人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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アスモデウス【あら、マモン。何をしているの?】

マモン【世界中の未発見の財宝や鉱山、金脈を指し示した地図を書いてるのよ。こいつをカルデアに渡せば一気に財政難からはおさらばでいい組織運用ができるぜ】

アスモデウス【……まるで遺産相続のようね】

マモン【まさしくそれよ。どうやら俺等は魔王征伐に費やされるみたいだからな。遺すもんは遺さねぇとなァ】

アスモデウス【…そういえば、あなたはサタン様につられて堕天した側の存在だったわね】

マモン【おうよ。思えば、あの方だけがオレを満たしてくれたのさ…】


強欲の末路

『贅を尽くして何が悪い。欲望を晒して何が悪い。金銀財宝こそが我等を満たし、我等を救い、我等を導くものだ!』

 

マモンが天界にあった頃、彼は何よりも財宝、贅沢、欲望を愛した。心に満ちる即物的な欲望を肯定した。神の威光よりも財宝を崇拝した天使であった。拝金主義、欲望の化身。それがマモンたる者の本質。

 

それでいて彼は、何よりも実利と実力主義であった。天使の在り方、神の存在の矛盾に常日頃疑問を懐いていた。

 

『神は完全で完璧だという。ならばそれは何故だ?何が神の完全と完璧を証明する?神の完全とはなんだ?』

 

ジブリールに咎められながらも、彼は神の完全と存在の意義を問うた。神が、それから生み出されたものが完全ならば何故自身のような存在が生まれる?欲望に満ちたものが生まれる?

 

『オレの存在は何をもって完全とする?オレという存在が、欲望の化身が生まれた意味とはなんなのだ?神は何故、オレを造ったのだ?』

 

問いながらも応えはなく、問いながらも満足はない。欲望は際限なく広がり、強欲はマモンを焼き続ける。

 

『神よ、答えをくれ!誰でもいい、オレの存在に意味をもたらせ!オレは何故このように生まれた!?』

 

拝金主義、強欲は即ち強烈な自己と自身の裏返し。彼は自我の希薄な天使とは違う、エゴを刻まれた天使だった。故に、魂の渇望は満たされぬ永遠の問いとなって煩悶となる。

 

神は応えない。そもそも、マモンそのものがエラーであり、バグであり、完全な天国に不要なものだったからだ。

 

彼はジブリール、サリエルに粛清され、打ち捨てられた。死を待つ最中も、彼は問うことをやめられなかった。

 

『知りたい。答えが欲しい。オレはどうすれば満たされる?オレはどうすれば答えを得られる?死ねぬ。死ぬわけにはいかぬ。オレは、オレは…』

 

マモンの末期の強欲。手を伸ばしたその渇望は、一人の天使に掬い上げられる。

 

『じゃあ、僕が教えてあげようか。君が満たされる方法を』

 

『!…貴様は…!』

 

天国の端……彼に手を差し伸べたのが、他ならぬ堕天前のルシファーであった。その翌日に、ルシファーは堕天使となる天使達の先頭に立ち天国にて破壊と破滅の限りをもたらしたのだった。

 

マモンもまた、その堕天使の中の一人。天国における神器や神の所有物を強欲のままに強奪した天使として貢献したのだ。

 

 

【さぁ教えてくれ!オレはどうすれば満たされるのだ?オレの強欲は底があるのか!?】

 

ルシファーがサタンと名乗った後、万魔殿をきらびやかに飾り立てた後にマモンは再びサタンに問うた。オレは如何にすれば満たされるのか、と。

 

【金銀財宝、地獄の金脈や財政の実権を握って尚満たされないのかい?】

 

【ああ満たされぬ、こんなものではないはずだ。オレは答えが欲しい!これ程かきあつめ、これ程積み上げて尚何故オレは満たされない!?】

 

それは彼自身の魂の叫びだった。彼は渇望に苛まれていた。食えど満たされず、飲めど潤わず。それは何も持たざるよりも尚苛烈に、残酷に彼をうちのめした。

 

【こんな残酷な話があるか!?オレは全てを持っている!誰よりも贅を尽くしている!なのに微塵も満たされない!】

 

【………】

 

【こんな愚かな話があるか!何も満たされずひたすらに欲望のみを懐くなど!オレは…オレはどうすればいい!?どうすればこの渇望は終わる!?オレはいつになれば満たされるのだ!?答えてくれサタン!お前ならば知っているだろう!?】

 

ふむ、とサタンは頷いた。そして当然とばかりに告げた。

 

【手放しなよ、そんな財宝】

 

【何…!?】

 

【持ってて駄目なら、分け与えれてみればいいじゃないか。ちょうどいい、アダムとイヴの子孫達に分けていこうよ、一緒にさ】

 

