人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ウタ「コノヤロー!!シャンクスコノヤロー!コノヤロー!!」

ベックマン「…どうやら、本物のウタみてェだな…このキレたらヤバいのは変わってねぇ」

シャンクス「見てねェで止めてくれェ!!」

ヤソップ「いいじゃねぇかお頭!どうあれウタとの再会だぜ!」

ラッキー・ルゥ「アンタは家族に再会してやれよなァ!」

ヤソップ「手心はどうしたァ!?」

シャンクス「う、ウタ!落ち着け!説明する!あれには理由が…!」

ウタ「………シャンクス…」

シャンクス「!」

「…会いたかった……」

シャンクス「……あぁ。俺もだ。ウタ…立派になったな…」

ルシファー「……〜」

ベックマン「あんたが連れてきてくれたんだな。まさか空からとは。あんたは…」

ルシファー「ルシファー。ウタのファンさ。十年前から、ずっと…ね」


あの日の真実

「そうか…あの日から、君がウタを助けて…ウタを支えてくれたんだな…」

 

赤髪海賊団の船に乗り込んだウタとルシファーは、シャンクスと遂に再会、会合を果たす。これがウタと交わした約束…。エレジア滅亡のあの日、何があったのか。何故、突然の別れを迎えなくてはならなくなってしまったのか。それを知るためにウタは生きていたと言っても過言ではない。ルシファーはさの事実を受け止められるよう、彼女を支えてきたといっても過言ではない。十年の歳月を、この日のために生きてきたのだ。

 

「彼女はこの時の為に生きてきたんだ。あなた達と分かれた時の哀しみと辛さを乗り越える強さを、一日一日積み重ねて」

 

「………」

 

「僕はファンとして、彼女をずっと見てきた。9歳の頃からずっと。彼女は今や、新時代を迎えるに相応しい力と資格を有している。ゴードンさんと一緒に…彼女を見守ってきたから」

 

「こんな美少年と…十年!?」

 

「オイオイそいつぁまずいんじゃァねぇの!?」

 

「後でそこの話を聞かせてもらうぞ君!船長許しませんからね!」

 

「親権放棄したくせに今更父親面しないでよね!」

 

(ズーン…)

 

「「「「「お頭ァ〜〜〜〜〜〜!!!」」」」」

 

「親権放棄ってなんだァ?」

 

「ヤソップみてぇなヤツのことだ」

 

「成る程なー!」

 

「手心はどうしたァ…!!」

 

「もう皆静かにしてよ!話が進まないでしょ!!」

 

剣呑な雰囲気はなく、その絆が喪われていないことをルシファーは確かに見て取った。憎しみや怒りというものは存在していないことは、明白だった。

 

「賢くなったな、ウタ…俺は嬉しいぞ…」

 

「…お頭。あの日のウタとはもう違う。ゴードンは約束を守り、こんなにも立派に育ち、ファンもいる」

 

もう、彼女は一人前だと。副船長ベックマンに告げられたシャンクス。深く思案し、思案の沈黙が流れる。

 

「………この日のために生きてきた、か。ウタ…そうか…」

 

「………」

 

「……解った。今のお前には、ここに連れてきてくれたファンもいる。音楽家として、一人前になったんだな。今のお前なら…どんな辛い事実も、真実も。一緒に受け止めてくれる人がいる」

 

シャンクスは決意した。あの日の別れ、エレジア滅亡の真実を…ウタに伝えることを。

 

「ゴードン。ウタにシャンクスが話す時が来たよ」

『…あぁ。とうとうこの日が、来たんだな。ありがとう、ルシファー君…彼女を強く育ててくれて』

「僕たちで育てたんじゃないか、ゴードン。水臭いことはいいっこなしさ」

 

皆が見守る中、シャンクスは口を開く。あの日…ウタが赤髪海賊団の音楽家であることを選び、エレジアを去る前夜。

 

「あの日、お前は…傍らに見慣れない楽譜を見つけ手に取った筈だ。古びた、ずっと前の楽譜を」

 

「…!そうだ、そうだよ…!あたし、手にとった!楽譜!それで…歌った!」

 

「そうだ。それは【魔王の楽譜】。トットムジカと呼ばれる魔王が封じ込められた、エレジアが保管していたものだ。ソイツは…お前の能力に惹かれ、お前に楽譜を詠ませたんだ」

 

「……あの日、最後だから…エレジア中の歌を歌うって決めてたから…じゃあ、私が、トットムジカっていう魔王を…?」

 

ウタは十年で存分に知識と知性を磨き蓄えた。そして、エレジアが荒廃しきっている事への違和感をずっと抱え込んでいた。そして、その時の記憶が余りにも曖昧で、不明瞭であることへの違和感をずっと抱いていたのだ。

 

「…トットムジカは、お前を取り込みエレジア中を荒らし回った。幼少のお前を取り込んだトットムジカは、俺達が総力を挙げて止めにかかった。…結果で言えば、小さかったお前を中核にしたトットムジカは不完全で、なんとか倒すことができた。だが…」

 

だが、その被害はあまりにも大きかった。ウタがウタウタの実の力を使い果たし眠った事も手伝い、トットムジカは寸でのところでエレジアからの進出を阻止された。だが…

 

「…エレジアは、トットムジカに…私に、滅ぼされた…私の軽はずみな行動で、トットムジカを目覚めさせて…」

 

