イム『トットムジカを鎮めるか。良い判断だ。アレは厄である。いずれ片さねば安寧はない』
ルシファー「情報が不足してるんだ。何か知らない?かの魔王の楽譜について」
イム『イム、じゃない、うむ。言えることは、あれは古代の負の遺産。かつての民共が悪を押し付ける為に作り上げた生贄』
「生贄……」
イム『ヤツを鎮めるとは、古代の憎悪全てを鎮めるに等しい。ヌシア程の力でも並大抵ではあるまいよ』
ルシファー「そっか……でも、やるよ。ウタが笑顔で、幸せでいられる世界の為に」
イム『…そうか。ならばムーも倣おう』
ルシファー「へ?」
イム『『ウラヌス』を使う』
ルシファー「!?」
【ずっとずっと…昔の話だ。あの時の人間も、喜びの楽譜ももう無いくらい昔の話。オレだけが覚えている、昔の話。ここには…もう、オレしかいないからな】
トットムジカが語った、魔王と呼ばれるまでの話。悪の魔王という称号を掲げるに至った、トットムジカが語る悪の話。リッカはそれを、静かに聞き入った後に口を開く。
「…エレジアでは、あなたは寂しかったんだね。音楽の都で、あなた一人だけが歌ってもらえない音楽だったから」
【!解るのか…!?実は、そうなんだ。オレはエレジアで、ずっとずっと封印されていた。皆がオレを惑い、恐れるからそうした。数多の音楽が集まる中で、オレだけが…】
「ウタの傍に現れたのは、かつて出会った女の子と似ていたから?」
リッカの問いに、トットムジカは頷く。リッカの予想は、過去の少女も恐らくウタウタの実の能力者だったのであろう。そして、トットムジカの力で世界を滅亡にまで追いやった。
【その通りだ。オレを呼んだ小さい女…最後に歌を聞かせてやろうとしたら死んでいた女。歌もお礼も言えずに死んでいった女…。エレジアのあいつは、そっくりだったんだ。だからこそ…】
だからこそ、歌って欲しいと願った。今度こそ期待に応えてやれる。きっとお前の満足する歌を世界に届けてやれる。あの日の続きをしよう。オレとお前の歌劇の続きを。
【世界中が、オレを呼んでいたんだ。あの日のように、オレを呼ぶ声で満ちていた。だから、今度こそ…そう思ったんだが…】
だが、またしても阻まれた。また最後まで歌うことなく、トットムジカは退けられた。そうすることで、トットムジカは確信を得た。
【どうやらオレは…誰にも必要とされていないみたいだ。オレは最後まで歌うことも、歌われることもない。白の楽譜は歌い尽くされていなくなったが、オレはこうしてここに有り続けている。それは、オレは歌われる意味もないという事だからだろう】
「トットムジカ…」
【思えば…オレが歌った数回も、周りに誰もいなくなっていた。オレは…オレが望むか望まないかは関係なく、誰かを傷付ける歌になってしまったらしい】
何度も世界に仇なした上で到達した結論。自分は世界を滅ぼす破滅の歌。そうなりたいと思った事は一度もなくとも、そうなってしまった悪夢の歌。トットムジカは向き直る。
【なぁ、お前…。オレに話しかけてきたのはお前が初めてだ。リッカって言ったよな?】
「うん」
【頼みがある。オレを殺して、楽譜を焼いてくれ。そうすれば、トットムジカって存在は完全に消えてなくなるんだ】
トットムジカから提案されしは、この難題を最も簡単に処理できる申し出。トットムジカ自身が、自らの消滅を望んだのだ。
【薄々解っていたんだ。オレが歌う度、誰かが傷付く。あの女の子も、ウタとやらも、エレジアも、世界も…オレの歌で目茶苦茶になってしまったんだろう。気付くのが遅すぎた。そして、もう取り返しがつかないことにも】
「…………」
【せめて、この世から消えてなくなることで皆の役に立ちたいんだよ。もう待つことにも、歌うことにもオレは疲れた。…恨みも憎しみもない向こう側で、オレは皆と歌を歌いながら過ごしていきたいんだ】
この世に自分の居場所はない。トットムジカの辿り着いた結論は、誰かを愛する歌が辿り着いた結論にはあまりにも無常で悲しいもの。
だが、それでなくてはまた悲劇が生まれる。憎しみが生まれる。それではいつまで経っても、トットムジカの望む歌は生まれない。歌えない。笑顔で楽しい歌はずっと歌えないのだ。
【せめて、いなくなって…皆を笑顔にするよ。オレはきっと、そうすることで誰かを笑顔に出来るんだ】
ピエロの顔は、哀しくても辛くても笑わなくてはならない道化の証。ピエロは人を笑わせるのではない。その愚かさと滑稽さで、人に笑われるのだ。
例え世界を滅ぼす力を持っていても、その力は幸せに結び付くとは限らない。彼は最早、人の負の感情の化身となってしまったのだから。
