人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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りつか「ただいま戻りました」

リツカ「おかえり〜!二人とも、大丈夫だった?」

立香「…うん。りつかはとても強い子だから」 

おっさん「それはそうだ。俺等年長おじさんズよりよほどな」

立夏「おっさんに私を含むな。私は22だ(作家モード)」

りつか「皆、私の先輩に変わりはありませんよ。…さて」

立香「これで皆が、異変を乗り越えた。今は…」

「6番出口。6、7をクリアして…出口の八番に行ける計算か」

『ここからは、全員で出口に向かうこと』

立香「ボードが、消えて…」

リツカ「新しい道だー!」

りつか「参りましょう。大詰めの…ようですね」


あの日のもしも

特異点に巻き込まれた藤丸達。藤丸という善性の存在らしく助け合い、支え乗り越える事が出来、6番出口へと辿り着く。そこは新たなる道であり、今度は全員の行軍となった。

 

「ややこしいが…俺達が異変を乗り越えたなら多少のズレはいいのか?」

 

「いちいち特異点の仔細を考えるのは無駄だ。制作者の匙加減で変わるものを考察するに然り、後付でいくらでも意味を変える」

 

「作家の得意技じゃねぇか」

 

「物語が勝手に紡ぐ予定外と、力量不足の弁明…私は前者を心掛けている」

 

「あっという間だったねー。つっかかることもないし!流石は私達!自己肯定感マシマシ!」

 

「最後まで油断なさらずに。我々に何かあれば、そこで世界は終わるのですから」

 

油断なく、しかし気楽に進んでいく藤丸達。立香も気を張りながら、左手の指輪を見やる。

 

「そうか、マシュと婚約してたんだな。お前さん」

 

「はい!ファーストキスは俺から…」

 

「キャー!あっつ〜い!藤丸時空1幸せなマシュなんじゃかなー!お幸せにー!」

 

「結婚…。私には馴染みのない文化ですが、先んじて祝福を。おめでとうございます、立香さん」

 

「君だってできるよ。いや…出来るようになるんだ」

 

「…。はい。是非ともコンカツ、頑張ってみたいものです」

 

「結婚ねぇ…いずれ飽きる女を一生食わせる文化をよくもまぁ飾りつかせるもんだ」

 

「筆と紙より魅力的な女性がいれば会ってみたいものだな」

 

「楽勝じゃねぇか」

 

「マシュ…。友だちがまた増えたよ。君をまた抱きしめたい…」

 

「……………」

 

「あら?作家さんジェラシー?」

 

「アホか。私にとってマシュは優秀なマネージャー兼アシスタントだ。…いや、なんでもない」

 

立夏が咳払いし、歩む。目付きが鋭いのは異変を見逃してはならないからだ。

 

「悪趣味たっぷりの特異点だ。このまま終わらせるまい。何か必ずあるはずだ」

 

「蜘蛛とかやめろ、マジでやめろ。本当にやめろ」

 

「虫嫌いなんだ、おじさん」

 

「ちげぇよ。マジで洒落にならねぇんだって。オル…」

 

その時。

 

「藤丸!無事だったのね!」

 

全員の時が、止まった。

 

「良かった…!心配したのよ!カルデアから急にいなくなったって聞いて、慌てて探しに来たんだから」

 

見知った声。もっと聞きたかった声。

 

「────あ」

 

「何よ、あんたたち。幽霊を見たような目をして。私よ?オルガマリー・アニムスフィアよ?初対面じゃないでしょ?」

 

カルデアスに呑まれた/地球外生命体を討ち果たすために消えた、初代所長。

 

「私がいなくて不安だった?そうよね、無理もないわ。でも大丈夫よ。もうあなたは一人じゃない。助けに来たわ!」

 

「───クソが。何処まで悪趣味なんだ」

 

おっさん立香が、吐き捨てる。これ以上なく悪辣で、これ以上なく残酷だ。

 

「ほら、帰りましょう?ここは正しい出口からしか脱出できない。私が既にルートを確保したから!感謝してくれていいわ、出来る女でしょ?」

 

