アダム「大将!来たぞ!」
柴大将「おう、毎度!全くとんだ常連さんだ。仕込みはバッチリだ、どんと来い!」
アダム「さぁ皆、私が奢ろう!好きなだけ食べてくれ!」
リッカ「屋台じゃ無かったっけ!?」
アダム「私が投資改築を行い大食堂として蘇らせたのだ。柴大将はエデンでもラーメン屋をやってもらうべき人間国宝だからな…!」
セリカ(リッカ先輩、本当にアダム先生の食べ過ぎには目を光らせてください!ホント、ラーメンや限定品には目がないんだから…!)
シロコ「奢り…ありがとう、先生」
アダム「気にするな。何故ならば──私が食べたいだけのだからな!」
「それでは諸君!アビドス対策委員会のさらなる発展を願い、願掛けの柴関らーめんを──いただきます!」
「「「「「「いただきまーす!!」」」」」」
アダム先生が贔屓にするラーメン屋、柴関らーめん。
アビドス高等学校近隣に店を構えるラーメン屋で、セリカのアルバイト先である。
対策委員会の面々も(セリカの冷やかし・見守りがてら)よく訪れる、アビドスの生徒達の憩いの場。また、かつて偶然立ち寄った便利屋68の面々もお気に入りの店となっている。
バイトのセリカを除けば、店主の柴大将が一人で切り盛りしており大将はどう見ても人語を話す柴犬である。
店の名物は「柴関ラーメン」580円。高校生の財布にも優しい価格で営業しており、4人でラーメン1杯を分け合うほど金欠の生徒には「手元が狂った」と称して超大盛りの1杯を提供するなど、大将は人情溢れる人物である。
かつて便利屋68の暴走や、カイザーコーポレーションの卑劣な土地売買戦略にて店を畳むまで行きかけたが、便利屋の支援とアダムの熱烈な支援により屋台から大食堂に生まれ変わった。
アダムは『対策委員会との思い出の一品』『アダム・カドモン嗜好の品』としてこのラーメンを強く強く支持。仕事終わりにも朝にも昼休憩にも必ず立ち寄る程のお気に入り常連である。スタンプカードは十枚ポイントが満杯になり、永久無料券をプレゼントされているがトッピングを山盛りにし売上に貢献している。一食平均3000円を布施としているほどだ。
「大将、大盛りワンタンチャーシュー味玉トッピング豚骨マシマシで頼む!」
「好きだねぇ。あいよ!」
「先生はああなったら暫く食べることしかしませんので…こちらで色々、交流しましょう。リッカさん」
アヤネの言葉を以て、リッカは対策委員会の面々と交流を始める。リッカにとって、キヴォトスで最も付き合いの長い相手だ。
「へぇ〜。リッカちゃんは夏草昇陽学園って所に在席なんだぁ〜。キラキラした名前だね〜」
「一つの都道府県地域が全部街…凄いマンモス高校なのね…!」
「ん、パパポポ様、メンマあげる。アダム先生の義父だなんて…焼いてごめんなさい」
『ありがとうッポ。構わない、許し合いこそ相互理解だっポ』
「うふふ、今度は私達が遊びに行くのもいいですね♪」
「歓迎するよ〜!皆に負けないくらい個性強めな子しかいないから!」
リッカは持ち前のコミュ力にアビドス救済の件から、完全に対策委員会に受け入れられていた。ノノミの膝枕をかけたホシノとのポコポコ合戦により、ホシノとは深く通じ合った仲である。
「アダム先生、あんな幸せそうな顔するんだ…」
リッカが言うように、生徒達に向ける柔和や慈愛でなく、幸福を噛みしめるように傍にタブレットを置いた状態でラーメンを啜るさまは、図らずともリッカがステーキを貪る様とそっくりであった。セリカがアダムに水を差し出し戻りながら告げる。
「ホント、普段の先生とはまるで別人。生徒といるときとは全然違うんだもの。驚いちゃうわ」
「そう言えば、アダム先生は最初…無愛想気味だったの?」
リッカが告げた疑問に、アヤネは頷き答える。
「実はそうなんです。対策委員会の騒動には、ただ淡々と借金返済の手段を提示するくらいで…とても冷たい印象を受けました」
「でも、それは使命感に緊張していたとの事で…ホシノ先輩がカイザーPMCに拘束された時の救出作戦においては…」
一同、沈黙する。ちらりと、幸せそうに替え玉とトッピングを十杯目の皿によそるアダムを見やる。
「実は映像記録あるんだよ〜。見てみる〜?」
「う、うん!」
「…凄いよ〜?」
ホシノの端末を共に覗き込むリッカ。そこには──
人類のアーキタイプ、そして始まりの人類の一端が示されていた。
〜
「ホシノを──生徒を返してもらうぞ、カイザーPMC」
生徒達を、拉致拘束されたホシノの救出に向かったアダムは、たった一人でカイザーPMC駐屯基地勢力を相手取った。
敵は民間軍事会社。多数の人員、多数の武装、多数の兵器、多数の武力を用意していた。それに挑むとはつまり、一つの戦場を相手にするもの。
しかし、アダムの戦闘力は常軌を逸していた。生徒達も強靭さは並の人間の比ではないが、それと比べても比較にすらならなかった。