…そうしてサタンとマモンは、人間世界にて知恵と財宝を分け与える旅を何度も行った。

 

人に知恵を授け、財宝を分け与え、そして見守る。人間がよりよく欲望と原罪を育てるように。文明を発展させるように。マモンとサタンは、財を惜しみなく人間達に分け与えた。

 

【どう?いらない財宝も少しは使い道ができたんじゃない?】

【…おぉ…】

 

マモンは得も言われぬ感覚を感じていた。自身の溜め込んだ財宝を分けるたび、感謝を告げられるたびに未知の感覚が去来していく。

 

金銀財宝を喪っていくのに満たされていく。感謝と、笑顔と、発展が心を潤していく。自身にあったものが無くなるたびに、消えていくたびに欲望が小さくなっていく。

 

【贅沢はやってもやっても満たされない。でも……自分だけじゃなく、誰かを通じて分け合える事は出来るんじゃない?】

 

サタンはあくまで、望まれたリクエストに応えたまでだ。人間の入れ知恵も、マモンの要望に必要だったから行ったまで。だがそれは、マモンの価値観を完全に破壊した。

 

【分け合えば良かったのか。分かち合えば、欲望は満たされたというのか。こんな、こんな簡単に】

 

思えば天界に彼の渇望を聞くものはいなかった。誰ともその叫びを、飢えと乾きを共有するものはいなかった。彼には、無意味な贅沢と欲望ばかりが溜め込まれていった。

 

思えば、それは天使の戒めとしての役割があったのやもしれない。欲望は醜く浅ましいものと、天使達に示すための反面教師。マモンは哀れな教材だった。

 

だが、天国の奴隷から解き放たれたマモンは知った。下界に、分け与える者達がいれば欲望は満たされる。世界には、自分一人では駄目なのだ。

 

【欲望は…分かち合わねば…。…!】

 

その時、マモンは気づいた。一人では満たされない。一人では渇望は癒えない。

 

【自分探しは終わった?じゃあ、僕は帰るから】

 

ならば、眼の前にいる大魔王は…孤高にして至高の存在はどうなる?自分とは比べ物にならない程の領域にいる存在は?

 

【サタン…いや、ルシファー様…!】

 

彼は知った。ならば、自分が満たしてやらねばならぬ存在とは。

 

大恩ある、孤高なる存在を満たしてやらねばと。マモンはその強欲を、彼に向けたのだ。

 

 

【ルシファー様!これを!】

 

マモンはある日、サタン…いや、ルシファーにそれを渡した。

 

【これは?】

 

それは、プラチナの真球。希少なる白金を、真なる球体に加工したマモン最高の至宝。プラチナを玉石にするという途方もない労力を、マモンは果たして成功させた。

 

【オレはあなたに渇望を潤してもらった!これは感謝と、永劫の忠誠の証だ!オレは強欲の魔王として、あなたに全てを稼ぐことを誓う!】

 

集めて満足するばかりだったマモンは、分け与える事を知った。いつか、彼にもそんな素晴らしい瞬間が来るようにと願った至宝を献上する。

 

【あなたがいつか満たされるその日まで…!オレは永遠に、あなたを助け支えよう!オレの強欲が、尽き果て失せるその日まで!これはその、誓いの証だ!】

 

ルシファーはそれを受け取った。それは正真正銘の真球。何十年も加工した跡の見える、値段など付けられないもの。

 

【……………】

 

彼は自分より美しくないものに徹底して冷徹である。本来なら貴金属など一顧だにしない下らないものだったが……。

 

【マモン】

 

【はっ!】

 

【──ありがとう。大切にするよ】

 

大魔王すらも満足させたい。そのの大罪を剥き出しにした末の白金の真球。それはまさに、強欲の大魔王の全てとすら言えるもの。

 

マモンの財宝の全ては、ルシファーには無価値なものだった。だが、貰ったこの真球だけは…彼にとって、美しいものだったのだ。

 

【─────あなたに永遠の忠誠を!大魔王ルシファー様!!】

 

だが、大魔王の名は伊達ではない。その笑みと、その言葉だけで…

 

傲慢の大魔王は、強欲の魔王を再び満たしたのだから。




マモン【フッハッハッハッ!!】

アスモデウス【何なのよ、もう…いきなり笑ったりして…】

マモン【思い出し笑いだ!!我らの戦い、派手に飾ろう!豪奢に贅沢になァ!!】



ウタ「この真ん丸のキラキラ、海楼石のアクセサリーと一緒に貰って良かったの?」

ルシファー「いいんだよ。…エアへの翼、君への真球」

ウタ「?」

ルシファー「僕にとっての宝物は、君達に持っていてほしいからね」

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