人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ブラックマーケット

大人しそうな生徒「うぅ…シークレットペロロ様グッズを探し歩いていたらいつの間にかこんな時間に…図らずとも学校をサボってしまいました…」

(このままではナギサ様に御心配をかけてしまいます…!早くグッズを見つけて戻らないと…!)

?「おい、いたぞ。トリニティの制服だ」

「え…?」

「今日は仕入れの予定だったか…?」

「関係無い、トリニティという時点で同じ事だ。確保する」

「え、な、何…なんですか…!?」

(普通の人たちじゃない…!だ、誰か…!?)

?「ぐっ!」?「うわっ!」

ヒフミ「!?」

アカペロロ『………』

?「な、なんだコイツは…」
?「化け物か…?何かマズい、引き上げるぞ」

ヒフミ「あ…アカペロロ様…!?」

アカペロロ『無事か?(CV石田彰)』

ヒフミ「!?」

『学校をサボって何をしている。ここは物騒だ、早く帰れ』

ヒフミ「あ、ぁ…噂は、本当だったんですね…!アカペロロ様は、闇に生きる孤高のペロロの…!」

アカペロロ『…?』

ヒフミ「アカペロロ様!私は阿慈谷ヒフミといいます!夜闇に紛れ空くを討つ孤高の使命…!私にもお手伝いさせてください!!」

アカペロロ『……???』

(オルガマリー所長に言われてこの姿で徘徊しているが…この娘が目標の娘なのか…?)



サクラコ「先生。それにリッカ様。トリニティのイジメ問題解決に着手してくださるとお聞き致しました」

アダム「あぁ」

リッカ「イジメは…赦されない事だからね」

サクラコ「痛み入ります。ですが重ねて私からも…。我々シスターフッドは、救護騎士団と協力し停学中の方々の復学支援を行おうと考えております」

アダム「復学支援…」

サクラコ「『全ての青春に光あれ』。我々はその福音に従い、未だ闇の中にいる方々の助けになりたいのです。ですが停学中、退学した方々には深く傷ついた者も多い…アダム先生方には、そんな方々の心に寄り添っていただきたいと思います」

アダム「あぁ。言われるまでもない」

リッカ「…イジメは受けた相手の心を壊す。それに、人生を変えてしまうくらいの傷も残す」

アダム「リッカ…」

リッカ「どんな理由があっても、イジメという行為は許しちゃいけない。…行こう、アダム先生。助けになってあげなきゃ。生徒達の助けに」

アダム「あぁ。勿論だ」

(君は、誰よりも共感しているのだな。被害者の心に…)



伸ばしそこねたあの日の手を

学園都市郊外。学園の外れにある生徒の自宅。そこにアダムトリッカは訪れていた。そこにいるのは、トリニティ総合学園にて停学中の生徒である。

 

「アダム・カドモン。シャーレの先生だ。シスターフッド・サクラコの命により復学の助けになれるよう訪問に来た。どうか御目通りを願いたい」

 

シャーレの先生、並びにサクラコの名前を聞いて感じるものがあったのだろう。少し経った後に、扉が開いた。

 

「シスターフッドに…先生…?…今更、私なんかに何の用なの…」

 

「…!」

 

リッカは見た。首筋、腕に付けられた無数の自傷。そして包帯に負われた片目の負傷。──全て、自分でつけたものであることを即座に見抜く。頭上のヘイローは力なく鈍く輝き、片目はどんよりと曇っていた。明らかに…憔悴しきっている。

 

「話だけでも、聞いてはくれないか。君の力になるためにここに来たのだ」

 

「…早く入って。誰かに見られる前に…」

 

招かれるままに部屋に入れば、部屋には光を遮る様に仕切られた真っ暗闇に、荒れた模様…心身が疲れ切っているのは一目瞭然であった。彼女はベッドにもたれかかり、脚を抱き塞ぎ込む。

 

「私は学園に戻ったりしない…あんな地獄、戻りたいなんて思わない…」

 

「…!」

 

「先生として来たなら解るでしょう…?あそこは地獄なの。人を人と思わない奴等が、平気で誰かを貶め蹴落とす。笑顔の下で、誰もが誰かの足を引っ張り弱みを探している最低の場所。私は…それに気付かずに最後まで蹴落とされる側だった…」

 

虚ろな口調で彼女は語る。その目には、一片の光もない。

 

「…これが、イジメを受けた側の実態だよ。心も身体も傷ついて、未来に何の希望も持てなくなる。そんな悪い事、していない筈なのに」

 

「あなたも、そうなの?解るわ…目の奥が、私と同じだもの…」

 

「その痛みを誰よりも知っている。解るよ。だからこそ伝えに来た。イジメを受けたままで塞ぎ込むなんて、絶対に間違ってる。助けに来たんだ。あなたの事を」

 

「助けに…?誤解しないで。この傷は私が付けたのよ。目も自分で…戻りたくないから。二度と学園に行きたくないから」

 

リッカに同じ境遇を感じたか、生徒は語る。イジメを受けた心境を赤裸々に。

 

