人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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アビドス高等学校周辺地域 上空

グリフォン『皆さん、しっかり掴まってくださいね。落ちても回収は致しますが、流石に落ちたら怖いと思うので!』


リッカ「飛んでる!青い空を自由に飛んでる〜!!」

パパポポ『グリフォンはもう言い訳できないくらいに幻想種ッポね…放浪、果てしなかっただろう』

アダム「6000年付近だったか。だがまぁ、今に通じるならば意味はあった」

パパポポ『…善き生徒達に恵まれたッポね』

アダム「その通りだ。対策委員会には話を通してある。このままアビドス高等学校に向かおう」

リッカ「…緑と砂漠地帯が、半々くらい?」

アダム「成る程、稼いだ資金で環境対策をした訳か。考えたな…。まだ課題はあるだろうが、進捗を聞きに行こう」


アビドス高等学校上空

リッカ「あ!見て!」


セリカ「先生〜!こっちこっち〜!」

アヤネ「降りてきてくださ…凄い鳥です!?」

ホシノ「うへ~。おじさん飛ばされちゃうよ〜」

シロコ「ん。テイムしたい」

ノノミ「ダメですよ〜?先生〜、リッカさん〜!こちらです〜☆」

リッカ「おーい!皆〜!!」

アダム「皆…出迎えてくれるとは。さぁ、降りよう。グリフォン」

グリフォン『はい!』



アビドス地域〜対策委員会編〜

アビドス高等学校──

 

かつては数千人の生徒が通うキヴォトス最大の学園として名を馳せたが、数十年前のある時期から頻発し始めた大規模な砂嵐によって学区の環境が激変。進む砂漠化対策のために多額の資金を投入するも事態は好転せず、膨らみ続ける借金のせいで学園の経営は悪化し、人口の流出にも歯止めがかからないまま地区全体の衰退を招いてしまった。

 

本来の校舎本館はすでに砂漠に飲み込まれているため、学園自体も度重なる移転を余儀なくされており、現在の校舎は自治区内の別館。学園の規模縮小に伴って議員の選出も滞っており、連邦生徒会での発言権は失われて久しい。

 

かつて9億にも上った借金には、対策委員会による利子の返済だけで手一杯であった。完済まで309年かかる計算だったが…宝物庫周回の資金交換レートにより、残りの借金はほぼ満額返済された。

 

郊外にあるアビドス砂漠のオアシスが枯れてしまう以前には「アビドス砂祭り」と呼ばれる催しが開催されており、他の自治区からも大勢の人が訪れるアビドスの一大名物であった。

 

そして…同校最後の生徒5人全員が所属しているのがアビドス廃校対策委員会である。

 

 

「いらっしゃい、リッカちゃん〜。歓迎するよ、ゆっくりしてって〜」

 

お手本を示すように誰よりもゆっくりしているのが、3年生の小鳥遊ホシノ。メンバーの年長であり、昼行灯が如くのんびりしている。宝物庫周回においてのタンク役だ。

 

「はい!お客様なんて久しぶりですからね〜☆リッカさんもマスター業務の休憩だと思って、ね?」

 

そんなホシノを膝枕しているのが、十六夜ノノミ。抜群のスタイルと抱擁力を持つ、二年生のお嬢様である。ホシノはノノミとは極めて良好な関係を築いている。

 

「カルデアには本当に感謝しているわ!バイトも減らせて、貯金も出来て…本当に、本当にありがとうね!」

 

切実にリッカの手を握るバイト戦士の一年生、黒見セリカ。借金に何より苦戦していた彼女は、余裕のある今の環境に誰よりも感銘しているようだ。

 

「はい!借金も残り…五万円になりましたから!」

 

奥空アヤネ。常識人でありメガネ美少女。皆がガチ犯罪者にならないのは大体彼女のお陰だ。

 

「ん。リッカちゃんも是非、その身体能力をアビドスで活かすべき」

 

砂狼シロコ。みんな大好き銀行強盗に並々ならぬ情熱を燃やすメインヒロインである。

 

