ルシファー『解ってる解ってる。でも、いいのかい?』
イム『世界のことか。…もうよい。一つの世界の話など』
ルシファー『…』
イム『数多の世界があるのなら…一つの世界にしがみつくのも、愚かな話だ』
ルシファー『…王の器だね、間違いなくさ』
イム『良いから、はよやれ』
ルシファー『はいはい』
【僕は弱者から奪い取る海賊にも、権力に尻尾を振り続ける海軍にも興味はない。お前たちが懸命に護り続ける歴史の真実にも興味はない…。ただ、お前たちの維持する秩序と統制が目障りだったが故に破壊した。それだけの話だ】
虚の玉座に座ったサタンは、堂々と言い放つ。五老星を完全に覇気で叩き伏せ、海軍大将の軍服に袖を通し、完全に世界の最高権威を見下ろした状態で、堂々と言い放ってのけた。この世界は、あまりにも窮屈で自由が存在しないと。
【どんな理由で天竜人を擁護し、庇護し、下界とここを区分けしているのかは知らないし、興味もない。だが解ったろう。自身を神のごとくに捉えていた自分自身達が、完全に世界を掌握していたという自負と自信が、その実取るに足らない幻覚と錯覚であった事実を】
見下され、動きを封じられ、海軍大将を退けられ、何もかもを踏みにじられた事実を以て、サタンの侵略は完了する。そこに、成されるべき秩序などどこにも存在していない。
「なんという事だ…!」
「長きに渡る歴史において、この様な暴虐と狼藉は類を見ない…!」
「叛逆者…神の敵。さしずめ魔王…いや、大魔王か…!」
【好きに呼べ。この死んだほうがいい世界で、富や名声、力なんていくらあろうが空しいだけだけど…】
サタンは足を組み、空を見上げる。紛れもなく世界の頂点の視座。その見下ろす世界は、あまりにも味気ない。
【…何の思想も、価値観も存在しない相手に負けたんじゃ形無しだろう。それらしい理屈をくれてやるよ、五老星】
「何だと…!?」
それもまた気まぐれであるのか。或いは、彼自身が受けた人生観か…彼は語り始めた。自身が何故この様な世界の転覆を執り行ったか、その理由を。
【一人の人間を、愛したとする。その幸せを願うとする。日々の幸福を願うとする】
「…!?」
【そうすると、幸せな生活はそれぞれそれを成り立たせる為の環境が必要だ。美味しいご飯を作る人、出荷する者、加工するもの。電気や水道を管理し、施設を作り、そしてそれを維持するための文明や、何よりそれらが恙無く運用されるための平和な世界…一人が幸せであるためには、それらを取り巻く全てが何の問題なく稼働し、回る世界でなくてはならない。解るかい?】
「何が、言いたいのだ…!」
【人が一人いただけでは、幸せや素晴らしい世界は生まれないと言うことさ。幸せな世界、誰かの幸福を願うのならば、それは遅かれ早かれ世界のすべての幸せと平和…幸福を望み護らなくてはならない。そういう理論を、僕はとある者から教わった】
それは、彼の友人であるエアの『至尊の理』。この世に在りし全てには価値があり尊きもの。彼の価値観を変えた全てであり、彼が彼より美しいものに誠実であらんとする全ての根底にある理屈を補強する理論。
彼は毎日懸命にその理論を考えていた。全てを尊ぶとは、一体どういうことなのかと。そして辿り着いたのだ。全ての世界は一人一人が構築している。その一人一人を尊び、重んじることで、世界の織り成す全てを受け入れ、その紋様を愛することなのだと。彼は、彼より美しいものが教えた価値観を何よりも真摯に考えていた。
【そう考えたなら…お前たちが奴隷を無理やり下界から取り寄せ攫う行為も、下界から無闇に命を奪う行為も、その理屈からは遠く離れた行為だ。お前達は理解していない。世界は小さな一人一人が懸命に織り成すが故に…美しいのだと】
だから壊す。彼は赦さないのだ。自分を差し置いて、自分自身達が世界を握るなどという傲慢を。究極の個人にして、最強にて最も美しいとされた存在。神よりそう在れと願われた存在。
そんな薄ら寒い、空虚な座から降り。輝くような物語と魂に触れて辿り着いた理論。
【僕より美しい全てには、煌めくような美しい世界で生きていて欲しい。それを成すには、醜く穢れた世界を壊さなくてはならない。美しく生まれ変わるために、生まれ変わりを阻害する全てを打ち払う。例えば、お前達天竜人というゴミ掃除なんかがそれだ】
「我々を、ゴミと罵るか…!」
【理屈ではなく現実で理解しただろう。地に伏せ、僕を今跪き見上げている…無駄な長生きと不老の能力で現世にしがみついて積み上げた全てが、たった今無惨に踏み躙られている。下の存在を見下ろしていた筈が、お前達も見下ろされる側に過ぎなかった訳だ】
サタンは足を組み、嘲る。その存在の滑稽さを。
【神を気取る人間程、無様なものはない。神こそが世界において最も尊いと感じているその貧困な発想と、矮小な論理には同情するばかりだ】
「何を…!」
【神などは、決して完全ではあり得ない。…見てきた僕が言うんだ、間違いないさ。本物の神を見ていた僕が言うのだから、ね】
