サタン【任せるね…じゃあオレは冷えピタして寝るから…】

バアル『どうか、ご静養を…』

サタン(厄ネタじゃないといいけどなぁ…)


記憶管理ー!

「えーと、つまるところみなさんは正真正銘の魔王であって、ここは紛れもない地獄であって、まぞくの中でも頂点に位置する人たち!いや魔王たちということなんですね!?」

 

杏里の衝撃的なニュアンスを含んだ声が木霊する。闇の一族の末裔があれやこれやなんやかんやする世界からやってきたのであれば、言ってしまえば魔王連中はバリバリご先祖様世代である。ネームバリューの桁が違う皆々に、一般人ポジションの杏里はシャミ子のご先祖様に出逢えた的なサムシングでテンションをぶち上げる。

 

【まぁ七大魔王と言うくくりは大罪によって当てはめたから用意されている席なところが多少はあるからきっちり決まってるわけじゃない…私だって本当は神が見出した獣だし…クラスビーストではないところがまたややこしい…】

 

【我々はそれぞれ司る大罪も、思想もまるで違う集まりではあるけれど、サタン様への忠誠という共通の真理を懐いて魔王の名を冠しているのよ。この喧しいマモンも、寝ているベルフェゴールも、陰気なレヴィアタンも、勿論私も。サタン様の為ならば死ぬ覚悟を有している同志であるのよ】

 

「おぉ〜、まさに血盟の絆ってやつですね!あれ、もしかして私って今とんでもなく無礼千万ではないですか?」

 

【気にしないでいい…。サタン様とルシファー様とそれ以外だから上下関係はない…】

 

魔王たちは、杏里を一先ず魔界の深奥に行かないように監修。その成り立ちを教えながら交流を深めていた。

 

【私としては、その魔族の末裔…シャドウミストレス優子さんの事が気になるわ】

 

「略してシャミ子なんですよ!シャミ子で大丈夫です!」

 

【その、シャミ子さん。もしかしたら有力な魔王候補になってくれそうだもの…。是非ともお話を伺いたいわね】

 

「ぶふっ…!」

 

アスモデウスの言葉に、堪えきれないとばかりに杏里は噴き出す。余程愉快、まるで想像すらできないといった様子だ。

 

「しゃ、シャミ子が魔王…!?いやいや、全然イメージできない!」

 

【そうなの…?末裔の力が目覚めた、なんて凄い主人公かつ強大な存在フラグでしか無いと思うんだけど…】

 

レヴィアタンの言葉を受け、シャミ子たる存在の事を杏里は語る。それは、まぞくとしてのアレコレに懸命に抗う可愛らしい存在であるという旨の説明であった。

 

「とにかく凄いいい娘なんですよ、シャミ子って。貧乏にも負けず、僻まず、生活費40000円の呪いにもめげず、光の一族の末裔の魔法少女になんとか勝ってまぞく復興を目指しているとかいないとか!泣かせませんかこの境遇!?」

 

【生活費40000円の呪い…?】

 

【正気かそれは!半月の食費で大半が消し飛ぶだろう!生活費として換算されるような額ではない!苦行か!?】

 

マモンに電流走る。それは当然ながら強欲の魔王には看過できない所業であるが故だ。同じ立場に置かれれば、マモンは半日と保たぬだろう。

 

【シャミ子とやらに援助したくなってきたぞ……!無きところには、富は分け与えてやらねばならん故になァ!】

 

「あれ?もしかしてみなさんもシャミ子タイプの魔王でしたか!だからこんなにフレンドリーなんだ!」

 

【まぁ私達、ぶっちゃけると光側の被害者だから…】

 

【( ˘ω˘)スヤァ】

 

【シャミ子さん…是非とも会ってみたくなりましたね。あなたとはどういった出会いを果たしたのですか?】

 

