人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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パンゲアの玉座

イム【ウタウタの実…。それはカグラの力を有した悪魔の実。ニカの妻たるカグラは巫女を、トットムジカを通して世界を見つめていた】

【その果てに──ニカは討たれ世を去り、巫女達は破滅を願い、カグラは世界に満ちる悲劇に嘆いた。ならば───】

五老星「「「「「…!」」」」」

【人を愛するが故に、人を苦しめるばかりの世界を滅ぼすであろう。──愛故に、な】



デイビット「ウタウタの実の『覚醒』。ウタワールドにいるウタではなく、現実世界のウタの肉体を利用して目覚めたようだ」

キリシュタリア「では、あのウタは…!」

デイビット「彼女の最高到達点。──『最終楽章』。大海賊時代を終わらせるフィナーレだ」




時代の終わり

トットムジカを討ち果たしたカルデアと、魔王達の前にそれは現れた。

 

ウタの肉体──それらを紅白の天衣無縫が覆う天女が如き佇まい。耽美な美貌に麗しき肢体。見るものが女神と形容するであろう美しき神が如き存在。

 

ただ──開いた眼からは絶えず血涙が溢れ、目は虚ろ。生気や活力は一切感じられない。それはまるで、シャンクスと別れルシファーと会う前のウタそのもの。

 

その存在が何か──。そう、判断を下さんとしたその時であった。

 

【──────、───、─────────────】

 

ウタの姿をしたその存在が、口を開き音を発し始めた。発声、発音としか言えぬそれは、エレジアを瞬時に満たし尚反響する形で無制限に範囲を広げていく。

 

『なんだ──これは…歌…?』

 

ルシファーだけは、神に近い者としてそれを知覚できた。これは神の言語。人の理解できぬ言語になる前の言葉。神託に近いもの。

 

『だがこれは……なんて…』

 

ルシファーが、その歌の真意を口にする前に、変化は起きた。

 

 

『!?えっ、皆!?』

 

通信の向こう、即ち現実世界にてリッカが声を上げる。そう、その変化は現実世界で起きていた。世界の全てでそれは起きていた。

 

サーヴァント達が次々と、カルデアに弾き飛ばされていく。強制退去という強引な追放手段によるタスクエラー、それと同時に、マスター達が続々と眠りに落ち、倒れていく。

 

同じ様にエレジアにいた非戦闘員も、次々と糸の切れた人形のように倒れ伏し眠ってしまう。どれほど屈強な存在でも、そうでない存在でも等しく、現実世界にて眠りに落ちてしまう。

 

【───────、──────、───────】

 

ウタの姿をした何者かの声は大きさを、範囲を増していく。空を越え、海をわたり、大地を駆け抜けあまねく全ての世界へと。今の世を生きていく人々へと。

 

「音声が切れません…!これは、一体──」

 

CP0、ロブ・ルッチや五老星すら眠りに落ちる。なんと映像媒体、電伝虫や器具が全てアクティブとなり、世界中の放送媒体からウタの姿をした何者かの歌が響き渡っているのだ。

 

それを聞いた現実世界の人々は眠りに落ち、ウタワールドへと魂を回収される。その脅威と速度は凄まじく、数分において偉大なる航路や海の生物ほぼすべてが眠りに落ち、寝息を立て始めウタワールドに魂を囚われてしまった。

 

世界中の存在に歌を聞かせ無力化する圧倒的な力。それはまさに、正しき意味で神威と呼ぶ他ない奇跡にして絶技と呼ぶ他無かった。

 

「オルガマリー!僕から離れずに!干渉をなんとか抵抗してみせるから!」

 

音符兵の抵抗が止まった代わり、カルデアの職員たちすら続々と眠りに落ちていく。オルガマリーはロマニの最大防護を得たので事なきを得、固有結界内でサタン、ベルゼブブ、ルシファーと戦うサーヴァント以外は睡眠状態へと陥ってしまった。

 

「これは……一体、トットムジカに何が…!?」

 

【聞こえているか、ヌシアら。ムーはイムである。ウタのファン二号である】

 

瞬間、オルガマリーとロマニに巨大な王冠を戴いた奇妙なシルエットの存在が現れる。馴染がないが、彼或いは彼女こそが時代の支配者イムであるのだ。

 

「ウタのファン…!今の彼女に何が起きているのかご存知なの!?」

 

【それを伝えに来た。アレはウタではない。ウタの肉体を使い、破滅の願いにて悪魔の実の力を【覚醒】させたもの。芸能の神、カグラなる】

 

「芸能の神…カグラ……」

 

「そのカグラは、一体何をしようと!?」

 

オルガマリーの言葉に、イムは端的に返す。

 

【大海賊時代の終焉。並びに、全人類の安楽死である】

 

「「!?!?」」

 

【カグラとはニカの妻である。そして、人類に文化と芸能を授けた神である。それは慈悲深く、そして慈愛を有していた】

 

イムは語る。その神の力を有した悪魔の実こそ、ウタウタの実であると。

 

【だが、カグラの力を継ぐ代々の巫女達の世は動乱であった。カグラの巫女達は一様に、死こそが救済となる過酷な境遇を受け続けてきたのだ】

 

殺人、人身売買、虐殺、謀殺、誘拐、強奪、破壊、絶望。世界中が奏でる音楽とはそういうもの。カグラの巫女達はそれらを前に強く強く慟哭し、その嘆きを歌にしてカグラの楽譜に刻み込んできた。

