人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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フィガーランド「…………!」

レヴィアタン【…何、死にそうになってるの】

ウロヤソク「ウ…」

レタッソク「グ…」

【あなた達は、死んだら哀しむ人達がいる。羨ましい人達…だから、殺させない。死なせない…】

フィガーランド「…なんだ、貴様は?女」

レヴィアタン【非リアの…未亡人】

フィガーランド「!?」


ハイディープ・エンヴィー

ウロヤソク、レタッソクの極限の窮地を救った者。それはサタンの傘下における七大魔王の一角【嫉妬】の魔王、レヴィアタン。奴隷の回収と転移を終わらせたため、サタンを迎えに来たのだが…その際、自身の意志で二人を助けたのだ。海色の長い髪と、水色の鱗に覆われた小柄の彼女が、フィガーランドと相対する。

 

【羨ましい人は…殺させない。妬ましい人も殺させない。私が生きていく為の原動力は、嫉妬だから…】

 

ウロヤソクとレタッソクの怪我を、海の加護で回復させ投げ捨てる。ここにいれば、殺されるは必定だからだ。つまりこれは殿の形となる布陣。

 

「嫉妬だと?浅ましい女だ…」

 

【天竜人…世界中の人々から嫌われる、憐れな人達…】

 

「何…?」

 

【──羨ましくない。なら、殺してもいっか…】

 

瞬間、レヴィアタンの身体の鱗が剥がれ落ち、瞬間硬化と鋭利な刃となり彼女の周囲に展開される。磨き上げられた鏡、ガラスのように浮遊するそれは、彼女の殺意を乗せて動き出す。

 

【『タラスク』…殺してあげる…】

 

「!!」

 

タラスク。そう呼ばれた鱗の群体は生き物のように縦横無尽に空間を駆け巡り、フィガーランドに襲い掛かる。フィガーランドも瞬時に刀剣を振るい、鱗を瞬時に叩き落とすが…

 

【私が羨ましくない奴等は、殺しても大丈夫…】

 

レヴィアタンの体から無尽蔵に鱗が剥がれ落ちていき、加速度的に鱗が増えていく。瞬く間に空間に満ち溢れる、鋭利極まる刃物が如き鱗。

 

【私が妬めない様なものなんて、あってもなくても変わらない…】

 

「!!」

 

飛来と生成、増殖を繰り返していく大瀑布のような鱗の連撃。渾身の力で払おうとも、その質量には終わりがない。バリバリと音を立て、鱗はレヴィアタンから生成されていくのだから。

 

【そうよ…私が必要ないものなんて必要無い…!殺していい相手は、私は躊躇いなく殺すことが出来る…!】

 

瞬間、行動パターンの変化が鱗に起きる。無数の刃だった鱗が、表面を突如輝かせ規定のパターンを持つかのように空中に浮遊停止を行ったのだ。

 

「これは…!?」

 

【私が妬めないものなんて…この世に価値が無いのだから…!】

 

そしてレヴィアタンの手から、放たれるは超高水圧のウォーターブレード。正確には極限まで圧縮された水気であり、彼女はレヴィアタンとして当然の様に水を操る。アナーヒターと似て非なる、【脅威】【災害】に特化した水の側面。

 

【死ね…!【魔海溝・深淵奈落(アビス・レヴィアタン)】…!!】

 

「!!!」

 

次の瞬間、レヴィアタンから放たれた超高水圧が鱗に向けて放たれ、反射と反射を繰り返しフィガーランドに襲い掛かる。フィガーランドは当然反応し迎撃せんとするが…

 

(水の刃……!受け止めれば刃が断ち切れるか…!)

 

極限まで圧縮された水圧は、比類なき切れ味をもつ無形の刃となる。形あるものは、この攻撃を受け止めることは叶わない。それをフィガーランドは即座に看破し回避に専念する。しかし──

 

【難破船のよう…頼りなく揺らめいて…そんなもので私から逃げられると思う…?】

 

「……!!!」

 

【海から人は離れられない…同じ様に、私から誰も逃げられない…!】

 

鱗が無尽蔵に湧き続け、放たれる水は無制限に勢いを増していく。秒刻みで周囲を支配していく嫉妬の魔王。

 

【神の騎士団だっけ…その皆は今、溺れて気絶してる…。応援は来ないから…】

 

「貴様…!」

 

【安心して…一人さみしく、死ねば良い…!妬ましくない、無価値な自分を呪いながら…!】

 

そう、神の騎士団は既に海に飲み込み無力化させていたのだ。奴隷解放を速やかに終えることが出来たのは、海難天災を操る彼女の力あればこそ。暗雲、落雷、渦潮、高波、津波。彼女はそれを自在に操ることができる。

 

そしてそれは水の苛烈な側面をひたすらに強調した魔王の顕現。レタッソクとウロヤソクには彼女なりの魅力を見出されたため回復させることができたが、基本的には全てを呑み込む破滅の怒涛。

