人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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サタン【そう言えばマモン。君の万魔殿ってギルガメッシュの王の財宝とはどう違うの?】

マモン【よい質問だサタン様!かの英雄王の財とは『人類の可能性』という概念を納めているのだ。即ちそれは人類の価値そのものであり、底が見えぬという事は人間の価値に底は無いということ!裁定は未だ先であろうな!】

サタン【へー】

マモン【対してオレの万魔殿は文字通り全ての欲望が形となったものだ!シンプルに物質、単純な財貨などが詰められた即物的な蔵であり、英雄王程高尚かつ清廉なものではないなァ!英雄姫のような至宝など望むべくもないわ!フッハッハッハ!!】

サタン【そーなのかー…】

ベルゼブブ【忠義は解る。だが、過ぎた威嚇でサタン様の品位を落とすな】

【【はい……】】

ロキ(なーるほど〜。強者同士の強い結束があるんだね。強敵だなぁ、これは…)


大天使の顕現

【さぁて、次のガチャガチャは誰が来るのかな?ぼちぼち一区切りにして、決戦に備えなくちゃね】

 

サタンの笑みは、初めての召喚の試みを堪能した事を顕している。誰かを頼り英霊を呼び出す真似は、存分に気に入った様子でありベルゼブブを深く安堵させた。

 

【承知致しました。アダム・カドモンや大明鬼神と合わせれば現時点における対抗戦力としては十分かと思われます】

 

【良いこと考えたよ、バアル。召喚サークルをエレジアに移して大々的にやろうよ、次から!】

 

【それは…。大変、大掛かりな行事になるでしょうな…】

 

【(威嚇しませんの札付き正座)】

【(食らいつきませんの札付き正座)】

 

【フッハッハッハッ!!無様なれど愉快な姿だ!!】

 

一同のテンションも高く、士気向上にも大いに貢献したことをバアルは認める。よい息抜きも兼ねられたようだ。

 

(しかし、こちらの喚び出した存在は手放しでカルデアに貢献するようなタイプではない。何か統率や話の解る存在が一人か二人は欲しいところだな…)

 

どこまでも真面目なバアルは、ベルゼブブとなって尚生来の導き手の任を忘れない。招いた者等が、まかり間違ってもカルデアに害をなしてはならないための存在を静かに望んでいる。

 

──皮肉にも、その願望を地獄という空間にて聞き届けるものが現れる事となる。

 

『サーヴァント、スラオシャ。善神アフラ・マズダの命により同盟者たる皆様にお力添えを致します。異教といえど、我等の敵は共に偽神ビーストΩ。ここは手を取り合うべきでしょう』

 

ゾロアスター教の中級神霊、大天使とも称されし『聞くもの』スラオシャ。人々の嘆きの声をアフラ・マズダに聞き届けさせる役割を担うものであり、それはアフラ・マズダがサタン…否、ルシファーらをサポートするために遣わせた存在であった。

 

【アフラ・マズダ…!キラナやシャムシードの大元からのプレゼントだって!?】

 

【フッハッハッハ!!よくもまぁ我等魔王の前に立てたものだ!見上げた忠誠心よ、スラオシャとやら!】

 

『アフラ・マズダ様は皆様のお声をも聞き届けんとしておられます。それに加え、皆様は紛れもなくカルデアの同盟者。力を貸すは私の意向でもあります』

 

そう言って、大いなるスラオシャはサタンに恭しい一礼を行う。アフラ・マズダは善神であり、独善と邪悪を憎むもの。

 

かの善神は見抜いていたのだ。サタンらの中には『善』なる『美徳』が存在していることを。それでなくても、彼とパパポポはノリが近しく意気投合を果たした仲でもあるが故に。

 

【それなら歓迎だよ、スラオシャ。共にカルデアへ熱いエールを送り続けようね!】

 

サタンも最早どの世界の天使であろうと悪魔であろうと気に掛ける事はない。力を貸す意志があるのなら、それを否定する理由も彼には無いのだ。超越視点からの寛容は、無関心とも慈悲とも取れるものである。

