ゴルドルフ「おぉ、藤丸!こんなところにいたのか!心配かけおって、バカモン!」
立夏「わかりやすい異変だな。助かった」
立香「…!」
立夏「常識的に判断しろ。何故わざわざゴルドルフが一人でここにいる?」
立香「…それは…」
立夏「生きて帰りたければ、まやかしの救いに縋るな。得てして人生の成功とは、苦難と苦痛の果にしか無い」
ゴルドルフ「立香、どうした?…もしや、そいつに囚われているのだな!」
立香「え…」
ゴルドルフ「少し待っていろ、今助けてやる!必殺の鉄拳魔術!ゴッフパンチ・アングリー!!!」
「さぁ、走れ!ヤツは異変だ!」
立香「うわぁぁぁぁ!!」
「逃げるな貴様ァァァ!ゴッフパンチ!ゴッフパンチ!!ゴッフパンチ!!!」
八番出口特異点。二人の藤丸が懸命に走り命の危機より逃げおおせる。その危機とは背後に迫るゴルドルフ・ムジーク。鉄拳を振り回し、命を潰さんと迫りきているのだ。その様子は、彼の人柄を知るものほど悪夢に見えるであろう。
「まさかゴルドルフ所長まで出てくるなんて…!」
「別段驚くほどでも無いだろう。もともとアレのしょうもないハニトラ被害のついでにカルデアは機能を停止したのだから」
立香に対し、作家の藤丸のゴルドルフを見る目は冷ややかであった。その目は、おおよそ味方に向けられる様な目ではない。もっと…敵を見るような剣呑なものだ。
「藤丸さんは…ゴルドルフ新所長の事、お嫌いなんですか?」
「嫌いも何も、コヤンスカヤやラスプーチンを誘致し、カルデア職員の仲間達が多数死ぬきっかけになった男だぞ?友好的になる理由がどこにある」
吐き捨てるように言う藤丸立夏。彼の表情には、憤りが浮かんでいた。
「マシュが、ロマニが、オルガマリーが、ダ・ヴィンチちゃんが取り戻した平和を壊すアリの一穴になったのがあの男だ。どれだけ友好的に語りかけようが、どれだけ共にいようがヤツの行為で死んだ者や被害者は永遠に帰ってこない。異星の神や、クリプター共…いや。全ての黒幕を俺は許す気はないのさ」
「藤丸さん…」
「突然だが、俺のミステリー著作はまるで泣かず飛ばずでな。代わりに片手間に書いた歴史考察や奇譚、ライトノベルは大ヒットだ。世間では、現代のコナン・ドイルと呼ばれているらしい」
コナン・ドイル。望みの重厚なSF小説がまるで売れず、小遣い稼ぎに書いたシャーロック・ホームズシリーズが驚天動地の大ヒットを飛ばした作家。彼はそう呼ばれているのだという。
「カルデア職員の皆は、売れない方のミステリー著作を有難がってくれてな…。それは俺の書きたい方の作品だったし、カルデアの数少ない楽しみとも言ってくれた。特異点やサーヴァントの皆をネタにした新作を、たくさん書き下ろしたものさ」
「……その、皆さんは…」
「殆どが死んだよ。あの日、カルデアが凍結した日に。オプリチニキの部隊に、カドックに、ゴルドルフに、コヤンスカヤに、異星の神に」
取り戻した平和が消え去り、星は漂白され、希望の道筋が見えぬ戦いに放り出された。日々、疲弊していくノウム・カルデア。もういない職員達。
「……亡くなった一人一人に、俺は著作を書き下ろす約束をしていた。一人一人のカルデアの活躍を、その人物の視点で書き上げてやると」
「………」
「皆死んだ。意味も解らず、理由もわからずに殺された。地球は漂白されてなにもない。出版社も編集も、読者もいない。作家の存在価値はもう、どこにも無いも同然になってしまったわけだ」
立夏の声音は寂しげだった。
「俺は…誰かに読んでもらうために作品を作っている。作家の喜びは、何か解るか少年」
「……読んでもらえること、ですか」
「そうだ。どうあれ、なんであれ、自分の生み出した世界観を、他人に受け入れてもらえること以上の喜びはない。一人では決して得られない、相互理解の喜びだ。俺はそれが好きで作家になった。紙と文字を通じて、人は互いを理解し得る。カルデアでは、俺はそれを実感していた」
走りながらも、思い返す藤丸。
「平和な時代で……マシュは自分なりの物語を描くはずだったのに。また、理不尽な世界単位の殺し合いに逆戻りする羽目になった。それのきっかけが、アレだ」
「ゴッフパンチ・アイロニー!!!」