「な、なんだこいつは!?」
「なぜ、何故傷一つつかない!?」
無数の銃火器で一斉掃射しても彼には傷一つ付かず、振るわれた拳の衝撃波で人が木端のように吹き飛んでいく。
「う、うわぁあぁ!!」
「化け物、化け物だぁあぁ!!」
地雷を踏み潰し、投入された戦車をなんと『砲塔を掴んで棍棒のように片手で振り回す』。そして戦闘ヘリのローターに腕を突っ込みそれを破壊。尾翼を掴み、二本の鈍器のように戦車とヘリを持ち暴れ回り、たった一人で軍事駐屯基地を壊滅にまで追い込んだ。
「去るがいい。命を散らしたくないのなら」
死者は出さず、それでいて対策委員会への不当な経済制裁を完全に対処。『次に生徒に不利益をもたらせば、本社を物理的に叩き潰す』と釘を刺し、ホシノ救出作戦に貢献した。
「私の生徒を傷つけるものに…慈悲は与えぬと思え」
爆炎と黒煙が満ち、軍事勢力が壊滅した中、瓦礫の山に戦車を肩に掲げヘリを引きずるアダムの様相は、映像として流出している。だが、それは大半がフェイク映像と片付けられているが…対策委員会にはそれがちゃんと真実だと伝わっているのだ。
彼は生徒の為なら、傷つくことも死も恐れぬ存在だと。
彼が、生徒の為に命を懸けてくれる…『先生』であり『大人』であるのだと。
〜
「…おじさんはね、大人にいっぱい騙されて、おじさんたちはいっぱい苦しんで、辛い目にあってきたんだ」
映像を眺めながら、ホシノは言葉を口にする。
「でもね…アダム先生はこんなにも私達の為に頑張ってくれたんだ。大人は信じられない、信用しないって何度も何度も拒絶しても…アダム先生は助けてくれた」
対策委員会の面々は、アダムの背中を見つめていた。きっと、彼女達にはあの背中がとても大きく見えているのだろう。
「リッカちゃんも、アダム先生の事を信じてあげてほしいな。ラーメン狂いで、限定品とゲームに目がない人だけど…おじさん達の、たった一人の先生だからさ」
「──うん!勿論だよ!私の義父さ…ううん、私の特別な人だからね!」
それは、父が職場にてとても慕われていることに喜ぶ子供のような笑顔で。リッカは心から喜びの肯定を示す。
「ホシノ先輩、それからずーっと言ってるわよね。『先生はお休みが必要だよ〜。またシャーレに行きたいなぁ』って!」
「うふふ…。私達みんなの先生でもあり、隣りにいたいと思う生徒さんはいっぱいですから♪」
「ん。ロードバイクに走って付いてこれるのはアダム先生だけ」
「校舎の修繕もたくさん手伝ってもらいましたから…!私達、シャーレのお手伝いにも交代制で足を運んでいるんです!」
「うん!支えてあげて!アダム先生、何でも出来るようで結構隙はあるから!パソコンのパスワード貼ってたりとか!」
「えぇえ!?そ、それは流石に!」
「ハッキングしてくださいって言ってるようなものじゃない!?先生ちょっと!話があるんだけどー!?」
『防犯対策筆頭として、シロコちゃんの知識を活かしてみては如何だっポ?』
「ん。名案。シャーレを要塞にして見せる」
「えへへ…。大なり小なり、私達は先生が好きなんだ。リッカちゃんはどうかな?」
「うん!私も…アダム先生の事、とっても好き!」
「よかったぁ~。これからも、支えて行こうね。…危なっかしい、あの人をさ」
「大将、替え玉!」
生徒達に囲まれながら──幸せそうにラーメンを食べるアダムであったとさ。
セリカ「またね、先生〜!」
ホシノ「ばいばぁーい」
アダム「至福の時間だった…」
リッカ「ドン引きするくらい食べたね…」
アロナ『うう、見てるだけで胃もたれが…』
アダム「彼女達は強く生きている。私も…彼女たちに生徒のために戦う喜びを教えてもらったのだ」
リッカ「…うん!今度皆、夏草に呼ぼうね!」
アダム「あぁ。…次は、ミレニアムサイエンススクールに行こう。そこで…」
アル「あら、アダム先生!それに、リッカちゃん?オルガマリーの親友ね?」
リッカ「あなたは便利屋シックスナインの!」
アル「68よ!68!もう、なんで一つ増えるの!?実は今から、便利屋皆でラーメンを食べるのだけど…二人もどう?」
リッカ「えっ」
アダム(キラーン)
リッカ「あっ」
アダム「勿論だ!便利屋68においてオルガマリーは下っ端と聞いている。話の種は尽きまい!」
リッカ「えぇ!?」
アル「決まりね!リッカちゃんのお話、オルガマリーから聞いているわ!楽しい時間にしましょう!」
リッカ「うぇえぇえ!?」
アダム「柴関らーめんは別腹だ…!」
パパポポ『汎人類史とは別にぶっ壊れたッポ…』
アロナ『うぶ…!』
この後便利屋68の二次会により、アダムはラーメン20杯を平らげたという。
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