【話を聞いてくれて、ありがとうな。久しぶりに…誰かと話せてうれしかったよ】
その笑顔は物悲しいものであった。消えること、死ぬことを受け入れた末期の顔。泣いているかのような切なげな表情。死期を悟った悲痛な顔。
「………」
リッカは静かに、彼の言葉を聞いていた。そして聞き終わった後、そっと立ち上がる。
「…トットムジカはさ」
【?】
「トットムジカは…今は、どんな歌を歌いたいの?昔も今も、変わらない?」
リッカは問うた。今まで聞いてきたものは事実だ。だがリッカは、まだトットムジカの心に触れていない。
【オレの?…それは、今も昔も変わらない。皆が笑顔になれる、楽しく嬉しい歌だ】
「死んだら、二度と歌えなくなっちゃうよ?ソレでもいいの?あなたはひっそり消えていいの?」
【…でも、仕方ないんだよ。オレはもう…】
「遠慮なんてしなくていいんだよ。私はあなたの心に触れに来た。あなたの事を、知りたいんだ。あなたの本当の気持ちを」
トットムジカは、リッカの言葉の力強さに揺れ動く。それは人知れず泣いていた彼の本心を掘り起こす。
【…オレは、オレは…本当は…本当は…!】
「うん」
【本当は…!皆で笑顔になれるような歌を、歌いたい…!!】
それは変わらぬ本心だ。生み出された時に聞いた、人々の歌。それがずっと、忘れられなかったから。
【皆で、楽しい歌を歌いたいんだ…!!】
トットムジカの心は、憎悪には染まらない。彼の心は、変わらず正しいものであったのだ。リッカは知る。恥ずべきもの無い者は涙なんて流さないと。
「なら…私が、私達が願いを叶えてあげる。トットムジカ、あなたを寂しさから解き放って見せる」
【!?】
「あなたという楽章を、楽曲を、私達が全部受け止めるから。誰もが疎んだその力を、貴方そのものを…受け入れてみせる!」
リッカは、力強く宣言する。
「存在することは罪にはならない!私達はトットムジカを倒さない。積み重ねられてしまった呪いと、憎しみと、負の感情全部を倒す!ううん、ぶっ飛ばす!!」
【!!】
「だから…その後は。その後はエレジアや、あなたを歌った女の子に力を貸してあげて欲しい。世界を滅ぼす歌じゃなくて、皆と沢山の音楽を護る歌であってほしいんだ」
【オレが…皆を護る歌に…】
「あなたなら出来るよ、トットムジカ。どれだけ寂しくても、哀しくても、滅ぼすことも傷付ける事も望まなかったあなたなら!」
リッカの言葉に、トットムジカは深く深く頷いた。彼女の言葉は、彼に大いに沢山の気付きをもたらしたのだ。
【…あぁ…あぁ!オレはなりたい。今まで傷付けてしまった全てに報いる様な歌に。誰もが幸せになるような歌になりたい。歌でありたい!】
「うん!そのために、私達も全力で挑戦するよ!トットムジカに秘められた、人間の意志に!」
【ありがとうな、リッカ…お前はオレの心を形にしてくれた、最高の人間だ!】
「どういたしまして!絶対悪を倒すしか無い、なんてやったら私だって居場所がなくなっちゃうからね!」
【???どういう事だ?】
「あ、ううん!こっちの話!だから改めて…今度こそ、誰もが望む歌になろう、トットムジカ!」
【あぁ!よろしく頼むぞ、リッカ…!】
リッカとトットムジカは硬い握手を交わす。人々の悪を押し付けられた者の悲しみや苦しみを、だれよりも理解するリッカだからこそのトットムジカとの和解を叶えた。
だがこれは、ある意味では倒すよりも困難な道と言えるだろう。トットムジカの全力、秘められた力のすべてをトットムジカを殺さずに受け止めなくてはならない。
だが…安易な解決でなく、困難な先にこそ素晴らしい結末は待つ。彼女やカルデアは、ずっとそうしてきたのだ。
ならばこそ、彼女は挑むのだ。
財宝を求め冒険する、海賊達のように。
トットムジカ【オレがいるのなら、世界の何処かにアイツもいるかもしれないな】
リッカ「あいつ?」
トットムジカ【『ニカ』って言うんだ。一回だけオレはアイツと会ったことがある。いつも楽しそうに笑う、ふざけながらも愉快なやつだったよ】
リッカ「ニカ…(そんなキャラいたかな…?)」
トットムジカ【聞いたこと無いか?ドンドントット♪ドンドントット♪っていうリズムのドラムを。解放のリズム…面白いやつだったよ…】
リッカ「うーん、そうだなぁ…出来る限り探してみるね!」
(空島のキャンプファイヤーのドラムの音がそうだけど…今度カドックに聞いてみよう!)
そして、カルデアの戦いの方針が決定する。
──トットムジカを奉る【演奏会】として、憎しみを祓う戦いをカルデアは行うこととなった──
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