「世界の未来を取り戻したら、必ずや責任を取ってもらう。そのために彼を生かしているし、所長とも呼び従っている。故に、あんな異変に情や躊躇いなど持つはずもない」
それは、カルデアの皆への深い親愛の裏返し。彼は作家として、マスターとしてカルデアの皆を重んじていた。
あの日、カルデアは壊滅した。職員は殺され、ダ・ヴィンチちゃんは退去し、カルデアスは凍結した。功績が、何もかも文字通り白紙になった。その一端になったゴルドルフを、立夏は深く嫌悪していたのだ。
「…でも」
しかし、藤丸は理解していた。彼もまた、藤丸立香だと言うのであれば。その根底が、情深きものであるならば。
「見捨てることだけは、しなかったんですね」
「…!」
彼が今、白紙となった地球で戦っていると言うのなら。まだマスターとして、奮起し戦っているのであれば。彼がゴルドルフを、所長として呼んでいるのであれば。
「嫌いな相手でも、受け入れがたい相手でも。そんなゴルドルフ所長を……あなたは、助けたんですね」
用済みであった筈のゴルドルフは取り残され、懺悔と共に震えていた。誰とも聞かせるべきものじゃない叫びを、叫んでいた。
「結局オレやあなたは、助けたい相手を選ぶなんて器用な事ができない。目に届いて、手が届くのなら助けてしまう。いや…助けたいと思ってしまう」
「………」
「良かったです。厭世的で、作品第一の人かなとも思ったけれど…あなたはとっても、お人好しだ」
そもそもの話、彼が冷淡なのは口だけだ。カルデアに来てからはマシュの為に、職員の為に、ついでとはいえ世界のために戦った。
彼が憤っているのは、救われた世界が無になった事。そこにかけられた全てが潰えてしまった事。死ななくていい命が、数多消えてしまったこと。
「こんな事、余計なお世話かもしれない。だけど…」
「……」
「ゴルドルフ所長のこと…ちょっとでもいいんで認めてあげてください。死ぬほど後悔してますし、魔術師以外の事、全部できるんですよあの人」
立香の言葉に、立夏は思い返す。
「…頼んだ覚えのないサンドイッチにコーヒー、仕事部屋にオーディオが追加されていた事があったな」
なんのことはない。カルデアの壊滅を最も気に病んでいるのは誰なのか。軽率な行動を悔いているのが誰なのか。少し考えれば理解が及ぶことだ。
「…この特異点、見たくもない物を見せられるのが厄介だが……その分、見なければならないものを見つけられるということか」
「おじさん立香もリツカもそうでした。悪性情報だというならば…向き合ってみれば昇華できるのかもしれません」
「余計なお世話には変わり無いがな。カウンセリングは強制されるものではないだろう」
そして二人は、パネルボードへと引き返す。そこは、異変に関してのボーダーライン。
「引き返した、という事でいいだろう。どうだ?信頼できる相手の姿をした輩に命を狙われる気分は」
「死ぬかと思いました…ゴルドルフ所長は癒やしだったんだなって…」
「それは何よりだ。後でその感覚を詳しく…」
すると、ゴルドルフと立夏は目が合う。立夏は静かに目を細め、ゴルドルフの様子を観察する。
「…藤丸」
それは幻覚のはずだ。異変のはずだ。ならばこそ、それはあり得ない。
「すまなかった…」
都合の良い本心の吐露など、安易な和解などあり得なかった。
「……………」
いや、それはもしかしたら自分自身の心の在り方やもしれない。もう何度も異聞帯を共に乗り越えた彼を…仲間として。
「…今更、何を」
もうすでに認め、信じていることを自分自身が受け入れるべきだと、伝えられているのかもしれない。
「異変扱いされている事が、俺達の全てだ」
その様なお人好しの自己満足などで救えるものはない。そう断じながらも…
「……うまい間食と、紅茶を期待している」
怨敵、不倶戴天の存在に吐き捨てるものにしては。
振り向き歩く立夏の言葉は…優しきに過ぎるものであった。
りつか「おかえりなさい。問題はありませんでしたか?」
立夏「最後の仮定は実証された。後はお前だけだ」
りつか「そのようです。さぁ、立香さん」
立香「は、はい!」
りつか「若輩の私への激励、お願いしますね?」
立香「が、頑張ります!」
残る、突破すべき異変は───
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