この五人が、アビドス対策委員会。アビドス高等学校に在籍する、たった五人の生徒だ。環境対策で作らされた借金を返すために自転車操業だったが、カルデアの宝物庫周回に精を出しまくり200億QPを稼ぎ、莫大な資金を手に入れた頑張り屋たちだ。

 

「残り借金が五万…?これはどういった用途で残しているのだ?」

 

アダム先生が机に座ると、シロコとセリカが隣に座る。そう、そこには不可解な借金五万円の表記があった。それを問うと、ホシノが照れ臭そうに頬をかく。

 

「それはね〜。ええと、んーとね〜…」

 

「ホシノ先輩がね?『借金を全部無くしちゃうと、なんだか寂しい感じがするから…五人分は残しておかない?』っていう験担ぎの為に残してあるの!」

 

「せ、セリカちゃん〜。皆まで言うのは恥ずかしいよ〜」

 

「私達はずっと、私達の覚えのない借金に苦しめられてきました。でもこの五万円は、私達が望んだ借金です」

 

「はい!対策委員会が、自身の決断で背負う決意と覚悟です☆」

 

「ん。私達は、私達であることから逃げない」

 

「あっ…それ…!」

 

「リッカの台詞。…かっこいいから、真似させてもらうね」

 

「喜んで!ガンガン使ってよ〜!」

 

「──そうか。だが、利息がついてしまってはまずいだろう。ここは私に」

 

「先生とは絶対、お金のやり取りはしないよ〜」

   

アダムの提案を、ホシノが神妙な顔持ちで遮る。

 

「な、何故だ?」

 

「金の切れ目は縁の切れ目!先輩も、私達も、アダム先生との縁は切りたくないってこと!」

 

「ん。切るのは爆弾の線だけでいい。ダミー線も混ぜると効果的」

 

「皆…」

 

「アビドス高等学校の建て直しは具体的な輪郭を帯びてきました。でも…カルデアの皆さんとも、アダム先生とも、それで終わりにしたくないんです」

 

「願うなら、これからもずっとお付き合いしていきたいのです☆先生、リッカちゃん。私達の我儘を…許してくださいますか?」

 

リッカは確信する。五人が五人、並々ならぬ絆をアダムに感じている。それほどまでに、彼が彼女らにもたらした功績と恩は、深く強いのだろう。

 

『先生冥利に尽きるッポね』

「ん、ハト発見。ハト肉にする」

 

『助けてェ!』

 

「…あぁ。勿論だ。私は君達の奮闘を、頑張りを、これからも支えていく。これからも、ずっと。先生として」

 

アダムは頷き、彼女達に頭を下げた。話によれば、シャーレの先生として初めて取り組んだ仕事が、このアビドス高等学校の建て直しだという。

 

「これからも…私は君達の先生だ。君達がそう呼んでくれる限り。よろしく頼む。対策委員会の皆」

 

「「「はい!!」」」

 

「えへへ…ずっと一緒にいようね、先生」

 

「ん。ハトを焼いてくる」

『助けてェ!!』

 

(凄いなぁ…学校も廃校寸前、砂漠化が進む地域で、自分達の覚えのない借金、9億もある借金から逃げずに返し切るなんて…)

 

バイタリティ、不撓不屈とは彼女達の為にあるとリッカは確信する。誰もが欠けず、理不尽に立ち向かったこの五人は…間違いなく、最高の生徒達に違いないとリッカは確信する。

 

「リッカ先輩、知ってる?アダム先生って前はこんなに優しい雰囲気じゃなかったんですよ?」

 

「そうなの!?」

 

「はい。『礼などいらん。生徒を助けるのは義務だ』って…硬く怖い印象でした」

 

「それが今ではこんなに…うふふ、今の先生、ノノミは大好きです☆」

 

「う、うへ〜…忘れてほしい…」

 

「あ〜。先生おじさんの真似〜?ちょっとまだ固いかな〜?」

 

「先生。グリフォンの力を借りれば、素早く逃走ルートを確保できる」

 

『この子さっきから銀行強盗の話しかしてないっポ!』

 

「リッカ。今は無料銀行強盗キャンペーン中。リッカにも、はい」

 

(白色の銀行強盗マスク…!!)

