人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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(月火が休みなので、メッセージ返信はそこで行います)


第二楽章操演

トットムジカが更に姿を変える。身体に竜の意匠が追加され、顔が青白く変わる。更に腕と鍵盤の足が加わり五体が完全に補充された姿。

 

【う……!】

 

そこに加わる力も倍増するのは道理であり、力付くでレヴィアタンの束縛を引き剥がし始める。魔王を名乗る者に相応しい怪力と膂力に加え、海上ではないエレジア島内における攻防が彼女に若干の不利を与えているのだ。

 

【気を抜かないように、レヴィアタン!ここからが本番なのだから!】

 

【解ってる…!アスモデウス!】

 

アスモデウスは問われるのと同時に動いていた。瞬間的にレヴィアタンの後頭部に回り、渾身の力を以て彼女を蹴りつける。

 

【─────!!!】

 

蹴られた衝撃と反射の硬直により、一瞬ながら渾身を越えた全霊を持ってトットムジカを締め上げた。互角に戻されかけたパワーバランスを、再び元に戻す。

 

【爆撃用意!気をつけろよ、どう気を付けるかは任せるがな!!】

 

立て続けに放たれしマモンの出した爆撃部隊による一斉空爆。巻き込まないのはエレジアだけという雑なターゲッティングは変わらないが、それでも先の攻撃の苛烈さとは比べるべくもない。

 

【何ッ!?】

 

だがトットムジカもやられっぱなしではいてくれない。鍵盤の手足から、無数の光弾と対空攻撃を展開し、迎撃の体勢を整えたのだ。戦いにおける戦術眼すら、かの魔王は備え始めたのである。

 

【猪口才な!気持ちよくオレに一方的に殴らせろ!】

 

【対戦ゲーム絶対一緒にやりたくない思考して…、!?】

 

瞬間、さらなる飛躍を見せるトットムジカ。拘束は解けないと判断したのか、エレジア海岸線から都市部へと歩き始めたのである。

 

【こいつ……!】

 

ウタワールドの中とはいえ、そこはエレジア。もし置換魔術の類を使い、被害を反映される類のものを使われればエレジアは滅びる。魔王達の目論見を、トットムジカは見抜いたのだ。

 

【全部ぶっ壊すつもり…!?】

 

トットムジカに巻き付いたレヴィアタンは、これほどの巨大でありながら極僅かな一部。本来の巨大さは海の中を満たし、海溝に脚が付き、もたげた首は空に届く。エレジアを踏み潰しかねない大きさは捨て、戦いに挑んでいる。

 

それ故に、なりふり構わぬ突撃には遅れをとってしまう。締め上げることはできても、踏ん張ることはできないという海棲生物の

欠点をついてきたのだ。

 

【レヴィアタン!】

 

【ごめん、締め上げてるんだけど…!アスモデウス、お願い…!】

 

【やむを得ませんわね…!衝撃に備えなさい!】

 

アスモデウスがやむを得ない手段として、トットムジカの身体中に付けていた攻撃判定キスマークマーキングを、投げキッスを起爆剤として大爆発連鎖を起こす。内部から破壊する人体破壊系の攻撃手段であるが、マーキングを外すと言うことは現実世界におけるカルデア側への同期が断ち切られるということ。

 

【レヴィアタン!無事!?】

 

【口から煙出た…】

 

【大丈夫そうですわね、早くつけ直さなくては…!】

 

アスモデウスの周囲には、飛行する音符兵。備えた翼で切り捨てるも、後より後より湧き出る音符兵は、アスモデウスの攻撃を学んだ事による対策であろう。

 

【煩わしい!消えろ!!】

 

旋風脚の一薙ぎで蔓延る雑兵を蹴散らし、再び飛行するアスモデウスだが……。

 

【なっ!?】

【馬鹿、退けアスモデウス!】

 

音符兵が視界を遮った瞬間に、マモンの展開した飛行隊に方向を誘導していた事に気づいた瞬間にはアスモデウスはマモンの爆撃機に真正面から衝突する羽目となる。

 

【ぐううっ……!!】

 

【気をつけろ、色欲純情魔王!】

 

【仕方ありません…欺かれた私が愚かだったのです。なんともこざかしくなったものね、トットムジカ…!】

 

忌々しげに第二楽章を見やる。強さもそうだが、人のような悪辣さを前面に押し出す印象を与える。単純な力と狡猾さは、本来ならば三人で抑え込めるものでは無いのだ。

 

【だが我々には苦戦すら許されない!カルデアの皆様の攻撃をいつでも通るようにするのが我々の絶対的な使命!】

 

【解ってる…けど世界は狭い……】

 