「所ちょ──」

 

「会話するな、藤丸。…引き返すぞ」

 

作家立夏が引き止める。そう。わかりきったものだ。彼女は異変だ。彼女は既に。

 

「ど、どうしたのよ…顔が怖いわよ?そんなに恋しかったの?」

 

彼女は既に…カルデアスに呑まれ消えたのだから。ここにいる藤丸は全員経験してる。

 

「オルガちゃん…こんなの無いよ、あんまりだよ…」

 

「…………」

 

「…はぁっ、はぁっ…はぁ、はぁ…!」

 

見捨てねばならない。無視せねばならない。異変を見つけ、引き返さなくてはならない。

 

「ほら、私だってマスターよ?一緒にやってきたじゃない。私とマシュと、ロマニと、あなたで。これからもそうでしょ?私達は仲間で──」

 

「っ─────」

 

「と、友達…なんだから…ね?」

 

「──あぁあぁぁ…………っ…!!」

 

立香は耐えきれず崩れ落ちた。それは、自分が初めて『助けたい』と願い『届かなかった』相手。

 

「ちょ、ちょっと。なんで泣くのよ?不安だったの?もう…そうよね、まだ子供だものね。ほら、ハンカ…」

 

「近付くな」

 

「!?」

 

「私達に近付くな。…行くぞ、藤丸」

 

立香を助け起こし、オルガマリーに藤丸達は背を向ける。

 

「え…ちょっと!どこに行くの!?」

 

(あれは異変だ。オルガマリーはもういない。私達の知るオルガマリーはもう)

 

「そっちは違うわ!ねぇ、どうしちゃったの!?」

 

(ごめんなさい、ごめんなさい…!オルガ、本当にごめんなさい…!)

 

「藤丸!ねぇ、ねぇってば!私、怒らせるような事しちゃったの!?」

 

(胸糞悪ィにも程がある…いい加減にしやがれ…!!)

 

「行かないで、戻ってきてよ!どうして、なんでなの!?」

 

(所長…!オルガマリー所長…!)

 

「そりゃあ、初対面では悪印象しかなかったかもしれないけれど…!私だって、私だって皆となら…頑張れるって思ったのに…どうしてなの…!?」

 

異変を見つけたら、引き返すこと。正しい道に進むなら、振り向く事は許されない。

 

「どうして……私はいつも、上手くできないの…皆の望んだようにできないの…どうして皆、私を…」

 

「─────っ」

 

「私を…助けてくれないの…?」

 

「──あぁあぁぁっ!!」

 

瞬間、おっさんが駆け出すのを作家の立香が寸でで引き止めた。

 

「やめろ!立香達の苦痛を無駄にする気か!」

 

「離せ!離せよ!!さんざん向き合って来ただろうが!さんざん助けたいって踏ん張ってきただろうが!!なのに、なのによ…!」

 

「っ、ううっ…!」

 

「なんで…!泣いてるダチを見捨てなきゃいけねぇ…!見捨てなきゃ前に進めねぇんだ…!!」

 

「……それが、私達が挑んでいる特異点なのです」

 

「…!!」

 

「報いたいのなら、進まねば。報いたいのなら抗わねば。彼女に、破滅の片棒を担わせぬために」

 

りつかの言葉に、おっさんは力尽きたように項垂れる。

 

「……畜生め…っ」

 

「誰か……私を認めてよ……皆の期待に応えようと、私はずっと…」

 

「…行くぞ」

 

(!……唇から、血が…)

(彼も堪え、怒っているのです。このような手段を用いた特異点を)

 

全員は、オルガマリーを置き引き返す。そうすることで、正しき場所に戻るために。

 

「藤丸…マシュ…ロマニ……そんなにも…」

 

「……!!」

 

「そんなにも……私のことが、嫌いなの…?」

 

────七番出口。

 

「あああああああっ!!!」

 

力の限り、藤丸は拳で壁を殴りつけた。

 

「畜生!畜生!!くっそぉおぉぉっ!!」

 

