人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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夏草 清廉公園

うたうちゃん「今日は夏草美化活動に参加いただき、ありがとうございます。レタッソクさん、ウロヤソクさん。内海さんの認可も通っています。私と一緒に夏草に貢献しましょう」

レタッソク「おぉ…麗しい見目だ…」

ウロヤソク「誠心誠意、頑張らせてもらうよ」



遠方

ニャル【監督は頼んだぞ、うたう】

エキドナ【ほらあんた、サボらないの!】

ハスター【あたた…腰に来るのぅ】

マイノグーラ【アイツ配信中かぁ、残念…】

グーア【♪】

ニャル【はーい。では、夏草…リッカ君の故郷をキレイにしていこうか】

(感想、メッセージは今から返します!)


未来の希望、過去の絶望

「マリージョアにいた頃は、このような地道な作業をしよう等とは夢にも思わなかったな」

 

「そうだな…。神の自分は偉いから、やってもらって当たり前だというのが当然の認識だった。天竜人共通の認識だった…」

 

朝から始まった夏草美化活動。レタッソクとウロヤソクはうたうちゃんの監督の下、観光者やマナーの悪い若者が落としたゴミを拾い上げていく。

 

「こうしてみると…こういった活動も悪くないな…」

 

「あぁ、良い運動になる…何よりも誰かに貢献できるというのは気分がいいものだ」

 

二人の認識は見違えるほどに矯正されていた。自身は神であるという自意識を破壊され、歪んだ教養を取り去ればそこには本来の人格が残るのみ。『人間』となった彼等は、そういった奉仕を厭わぬ性根だったのだ。

 

「よし…気合を入れて頑張ってみよう。今までの贅肉を落とすのだ」

「うむ。せっかくだ、公園と言わずこの街中を綺麗にしてみよう」

 

二人は奮起し、大いに街を周りゴミを回収し続けた。その手腕と体力は今まで働いたことのない特権階級とはまるで思えないほどのレベルであり、一息の休憩も挟むことなく、街中のゴミをほぼ二人で拾い上げるほどの成果をもたらした。

 

「凄い…。これが、天竜人本来の力…」

『常人とは比べ物にならないわね…体力も、やる気も、手際も…』

 

「いい汗をかいた。見ろ、ゴミ袋を2袋もまとめてしまった」

「やるなレタッソク。私は一袋…あまりゴミが無い素晴らしい土地だな」

 

「お疲れ様でした。時間は昼に差し掛かります。ご飯にしましょう。実は…」

「ここにいたか、うたう」

 

うたうちゃんの後ろから、硬質な刃が如き声が響く。血が滲んだ警察制服に、射殺すような鋭い視線の紫色の髪と眼…在住警官、伊藤無慙である。

 

「こんにちは。いつもお疲れ様です」

「そちらもな。…あなたたちが、さる遠い世界の貴族ですか。わざわざ夏草に来るだけならず美化活動にまで。感謝します」

 

無慙は深々と頭を下げる。二人にとって何度も周囲にやらせていたものだが、今の二人には意味が異なる。

 

「い、いえ。ボランティアですから」

「えぇ。この綺麗な街並みの助けになれたなら、それで」

 

「……高潔な方々だ。では、こちらを」

 

無慙は二人に、弁当を渡す。それは出来立ての、高級弁当。

 

「夏草の民が、二人に感謝をと制作した差し入れとなります。昼飯にぜひ」

 

「い、いいのですか?」

「報酬を受け取っては、ボランティアになりませぬ…」

 

「いえ、これは報酬ではありません。郷土を好んでいただいた、夏草の市民からの気持ちです。遠慮なく」

 

そう言われ、おずおずと受取る二人。無慙は自転車にまたがり、うたうにも手作りのおむすびを渡す。

 

「お前も無理をするな、うたう。何か具合が悪ければすぐに呼べ」

「ありがとうございます、無慙さん。どうか…お気をつけて」

 

夏草の市民から支給されたお弁当を、ベンチに腰掛け実証するレタッソク、ウロヤソク。箸で一口口に運ぶたび、涙と嗚咽が溢れる。

 

「美味しい………美味しい………」

「マリージョアで食べ散らかした馳走より…何倍も…美味しいのだ……」

 

