ルシファー『…………』
ウタワールドに取り込まれた魂たちは、夢を見ていた。
それは、カグラが見せる至高の夢。一人一人に最高の幸福を指し示す夢。
アスモデウスはアダムとイヴに仕える。
マモンは欲望を正しく扱う導き手となる。
レヴィアタンはリヴァイアサンと幸せに暮らす。
ベルフェゴールは結婚は素晴らしい者と信じられる。
ベルゼブブはバアルとして、カナンの民と共に生きる。
他の皆も同じ。幸せな、理想の夢を見ている。
サタンは存在しない。憤怒など必要ないからだ。
ルシファーには幸福な夢などない。彼は傲慢なる大魔王。自身のみを信じる、自身のみを愛する大魔王。
だから、本質的には独り。自身がいればいいのだから。他人など必要ない。
そもそも、ルシファーの製造経緯とは元の唯一神が造った四大天使の出来を嫉み、それらを上回るために創り上げたもの。誰かと交わり変わることなど望まれていない。
つまり今のウタワールドは…『ルシファーなど存在しないほうがいい世界』という事。
ルシファー『……………………』
…皮肉なことに、以前のルシファーならば顔色一つ変えずに世界を破壊しただろう。『僕がつまらないから嫌だ』と。
だが、皮肉にも。あまりにも皮肉なことに。
今のルシファーは、エアとウタと触れ合い至尊の理を宿してしまったから。
どうでもいいものなんてないから。
みんなの幸せが素晴らしいと思えたから。
ウタワールドの幸せな夢を、何一つ壊せずにいた。
ただ、どこまでも独りで。
ルシファー『皆の夢を壊す権利なんて…ないんだ』
ただ──誰にも気にもされない路傍の石のような扱いを。
ルシファーにとって最低最悪の尊厳破壊。『誰にも必要にされない』という明けの明星の存在意義の否定を…
今までの悪逆の報いを、俯きながら受け入れていた……
『おぉおおぉおおぉおおぉおおぉおおぉおッ!!』
エレジアにて残された、最後の一人。藤丸リッカと、二元論の最高神、またはその名代とビーストIFの王、アジ・ダハーカ。カルデア最後の戦力と化したリッカは、それでもビーストIF・トットムジカへと猛進する。
【とはいっても、アイツを殺したらウタワールドに捕まった連中を解放する手段はねぇ!どうするよ、リッカ!】
「彼女はIFのビースト、人類が滅ぼす悪じゃない!愛で人類を滅ぼす悪…!ならやりようはある!」
『愛を教え、愛を説き、人類愛へと浄化する…!ビーストIFは明確に人類の敵対性が高けれど、人類の味方となる可能性を有する!』
シャムシードの言葉に頷くリッカ。トットムジカ…カグラは愛を以て世界から人間を守護しようとしているのだ。
そこには見失った愛がある。そこには彼女が有しているであろう愛が必ずや存在している。ならばこれは討ち果たす戦いではない。
カグラに、愛を取り戻す戦いであるのだ。故にこそ、リッカは飛翔するのだ。正しき愛を取り戻すために。
【──この、悍ましい歴史を望むものよ】
「!!」
その時、トットムジカが声を発した。その声音は無機質…いや、疲れ切ったものである。摩耗している、といってもいい。彼女は、最早この世界に摩耗し切っていた。
【ならば、そなたはわたしの敵だ】
【来るぞ!!】
敵対発言の後、猛烈な攻撃の波、嵐が巻き起こり来たる。破壊光線の波状攻撃、腕による範囲攻撃、音波による斬撃。どれもが神に相応しい超絶的な威力を有している。それらは先のどんな楽章よりも威力と範囲を常食させていた。
悪意などは使えば薄れていく。どれほどの悪意であれ、発散すれば薄まっていくものだ。故にこそ、それは打倒が可能だった。
しかし、愛はそうではない。譲れないもの、決して手放せないもののために決して収まることはない。愛が果たされるまで牙を剥くそれは、苛烈極まる滅亡の絶唱へと直結する。愛を阻む存在に決して容赦はない。つまりそれは、リッカに向けられた苛烈さに直結する。