「理由なんて無いのよ…。ただ気に入らなかった、気に食わなかった。暇潰し、運が悪かった。やってる側に大層な理由なんてない。くじを引くような気楽さで私が選ばれて、対象にされて。止めてと叫んでも、助けてと叫んでも誰も助けてくれない。何もしてくれない」

 

「…………」

 

「昨日まで一緒に笑ってた子達が、急に他人になるのよ?一生友達でいようねって言ったのに。ずっと一緒だよって笑い合った子が、助けてと呼びかけても何も話さない。自分が一番可愛くて嫌な思いをしたくないから。自分が標的にされたくないから」

 

「君は……」

 

「今更何を助けてくれるの?散々に酷いことをされて、脅されて、外も歩けなくなって、誰も信じられなくなった私の何を?今更?──ふざけないで!!」

 

突如、激昂した生徒はアダムに物を投げつける。狂乱としか言い様がないその剣幕で、彼女は受けた傷の深さを物語る。

 

「何もしてくれなかったくせに!私が辛いとき、傍にいてくれなかったくせに!!誰か助けて!誰かって叫んでも!祈っても!縋っても!!誰も助けてくれなかったくせに!!」

 

「……!」

 

「私が何をしたの!?ただ友達を作って、恋をして、当たり前の素敵な日々を過ごしたかっただけ!!何も悪いことなんてしてない!友達なんていなかった!私が友達と思っていた人達は、自分が一番可愛かった!私なんてどうでも良かった!!学園に、良いことなんてなんにも無かった!!あんな地獄、戻りたくなんかない!!放っておいてよ!!」

 

尚も物を投げつけられながら、アダムは抵抗しない。ただ、生徒の慟哭を受け止める。

 

「この傷、見える!?目も自分で潰したの!死にたいから!二度とあんな場所に戻りたくないから!!学園復学?余計なお世話!あんな地獄に戻るくらいなら死んだ方がましよ!!」

 

「落ち着いて…!大丈夫、全部聞いてるから!解ってるから…!」

 

「また裏切るんでしょう!?優しくするように見せかけて!私をイジメに差し出すんでしょう!?放っておいてよ!!何が先生よ!何が生徒の味方よ!素敵な大人よ!」

 

「───」

 

「自分に都合のいい生徒ばっかり目を掛けて!私達みたいな端役の事なんか気にも留めない癖に──!!!」

 

血を吐くような叫びは、誰も助けてくれない、誰も手を掛けてくれない絶望の発露。失意と絶望の中、青春を断念せざるを得なかった者の魂の慟哭。

 

「ゲホッ、ゲホッ!ゲホッ…!」

 

喉を裂き血を吐く程の絶望を、アダムは座して受け止めた。それは、先生として…大人として受け入れるべきものであったから。

 

「…こんな身体で、もう学園生活なんかできない…傷物女って…片目お化けってまたイジメられるに決まってる…」

 

「…………………」

 

「助けてくれるって言うなら…この傷を治してよ…。本当なら、私だって、こんな風になりたくなかったの…こんな風に…うっ、ううっ…うううっ……」

 

堰を切った様に啜り泣く生徒に、アダムは───

 

「無論だ。私達はその為に来たのだ」

 

力強く、頷いた

 

「───え?」

 

「フェニ!」

 

アダムが口笛を吹くと、仕切られていた窓の仕切りを焼き尽くし、燃え盛る輝く姿の鳥が厳かに現れる。

 

『窓から失礼〜♪あなたが絶望にうずくまる、アタシが助けるべきアナタね?』

 

「え、あ…火の鳥…?」

 

『フェニよ、ヨロシク〜♪まぁ話はアト。可哀想なあなたの身体、不死鳥として癒やしてあげる。そ~れ♪』

 

瞬間、フェニを名乗る火の鳥が生徒を抱きしめる。瞬間、燃え盛るような輝きが炎となり、生徒とフェニを焼き尽くす。

 

「きゃあぁあぁあぁあ!?熱、熱…くない…!?」

『身体を見てご覧なさい?』

 

「え……あ……!」

 

瞬間、炎に皮膚が焼かれるように、自傷の後と潰れた目が再生し元通りとなる。かつて絶望する前の、理不尽に身体を傷付ける前の姿に。

 

『アタシは不死鳥、再生を司る炎。アナタのようなリストカット常習犯のケアをファームで担当しているのよ。どう?要望通りにキレイにしてあげたわ♪』

 

「ぁ…見える…傷も、ない…!」

 

『オーッホッホッホ!無理難題で諦めさせようとしたのに浅はかだったわね!アタシ達のアダムを謀ろうなんて百万年速』

 

「──まずは、君を始めとしたイジメの被害者への対応が遅れてしまった事、心からお詫びしたい。本当に、済まなかった」

 

「!」

 

アダムは深々と──生徒に土下座を果たした。かつて風紀委員イオリに果たしたものより深く、強く。

 

「君達の絶望は、私という大人の不徳の致すところであり。その責任は全て私にあり永遠に赦されるものではないだろう。だが、その全てを恥と偲んでなお私は君に告げたいのだ」

 

「アダム、先生…」

 