悪辣な特異点だった。藤丸は、最善を目指し戦ってきた。最高でなくとも、彼にできる事は行ってきた。

 

見捨てるべきものを見捨てず、助けられるものを命を懸けて助けた。そんな彼等に、特異点は『見捨てる』事を強要した。

 

いつものように助けたいのなら好きにするがいい。永遠に囚われたいのならば。

 

所詮、自身の身が危うくなれば伸ばした手を引っ込めるのがお前達の本性だ。

 

なんという偽善。なんという独善。なんという、自己満足の善性。

 

泣いて助けを求めた相手を見捨てたお前達が『善人』と呼ばれることへの嘲笑。

 

その悪辣さが…この出口へと満ち溢れていた。

 

「……幻や幻覚の類だ。気にすることはない」

 

「……割り切れないよ…そんな風に…」

 

「割り切るしか無いのです。世界を救うためには」

 

「……立派だよ、お前さんは。おっさんには、できねぇわ」

 

「っ……く、ううっ………う………」

 

「ただ…皆さんは既に精神的に勝利しています」

 

「え…」

 

「犠牲に涙出来る。悲しむことが出来るなら。あなたたちの心は変わらず美しいままなのですから」

 

そこには、精神的弱点となる涙と怒りを排された少女の悲しい笑みがあった。

 

「間もなくゴールです。行きましょう」

 

四人の嘆きを、それでも前に進めるために。

 

少女は、鉄面皮を気取り歩む。だが…

 

「…目、真っ赤だよ。りつかちゃん」

 

彼女の心は、泣いていた。

 




七番出口

おっさん「………」

リツカ「ほ、ほら。あれは異変で私達をデバフるためのものだから!」

立香「…………」

立夏「マシュの事、大好きだな」

立香「はい。オレ自身よりずっと」

立夏「そうか。…マシュがいない人生を考えたことはあるか?」

立香「いえ、ありえないです」

立夏「だろうな。………」

立香「何か…?」

立夏「いや。……まさかな」

りつか「出口です。異変はありませんでしたね」

リツカ「いよいよ八番出口だね。…ゲロキツだった…」

おっさん「ブーディカに抱かれて寝てぇ」

りつか「これで…。…!?」

そこに書かれていたのは。

『0番出口』

立香「0番出口…!?」

おっさん「何故だ!?異変なんてなかったろ!?」

リツカ「もしかしてアタシ、見落とした!?うそ、どこで!?」

りつか「落ち着きましょう。これもまた異変…!?」

立夏「ああっ、くそ……!!気付くのが遅かった!」

立香「立夏さん!?」

立夏「異変はあったんだ。異変が無い場合は引き返すな…異変が無い通路を用意したのはとんだ罠だ…!」

おっさん「分かるように言え!」

立夏「……立香、お前はマシュと一心同体だな」

立香「そ、そうありたいと常に考えています」

立夏「マシュのいないお前は考えられないな?」

立香「は、はい」

りつか「─────!!」

リツカ「な、なに?どゆこと?」

立夏「……異変は、お前だ。『藤丸立香』」

立香「──オレ?」

立夏「この特異点は…お前を異変扱いしている。『マシュが傍らにいないお前が特異点に存在しているのはおかしい』というロジックで。五時間話をしたな?」

立香「は、はい…」

立夏「お前はマシュといつでも共にあった。マシュを誰よりも愛していた。辛い旅も、マシュとより強く繋がれたから乗り越えられた。──逆に言えば『マシュがいないお前は存在が成り立たない』」

立香「─────」

立夏「お前が単体で引き摺り込まれた時点で、私達の負けだ。……マシュがいないお前は先のオルガマリーと同じ…死人と同じなんだ」

…最愛の存在が消失した今、生きていることはおかしい。

故に──『藤丸立香』のみがいる限り、絶対に八番出口には辿り着けない。

「────────」

…マシュのいない自分が、どれだけありえないか。それを突きつけられ理解した立香は…

呆然と、尻餅をついた。

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