 

【アフラ・マズダは話の解る素敵な神様だね〜。有難く厚意に預からせてもらおうか、バアル】

 

【はい、サタン様。漸くカルデア側とも足並みを揃えられそうな戦力を招き寄せる事が出来ましたね】

 

【ほう、大天使か!実はオレも天界出身ではある!仲良くしようではないかスラオシャとやら!フッハッハッハ!!】

 

『えぇ。調和と協力は尊ぶべき善に他なりませんので』

 

【【(反省中)】】

 

和気藹々のムードの中、宴もたけなわといった雰囲気の中召喚は締め括りの様相を漂わせ始める。これだけの戦力をカルデア側の抑止戦力と合わせれば、問題は少ないであろうとの判断によるものだ。

 

【じゃあそろそろ解散だ!全員、くれぐれも決戦に無様な姿は見せないよう…ん?】

 

そう告げ、玉座を立ったサタンであるが…その動作を遮るように、召喚サークルが励起を続け英霊を招かんとしていた。

 

【追加召喚…?サタン様、御身に警戒を】

 

急激に高まる魔力の波、そして波長にサタンは覚えがあった。それはまるで烈火や爆炎、地獄の業火にも似た類のもの。

 

【ウリエル…?違う、これは…】

 

『──愚かなり、落伍者ルシファー。自ら神の裁きを招くために地獄の門を広げるとは』

 

一斉に緊張が湧き立つ地獄。その熱波、その苛烈なる魔力は先のスラオシャにも全く引けを取らぬ格を有する者であることを明記する。そして、それは現れた。

 

『神に仇なす愚かなる明星よ。神の力を司るこのカマエルが貴様を滅しに馳せ参じたぞ』

 

カマエル。火星の守護天使たる『神を見る者』。神の掲げた正義を絶対とし、敵対者を焼き尽くす苛烈極まる天使であり、ルシファーのかつての同僚である大天使。それが、召喚を通じてサタンを裁きに現れたのだ。

 

【カマエルか。どうしたの?相変わらず浄化や洗脳に精を出してるの?】

 

魔王達の戦闘態勢を制し、旧知のカマエルにサタンは声を掛ける。

 

カマエルの事を彼は知っている。14万を超える能天使軍、並びに一万二千の死の天使の総指揮官。地上における天使の干渉や裁き、浄化の主要を担う天使の一人。先の天界大戦では、ルシファー率いる堕天使軍と大激戦を繰り広げた武闘派だ。そして今の神に与するということは、かの偽神に与するという事である。

 

【君は意識が残ってるんだね。メタトロンやサンダルフォンみたいなガラクタに変えられたと思っていたのに】

 

『やはりかの天国を襲撃せしめたのは貴様か、恥知らずの蛇め…。神の愛が満ちる千年王国の礎を穢した罪、到底許されるものではないぞルシファー』

 

カマエルに関して言えば、サタンが介入した場面は皆無だ。彼と、神になんの疑いも持たずに仕えたアブディエルなる天使は既に『使命感』『隷属』という属性を獲得していたからである。特に彼は、神の裁きにより人が何万死のうがまるで意に介さぬ大天使であるが故に偽神に重宝されたのであろう。

 

【そう。来てくれて悪いんだけど帰ってくれる?もうお開きなんだよね】

 

『痴れ者めが。私が此処に来た理由など唯一つ。この穢らわしい魔界諸共貴様を討つためだ!』

 

サタンのうんざりげな視線も意に介さず、カマエルは飛翔し紅き鎧と白き羽根を輝かせ魔界に『火星』の火を招く。

 

【イシュタルの金星、マルドゥーク神の木星掌握と同じ…疑似惑星掌握権能…】

 

『我が守護せしは火星、その火は我が思いのままである。ルシファー、穢らわしい貴様の罪を残らず焼き尽くしてくれようぞ!』

 