「どうか!どうか君自身の青春をもう一度取り戻す決断をしては貰えないだろうか!私は今、信頼できる生徒と共にトリニティのイジメ撲滅に全力で当たっている!君達の助けを求める声に間に合ったとは断じて言わない、しかし…!私はこうして君達に手を伸ばせる場所に来れたのだ!」

 

「────」

 

リッカは目を潤ませアダムを見ていた。それは榊原にも感じた…あの日、こんな大人がいてくれたらという想いの再演。

 

「君達の青春は私の宝だ…!生徒一人一人は私の希望だ!君や、未だ絶望している全ての生徒達は私の絶望そのものだ!絶望する前に助けるには私はあまりにも先生として未熟だ!だが、それでも…!」

 

「…………」

 

「君自身の人生を、君自身が諦め捨てないでほしい…!どうか私に、君や皆の青春を支える手助けをさせてほしい!どうか君を、君の人生を助ける事を赦してほしい!君の人生は…掛け替えのない宝物なのだから…!!」

 

床に額を擦り付け、アダムはひたすらに懇願した。歯を食いしばり、涙を呑みながら。

 

「済まなかった…!辛い思いをさせて、本当に…本当に済まなかった…!!」

 

「─────お願いします」

 

リッカもまた、アダムの隣で土下座する。それは、彼女の願い。

 

「アダム先生を…シャーレのアダム・カドモンを。信じてあげてください。あなたを、イジメの被害者を彼が助けられなかった時は──」

 

「…!」

 

「私が、腹を切ってお詫びします。どうかアダム先生を…私の父を信じてください」

 

二人が深々と頭を下げる。どれほどの時間が、その時流れただろうか。

 

「…………顔を、上げてください。アダム先生。その娘さん」

 

生徒が、アダムに近付き立ち上がらせた。

 

「誰もが、私には関係無いと言いました。自分がイジメられるのが怖いから。自分が辛い思いをしたくないから。…でも」

 

「……っ」

 

「あなた達は…私や、私達の為に泣いてくれた。…ありがとう。私達に寄り添ってくれて」

 

生徒は頷いた。傷と同じ様に、心の傷もいくばくかは癒やされたのだろう。

 

「信じます。アダム先生。私が救われなかったのは、きっと…アダム先生があの日にいなかったから」

 

「!!」

 

「今なら言えます。…私達を、助けてください。アダム先生なら…この声を、聞き届けてくれますよね?」

 

「…勿論だ。勿論だとも…!ありがとう…ありがとう!」

 

まるで、自分が救われたかのようにアダムは生徒を抱きしめた。

 

「ありがとう…。信じてくれて、ありがとう…!」

「…私もです。助けにきてくれて、ありがとうございます…」

 

「…。〜…」

 

ようやく、あの日の絶望に伸ばされた手を掴めた。

 

互いを許しあうその光景を…リッカは涙を拭いながら、見つめていた。




リッカ「救護騎士団とシスターフッドが、リハビリと復学の助けをするんだよね」

パパポポ『学業の遅れは任せるっポ。復学ミサで頭に叡智をぶち込むッポよ〜』

アダム「…〜。〜…」

リッカ「も〜。泣き止んでよアダム先生〜」

アダム「すまない…。祈りが届いた事が嬉しくて…」

リッカ「でも、気になったことはあったね」



生徒『でも、気をつけてください。アダム先生。私は傷物だったからか解らないけれど…行方が分からない私みたいな生徒はまだ見つかっていません』

『その生徒達は皆、心を壊されるようなイジメを受けた子ばかりです』



リッカ「……私じゃ、精々イジメに加担した奴等を全員血祭りに上げる程度の結末にしかいけない。罪を憎んで人を憎まないが…今回はできそうにない」

パパポポ『誰よりも、被害者の痛みがわかるが故にッポね』

リッカ「今回はそれじゃダメなんだよ。力じゃ心は救えない。だからサラや、ヤマトや、アスカの三人が必要なんだ。私にできないことが、三倍できる三人が」

アダム「…冷静に、被害者の心を救う決断してくれたのだな、リッカ」

リッカ「イジメをやるやつは犯罪者。……らしくなかったよね。でも…どれだけ辛いか、知っちゃってるから」

アダム「いいんだ。その苦しみを分かち合う友がいる。私もそうだ。私達は、私達なりのやり方をしよう」

リッカ「うん!──この背後にいるのが、汚い大人だったなら」

アダム「あぁ」

リッカ「───死んだ方がマシな地獄を見せてやる……!!!」

アダムの背中を擦りながら、いるであろう黒幕に殺意を滾らせるリッカであった。

フェニ『ねぇ、アダム?私ならアナタの傷を癒せるのよ?私の不死、アナタに捧げさせてはくれないの?』

アダム「君が喪われるのなら、必要ない。君の犠牲と不死の引き換えの完治など、私は断じて認めない」

フェニ『あぁ、もう!そういう所が大好きなのよアダムったらぁ!』

リッカ「先生ー!?」
パパポポ『シナイの神火…』

アダムはフェニと燃えていた。

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