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「ウゥ…ウゥ……!!」
海軍大将は退けられた。リッカ…正確にはアンリマユとアジーカの手によって、海軍最高戦力は討ち果たされたのだ。しかし、サニー号並びに麦わらの一味は完全凍結。ほぼ全滅と言ってもいい状態だった。無力感に、嗚咽を零し続けるルフィ。しかし──
「涙を流している暇は無い。…麦わらのルフィ」
「!!」
「バーソロミュー・くま!!」
二人の前に現れた、七武海『暴君』バーソロミュー・くま。素早くルフィを庇うリッカだが、くまはそれを制する。
「待て、俺は敵ではない。…まさか、誰もなし得なかった禁忌を破るものと、たった一人で海軍大将を退けるものが存在するとはな…」
くまには敵意が存在しなかった。リッカはそれを、対話の龍としての力で看破する。
「あなた…ルフィの縁者を知っている…?」
「解かるか、未知の少女。…そう、俺は革命軍…モンキー・D・ドラゴンの同胞だった男だ」
「!父ちゃんの…!?」
「俺には時間がない。…『ルシファー』が語る様な少女ならば、ここは俺の言葉を聞いて欲しい」
くまの言葉に、リッカは刃を納める。どちらかわからぬ場合はまず信じる。リッカのコミュニケーションの初歩だ。
「今すぐ仲間の皆を解凍しなくちゃ…!!」
「心配ない」
くまの言葉と同時に、シャボンディ諸島が光に包まれる。リッカ達には暖かく、しかし目を潰すほどに眩いそれは…ルシファーの輝き。
「残存していた海軍は今の光で蒸発した…。サタン、いや…ルシファーが捕まっていた億超えのルーキー達を解放したのだ」
「ルシファーが…」
「時間がない。…モンキー・D・ルフィ。お前は肌で味わった筈だ。これが、新世界のレベルだと。そこの少女以外、そのレベルには到達してはいないと」
くまの指摘に、ルフィは押し黙る他なかった。ルフィ達は、リッカがいなければ間違いなく全滅していただろう。
「このまま航海を続けても、お前達は長くはない。新世界を踏破することはできないだろう…」
「……!!!」
「お前達の成長を、新世界は待ちはしない。間違いなく、お前達は偉大なる航路を攻略する事はできない。今のままでは」
「…………………!!!」
悔しげに大地を叩くルフィ。それが事実であると、理解できてしまうが故だ。その圧倒的な格差は、彼自身が一番良く解っていた。
「落ち着け。今のままでは…といった」
「!?」
「お前達には可能性がある。特に…ゴムの身体を持つお前には…。お前はいずれ太陽のように世界を救う可能性を…」
ルフィに何かを見出しているかのようなくまは、端的に事実を説明する。
「俺の能力は、触れたものを飛ばす『ニキュニキュの実』の肉球人間。…この能力で、お前達の力を鍛え抜けるであろう場所に飛ばす」
「!!」
「そこは、俺がかつて娘の為に巡った地だ。一人一人の適性に合っていることは僥倖だった…。決めるのはお前だ。麦わらのルフィ」
「………!」
「賢明な判断を、期待する」
くまはゆっくりと背を向け、去っていく。ルフィには船長として、重大な決断を下さねばならなくなった。
このまま航海を続け、無念にも滅び去るか。
くまの提案を受け、各地で麦わら海賊団のそれぞれが力を手にするか。しかしそれは──
「…ルフィ船長…」
「……………!」
一味の離散。即ち…一旦の『崩壊』を意味していた…。
〜
「「「「「「………………」」」」」」
解凍された一味の空気は、ひたすらに重かった。大将達にまるで手も足も出ず、最新加入したリッカに命からがら救助を果たされたという事実は、皮肉にもより一層一味の面子を傷つける結果となってしまったのだ。
(…私、余計な事をしたのかもしれない…)
本来ならば、純然たる実力不足による壊滅だった。だが今回は、リッカが彼等の窮地を救った形だ。それは即ち、新入りが一味全員の自信を砕く形になってしまったのだと、リッカは恥じ入る。
(やっぱり…一味に余分な人員が入る余地は…)
「お前ら。実力不足を嘆く前にする事があるだろ」
口を開いたのは、ゾロだった。自身の無力を飲み込み、伝えるべきことを伝えろと。
「俺達の窮地と…命を救ったのは誰だ?」
「!」
「助けた相手に気まずい思いをさせるのが…仲間ってヤツの在り方なのか?」
その言葉に、サンジ、ウソップ、チョッパーが調子を取り戻し場を取り持つ。
「リッカちゃん。本当に助かった。すまねぇ、力不足は俺達の問題だったのに…」
「こうして皆が命を拾えたのはお前のお陰だ!なんだよ、そんなに強いなら先に言えよ〜!」
「本当に!死ぬかと思った!ありがとうっ!!」
「あ、私は…その…」
「そうよアンタたち!こんなかわいらしい女の子に纏めて命を助けられるなんて恥ずかしいと思わないの!?ねー、私の大事な妹分ちゃん♪」
「媚だ〜〜!!こいつ媚を売って抱き込もうとしてるぞ〜!!!」
「うっさいウソップ!!あんたが役に立てたのロボット迄でしょうが!」
「フフフ…カルデアのマスターというのは、私達にも負けないくらいの過酷な旅路を経験していたのね」
「ス〜〜パ〜〜助かったぜリッカ〜〜〜〜!!」
「同期としての私の立場が!!ありませんけども〜〜〜!!」
リッカの奮闘を蔑ろにしてしまった自身を恥じれる者ばかりの集まり。麦わら海賊団の一味はそういう人物の集まりであった。リッカは感銘の涙を抑え、頭を下げる。
「皆…!無事で本当に良かったです!!」
「そうだ!これからは俺の語り部リッカに敬意を払いたまえよ負け組の諸君!」
「んだとリッカちゃんは俺の厨房補佐だぞウソップテメェ!!」
「え…私の助手よ?」
「はいはいはいリッカに話を通す際は私を通してもらうからね!用心棒マージンは私が請け負いますから!」
「横暴だ〜〜〜〜!!」
「守銭奴だ〜〜〜〜!!」
「職場にいる嫌な上司だ〜〜〜〜!!」
「うっさいっての!!」
(…護れて、良かった…!!)
