紅閻魔「はい、イザナミ様一行貸し切りでち…ですね。承りました。毎年、いつでも閻魔亭をよろしくお願いしますでち」
イザナミ「はい、ありがとうございます!日本の文化は一日二日、三が日では味わい尽くせぬ素晴らしきもの故、こうイザナミおばばが腹をスラッシュして楽しむのです!はい!閻魔ちゃんも是非よろしくお願いしましたもう!」
紅閻魔「はいでち!イザナミ様、イザナギ様とは如何様に…?」
イザナミ(スン……)
紅閻魔「!?」
イザナミ「あ、すみません…イザナギという単語を聞くとイザナミスンッてなるので…」
紅閻魔「し、失礼致しましたでち!」
(表面上は冷え切っている体になっているんでちね…)
『極楽也……』
「うむ。良い湯だ。身体の芯より安らぎが染み入る…」
まだまだ続く正月祝。イザナミのおばあちゃんがオールウェイズ正月なので、こうして日本サーヴァントを中心に閻魔亭でのんびりとした貸し切り旅泊が計画されたのである。せっかくなので、将門公と日本武尊は連れ合いとして温泉へとやってきたのである。神気で輝いているのは二人の神格の力であり気の所為ではない。
『時に尊。そなた、あぷりで実装果たされり』
「む…あぁ、藤丸時空のカルデアの話か」
そんな折、兜だけが浮かび上がる将門公の紅い瞳がゆらりとタケルを見やる。そう、2024年においてヤマトタケルがカルデアへ来訪を果たしたのだ。
『めでたき事なり。我、新皇としてそなたを祝う。おめ』
「フッ、痛み入る。まぁあやつは
サーヴァントとしての奥深いところよ、とタケルは将門公のお猪口に酒を注ぐ。むぅ、と腕を組む将門公に補足を付け足すタケル。
「あのタケルは、人を殺め、魔を殺め、神を殺めし荒御魂ではない。オトタチバナにより愛を知り、人を知り、人として…英霊として顕れた側面だ。故にこそ、人の手による召喚に応じ参ずることが叶ったのだ。吾とは、性質が似て非なる。あまりにもな」
『あちらは人。そなたは荒ぶる皇子…なるか』
「そういう事だ。人の手に言い換えれば、神霊…天の英霊としての側面がこの吾。英霊…地に根ざした人の英霊たる存在があのヤマトタケルだと捉えておけば相違無い。サーヴァントとは、一つの英霊を切り分けた歴史の影法師。見取り方、切り取り方で姿形や見え方は如何様にも変わる故な」
日本武尊、神殺しの大英雄にして古代日本というテクスチャを日本列島に貼り付けた神域の存在。細分化すれば、『ヤマトタケル伝説』という逸話と神話そのものが形を成したのがこの日本武尊であるのだと彼は伝える。
『……では、そなたはオトタチバナの事を如何に捉えているか』
将門は、僅かな違和感を口にした。別側面ならば、その折り合いは一体如何なるものかと。
「思い出せんよ。いや……遠き他人事、といった方が正しいか」
その答えは、サーヴァントとして…否。万夫不当の神霊ならではの郷愁の詰まった切なく哀しいものであった。
「吾が思い出し、思い返す事象は全てが血に濡れている。兄弟を殺し、クマソタケル兄弟を殺し、遠征の道すがらのすべてを殺し、やがて神を殺し最後は鳥となった。ただそれのみが、過去として刻まれたのみだ」
『……側面、ならではの欠落か』
「あぁ。オトタチバナという妻はいたのだろう。オトタチバナという伴侶の献身はあったのだろう。だがそれは……吾という無欠の側面には不要だとされたらしい」
神殺しの大英雄。日本における英霊、神霊にすら至った魂。だがそれは、オトタチバナヒメと、その愛が齎した『人』という側面を削ぎ落としたがゆえの姿なのであるという。
霊基に求められしは、神と魔を討ち滅ぼせし究極の武芸。万物平伏す天下無双の神威。そこに在りしは威風堂々たる日本の皇。
それ故に──。オトタチバナヒメがもたらした人としての心、感情、愛。人となった全ては、そこには無いのだとタケルは語る。それは、その在り方はこの日本武尊には不要なものだからだ。
「人の心というものは不確かであり、不完全であり、不明瞭だ。神に至りし魂において、そのような一面は惰弱を招くと聖杯は…人理は判断したのであろうな。吾の中には、妻たるオトタチバナを求める情も、熱もない。後世の…ええと、オリジナルキャラクターの存在を見聞きしているという事が正しいか」
『…神を殺す強さの代価に、最愛の妻の恋慕を抜き取られたか。日本武尊』
「まぁ、妥当な落とし所であろう。吾はあくまで人理の影法師に過ぎん。荒ぶる神殺しの皇として招かれた以上、人としての在り方は望むべくも無いという…当たり前の帰結に過ぎんよ」
