人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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サタン【バアル、なんだか地獄に女の子が紛れ込んだって本当?】

バアル『はい。どうやら召喚システムが起動し、こちらに紛れ込んだ様子。…不調のさなか、不手際をお許しください』


サタン【別にいいよ…。僕も本調子じゃないわけだし、そういう事もきっとある】

バアル『現在魔王達が状況把握中です。……ですが、気がかりな事を英雄姫たちが』

サタン【エアが?ずびび……なんだい?】

バアル『少女の周りに、ルシファー様からいただいた羽根が落ちていた…と』

サタン【僕の羽根……?】

(………脱毛期なんかあったっけ、僕…)

【まぁいいや…。とりあえず、話だけでも聞いてみようか】

バアル『はっ。……ポカリスエットの差し入れが、カルデアから』

サタン【うれしい…】


体調が悪いんだよ…!

「私!地獄に落ちるような悪いことしたのかなぁ!?そんなに罪深いことしたっけかなぁ!?神は死んだのかー!?」

 

【まぁ死んでるけどね…】

 

「うそだーーーーーー!!」

 

目覚めた直後に元気に軽いノリで騒ぎまくる少女、辺りを取り囲む地獄の魔王たち。特に威嚇しているわけではないがビビりまくっている理由は、彼女の世界をとりまくアレコレに関係している…が故である。

 

【何々…?佐田 杏里(さた あんり)シャミ子のクラスメイト。身長156cm。誕生日は5月1日。血液型はO型。ノリの軽い性格。容姿は黒髪のセミロング、後髪い結び。精肉店でバイトをする母を持つ。 在住している町内では顔が広く独自のコネで顔見知りを仲介したり、人手を集めたりしてシャミ子を援助する…シャミ子って誰…?】

 

軍勢頭目であるサタンが、プロフィールを読み上げる。そのさまは冷えピタにマスク、水分補給水筒と割といっぱいいっぱいな姿である。

 

(一番偉そうな人がすっごく具合悪そう…!)

 

【リッカに話を聞いてみたところ、まちカドまぞくなる世界の住人だそうです、サタン様】

 

「え、サタンっていうんですか風邪気味の人!私もさたあんり!さたあんりって言うんですよねー!親近感感じませんかー!」

 

【さたぁん!?そんなさまぁ~ずみたいなニュアンスでサタン様を呼ぶなど、色欲の権化ですら憚られる事を!?】

 

【つまりアスモデウス的には憚られるんだ…】

 

【なんだそのまちカドまぞくとやらは!魔族の名を冠するのならば偽神絡みか!?】

 

マモンの問い、湧き立つ魔王たち。杏里と名乗る彼女は、その威容に心当たりがあった。

 

(シャミ子と似ているのに一人一人がシャミ子とは比べ物にならないくらい様になってて格好良い…!なにここ、本当に地獄で皆魔王だったりする!?)

 

【委細が解りました、サタン様。まちカドまぞくは架空の町「多魔市」を舞台に、突然まぞく(魔族)の力に目覚めた闇の一族の末裔であるシャミ子こと吉田優子が、闇の一族の始祖であるリリスに使命を与えられ、光の一族の末裔である魔法少女の千代田桃に勝つためにあらゆるツテを使い勝負を挑む奮闘記であり、シャミ子と桃の二人を中心とした日常生活を描くファンタジー系コメディの世界観だそうです。彼女はそのシャミ子とやらの友人で間違いないかと】

 

(ざっくりあらすじを語られた!淡々と!)

 

【まぁ…!ファンタジー系コメディだなんて平和的で大変よろしいと私は思います!】

 

(うわっ!シャミ子とは比べ物にならないボディと色気の女の人がいる!)

 

【こんなところにいては危険よ!速やかに帰りなさい!!】

 

(速やかに退去勧告されたー!?)

