アダム『こちらアダム・カドモン。ギルガメッシュに報告。サタン、ルシファー、ベルゼブブの抑制チームだが、もうすぐオルガマリーの第一景色が粉砕するだろう』
ギルガメッシュ「決着は間もなくだ、死にものぐるいで……いや案外余裕だな貴様ら!?嬉しい誤算であったわ!?」
アダム『ベルゼブブとルシファーは動きが鈍い。どうやらどちらも強烈極まる自意識が彼等の強さ故に抜け殻ではそう強烈さは再現できなかったようだ』
ギルガメッシュ「そうか──。では引き続き励め。間もなく決着は付く。こちらもな」
アダム『そちらは大丈夫か?』
ギルガメッシュ「は───たわけ、解りきった事を聞くな最初の人類」
マルドゥーク『GAAAAAAAAAーーーーーーッ!!!』
「我等を滅したければ、この三倍は持って来いと言うのだ!!」
アダム『三倍でも無理だと思うが。まぁいい、行こう。アロナ!』
アロナ『はいっ!』
カグラ【王よ!】
ギルガメッシュ「!」
カグラ【全ての魂を戻す!ニカらが中核に届いたその時こそ…!】
ギルガメッシュ「ほう…!」
カグラ【故に、わたしも戦う!世界を終わらせてはならぬのだと教わったのだから──!】
「目の前なのに…!トットムジカも、楽譜も、もう目の前なのに…!」
トットムジカの最奥、無垢心領域。トットムジカの最も深き場所であり、かつてカグラが描いたものである楽譜、中核のパーツが収められた場所。こここそがトットムジカの核。ルシファーが求めた楽譜の在り処。
阻む側にも障害があり、巫女達の怨念や悪意の奔流をかき分けながら進まねばならなかった。ウタはトットムジカと力を合わせ、天竜人達の決死の協力を受け、長い長い道を走り続けた。
そして辿り着いたその瞬間──目の前に広がる光景を、壁が阻んだ。心における最終防衛ライン。それは悪意ある外来を阻む最後の仕掛け。
『オレもこいつは解らねぇ…!カグラに作ってもらったのはもうずっとずっと昔の事だ…!』
それは祝福ではあるが、具体的な効果のあるものではない。何か期待したものではない。何か見返りを求めたものではない。記録に残らぬ、カグラがただ込めた祈り。
故にどこにも文面はない。記録はない。恐らくビーストIFトットムジカでは答えに至れぬであろう最終防衛機構だ。
それは、楽譜側が護る最後の矜持。もう薄れてしまったとしても、決して喪わない…喪ってはならないとの誓いが形となったものであるのだ。故に、トットムジカやカグラすらも及びがつかない。
「あたし達だけで、何を言っていたかなんて…どれだけ時間をかければいいの…!?」
一字一句間違えては意味がない。那由他を超える世界の単語からただ一つを見つけ出す。それの困難さ、ありえなさ、不条理さを知ったウタは項垂れずにはいられなかったのだ。諦めるつもりはない、ただ、あまりにも時間が足りない。
「あたしとトットムジカじゃ…ここが限界なの…!?」
無力さにウタが唇を噛み、涙を流したその時───。
『なーに泣いてんだ、ウタ。まだ何も終わってねェだろ?』
響く、その声。一時たりとも忘れなかった、かつての約束を交わしたその声。
「新時代は眼の前だよ!歌姫はにっこり笑わなくっちゃ!」
そして、カルデアで交わした声。ライブにて最前列の声援を贈ってくれたその二つの声を聞き、ウタは目を見開く。
「る、ルフィ…!?リッカ…!?」
『よっ!迎えに来たぞ、ウタ!ひっさしぶりだなァ〜〜〜〜!』
「お待たせ!外の世界は何とかなりそうだから応援に!」
リッカ、ルフィ、そしてメリーの登場にウタとトットムジカは顔を合わせ、そして──
「うわ〜〜〜〜ん!どうしよ〜〜〜!!」
『おぉ!?どうしたいきなり!?』
「最後の壁の答えが解んないよ〜〜〜!!もうすぐなのに!眼の前なのに〜〜!!」
ウタの痩せ我慢が解け涙を流す。それは安心が形となった反応。二人に飛びつく他無かったウタの反射であった。
「わ、ていうかルフィなにその姿!?イメチェン!?」
『にししし、これはおれが自由になった姿だ!』
「いつも自由じゃんあんた!……いや、どっちかって言うと末っ子気質か。まぁあんたはあんただしいいわ!そんで今回役立たなそうだしそこにいて!」
『酷ェ!?(ガビーン!!)』
「リッカ!どうしよう!この先に行くにはバリアがあって、パスワードを入れなきゃいけなくて!でも私、トットムジカやカグラ様を納得させられる言葉なんてどうしても…!」
リッカに助けを求めるウタ。メリーがトットムジカと共に語る。
『これは、根源的な祝詞だね。神の言語の意味をここに凝縮したもの。物理的な破壊が困難な代わりに、正解を告げることができるなら…』
『オレが覚えていたらこんな苦労はしなかったんだよなぁ…!ごめんよ…!』
『ううん。これはこの世界である意味禁句になってしまったから。だからこそ…これを告げることが、新時代の証になるはずだよ』
『そんなすげぇ言葉なのか!?メリー!?(ガボーン!)』
「ギャ~!?顔が飛び出したァ〜〜〜!!?」