言うだけの事はあり、地獄に囚われし亡者達が残らず焼け落ち蒸発していく。下級悪魔は焼け落ち、中級悪魔は悶え苦しみ、上級悪魔は避難を急ぐ。

 

【サタン様!!】

【次から次へと…!】

 

『無駄だ、魔王共。貴様らを焼き払う神の炎は阻めん!全ては万物の父たる主の御心のままに!』

 

【はぁ…あのさぁ、カマエル。少しは自分の頭で何が正しいのかを──】

 

『貴様らの後は、かの穢らわしき人間の集う『カルデア』である!』

 

【─────は?】

 

『貴様らと同盟を結び、堕落しきった穢らわしき人間どもの居城…否、この星に満ちた愚昧な人間に裁きを下す!あまつさえ神を否定し、神の愛を疑うような者達にこの世界に生きる資格など──』

 

───そこから先を、カマエルは紡ぐ事が出来なかった。

 

『────、え?』

 

ごとり、と音がしたと同時に、カマエルは『自身の身体が五体四散する様を見上げていた』。天使の鋳型にして重要機関である羽根が、跡形もなく消し飛ばされ肉体が原子のチリに分解されていく様を、首のみで見つめていた。

 

『な、何が──何故…』

 

【おい】

 

そして、頭部だけとなったカマエルに踏み降ろされる脚と。

 

【何が穢らわしいって?】

 

サタンの──永久凍土の地獄の冷気すら生温い冷徹極まる殺意が彼を貫いたのだ。

 

『が、あぁっ、ぐあぁっ──!!お、おのれ、ルシファー……!!』

 

【質問に答えろよ。お前みたいな塵がカルデアと、そこに生きる者達を何と言ったのかって聞いてるんだよ】

 

『ま、待て──!私を殺すな、ルシファー!私を殺せば、来る天国の到来が遥か先にへと──ぐがぁぁぁぁぁ…!!』

 

ミシミシと、万力のように加えられる力の脚に、カマエルの頭部は歪み始める。

 

【質問に答えろと言っているんだよ】

 

『わ、解った!訂正する!カルデアの者等への侵攻は、私が神に取り計らおう!我が御名にかけ…!』

 

【何度も同じ事を言わせるなよ、塵屑】

 

『ぐがぁぁぁぁぁあぁぁ!!待て、待ってくれ!助けてくれ、殺さないでくれ!ルシファー!私とお前は同じ大天使な筈だ!そうだろう!?』

 

【もういい、死ね】

 

『ま、待っ─────』

 

ぐぢゃり、と。何かが潰れたような音が最後。サタンはかつての大天使を、完膚なきまでに始末した。

 

【…ルシファー、ルシファーと。馴れ馴れしいんだ、クソ野郎】

 

吐き捨てるように、実際に唾を吐き捨てながら。

 

【一先ず区切りだ。後片付けはお願いね】

 

【【【【はっ!】】】】

 

サタンは静かに、召喚室を後にするのであった。




サタン【ちぇっ。最後の最後に楽しい気分が台無しだ】

(残る大天使は…メルキセデクにアブディエルか。余計な事、されてなきゃいいけど…)

アスモデウス【………サタン様】

サタン【?アスモデウス?どうかした?】

アスモデウス【その…これを…】

『カルデアフリーパス』

アスモデウス【是非とも、モヤモヤは一人で溜め込まず…。ギルガシャナ姫や、フォウ君等にご相談くださいませ】

サタン【わぁ。ありがとう!アスモデウス!気が利くね!】

アスモデウス【は、はい!あの、その…】

サタン【?】

アスモデウス【も、もし…もし良ければ…い、いっ】

サタン【………〜】

(壁ドン)

アスモデウス【ぴっ!?】

サタン【ちゃんと伝えて?僕に何をしてほしい?】

アスモデウス【あ、あ、あのあのあの……!す、すみません私は軟弱者でございます〜〜〜〜!!】

サタン【あ…。行っちゃった】

(アスモデウス…次は僕から誘おう)

アスモデウスは色欲の魔王としての精一杯のアプローチを行ったのであった。

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