 

彼女にとって、輝くもの、魅力のあるものは全て妬み、嫉みの対象だ。自分にはないもの、自分には掴めないものを持つ全てをひたすらに羨み、妬む。それが彼女の力となる魔王たる根源。

 

逆に、彼女が羨まない、価値のない存在と判断したものは無慈悲に害される。ひたすらに世界を妬み、羨み、それが無いのならば魔王としてそれらを不要、無用として徹底的に処分する根暗と暴力の権化。

 

海の如くに表情を変化させ、彼女が不要とするならば都市すら一夜で海に沈む。破綻した感覚と壮絶な規模の力の行使、理由の伴わぬ嵐の如き生きた海難。それがレヴィアタンという魔王。

 

【まだ足掻くの…?誰も望んでないんだから、さっさと死ねばいいのに…】

 

そして…彼女が妬まぬ様な存在には、極めて冷淡かつ残忍となる。

 

【目障りなの…念入りに仕留めなきゃ駄目みたい】

 

「!!」

 

瞬間、フィガーランドの足許から柱状の水が浮き上がり、一瞬でフィガーランドを束縛し、動きを完全に封じ込める。

 

【死ね…あの御方の為にも…】

 

そして、磨き上げられた刃となった鱗が囚われたフィガーランドに一斉に向けられ、立て続けの斬撃となって彼を切り裂いていく。

 

「これは…まずい…!!」

 

みるみるうちにフィガーランドを捕らえる水が赤く染まっていく。身体を切り裂く度に出血し、それが水を染めているのだ。そして立て続けの追撃を彼女は行使する。

 

【私なんかに殺されて、御愁傷様…】

 

右手を突き出し、ゆっくり握って行く。すると、水がフィガーランドを圧殺するかのように凝縮され、中にいる彼を押し潰していく。

 

【『深淵圧壊・難破沈没』……!】

 

そして右手を握り込んだ瞬間───。

 

「!!!!!」

 

紅き海水が破裂し、内部に捕らわれたフィガーランドが四肢をつき地に倒れ伏す。深海レベルの圧力を一気に叩きつけるレヴィアタンの技を受けながらも、彼は絶命には至らなかった。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……!!」

 

【…面倒くさい…もう、島ごとやっちゃおうかな…】

 

その様を露骨に眉を潜めながら見下ろしたレヴィアタンが空に手を掲げる。

 

【あの御方は死なないから大丈夫…目障りな奴等が死ぬだけだから……】

 

「……!!」

 

瞬間、フィガーランドが見聞色の覇気で未来を垣間見る。そこにあった景色は、聖地マリージョアの全てが海の底に消えていく終末的な光景。彼女は躊躇うこと無く、この地を海の藻屑にせんと試みたのだ。

 

【羨ましくない、妬ましくもない奴等は…みんな海の底に消えて無くなるの…】

 

「お、のれ……!!」

 

【寂しくないよ…天竜人は多分、皆海の下に行くと思うから…】

 

速やかにレヴィアタンを殺さねば、聖地が消滅する。極限状態であるが、フィガーランドは動けない。刻まれたダメージが大きすぎるのだ。

 

【死ね…跡形もなく…!】

 

その裁きが執行されんとした──その時だった。

 

【こらっ!おやめなさい!あの御方はその様な司令は出していないでしょう!?】

【!…色欲さん…】

 

アスモデウスが、それを止めた。今回の作戦は、あくまでマリージョアの襲撃。マリージョアの『消失』が目的ではない。アスモデウスに言われ、レヴィアタンは力を収める。

 

【…そう言えば、そうだった…越権行為は良くないね…】

 

【えぇ、そうよ。当初の目的は果たしたわ。撤退なさいな。あなたはよくやったのよ】

【解った。…ありがとう】

【良いのよ。私達は同じ魔王…仲間だもの】

 

【……命拾いしたみたいね…運のいいやつ】

 

そう憎らしげに告げながら、レヴィアタンは撤退する。奴隷も、宝も、全てを奪い返した。これ以上はただ被害が増えるだけだ。

 

「ハァ……ハァ…おのれ…!!」

 

天竜人二人を取り逃がし、甚大な被害を受け主犯を取り逃がした。

 

その散々たる結果に…フィガーランドは憎々しげに拳を握る。

 

…聖地マリージョアは、暫く復興に専念せねばならない。

 

1割以下に減少した、天竜人の生き残りの為にだ。




「王、だと…バカな!」

「貴様は、この世界の何を知っている…!」

「世界の真実!護るべき秩序!それがどれほどの意味を持つか…!」

「理解している上の狼藉か!我等なくしては、世界は混沌を極める!」

「貴様は……何を望み世界を壊さんとする!?」

サタン【…………………………】

【なにも?】

「「「「「!?!?!?」」」」」

To Be Continued …

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