 

ガビーン、と衝撃を受ける中、魔王達はそれに倣うようにうんうんと頷き同意を示す。

 

【深入りしすぎるとろくな事にならない世界筆頭……】

 

【悪いことは言わん!平和で穏やかな日常に帰れ!誰もがそう伝えるような過酷な世界だぞ、ここは!】

 

【( ˘ω˘)スヤァ】

 

「は、はい…!私も、あのその。来ようと思ってきたわけではないので!機会とチャンスがあればすぐにでも帰りたいとは思っていたりいなかったりするんですけども…!」

 

【望んできたわけじゃない…?】

 

【それはそうだろう!好き好んで地獄に訪れるもの好きなど、サタン様が知る吟遊詩人ぐらいのものであろう!住めば都ではあるものの、住まなければそれまで、ということだからなぁ!】

 

魔王達は杏里なる少女を帰還させる方向にて意見を統一させる。如何なる変化があれ、ここは固有結界にして正真正銘の地獄なる場所。まかり間違っても女子学生がいていい場所では無いという気遣いでもあった。

 

帰れるタイミングはあっという間に訪れた…のだが、杏里なる少女はどういう理屈か、サタン…ルシファーから目を離せなくなっていた。

 

「えっとー、あのー。差し出がましいことをお尋ねいたしますが…サタン様なるあなたはもしかして、今すっごく調子が悪かったりするのでしょうか…?」

 

杏里の言葉をあっさりとサタンは受け止め、言葉を返す。その対応のおおらかさも、具合の悪さから来るものではある。

 

【まぁね…。ちょっと色々あって、身体の熱がこもってしまっているような状態さ…。手厚い…手厚い?看病でどうにかこうにかここにいるけどね…】

 

「そう、なんだ…。凄く辛そうだけど、大丈夫なんです…?」

 

【怒ったって疲れるだけ…。そういう心構えを何よりも教えてくれたよ。学びがあったから大丈夫と答えようか。一部、イベントは大変だったけどね…】

 

そんなサタンの言葉を受け、暫し考え込む杏里。やがてそれは、驚きの提案として皆に提示されることとなる。

 

「あのー、もしよかったら…御世話や看病でも受け持たせていただきませんか?折角また、妙な場所にて来たわけだし!」

 

客人扱いとはいえ、まだ家の中に模様替えを行う方がいい…のようなノリの軽さで、杏里は一つ提案を行う。

 

「最低限!アルバイトみたいな働きは出来ると思います!折角来たんだから土産話や出来事に触れてみることもあら何じゃないかな〜!と思われました!」

 

【まぁ、なんという事!地獄への在住を望むだなんて風変わりな者もいたのですね!そちらは普段何を?】

 

「精肉店の一人娘で、ツテがあったり無かったりして一生懸命生きています!きっと役に立つと思うのですけれど…どうでしょう!」

 

杏里の一生懸命な訴え。当然だ。戦闘など愚にもつかぬ姿にて、平和な世をのんびり生きていた者なれど、懸命に進む事を選んだ女性は本当に強い。おそらくそれと似た理論であろう。

 

【ルシファー様、あやつの言うことを鵜呑みにしてもよろしいのでしょうか?偽神の差し金やもしれません】

 

【へぇ?どうしてそう思うんだい?】

 

【地獄にわざわざ招く理由…そして召喚の際にあったとされるルシファー様の羽根…いささかきな臭いかと】

 

ベルゼブブ…バアルの答えに、サタンは鼻を噛みながら告げる。

 

「まぁそこまで言うならいいよ。少しの間働いてもらおうかな。特に、静かな看病とは何かを教えておくれ」

 

「…!はい、ありがとうございます!よっしゃー!背中に肉って背負ってみようかなぁ!」

 

 

【なんかスムーズに地獄滞在が決まってた…】

 

【はっはっはっ!まぁいいじゃないか!いるのといないのとでは変わってくるものだぞ、世界はな!】

 

【無理はするな。迷惑アルバイターにはならないようにな】

 

「はい!よろしくお願いします!では早速…!」

 

【?】

 

「サタン様!肉食え!肉!!

 

【………………】

 

あれよあれよと言う間に結論は定まった。これより、地獄には華がまた一輪増えたといっていいだろう。

 

杏里を名乗る少女は、どういう因果か地獄にて看病を実践する役割を得た。

 

彼女の周りになぜルシファーの羽があったのかどうかは…

 

また、別の話だ。




アスモデウス【さぁ、召し上がれ、、サタン様】


杏里「スタミナつけてくださいね〜!」

【…………】

海鮮丼と牛丼が立ち並ぶ昼飯の食卓に、サタンは自らの不調を呪ったとか、そうでないとか。

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