「………。あいたっ」

『このおにぎり固くない!?』

「…気合を入れて握ってくださったのですね…」

 

体を動かした後の心地よい疲労感。料理に込められた純粋な感謝。それが、長らく尊厳破壊された心身に染み渡るのを二人は感じていた。それはなんの苦労もなく手にした料理より、何倍も鮮烈な味であろう。

 

「あぁ…空も青い。海賊もいない。このような世界があったのか…」

「下々民なものか。…こんな美味しいものを作れる者達が、下々であるものか…」

 

しみじみと彼等は呟き涙を流す。その感性が『人間』へと近付いていっている事の何よりの証拠だ。

 

「どうしましょう。午後の分まで終わってしまいましたが…」

 

「もう一度、この場所を巡らせてくれ」

「あぁ。出来ることなら、可能な限り探してみるさ」

 

二人の天竜人は立ち上がり、夏草をもう一度巡ることとした。それは奮起であり、決起だ。

 

「まだ、ボランティアをしていたい」

「この美味しいご飯と真心に、報いたいのだ」

 

「……………は、はい」

『マスターの手腕とはいえ…生まれ変わり過ぎじゃない…?』

 

結局、そのまま夕方まで二人は夏草を入念に回り、最後の最後までボランティア活動に勤しむのであった………

 

 

「今日は大変お疲れさまでした。これにて今日のボランティアは終了となります。御二方、本当にありがとうございました」

 

うたうちゃんの礼と共に、ボランティアは終わりを告げる。二人は最後まで真面目に、誠実に事を成し遂げたのだ。

 

「行く先々で、暖かい言葉をかけられてしまったな…世話になったのはこちらだと言うのに」

「人間というのは…立派で素晴らしい者達ばかりだな」

 

二人の顔には清涼な笑みが浮かんでいた。聖地マリージョアとはにても似つかぬ場所だが、今の二人はこここそ、聖地と冠されるに相応しいと確信すらしていただろう。

 

「お二人とも、お疲れさまでした」

「お疲れさまでした〜!」

 

そんな中、三人に声を掛ける者が二人。ニャルの娘、ナイアとモアだ。

 

「君は…!あの麗しき銀髪の…」

「白き肌…人ならざる人か…?」

 

「はい!モアです!お二人にお届け物がございます!」

 

「昇陽学園と、夏草市長の内海羅王さんからです。感謝状を、二人にと」

 

ナイアがそれらを手渡す。それは、市長からの格式張った表彰状と、学生たちの寄せ書き。どれもが、二人の感謝の言葉に溢れていた。

 

「…感謝するのはこちらだと言うのに…」

「ああ、素晴らしき体験をさせてもらった…」

 

「ふふ…更にボランティア完遂の報酬として、私達からも贈り物を」

「はい!お花で編んだ冠です!天竜人のお二人に、進呈させてください!てゆーか栄誉勲章?」

 

「「天竜人……」」

 

瞬間、二人の脳裏に蘇る──自らが行ってきた記憶。

 

「さぁ、どうぞ!わあ…とてもお似合いです!」

 

「銀髪、素敵でしょう?毎日父や母にお手入れしてもらっているのです」

 

「父…母…」

 

「家族………」

 

 

【面白い遊びを思いついたえ!奴隷が作った子供を、親の前で犬に食わせてやるえ〜!】

 

【それはわちきがやったえ。泣き喚いてうるさかったからまとめて殺して犬のエサにしてやったえ】

 

【愛犬も満足そうだえ。もっともっと奴隷を食わせて太らせるえ〜!】

 

 

【また新しい妻を増やしたんだえ?】

 

【妻は何人いてもいいえ〜。男は殺して美人に沢山子供を産ませるえ!天竜人の子を宿せる事を光栄に思わせるえ〜!】

 

【子孫繁栄!天竜人の未来は明るいえ〜!】

 

 

「………お、ぉお………ぉおぉお…………!私は、私達は…!」

 

「今日、楽しげに話したあの子や家族と変わらぬ者達に…!あぁ……あぁ………!!」

 

 

【奴隷がうるさかったからつい殺してしまったえ。また補充し直しだえ〜】

 