「やられるわけにはいかない!!」
空中で超高速で動き、攻撃をかわし、いなし、振り切りながらリッカはトットムジカへと肉薄する。
【────】
当然ながら、カグラの身体にはバリアが存在しアジ・ダハーカが突進を阻む。バリアを隔て、リッカとカグラが睨み合う形となる。
「あなたにとって、この時代は哀しく辛く、皆で逃げ出すしかないくらいに酷い世界なんだね…!!」
【そうだ。わたしの出逢うもの、見知った者は皆救われたがっていた。絶望に嘆いていた】
リッカのネガ・コミュニケーションとシン・イーターによりカグラの会話能力を無理矢理引き出し会話のテーブルに引きずり込む。
いや…カグラは抵抗しなかった。世界を滅ぼす愛は、目の前に存在する敵にすら適用された。敵と認識したリッカにさえも。
【ニカを殺め、巫女を絶望させたこの世界をわたしは滅ぼすのだ。愛する人々を救うのだ。皆が我が内の世界にあればよい】
「…!」
【一人一人に理想の未来を見せよう。授けよう。皆の理想をわたしが叶えよう。夢想と幻想の揺り籠で、皆を永遠に懐き癒そう。二度と苦しませない。二度と哀しませない】
『それが、あなたの愛……』
【それが──わたしが愛する人々に捧げる慈悲にして治癒。流れる涙も終わる。流れる血も、もう終わるのだ。わたしが終わらせるのだ】
それがトットムジカの真意。それがカグラの愛。もう誰も傷つけないように、傷つかないように。
【この世界は死に絶えるべき世界。その世界から──わたしは愛する人々を取り戻すのだ…!】
それは血涙を流す程の決意。夫を喪っても、自らが裏切られても、遥かな時を重ねても、彼女は人を愛していた。
【どこの無限月読だよそりゃあ!リッカ!言ってやれ!】
「うん!カグラ様、あなたの愛は、あなたの感じた事は何も間違っていない…!あなたの嘆きも、哀しみも、決意も私は否定しない!」
【!本当か?ならば何故──】
何故、わたしに抗うのだ。カグラは決して邪神ではない。そして、虐げられた者達の神ゆえに肯定に疎い。予想外の答えに思わずと聞き返したのがその証。
「あなたがこんな優しい滅びを齎さなくても、もうすぐこの大海賊時代は終わるから!」
【何…?】
「一見どうしようもない世界だよ!奴隷売買に人種差別、国家権力の腐敗に海賊が世界中に蔓延ってる!普通に考えて手の施しようがない世紀末ってやつだよね!」
それでも、とリッカは叫ぶ。そんな世界はもうすぐ終わる。そんな世界の先に、素晴らしい世界が来ると謳う。
「もうすぐ海賊王がまた現れて、この死んだほうがいい世界を絶対に変えてくれる!きっと皆が笑顔で、笑顔を浮かべて毎日を過ごせるような時代がやってくる!」
空中に満ち溢れるトットムジカ。アジ・ダハーカは翼と爪、角、口から蒼き光線を撒き散らし秒単位でトットムジカたちを殲滅していく。
「信じてほしいんだよ!人間は助けを求めて逃げ出したい人達ばかりじゃない!強さと信念を以て、この時代の先に進もうとしている存在が確かにいるの!」
だが、質は拮抗しているが量が桁違いなトットムジカの弾幕に、角が、翼が、爪が欠け折れていく。
「もうすぐ目の前に、優しいあなたが目指した未来がやってきている!その新時代を導く存在が、もうこの世界に現れてるんだよ!」
【その者とは、一体…】
「モンキー・D・ルフィ!私が下っ端をやらせてもらっている…!麦わら海賊団の船長だよ!!」
そう、リッカは今でも信じている。いや、揺らいだことがある日など1日たりとも存在しない。ルフィこそが海賊王になる。ルフィこそが新時代を作る。
だから彼女は叫ぶのだ。滅びという形で、この時代を終わらせないでほしい。きっと待っている。希望の未来が。新時代は目の前に迫ってきている。
「カグラ様!だから、どうかあなたもその新時代に──!」
【……おお…】
