人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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りつか「立香さん、ご機嫌よう」

立香「あ…りつかちゃん…」

りつか「かしこまらないでください。あなたのほうが歳上なのですから。…異変を二つも見抜いた事、称賛をお受け取りください」

立香「そんな、俺はただ…」

りつか「お辛かったでしょう。私は皆から見れば若輩、察するしかできませんが…」

立香「…辛いのは、みんな一緒だよ。君だって、俺には背負えない重荷があるはずだ」

りつか「いいえ、私はちょっと違います」

立香「え…」

りつか「自分が背負うと決めた荷物を、重荷とは言わないでしょう?」

立香「……は、はい」

(リッカみたいな子だ…凄い…)

りつか「我々の中で、あなたは唯一マシュを射止めた方です。その気配りを見込んで、お願いが」

立香「は、はい」

りつか「皆様と…交流を重ねていただきたいのです。無論、私も含めて…」







人類最後の偶像

「えっ!私とお話したいって!?うそ、本当に!そんなフランクに!?やーん、感激〜!!ハイヨロコンデー!!」

 

幼きりつかが伝えた事。それは、率先したコミュニケーション。全員が成功しなくては辿り着けない場所があるというのなら、それを乗り越えることができるのは個々のコンデションや意気込みだとりつかは言う。

 

しかし、立夏はミステリーのネタの編纂やマルチバース問題にかかりきりであり、おじさん立香は虚ろな目で電車線を見つめておりまともな統率は望めない。故に、彼女は立香に緩衝材の役割を求めたのだ。

 

「皆様、良いお方です。私を子供と侮らなかったので」

 

(本当に六歳なのか、彼女…)

 

そして意を決して対話に望んだのが、アイドルのリツカ。全く動じずメイクやダンス練習、発声練習に勤しむ彼女から距離を縮めようと臨んだのだ。

 

「マシュへの愛情、バッシバシに伝わったよ!私も分かるよ、ファンの皆の熱い気持ち、配信でもライブでも受け取ってるから!お熱いノロケご馳走様ー!ヒューヒュー!」

 

「あはは、すみませんでした本当に…。リツカさんはアイドル、なんですよね?」

 

「そだよー!オーデション受けて、事務所に入って、力強くでセンター入って、ユニット組んで、皆を幸せにする仕事に全力投球してるんだ!」

 

「アイドルが…皆を幸せにする仕事なんですか?」

 

「そうそう♪これはね、私の持論なんだけど。幸せって探すものじゃなくてさ。幸せは『ある』って気付くものだと思ってるのね?」

 

幸せへの持論が、リツカは特殊であった。幸せになりたい、幸せでいたい。そうではない、ちょっと違うとリツカは頷く。

 

「結婚しようがしてなかろうが、金持ちだろうが貧乏だろうが、ブスだろうが美人だろうが、完全に不幸や苦しみなんて消えないじゃない?それぞれの立場に、嫌なことや苦しみとかあるじゃん?」

 

「…確かに…」

 

「それはさ、近くにある幸せを見逃していて、見落としているからだと思うんだ。そこにある幸せが、幸せだと気づけていないから幸せをもっとと追い求めちゃう。不幸ばかりが目についちゃう。私はそんな、皆が気づいていない『幸せ』になりたいの」

 

リツカはアイドルとして、あらゆる他者を隔絶していた。パフォーマンス、歌、ダンス、美貌。それら全てを、血の滲むような努力で磨き上げた。

 

ならば何故磨き上げられたのか?それは自分が少しでも、皆が気づいていない幸せを見つけられる星になりたいという願いからだ。有名になりたい、チヤホヤされたい、お金持ちになりたい、夢を叶えたい。そんな思念は雑念とばかりに、彼女はアイドルの純度が極まっていた。

 

「私は、皆が気付いていない幸せを見つけてほしいし、皆の細やかな幸せになりたい。女がキラキラできる時間って、めちゃくちゃ短いの。すぐに老いて、誰も見向きもしないくらいになっていく。そうなる前に、私は誰かに何かをしてあげたいって考えたんだ。それならもう、アイドルしかないじゃんって!」

 

「愛情活動を、見出したんだ…」

 

「そうそう!下を向きがちな人や、辛い気持ちが多い人達の幸せになりたい。私の幸せは、そんな人達を笑顔にすることかなって思ったら、ね。アイドルとマスターやってた!」

 

故にアイドルとして、マスターとして戦い抜いた。ファンの生きる世界がなくばアイドルは立ち行かず、平和な世界でなくばアイドルは存在できない。

 

「まぁ………世界が真っ白になっちゃったのは堪えたけど……でも、まだ希望は捨ててないよ!まだ、私のアイドル道は途絶えてないし!やるだけやってみせなきゃ!」

 