【わちきは夫婦の夫がいる前で妻と遊んでやったえ〜!ガキにガキの作り方を教えてやったえ〜!楽しかったえ〜!】

 

【奴隷なんていくらでも増えるえ〜!なにせわちきらは【天竜人!】何をしても許されるえ!】

 

【天竜人は神!この世で一番偉いんだえ〜〜!!】

 

 

「あぁ………アアァァァアア〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」

 

「私は…私達は………なんという事をぉおぉおっ〜〜〜〜!!」

 

ウロヤソクとレタッソクは、神の座を…天竜人の座を捨てることとなった。

 

ならば当然、神の如き振る舞いの因果は自分に帰る。夏草の民達と触れ合い、自分は人であると気づいた時。

 

 

【奴隷だえ♪奴隷だえ♪男は殺すか売って、女は遊んで産ませるえ〜♪】

 

【飽きたら捨ててまた買うえ♪奴隷で遊ぶのは楽しいえ〜♪】

 

 

「私は……私は……!!あのような非道を、毎日毎日、息をするように…!!」

 

「なんという、なんという事だ……!!私達は、私達はひたすらに愚かであった……!!」

 

 

【つがいの片方を目の前で殺すのは楽しいえー。残されたほうがケッサクな顔をするえ〜!】

 

【子供を殺した時が一番だぇ〜。泣き喚くのが面白いえ〜!】

 

 

「私は今………!!天竜人として生きた全てがッ………!!耐え難いっ………!!!!!」

 

「私もだっ……!!何故平気だったのだ……!私達は神ではない、人間だ…!!同じ人間をあのような…!」

 

「「我々はッ…………!!この世で最もッ!罪深いッ………!!!!」」

 

「れ、レタッソク様?」

「ウロヤソク様?大丈夫ですか?てゆーか慟哭錯乱?」

 

「許してくれ………許してくれ…………!!」

「銀髪の娘よ……どうか触れないでくれ……!眼の前にいる者達は…!死んで然るべき人間なのだ…!!」

 

 

「「天竜人など……!!死んで然るべきだったのだっ………!!!」」

 

二人は蹲り、涙し続ける。

 

…人間として生きようと、新たな生き様を見つけた希望。

 

それを完膚なきまでに潰すのは、天竜人として生きてきた自分自身の所業という絶望。

 

屈強な大人が娘達に慰められながら、恥も外観なく泣き喚く光景。

 

 

「うぅっ………!ぐぅぅぅ〜〜〜〜〜っ〜〜〜〜!!」

「おぉお、おぉおぉおおぉお〜〜〜〜〜…!!」

 

それを以て、天竜人更生プログラムは完遂される。

 

天竜人の尊厳を破壊するもの。それは暴力や虐待ではない。

 

 

人として生きる際に突きつけられる…自らの業と因果そのものなのだ。

 




ベンチ

【神が神の座を降りることは、神にとっての最大の罰だ。人は特権と、優越を捨てられん。それを捨てた瞬間…神ならば赦されていた罪を人の身で背負うこととなる。無論それは、地獄の業火など生ぬるい責め苦だ。永劫続く弾劾だろう】

ベリル「更生したら気付くのはテメェのやらかしの重さかよ。相変わらずえげつねぇなぁ旦那。これもまた思いつきかい?」

ニャル【実体験だ】

ベリル「は?」

ニャル【現在進行系の…実体験だ】

ベリル「……そうかよ、旦那」

ないある「だいじょうぶ?」

ニャル【あぁ…ありがとう。平気だよ、ないある】
ないある「わァ〜!」


ニャル【だが…赦されぬ罪は私だけの特権だ。奴等のやらかしなど軽い軽い。まだ再起はできる。そら…】

レタッソク「ニャルラト聖!!」
ウロヤソク「我々は──命を懸けて!償いたいっ!!!」

ニャル【…そう言うと思い、役者は用意してもらったぞ。お願いします】

?「お前たち…!無事だったか!」

「「あなたは…!」」

ミョスガルド「お前たちも…人間に、してもらったのだな!」

「「ミョスガルド聖!!」」

ニャル【更生は終わりだ。ここからは…贖罪のための時間だ】

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