理屈抜きに、リッカはそう感じた。鼻の奥を衝く感銘に震えていると、現れる影。
「皆。集まってるか?」
「!ルフィ船長…!」
現れたのはルフィ。船長としての彼の表情は…決心に満ちていた。
「聞いてくれ。おれはバーソロミュー・くまと会って話をした」
「!」
「くまと…!」
ルフィはその場の全員に、くまの持ちかけを説明した。今のままでは、航海は死に繋がるのみだと。
「おれは…船長として皆を護れなかった。リッカがいなかったら、おれ達は皆死んでた」
「ルフィ……」
「だからおれは、おれ達は強くならなくちゃならない。このまま進んで、リッカに頼りきりの航海なんて情けない真似はできねェし、したくねェ。だから──」
ルフィは、決断した。
「麦わら海賊団は…一旦『解散』する!」
「「「「「!!」」」」」
「ニ年だ!リッカがおれ達に示した2年後…!それまで、皆別々に鍛えて!またここで会うんだ!解散した後、リッカに負けないくらいに皆強くなって!!」
言葉には涙が滲んでおり、その判断がどれほど苦渋と無念に満ちていたのかを一味全員が理解した。今はここで、立ち止まらなくてはならない。絆を信じるだけでは、新世界には挑めないのだと痛感したが故の決断。
「情けない船長で…!本当に!!ごめんっっ!!!」
ルフィの謝罪を、一同は声も無く見守る。それほどに、彼の悔恨は深く……。
「大丈夫!!」
「!」
その空気を、彼等が仲間と呼んだリッカが断ち切った。
「ルフィは海賊王になる男で!!皆はその最高の船員だって私は信じてる!!負けずに、挫けずに強くなった人なんかいないっ!!皆は強くなれる!!負けからもっと!ずっと!!絶対に!!」
『ふふ…』
「負けを糧にして!!海賊王と最高の仲間達になってみせろォ!!!!」
リッカの叫びは、仲間としてでもあり、漫画の憧れの海賊たちへの心からのエールだった。
こんなところで終わらない。ルフィは、皆は、夢の果てへと辿り着ける皆だから。
「リッカ…」
「そうだぜルフィ!一人じゃねぇ、皆で強くなって乗り越えるんだよ!!」
「アンタが泣くなんて…似合わないのよ!バカ!」
「言いたいことはリッカが言った。後は…俺ら次第だろ。船長」
「────うんっ!!!」
ルフィは仲間達の激励と絆を信じ──深く深く頷く。
「リッカ!」
「はいっ!」
「必ず!必ず追いつく!だから…だから!信じてくれ!!おれ達を!!」
「もちろん!!」
「フフフ…私のことも、ロビンでいいわ?」
「是非ともサンジと呼んでくれ。距離が近くていい」
「変わらずキャプテンウソップと呼ぶように!!」
「えっと、俺も!チョッパーでいいぞ!!」
「〜〜〜〜!はい!!」
再起を信じ…リッカは、涙と共に笑みを浮かべるのだった──。
そして───。
くま「覚悟はいいな」
一同「「「「「「おう!!!」」」」」」
ブルック「皆さん!!必ずやまた!!」
ブルック──
フランキー「スーパーなパワーアップに期待しとけよお前らァ!!」
フランキー──
チョッパー「寂しいけど…!俺!頑張るから!!」
チョッパー───
サンジ「風邪、引くなよ。お前ら」
サンジ───
ロビン「必ずまた、逢いましょう。みんな」
ロビン──
ウソップ「俺を信じろ!!神の如くに強くなり不死鳥のように」
ウソップ───
ナミ「ルフィ!!───信じてるから!」
ナミ───
ゾロ「特に湿っぽい言葉はねェ。またな」
ゾロ───
メリー『ルフィ。船は僕が』
リッカ「ルフィ…!」
ルフィ「ありがとうな、メリー。大丈夫だ。必ず…必ず!!戻って来るから!!」
リッカ「ッ゙────」
…モンキー・D・ルフィ。
リッカ「皆…………!どうか、無事で……!!」
くま「魔王ベルフェゴールも付けると言っていた。藤丸リッカ。ルシファーから話は聞いている。カルデアという組織に、搬入してほしいものがある」
リッカ「くま…?」
くま「意識を抜き取った…俺の身体だ」
リッカ「!!」
この日──
麦わら海賊団は、リッカとメリー…サニーを残し離散。
『解散』を喫する事となった。
涙と理不尽の別離ではなく──
再会の誓いと、希望と共に。
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