「そうだなぁ……最初はすっごく身体が弱かったんですよ、シャミ子。それが呪いが前に出てなんとかなって、それから光の一族の末裔…魔法少女、桃とのあれやこれやの日常が始まった訳です!」

 

【光の魔法少女…魔法少女?天使や聖人ではなく?】

 

アスモデウスの疑問に、杏里は楽しげに頷く。どうやら光と闇との戦いという割にずっと穏やかなものなようだ。

 

「はい!片手でダンプカーを止めたりします!」

 

そうでもないかもしれない。

 

【リッカの知り合いか血縁だったりするのかな…】

 

【その印象は早々に矯正なさい、レヴィアタン…】

 

「筋トレとか、物凄い好きなんですよ!シャミ子いっつも勝てなくて、これで勝ったと思うなよ〜!がお決まりの決め台詞になってるんですよね〜!」

 

【あれ、結構面白い娘だったりするのかな…いや、もう普通に面白いか、その娘…】

 

【うぅ〜む………あの猛り狂うドラゴラースとマイルドになりいい感じになるのではないか?】

 

気質は全く適していないが、逆に適しすぎて反作用に期待できるレベルのシャミ子の在り方に、魔王達は好感触を懐くこととなる。一足飛びでまぞくのレジェンド達に好かれるという意味不明な事態を、果たしてシャミ子は如何に思うのだろうか。

 

「憤怒のシャミ子……これで勝ったと思うなよ〜!が怖くなったりするのかなぁ…でも怒るより、ご先祖様が行きたがってた温泉旅行にいったりしてのんびりしててほしいなぁ…」

 

【ずっと怒ってるなんて、サタン様にしかできない…】

 

【温泉旅行というと、地方の温泉巡りか?】

 

「そうそう!皆さんも、旅行に行ったりするんですか?」

 

【基本的に地獄へ引きこもりだから…カルデアに遊びに行ったりするくらい…】

 

「カルデア?」

 

【私達が懇意にさせてもらっている組織よ。この世の全ての愉悦と愉快が詰まっている、天国の様な場所…南極にある天文台ね】

 

「え?天文台なのにそんなテーマパークみたいな場所なんですか!?あー、じゃあもしシャミ子達が呼ばれるならそっちかな〜。そっちのほうがシャミ子達に合ってるし!」

 

【世界中の浴場だってあるんですのよ?カルデアには。あなたも是非ともご家族や、シャミ子ちゃんらと行ってみるとよろしいでしょう】

 

相手が魔王と言えど、ペースを崩さず軽妙な会話を進めていく。それは、彼女自身の気さくな気性と性格によるものであろう。そんな中、話の主題はシャミ子から杏里へと移る。

 

【そういえば、杏里ちゃんの御家族は?一人なの?】

 

「はい!私は四人家族で、お父さんとお母さんと…」

 

 

そして、家族の話へと至った時──

 

「私には弟がいて…生まれる前から二段ベッドがあって、私が使ってないランドセルやサッカーボールがあって…、四人分じゃないご飯が毎日……」

 

【…………?】

 

【杏里よ、どうした?何やら記憶に齟齬があるようだが…?】

 

 

彼女を、突如頭痛と不調が苛んだ。

 

【お前たち、ここにいたか】

 

【ベルゼブブ!今杏里さんが頭痛を…!】

 

【うむ。精密検査を行う。杏里の身柄は私が預かろう。立てるか?】

 

「ううっ…あれ…おかしいな…!私、私は…あれ…?」

 

 

ベルゼブブの手により、杏里は精密検査へと運ばれる事となる。

 

 

【( ˘ω˘)スヤァ…】

 

そして、検査の結果により──

 

 

──佐田杏里は、何処かにて作られたルシファーの『イミテーション』…

 

即ち模造、或いは粗悪品であることが発覚する事となった。




サタン【あ、おかゆおいしい……だ、誰かー。アクエリアス、アクエリアス取ってー。誰かー…】


サタンは面会謝絶のため四苦八苦を繰り返していた。

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