そしてサタンは立ち上がる。玉座にすら興味を持たぬ自由なる大魔王は、堂々と歩きパンゲア城を後にする。
【改めて、理解しただろう?下界で暴れる海賊なんて可愛いものだ。お前達の牙城を崩すこと、世界の秩序を破壊することなんて僕にはあまりにも容易い。それをこれからも忘れるな】
「どういう、事だ…!」
【お前達の王だと言った筈だ。これからこの世界において、僕が気に食わない…不要と感じた全ては等しく処分し、処理する。世界政府も、天竜人も、海軍も、四皇も関係無い。この海における真の自由を体現する『海賊王』が生まれぬ限り…僕はこの世界において、何者も阻めぬ存在だと思い知れ】
忘れるな、ここは既にお前達の世界ではない。気に入らなければ、本当の意味で世界を滅ぼしにかかる。何者も別け隔てなく、真の自由を行使するままに。
【お前達の上には僕がいる。その事実をいつまでも噛み締めて生きていけ。…その証に、そうだな…】
戦利品とばかりに、五老星の一人が所持していた刀剣と、黄金に輝く電電虫を拾い上げる。それは世界に名だたる妖刀『鬼徹』に酷似した装飾のものと、海軍軍艦により波状攻撃『バスターコール』の合図を知らせる電電虫。それらをサタンは、手土産とした。
【これらは僕が貰っていこう。海軍が掲げる『絶対正義』。お前達が飼いならす『天竜人』。そして『虚の玉座』に『バスターコール』…それと『古代兵器』も貰っておきたいが、それはまぁ、いいや】
「貴様……!!!」
【今日の無様な敗北を必死に隠蔽すると良い。踏みにじられた沽券、砕かれた威光を惨めに拾い集めろ。真なる新時代に、それがどれほど効果を持つか…下界で嘲笑いながら見ていてやるよ】
やることは終わった。そう言わんばかりに歩む中、サタンは最後に予言を残す。
【じゃあ、最後に更に火種を遺していこう。…お前達の統治する世界は、後の二年後に完全に破壊される。『海賊王』の手によって】
「「「「「!!」」」」」
【解放の戦士、太陽の神が現れ、全てを自由に解き放つ。そして『ひとつなぎの大秘宝』を手にし…本当の意味での新時代を招くだろう。お前達の真の淘汰はその時だ。旧時代の異物として世界から消える。その時を、心待ちにしておくんだね】
言いたい事は言い切った。そうして、悠々とサタンは出口からパンゲアの玉座の間から去っていく。
『……まさに大魔王。世界の秩序を破壊し尽くす働きであったな。いっそ痛快であった』
未だ動けぬ五老星を尻目に、イムは玉座に座り直す。
『この長い歴史において、いっそ愉快極まる座興であった。あれほどの力と、自由…混沌の招き手にはいっそ褒美をくれてやらねばなるまい』
「イム様、それは…!?」
『下界に手配書を発行せよ。一夜限りの大魔王、存在してはならぬ大逆の大海賊…【サタン】の名。歴史に遺すにはちょうど良かろう』
そう……この世界における転換点の始まりとしては悪くない。
どの様な結末であれ、数多無数の世界の楽しみに比べれば世界一つの結末は些事である。
『お前達の戒めとして、存分に役立つであろう。疾く成せ』
「「「「「……はっ………!!!」」」」」
…その日、奴隷達は語ったという。
『空の星が落ち、我らを救ってくれた』
『輝く翼が、邪悪な竜を討ち果たした』
壊滅しきった聖地と、誰も見ていない存在しない伝説。
ただ、それがあったという事実は一枚の手配書が示す。
聖地にのみ現れた【叛逆の大魔王】として。
その悪名は、遥か全ての海に轟く事となる──。
数時間後
ウタ「むにゃむにゃ…あれ、朝かぁ…」
ルシファー「あ、起きたね」
ウタ「ルシファー!」
ルシファー「──ただいま、ウタ。突然だけど、君のライブを聞きたいって人がいるんだ」
ウタ「ホント!?」
イム(イムッ)
ウタ「わっ!あなたが…!?」
イム「ムーは…ファンだ(ニコッ)」
WANTED
【叛逆の大魔王 サタン】
懸賞金
54億6666万ベリー
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コンラ
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温羅(異聞帯)
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平将門公
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シモ・ヘイヘ
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ロジェロ
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パパポポ
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リリス(汎人類史)