 

【カグラの楽譜はやがて魔王トットムジカと姿を変え、世の悪意を吸い上げた。カグラ本人はその世界を、ニカと共に変えんとした。しかし──ニカは討たれた。妻たるカグラを利用され】

 

「………!」

 

【ニカは世を去り、心の拠り所を喪ったカグラの心は砕けた。そして、自らの力をトットムジカとウタウタの実に宿し、ニカを後追うように自らの命を絶ったのだ。───再び復活した際、この嘆きと哀しみに満ちた世界を終わらせんがために】

 

「この歌が…そうなのかい!?強制的に聞こえてくるこれが!?」

 

【これは、カグラの原初の声。歌という存在が生まれる前の言葉の原型。人が知性を有する限り、人の身では…心持つ者はこれに抗えぬ】

 

「これは、まさかウタワールドに引き入れている…!?歌を聞いた存在を!?」

 

オルガマリーの言葉に目を細めるイム。最早、海賊も海軍も、天竜人も意味はない。大海賊時代に生きる文明の9割がウタワールドに引き込まれた。

 

六割生物を失えば、それらは文明の維持が出来ない。世界は既に、大海賊時代は既にカグラの歌により滅びたのだ。この瞬間を以て。

 

【安楽死というものの真価は、ウタワールドなる空間に魂を引き寄せ、そして死するまで歌い続ける事。ウタという存在の全てを使い、七日七夜歌い続けるであろう。世界を包む歌を】

 

「だがルシファーから聞いている…!ウタの能力は体力を消費すると!そんな事をしたら!」

 

【そう──ウタワールドに囚われた魂は最早現世には戻れぬ。魂全てに安らかな、楽しき緩やかな死がやってくる。痛みも苦しみもない、大海賊時代の次なる時代がな】

 

それこそが、覚醒したカグラの目的。哀しみに満ちた世界、死んだほうがいい世界の全てから、苦しむ人々を取り戻し取り返す。

 

その為に、大海賊時代に生きる全ての魂をウタワールドに閉じ込め共に死する。死ぬ瞬間まで悩みも、悲しみも、苦しみもないウタワールドの中で永遠に過ごす事で全ての苦悩ごと、この時代に終焉を齎す。

 

【愛するが故に全てを滅ぼす。遍く安寧の為に今の世に牙を剥く。ヌシアらカルデアの戦いの叙事詩には、それに心当たりがあろう】

 

「────ビースト……この場合は七騎のビーストに当てはまらない、故にビースト・IF……」

 

【然り。芸能の神カグラなどは偽りの名。基は人間が虐げた、人間が最も裏切り続けた大災害。名を、ビーストIF【トットムジカ】。トットムジカとは最早、カグラの忌み名であり真名であるのだ】

 

 

新たなるビースト・IF。その銘をトットムジカ。彼女が齎した楽しみや喜びを奪い合い、虐げ、踏み躙り続けた人類を滅ぼす獣。

 

 

【人が人を安らかに殺すという【安楽】。それこそがかの獣の獣性であろう。………抗う術は、もうほんの僅かにすらあるまいな】

 

グランドマスターズのほぼすべてがウタワールドに取り込まれ、サーヴァント召喚はトットムジカに阻まれ望むべくもない。海賊も、海軍も、ほぼ全ての存在が抵抗すら赦されずウタワールドに引きずり込まれた。

 

 

【ムーらの歴史はあまりにも血腥く、無慈悲に過ぎた。そのツケを払うときが、今来たという事だ………】

 

 

「イムさん!?」

 

【……無念だ……。ウタのライブツアーを、特等席で見たかったが…………】

 

…そして、イムすら眠りに落ち、取り込まれる。トットムジカの歌はますます力を増し、世界中を満たしていく。

 

【──────、───、──────】

 

 

最早誰も聞くものが居なくなった世界で、歌い続ける獣。

 

全てに無下を、終着を、終幕を。

 

カグラの紡ぐ歌にて、全てに幕が下ろされんとしていた。

 

 

 

人類悪 独唱

 

【TOT MUSICA】




キラナ『リッカ、大丈夫…!?』
アンリマユ【へっ、流石に最高神×2には効かなかったみてぇだな。だが………】

リッカ「…………私達以外、皆、眠っちゃった…彼女に、ウタワールドに連れて行かれて」

マシュ「すぅ…すぅ…」
じゃんぬ「くー………」


トットムジカ【………………】

リッカ「カルデアからも、聞こえてくるのは寝息だけ…。皆、もう…」

──それでも。リッカは挫けず、折れなかった。

「…でも、戦わなきゃ」

一人しかいなくても。

戦えるのが自分だけでも。

「ウタの世界に披露するファーストライブが、こんな哀しい曲だなんて…絶対に嫌だから!!」

アジーカ【リッカ…】

「まだカルデアは負けてない。まだ人類は負けてない!私だけでも!まだ私がいるんだっ!!!」

トットムジカ【──────】

リッカ「行くよ、カグラって神様!!あなたの歌いたかった歌は、こんなものじゃないって信じてる───!!」

アジ・ダハーカ・アフラ・マズダは、ビーストIF・トットムジカに挑む。

それはカルデアが初めて経験するであろう──

リッカ以外が、全滅した戦いである。

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