大騒ぎなルフィとウタをひとまずスルーしたメリーは歩み寄る。自身のマスターたる、藤丸リッカへと。
『リッカ。君なら…この答えが解るはず』
「!」
『ううん、知っている筈なんだ。君が今の君である証の言葉。思えば、この瞬間のためにルフィや皆は出会ったんだとすら思う。君の、君の心を象徴する言葉。この世界の外側の人にしか言えない言葉を』
メリーの言葉を聞き、リッカは即座に思い至る。それは、彼女の中にて永遠の金言。
「──あぁ。じゃあやっぱり、カグラ様の愛は本物の愛なんだ。深い、素敵な大きい愛。ニカのお嫁さん…」
「カグラはニカのお嫁さん…あたしそっくりなカグラがニカの…」
『ん?どした?』
『ちなみにウタ、ニカって今のそいつまんまだぞ』
「!?」
『というかニカだぞそいつ』
「!?!?!?!?」
『そう。絶望と悪意が満ちる前の彼女達に伝えてあげて。きっとそれは、新時代を表す希望の言葉の筈だから』
メリーに促され、リッカはバリアの前に歩み寄る。そう、まさにこれは、自身が知っている言葉だ。それで明日と未来を繋げられることに彼女は喜びを得ずにはいられなかった。
「絶対に間違ってないって確信がある。私を今の私として迎え入れてくれている大切な言葉が間違いなはずがない」
生まれてきたばかりのトットムジカに伝えられている言葉ならば、リッカは確信を持つ。絶対に、正解を告げられる。
「ま、ま、まあとにかく!リッカ!ここまできて頼ってごめんね!」
『バリア壊れたら任せとけ!世界をおれ達が戻すから!』
『苦労ばっかかけてすまねぇ!でも、オレは皆と明るい歌が歌いてぇ!』
『大丈夫。カルデアの旅路が正解を保証するからね』
後押しも充分。自身の魂を込めて、後はそれを告げるだけ。リッカは頷き、心を湧き立たせる。
(今まで私はずっと言われる側だった。でも皆のお陰で今私は、言う側になってる。なれてる!だから絶対に間違いなはずがない!)
その言葉こそ、自身の存在を救った言葉。
いや……それは愛が何かを具体的に知らぬ未知のビーストIF全てに捧げられる言葉なのであろう。
それは無償の愛。何も求めぬ真の慈しみ。
それは無条件の肯定。何も要せぬありのままの認可。
言葉にすれば、あまりにも単純。しかし世界に生きる中で薄れていくもの。
それでも、全ての生命に捧げられるべき祈りに他ならない。神であれ、人であれ、その全てに寄り添って然るべき言葉。
「カグラ様が、トットムジカに伝えた言葉は──!」
キラナは笑顔でそれを後押す。シャムシードは祈りと共にその言葉を迎える。アジーカはフンフンと鼻を鳴らし、アンリマユは推しの映画のハッピーエンドを見たかのような顔でそれを聞く。
それを告げる。その、原初の神が遺した言葉。
それは─────
「『生まれて来てくれて、ありがとう』─────!!!!!」
無条件の、生誕を祈る言葉。
ただ、命を言祝ぐ言葉。
それこそが、カグラが世界に楽譜として、メッセージとして遺した言葉にして祝福そのもの。
『うぉぉお!!思い出した、思い出したぞ!!』
「トットムジカ!」
『オレは、オレは!望まれて生まれてきたんだ!!うおぉお〜〜〜〜〜!!』
涙を流し、感激するトットムジカ。阻むものは、もうどこにもない。
「あ…!」
バリアが碎けた瞬間、壁の向こうのカグラが──こちらに向き直る。
『─────』
笑顔と、慈愛と共に。その楽譜を、リッカへと託す。
「これが、トットムジカの楽譜…カグラ様の最初の音楽…」
それは、無地の楽譜。何も書かれていない鮮明な楽譜。
ただ、込められた祈りが形となるような。柔らかな肯定の楽譜。
世界に一番初めに生まれた芸能の証明。ひとつなぎの大秘宝にも劣らぬほどの…。
この世界における無二の至宝を、リッカは手にしたのだ。
リッカ「!」
カグラ(にっ)
リッカ「───ありがとう、カグラ様…!ウタ!ルフィ船長!」
頷き、リッカは向き直る。ルフィとウタに、その楽譜を託す。
リッカ「世界中に聞かせてあげて!新時代の幕開けの歌を!悪意に負けない最高の歌を!」
ウタ「リッカ…!」
ルフィ『にししし!おう!ずっと考えてたこと、出来そうだなァ!ウタ!』
ウタ「──うん!」
『リッカ!』
リッカ「おうっ!」
『メリー!』
メリー『もちろん!』
ルフィ『トットムジカ!』
トットムジカ『あぁ!』
ルフィの意志と、ニカの力で世界中にカグラが繋げた機器にリンクする。
それは即ち、世界中に声が届くと言うこと。世界中に、解放のメロディが響くということ。
即ちそれは、ルフィとウタ。ニカとカグラが導く新時代の到来。
ルフィ『ゴムゴムの『
全ての決着を告げる世界の大合唱が今、始まろうとしていた。
そしてそれは、ルシファーとウタの出会いから始まった全ての終着の刻──。
ウタ(ルシファー…今、聞かせるからね!あたしの最高の歌!)
強い決意と共に──ウタはルシファーに誓うのであった。
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