その時、藤丸は見た。救った世界が、再び漂白された事実に輝いていた彼女の目が深く深く濁った事を。

 

今度こそ、アイドルとして生きようと決めた彼女が、世界を…いつか世界や文化を超えるアイドルになりたいと信じた少女に世界を剪定させる地獄。

 

「…そうだね。その通りだ」

 

最早彼女は彼女の為に生きていないのだろう。たくさんのファンの未来と幸福を、取り戻すために。

 

才覚はあっても、やはりリッカのような強靱極まる意志と覚悟は万人に望むべきものじゃない。彼女は崇高で、星のように輝く…普通の女の子なんだと。

 

「必ず、ファンも世界も帰ってくるよ」

 

「…!」

 

「未来がどっちになるか解らないなら、、良い方になるよう考えよう。オレの友達が、教えてくれたポジティブシンキングだ」

 

立香は、励まし…というより気の持ち方を伝授した。塞ぎ込んでは世界はうまく進まない。結局、感じ方は自分次第だ、

 

「きっと君の頑張りは届いているし、通じてる。世界はきっと…君を待ってるよ」 

 

「藤丸君……」

 

「抜け出そう。この特異点を。君がいるべき場所はこんな寂しいホームじゃない。きっと、みんなが憧れるステージのセンターだ」

 

稚拙な言葉で、言霊など望むべくもない。たんなる励まし以下の声掛け。

 

「……うん!ありがとう!私、絶対ステージに戻るよ!皆の待ってるステージに!」

 

蓋を開けてみれば、彼女も不安だったのだろう。彼女の笑顔が、輝きを増したように見えた。

 

「実は私ね、カルデアでも笑わせたい人がいっぱいいるんだ」

 

「笑わせたい人?」

 

「うん。マシュやえっちゃんはね、アイドル活動一緒に始めたらいっぱい笑ってくれたの。一緒にユニット組んだりもしてる。…笑わせたいのは、サーヴァントの皆とか!」

 

「えっと…アサシンのエミヤとか?」

 

「よくわかったね!後はヘシアン・ロボとか、エミヤオルタとか…そういう、ちょっとでも笑ってほしい相手とか!そのために、日々を懸命に生きてアイドルやってます!」

 

それらは、やはり並々ならぬ存在に代わりはない。最早いつ笑ったかも解らない存在を、彼女は幸せにしたいという。

 

「サーヴァントの皆に、力を貸してくれた皆に…ちょっとでも、記憶に残ればいいなって。そのために、ね!」

 

「…うん。素敵だと思う」

 

そう、陳腐な返しだったとしても。それが立香の本心だ。

 

彼女はアイドル、偶像や触れ得ぬ星としての生き方を…普通の女の子の人生のすべてを掛けて全うしている。

 

それはまさに一番星。他者を輝かせ自分は誰よりも高くあるアイドルそのものであったのだと、彼は受け取ったのだ。

 

「よぉし、やる気出てきた〜!!ちょっと通路行ってくるね、私!」

 

「え、いきなり!?」

 

「今ならきっと上手くやれるって感じがするんだ!立香君のおかげ!ありがとうね!必ず突破してみせるから!」

 

そう手を振り、出口へ駆けていくリツカ。その後ろ姿は、自信と確信に満ちたもの。

 

「…幸せは気付くもの、か。マシュとの夫婦生活に絶対忘れない言葉にしよう」

 

彼女の威風に充てられ、決意を新たにする立香。そこにりつかが現れる。

 

「ありがとう。これできっと彼女は見抜きます」

 

「見抜く…異変を?」

 

「はい。まやかしの理想に逃れることは無いでしょう」

 

そう告げるりつかの表情は……

 

「我々は、人類最後のマスター。何をするべきかは、わかっているはずですから」

 

静かな、確信に満ちていた。




リツカ「さぁ!なんでもこ、い……」


アサシンエミヤ「やぁ、リツカ。元気かい?」

リツカ「!!」

エミヤオルタ「お前の歌、素晴らしいな。つい…聞いていたら笑みがこぼれたよ。ありがとう」

カルナ「オレも、毎日聞きながら練習したところ、笑顔が自然に出るようになった。お前のお陰だ」

リツカ「──────」

───あぁ、これは異変だ。

「──そっか。私のおかげかぁ…!」

──だって、私が皆を笑顔にできる日は決まっている。

「えへへ、こちらこそ…ありがとう!」

それは、未来を取り戻した日。

だから…引き返さなきゃ。

「皆が笑顔で、私凄く嬉しいよ!」

私がいるべき場所は…

誰もの未来が奪われた、あの白い地獄なんだから。か

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