人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ミカ「まずはお茶会だよね〜☆口に合うかな?ナギちゃんのロールケーキなんだけど」

アダム「ロールケーキと…紅茶!?まさかこんな組み合わせが…!」

パパポポ『また妙な人間性が付与される音がしたッポ……』

リッカ「……トリニティ総合学園…」

アンリマユ【見てくれは綺麗だが、どうにも臭いやがるぜ。見ろよ】

アジーカ【フンス、フンス(フンフン)】

アンリマユ【アジーカのテンションが上がるくらい、ドロっとしたもんがあるってこった。かくいう私にもビンビン来やがる。綺麗さに惑わされんなよ】


リッカ「……」

【こいつは…とんだ伏魔殿だぜ】

リッカ「…………お嬢様学校、か」




青春の闇へと

「アダム先生。シャーレの先生で、生徒達のなんでも屋。誰にも、何にでも、生徒の為なら力を貸す皆の頼れる大人!…と、リッカちゃんはその…」

 

「養子です!」

 

「そうなんだ☆あなたと私はなんだか似てる気がするんだ。よろしくね!」

 

(この美しいお姫様と女ヘラクレス経験の私が似てる…?妙だな…)

 

三人いる生徒会長の一人。トリニティを形成する三大分派の一つ「パテル分派」の首長にして、生徒会であるティーパーティーのメンバー。

 

聖園ミカ。

天真爛漫な明るい性格で、自ら公言して憚らない程のワガママな気分屋。「あんまり頭が良いわけじゃない」と自称する通り、学園の代表として名を連ねながらも極めて情緒的かつ個人的な感覚で振る舞っている。

 

彼女の行動や言葉にはこれといった意図もなく、思った事はその場で口に出し、その後忘れてしまう事もしばしばで、小難しい政争も得意ではない。

 

「エデン条約も近いのにトリニティにわざわざ来てくれるなんて…観光にしてはタイミングが悪いような気がするんだけど、どういう意図なのかな?」

 

「サクラコからの個人的な依頼だ。詳しくは言えんが問題は解決した」

 

「わーお、そうなの?あのシスターフッドのトップまでお願いしに行くんだ。ふーん…なら、これも本当の事なのかな?」

 

ミカは個人的なティータイムテーブルに、自らの端末を置く。そこの映像には、アダムが映っていた。

 

…小鳥遊ホシノを救出する際、暴れ回り抑止と破壊の限りを尽くした姿が

 

「この、戦車とヘリを持って暴れ回るアダム先生…。最初はフェイク映像っていうのが主流だったんだよね。でも…ミレニアムや、えーと…」

 

「アビドス高等学校」

 

「そうそう!その辺境の学校の問題を先生が鮮やかーに解決したって聞いて興味が湧いちゃって。結局のところ、これ…本当なの?」

 

「事実だ。嘘を付く必要も、理由もない。ありのままに受け取ると良い。生徒の為に尽力した…嘘偽りない私の姿だ」

 

アダムとしては、別に何を隠すまでもない自らの姿である。紅茶とロールケーキの美味に感激を覚えながら、ひたすらに紅茶を味わう。

 

「わーお、すごーい!そういう所も私と似てるね!深く考えずに解決するならパンチだよね☆」

 

「どうかな。拳や暴力で解決できる問題などたかが知れている。本当に大切なものを護る際に、暴力は無力なものだ」

 

「…へー。何から何までお見通し?」

 

「腹の探り合いは得意な方では無いだろう?君の本心を聞かせてくれ。私は受け止めよう。何であろうと、生徒の問題に私は向き合う」

 

(…ずずー)

 

リッカの目からしても、ミカの心に裏表はない。まさに、思ったことは全て口から出ている。目が合うと無垢な笑みを返す様は、まさに天使だが…

 

「じゃあ本音トーク!アダム先生にはね…トリニティの目障りな生徒を排除してほしいんだ☆」

 

生徒の悩みを受け止める、といった矢先の問題提起は、無邪気ゆえの残酷さを感じさせるようなものであった。

 

「トリニティはお嬢様学校で、色んな派閥が重なってる学校なんだけど…その分さぁ、女の腐ったみたいなイジメがあったりするんだよね〜」

 

「…イジメ…」

 

リッカの眉間にシワが寄る。イジメとは…彼女においても他人事ではない事態だ。

 

「足の引っ張りあいとか、政治争いとかさ…私は面倒だから興味ないけれど、でもなんだか、皆はそういうの好きっぽいんだよね。目の届かないところでやってたり、不登校や退学、停学なんてのもあったりして。そろそろ目障りになってきたんだよね〜」

 

「シャーレが学校勢力内部に干渉はできない。内政干渉となる」

 

「ふーん。イジメに苦しむ生徒よりシャーレの面子が大事なの?意外と薄情なんだね、シャーレも先生も」

 

「……個人的には、力を貸したい」

 

「心配しないで、先生。サクラコがやったみたいに、私っていう生徒のお願いの、学内調査に粛清のお手伝い。なら先生も大丈夫でしょ?こう見えてトップなんだ、私」

 