【圧倒しなくては立ちいかぬ!さらなる万魔殿の深奥をみせなくてはなるまいな!!】

 

やられっぱなしではない。その程度で苦戦していては魔王たる名を穢す事になる。即座に三人は対処を行う。

 

【アスモデウス!巡航ミサイルをくれてやる、叩き込め!】

 

万魔殿の淀みきったゲートが開き、対国家用の巨大ミサイルが展開される。

 

【言われずとも!レヴィアタン!少し大きくなりなさい!】

 

【はーい…!】

 

海面から顔を出していたレヴィアタンがさらなる巨体となる。いよいよ以てトットムジカを上回る巨体を持って、トットムジカを強く強く締め上げる。

 

【上から落として、アスモデウス…!】

 

そう、とぐろを巻いた中心にいるトットムジカに届く形で空白を作ったのだ。そうすればミサイルの爆発すら、レヴィアタンの巨体を以て相殺が叶う。即座にそれを覚悟し、レヴィアタンはサイズスケールを引き上げた。

 

【はじめから元よりそのつもりですわ…!堪えなさい!レヴィアタン!!】

 

レヴィアタンに応えるように、巡航ミサイルを叩き込むアスモデウス。一撃では足りない。何発も何発も必要であり、マモンの供給とアスモデウスのテクニックがあればこそ戦法として機能する。

 

【!!!!!】

【〜〜〜〜〜!】

 

当然レヴィアタンもダメージを負うが、窒息と締め付け、対戦略爆発を受けるトットムジカはそれ以上だ。第二楽章のウタワールド側の対策を、一瞬で三人は構築する。

 

使命感で連なるという事は、そこに私情は挟まれない。下手をすればアスモデウスが誘爆するし、ノックバックをレヴィアタンは堪えきれない。底無しの欲望をマモンは吸い上げ吐き出していかなければならない。

 

だが、それでも魔王として苦戦はまだ許されないのだ。サタン、ベルゼブブ、ルシファーの力を振るうほどの事態まで、魔王の品位を保つ為には。

 

彼らは誇りと自負で生きている。自身らは必ずや、人類の礎にして敵であるという自負。それを折られぬ限り彼等は不滅。故にこそ彼等は強い。

 

あらゆる全てを偽神に踏み躙られたからこその気高さ。魔王とは、彼等が二度と踏み躙られぬと掲げる誓いの名前であるのだ。

 

【最近、イキイキしてるよね。皆】

 

その奮闘を見守るサタンはベルゼブブに問う。彼からしてみても、その結果は目を見張るものであったのだ。

 

【我らはあなたに侍るもの。我等が自発的に変わることはありません】

 

【そんな事無いと思うけどなぁ】

 

【ですから…変わったとするならば、きっとあなたです。ルシファー様。あなたが積み重ねてきたものに、我らは報いているのでしょう】

 

【……そっか。そうなんだね。皆、真面目なんだ】

 

どれほど報われずとも、どれほど届かなくても、彼らと彼女はルシファーに救われた。

 

ならば、彼が護りたいものをこそ護り抜く。命を懸けても惜しくはない。

 

それはサタンが、ルシファーが有していなかったもの。心という、不明の機関であるのだろう。

 

【なら…たまにはそれに報いてあげるのも悪くないかな?】

 

【えぇ。光栄の至りです】

 

【ふふ、じゃあもう少しだけ見ていようかな!】

 

とはいえ、第二楽章は完全にウタワールド内で封殺されている。出ていくのは邪魔になるだろう。

 

【こんなに強かったんだねぇ、魔王の皆ってさ】

 

【七つの大罪の根源は伊達では無いということです、サタン様】

 

大激闘の最中とは思えぬ、サタンとベルゼブブの穏やかな会話。

 

それこそが、何よりも三人の奮闘を評価していると言えるだろう。

 

 

──ウタワールド、トットムジカ第二楽章。問題なく鎮圧を果たされる。

 

 

 

 




???

ウタ「これは……」

眼前に広がるのは、世界中の人々の嘆きと悲しみ。歴史が積み重ねてきた、悲哀と悲嘆の歴史。それらが流れては消えていく。

ウタ「第一楽章を越えたら、次はこんな景色に…」

トットムジカ『こいつは、楽譜に刻まれた想いだ。トットムジカ…オレに重なったものだ』

ウタ「これが……。ないの?」

トットムジカ『は?』

ウタ「一つくらい楽しい思い出とか、ないの?」

トットムジカ『………思い出せねぇ……』

ウタ「じゃあ進もう!絶対一つくらいはあるはずだから!皆、よろしくね!」

「「「「了解!!」」」」

ウタらもまた進む。何が待つかも解らぬ世界をただ前に──

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