 

「銀行強盗したくなったら、いつでも言ってね」

 

「た、多分そんな衝動は起きないんじゃないかなぁ!?」

 

「人は皆、心に銀行強盗を飼っている」

 

(嫌すぎるペルソナ…!!)

 

そうして、和気藹々とした時間を過ごした後に…アヤネが懸念材料を問う。

 

「金銭問題はほぼ落ち着きましたが、後は環境問題の対策ですね…なんとか緑化計画を進めていますが、環境改革は巨額の投資があればいいわけではなく…」

 

「そもそもの話、砂嵐をなんとかしようとして借金が出来たわけだし…迂闊に投資できないのよね…」

 

「ですが、かつてのアビドスを復活させるには地脈や水脈の活性化に、環境気風の対策…稼いだお金が丸々飛んでしまいますね〜…」

 

「流石にアダム先生も殴ってどうにかできる問題でもないよね〜…お金があってもどうにもできないのは歯痒いねぇ〜…だからおじさん、こうしてあきらめムードだよ〜」

 

「…環境、気風…地脈水脈…」

 

「ハト肉はクセがなくて美味しい」

『エリ・エリ・レマ・サバクタニーー!!』

 

 

「──皆!それ…私がなんとかできるかも!」

 

「「「……えっ!?」」」

 

「え、えぇ〜…?リッカちゃん、本当に〜…?」

 

「うん!『環境を元に戻す』ための投資より『環境を護る』ための投資のほうが実益がある!せっかく稼いだお金…有意義に使おうよ!」

 

「リッカ…まさか君は…」

 

「一肌脱ぎます!!カルデアのマスターとして…夏草昇陽学園の生徒として!!」

 

リッカには秘策があった。そう──

 

今の彼女は、全身之神秘であるのだから。

 




リッカ「地区や区画を巻き込まないように…駅や列車線も立て直しやすいように…誰も二次被害を受けないように…」

セリカ「せ、先生?リッカ先輩は何をするつもりなの?」

アヤネ「あの、槍のような…矛のようなものは…?」

アダム「…彼女は、彼女の国の創造神の力を授かっている」

ノノミ「創造神…巫女さんなのですか?」

アダム「彼女はマスターとして、神の祝福に満ちている。…中でも、伊邪那美大神の力とは『國造』。そこが日本であれば万能の力を有する」

リッカ「──よし!……対策委員会の皆の頑張りを、どうか聞き届けて。伊邪那美おばあちゃん!」

アダム「本来ならばアビドスでは発動できない。しかし、日本人であるリッカが振るうのならば…」

リッカ「豊葦原に憂いなく!砂漠よ、枯れし草木よ!恵みと共に甦れ───!!」

アダム「そこは紛れもなく──『日本』となる。つまり、天沼矛は振るわれ──」

ホシノ「お、おぉ〜…!ヘリで見てるんだけど、砂漠が…!」

アダム「豊穣の大地は蘇る…!」

ホシノ「砂漠が一気に、緑になっちゃったよ〜…!」

セリカ「嘘ぉ!?」

アヤネ「水脈計測、地脈計測、気風計算…!ひ、肥沃判定!アビドス地域が、かつての地盤を取り戻しました…!?」

ノノミ「こんな事が…こんな奇跡が起きるなんて…」

リッカ「あくまでこれは、蘇らせただけ。維持するのも、行事を復活させるのも皆のこれからにかかってる」

「私──努力は絶対、報われてほしいと思ってるから!これまでの皆の頑張りと、これからの頑張りへの餞別だよ!」

アダム「……。対策委員会は本格的に、高等学校再建に着手できそうだ」

「その為に──今日は柴関らーめんで会議をしよう!」

セリカ「それ!先生が食べたいだけでしょ!?」

ホシノ「〜。リッカちゃん」

リッカ「?」

ホシノ「…ユメ先輩も浮かばれるよ。ありがとね。ホントに…ありがとうね…」

リッカ「どういたしまして!ホシノ先輩!」

アダム「よし皆!グリフォンに乗れ!らーめんタイムだ!」

シロコ「こっちも焼けた」
『ポ』

リッカ「パパポポ様ーー!?」

──後に、『アビドスの奇跡』と称される環境再生の真実は…

五人の生徒のみの、密かなる秘密となったという。

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