ミカの笑みは変わらずに輝いたままだ。受ける体で、説明をミカは続ける。

 

「エデン条約を前にして、内側から足の引っ張り合いやだまくらかし合い、事欠いて味方を減らすような生徒は癌みたいなものでしょ?正義実現委員会も、救護騎士団も、内政改革なんて出来るほど余裕も暇もないし」

 

「……イジメ、か」

 

「どう?生徒を助けるために生徒を排除する。殴って暴力で解決するだけじゃ解決できないよね。先生はどんな風にこの問題に取り組むのかな?あ、イジメしてる生徒の安否は気にしないでいいよ。何人も身代わりにしてのうのうと卒業間近の生徒だっているしね☆」

 

「アダム先生…」

 

アダムは胸を痛めている。輝ける青春の裏の暗部…生徒が生徒の青春を閉ざすような真似が行われている事に。だが…

 

「…解った。野放しにはできない。イジメの主犯格、身代わりにされた生徒達の復学…纏めて請け負おう」

 

「エデン条約まで時間が無いよ?長くて三日…遅れて一週間。それまでにアダム先生は膿を全部取り出せる?」

 

「やるしかあるまい。先生として……理不尽に奪われた青春を取り戻す事に尽力する」

 

「ふーん。じゃあ、イジメをした生徒の事は切り捨てるんだ?」

 

「…………」

 

「──イジメは、イジメを受けた人の人生を滅茶苦茶にする行為だよ」

 

アダムの沈黙に、口を開いたのはリッカだった。

 

「生徒であろうと、大人であろうと関係無い。イジメを赦していい理由なんて何処にもない」

 

「…!」

 

「イジメは犯罪だよ。イジメられる側に問題がある、なんていう意見もあるけど…それは問題がある側が向き合うもので、イジメを許す免罪符にはならない。しちゃいけないんだ」

 

リッカは毅然と向き合う。ミカのもたらした悩みを切り裂くように。

 

「何人も被害を出しているのなら、それはもう庇護されるべき生徒じゃない。裁かれるべき犯罪者だよ。生徒を切り捨てるなんてとんでもない。あなたが依頼しているのは、生徒を苛む犯罪者を摘発して報いを受けさせる為の捜査と調査だよ」

 

「………カッコいいね。リッカちゃん、だっけ?」

 

「藤丸リッカ。世界で一番、イジメの理不尽と残酷さを知る者です」

 

アダムとパパポポは瞠目した。アダムより先に…リッカはこの依頼に向き合う決意を固めていた。

 

無理もない。彼女はイジメの…理不尽の渦中にいたからだ。

 

「──受けよう。リッカの言う通りだ」

 

「!」

 

「どんな理由も、イジメを容認する理由にはならん。先生が向き合うべき最大の問題…無視して先生を名乗れる筈もない」

 

「アダム先生…!」

 

「私は全ての青春を応援する。青春を害するものは私が排除する。それが──同じ生徒だった者であろうと」

 

イジメを容認する。それはアダムの心情として…決して容認してはならない問題だ。エデン条約も近い以上、内患の憂は排除せねば思わぬ落とし穴になりかねない。

 

「そっか。良かった。それじゃあお願いするね。トリニティ総合学園の腐った温床、纏めて処分してくれたら嬉しいな☆」

 

言質は取ったとばかりに席を立ち、手を振りミカは席を後にする。

 

「生徒のリスト、作って送るねー!期待してるよ先生、リッカちゃん!」

 

ティータイムの席に残された二人と一匹。三人は顔を見合わせる。

 

『輝く光には影も在る。辛いことだっポ』

 

「本当に辛いのはイジメ被害者に、無念にも学園を去らねばならなかった生徒達だ」

 

「犯罪者に遠慮はいらないよ。──やれと言われたんだから、徹底的にやらなくちゃ」

 

リッカは紅茶を飲み干し、立ち上がる。

 

「退学停学者のケアにも、イジメ摘発にも最適な人材はカルデアで声をかけるよ。アダム先生は復学手続きをお願い」

 

「リッカ……」

 

「戦わなくちゃ。理不尽に喘ぐ生徒を救いに行こう、アダム先生」

 

リッカが、アダム先生に伸ばした手を…

 

「…あぁ」

 

アダムは決意をもって、強く握り返した。




シャーレ

リッカ「アダム先生は内政干渉はできない。推薦して転入させるのが精々…私はアダム先生とメンタルケアに向かう。イジメ摘発と確保は…任せたからね!」

?「うん、解ったよリッカ。任せておいて」

?「絶対に失敗できないな…抜かるなよ」

?「解ってますよ!私に考えがあるんですから!」


…後日。トリニティに三人の生徒が編入される事となる。

保志ヤマト「保志ヤマトです。二年。皆様のお仲間になります。よろしくお願いします」

石田サラ「石田サラだ。よろしく頼む」

鈴村アスカ「鈴村アスカ!同じく二年!よろしくお願いしますっ!」

トリニティ生徒「転入生…こんな時期に…?」

トリニティ生徒「ふーん……」

ミカの依頼…観光の締めくくりが始まろうとしていた。

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