ふらり、と倒れかけたウタをルシファーが支える。彼にとって、ウタの価値はいかなるときも変わらない。十年間、見つめ続けた彼女を、今までと同じ様に。

 

「トットムジカには意志があった。君は利用されたに過ぎない。幼少の君に抗える存在ではなかったし、君の意志に左右される存在でもない。君も巻き込まれた、被害者側だ」

 

「ルシファー…………」

 

『そうだ、ウタ!悪いのは私だ、私はトットムジカの楽譜を、一人の音楽家として処分できなかった!エレジアを滅ぼしたのは私の迷いだ、君は決して悪くない!気に病む事はないんだ!』

 

ルシファーと、ゴードン。ウタに十年寄り添った二人が、ウタの足に気力と踏ん張りを与える。衝撃の真相に…ウタは、向き合う事をやめはしなかった。

 

「…じゃあ、シャンクス達が私を置いていったのは…小さかったあたしを、この真実から護るため…?」

 

「…お前は、世界一の歌姫になれる。そんなお前の才能を、俺達が独り占めにするのはまずいとも思っていたんでな」

 

ルフィは言っていた。エレジアから戻ってきたシャンクス達は、皆無口で静かだったと。それは、ウタとの別れを何よりも惜しみ、哀しんでいた証。

 

「あたしと、トットムジカが…エレジアを滅ぼした。沢山の人を傷付けて…ゴードンさんの国を…」

 

「ウタ…」

 

それが真実。彼女が求めていた真実にして真相。魔王トットムジカは、エレジアの全てを覆した。運命も、在り方も。

 

「……………………」

 

ウタは俯く。無理もないと誰もが思った。心神喪失とはいえ、操られたとはいえ、破滅のトリガーを引いたのは自分だと自分を責めるのは止められないだろう。彼女は、無責任な自分には決してなれなかった。

 

「…だが、これだけは言わせてくれ、ウタ」

 

シャンクスは、それを伝える。遅きに失したとしても、それがあまりにも手遅れだったとしても。

 

「今でもお前は、俺の娘だ。お前が自分をどう思おうと、それは絶対に変わらない」

 

「……うん。シャンクスや皆は、あたしを護るためにあたしを置いていった」

 

『ウタ…』

 

「ゴードンさんは、間接的でも自分の国を滅ぼしたあたしを、あんなに優しく育ててくれた」

 

「……君を責める人はここにはいないよ。皆君が、大好きなんだ」

 

「ルシファー…今も?」

 

「え?」

 

「あたしが、こんな…魔王でエレジアを滅ぼした存在でも。それでもまだ、あたしのファンで、マネージャーで、プロデューサーでいてくれるの?」

 

それは、ルシファーにとっては愚問である。何も変わらない。決して、その価値は変わらない。

 

「勿論だよ、ウタ。初めて君の歌を聞いたあの日から…僕は君を支えていくと決めている。君の歌は、新時代を迎える歌だから」

 

そう、肩を抱き励ますルシファー、ゴードン、シャンクスの言葉を受け…ウタは、涙ぐみながら前を向く。

 

「エレジアに戻ったら、すぐに慰霊碑を作って犠牲者のみんなを弔う。…そして、私なりの償いをすぐに始めなくちゃ」

 

「償い…?」

 

「今すぐには…ちょっと、できない。一年…ううん、二年位は弔いに時間をかけたいから。…ねえ、シャンクス」

 

ウタは問う。シャンクス…自らの父に向けて。

 

「あたしの償いと、弔いが全部終わったら…また、あたしの歌を聞きに来てくれる?赤髪海賊団、皆で」

 

「…あぁ、勿論だとも。必ずお前に会いに行こう。お前の歌を聞きに行く。これは父親としての、約束だ」

 

ウタはその言葉を聞き、シャンクスの胸にて涙を流した。静かな嗚咽であったが、それはウタが自身を憐れんだ涙ではない事の表れだ。

 

「ありがとう…シャンクス」

「生きろ、ウタ。新時代は、もうすぐだ…」

 

その様子を、ルシファーは静かに見つめていた。ウタが本当の意味で人生を始めるその瞬間を…

 

ファンとして、家族として…静かに見つめていた。

 




上空

ルシファー『大丈夫かい?ウタ』

ウタ「うん。…十年間、この真実を受け止めるために強くなってきたんだから」

ルシファー『…そっか』

ウタ「今から二年間…奴隷だった皆と、喪われた皆の為に時間を使う。弔いと、皆を励ます歌を歌う」

ルシファー『うん。解った』

ウタ「そして…ルシファー。お願いがあるの」

『なんでも言ってい』

ウタ「…あたしは、トットムジカをなんとかしなくちゃいけない。同じ悲劇を、復興したエレジアで起こさないように」

ルシファー『!』

ウタ「其の為に…トットムジカをやっつけたい!」

ルシファー『それなら、とびっきりの人達がいるよ』

ウタ「それって…ルシファーの魔王の皆?」

ルシファー『それと…カルデアの皆さ!』




シャンクス「ウタ、また必ず会おう…」

飛び去るルシファーとウタを、シャンクスは見つめ…

「お頭ァ〜〜!!ルシファー、似てなかったか!?」

シャンクス「似てた?」

「【サタン】!大魔王サタンにだよォ!」

シャンクス「それなら…尚の事、安心だ」

(ウタを頼んだぞ、ルシファー君。ゴードン…)

「懸賞金がお頭より高ェ!白ひげよりもだァ!!」

飛び去る星を…シャンクスは、見つめていた。

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