リッカは力の限りに手を伸ばす。その真摯な言葉に、願いに、信念に思わずカグラは手を取らんとし…。
【────わたしは、もう、待てぬ!】
苦悶と共に、カグラは手を引く。彼女にとって引く他無かったのだ。絶望を見続けたカグラに、もう猶予は無かったのだ。
「カグラ様…!」
【これ以上、傷つき死んでいく人間を増やしてはならぬ…!わが夫が解放した魂たちを傷つけてはならぬ!救いが欲しいのは今だ!今を生きる人間なのだ!少女!】
手を伸ばし、心に問い掛けていたリッカは完全に無防備だった。カグラも、ビーストとしての本能が自身を突き動かした。
【人々は──今!たった今!救われるべきであるのだ──!】
アジ・ダハーカに向けられる、空を覆い尽くすトットムジカの一斉攻撃。
「『
アキレウスより託されていた、世界を内包する盾。リッカ最大最後の防護を展開し、トットムジカ軍団の攻撃を凌ぎ切る。
しかし───時間にして一分、間断のない対城宝具の一斉掃射を、カルデアのバックアップ無しで自身の泥と光輪の魔力で賄うしかない状態の魔力消費量は、並のマスターならばとうに干からびる量を秒単位で消費し続けた。
そして、命を繋ぎ防ぎきりはしたリッカだが、代償は並々ならぬものとなる。
『うぅ……っ』【ぐへぇ】【くそっ、供給限界まで搾り取られたかよ…!】
アジ・ダハーカ状態を保てず、リッカの背後に倒れ伏すゾロアスターの神々と眷獣。
「はぁ、はぁ…はぁ……」
そして、末端が壊死寸前まで紫化し、生命維持ギリギリの魔力しかない状態にて立つ人類最悪のマスター。
【…………惜しいぞ、娘よ】
トットムジカは皮肉でもなく、心から告げる。
【誰もが、そなたのように強く素晴らしくあってほしかった…】
それは、刀を抜き、槍を構え、立つことすら至難なれど瞳を輝かせるリッカに向けた心からの称賛。
「諦め、ない…!私は一人じゃない…!必ず、新時代は来る…!」
【それほどまでに、その者を。名は…】
「あの人の名前はモンキー・D・ルフィ!海賊王になる男だっ!!」
闘志も魂も、戦意も萎えぬ彼女は今一度叫んだ。
嘆きと哀しみしか存在しない、この時代を終わらせる男の名を。
トットムジカ【…助けねば】
リッカ「…!」
トットムジカ【そなたこそ、私が助けてあげたい人間そのものなのだ…!】
エレジア全空のトットムジカが、一斉にリッカに照準を向ける。
【もう傷つかないでおくれ…!痛ましい姿を癒やさせておくれ…!】
リッカ「カグラ様…」
【どれほど虐げられても、どれほど裏切られても…!わたしは、そなたらを愛しているのだ──!】
キラナ『ああっ!駄目!』
アジーカ【リッカ!】
アンリマユ【やめろおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!】
その切実な叫びをかき消すかのように、トットムジカの一撃は放たれ──
?『ゴムゴムの~〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!』
リッカ「!!」
『『
瞬間、空中のトットムジカが全て薙ぎ払われる。夜闇を切り裂くような、白い嵐に。
リッカ「わ──!」
そして、リッカの身体が抱かれふわりと浮かび上がる。
?『──にしし、ひっさしぶりだなァ〜〜〜!』
リッカ「あ────!」
ルフィ『お待たせ!助けに──んでもって…』
カグラ【あ……あぁ…!】
ルフィ『迎えに来たぞ!リッカ!カグラ!───ウタ!!』
白き、異様な姿であれど。それは間違いなくリッカが仕えた海賊団の船長。
ルフィ『こっからは!おれも参加だ!!!!!』
新時代の『四皇』。モンキー・D・ルフィが、リッカの窮地を救ったのであった──。
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