酒を煽りながら、タケルは飛びゆく鳥と流れ行く雲を見やる。それは、かつての自分の姿である故に。
「ままならぬと思うか?事実その通りだ。己の位の高さに足を引かれ、人理の危機に召喚にも応じれなかったくらいだ。当事者からしてみれば、神を殺す力など小回りが利かぬ困った肩書よ」
『それでもそなたは願ったのであろう。人の世を守護せんとする英霊の在り方を』
将門公の言葉に、照れ隠しのように苦笑するタケル。それは肯定の笑みであった。
『孤高を気取っていた吾を、気にかける者がいた。騒々しく、喧しく、それでいて誰にでも分け隔てなく慈愛をポケットに詰め込むような大いなる祖母が一人な』
そう、彼に人理を……人間の為に戦うことを勧めたのは他でもないイザナミその人だ。並ぶ者なき大英雄に、憚ることなき母の目線で…大祖母としての立場で彼を導いたのだ。
「力があるならば、力を持つならば、神たるものは懸命に生きる人に寄り添わなくてはなりませぬ。おばあちゃんと一緒に参りましょう…とな。何度追い返しても、あの方は何処までも吾を気にかけた」
誰かを助けるために。肝心要で世界を救う誰かになるために。あなたならきっとそれができる。それが叶う。だから頑張りましょう、妾がずっと支えますから。
その優しく、騒がしく、親身で騒がしい大祖母との懸命な特訓と修行により、神霊日本武尊は、英霊ヤマトタケルとして楽園カルデアに召喚が果たされるように相成った。それは、イザナミの献身が花開いた故の成果でもあると彼はいう。
「確かにこの吾に残るは絶対的な力のみ。人として、タケルとしての人生は有しておらぬのかもしれん。…しかしな、新皇。今はそれで良いと思うのだ」
『ほう…?』
「生前はただの暴力的な力。あらゆる全てを鏖殺するのみの力だったこの神威が……人の世を、現世に生きる者達の未来を切り拓く為の力となる。それは、なんと──」
それはなんと──尊き因果であろうとタケルは頷く。屍を積み上げる戦いではない。人の確執、人の欲望を以ての鏖殺ではない。
人の世を、未来を掴むために力を振るう。神威そのもの、神霊の領域まで積み上がるこの身が、正しき心と願いにて振るわれる。それは、タケルにとって……
「なんと………美しきものだと想いを馳せるのだ。吾の切り拓いた道筋は、確かに日本の今へと続いていたのだ…」
得難き神話の終着点に他ならぬと、将門公へと吐露したのだ。人を救う為に戦えること。それこそが。
それこそが……日本武尊の本懐に他ならぬと。彼は穏やかな胸中を、此処に晒したのだ。
『フッ…。その気持ち、我も深く理解せり』
「ほう?」
『我、祟り蒔き散らす悪霊の側面でなく、日ノ本の…新皇としての守護神として此処に在り。それは紛れもなく、人の願いの恩恵なれば』
「……そうか。我らは共に、人の願いに触れし者等か」
『然り。其処には誇れど嘆き無し。貴様と同じだ、武尊。我が本懐…貴様と同じ志なれば』
日本を生きる者たちを、今を懸命に生きる者達の世界を守護する。それに勝る喜びはないと、将門公は力強く宣言する。
それはまさしく──武尊の口にした本懐と、思念と思想を同じくするものであったが故に。互いは深く共感を得たのだ。
「フッ…なれば、我等に敗北は許されぬな」
『無論也。数多無数の世界を脅かす獣神、許す事能わず』
「あぁ。──塩の牢獄、認めるわけにはゆかぬな」
『然り。我等の全霊を以て、日ノ本と世界の未来と安寧を守護せん』
「共に立とうぞ。我等の愛する民草と…この世界の美しさに誓って」
二人は酒を酌み交わし、決意を新たにする。
神の力を、大いなる偽神に奮い立てると。
そして、日ノ本における魂を守護すると。
「参ろう、新皇」
『轡を並べん、武尊』
賀正にて…高き御霊が決意を新たに猛るのであった。
タケル「善き湯であった」
新皇『りふれっしゅなれば。さて、次なる催しは…』
イザナミ「たーけちゃん!将門君!」
タケル「!」
新皇『大祖母…』
イザナミ「正月なんだから、ちゃんと家族と過ごしなさいな!」
オトタチバナヒメ「もー!タケル、何なの?照れ隠しで正月すら会わないつもり?」
タケル「………!!!」
滝夜叉姫「父上!混浴でもう一お湯浴びませぬか!」
将門『…〜。滝夜叉…』
イザナミ「おばあちゃんは、なーんでもお見通しなんですからね!」
───日本に纏わる全てをその手に収める。
空気の読めない慈愛こそ、伊邪那美命の真骨頂であった。
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